三省堂「今年の新語2024」で呑む―選考委員の33語完全レビュー

三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」(以下「今年の新語」)は、2024年の今年、開催10回を迎えました。

2020年以降の「今年の新語」は、「それぞれの選考委員が選出した10語」を公式サイト上で公開しています。今年も「今年の新語2024」 ベスト10のページ末尾に載っています。

「ジャッジペーパー」公開は、ちょうど半分の5回目となります。このデータを元にした当ブログの完全レビューも、同じくシリーズ5回目です。

「今年の新語」品質の維持向上に大変有益ですので、ぜひ今後も続けてください。このデータから、いろいろなことがわかるからです。

加えて今回は、選考発表会の当日に公開されたこちらの動画も、有用な情報源となりました。レビューの中でも参照したりしなかったりする予定です。

【三省堂】「今年の新語2024」いよいよ本日選考発表会♪一体どうなる⁉今年の新語!!!!!|三省堂公式(2024/12/03付公開)

これまでのあらすじ

昨年の「今年の新語2023」は、残念ながら過去最も悪い評価でした。

映画「ミザリー」に登場するこの名文句

There is a justice higher than that of man, I will be judged by Him.
【拙訳】人間の正義を超えた正義、私はその正義に裁かれるのです

※画像はimdb.comより

まるで導かれるがごとくものした倫理基準ぎりぎりのレビューがこちらです。

レビュー記事を毎年シェアしてくださる飯間浩明さんもこの反応でした。

「改めて考えをまとめたい」なんて表明しなくていいのに。

というところまでです。

三省堂「今年の新語」ポストモーテム2024

まずはいろいろ能書きです。

「今年の新語2024」ノミネートデータ

選考委員は例年どおり次の4者でした。 ※敬称略。以下同じ

  • 小野正弘(『三省堂現代新国語辞典』)
  • 飯間浩明(『三省堂国語辞典』)
  • 『新明解国語辞典』編集部
  • 『大辞林』編集部

4つの辞書を以後『三現国』『三国』『新明国』『大辞林』と表記します。

この4者が10語ずつを選出します。もしも各者が「一切かぶりなし」でばらばらの語を選んだなら、トータルは4×10=40語となります。

実際の得票結果は

  • 3票:1語
  • 2票:5語
  • 1票:27語

でした。この合計で33語です。インプレ(飯間)とインプレゾンビ(大辞林)は「インプレ」へ2票と数えました。

前掲の動画の中で、小野正弘さんは

今回の選考は、最初、これで一致するんだろうかというふうに思うぐらい、少し各人でばらけていた感じなんですが

と述べてましたけれど、データ上は1-4-29だった2023年と大差ありませんし、「インプレ」と「インプレゾンビ」を別語とカウントすればまったく一緒です。今回小野さんがノミネートした10語のうち、他の委員と重複したのが3語、しなかったのが7語でした。これも2023年と同じです。

ベスト10の検討にあたり、昨年よりも甲乙つけがたい候補が多かったと、好意的に受け取っておきます。

グルーピング

これら計33語を次に示す3つのグループに分けレビューしていきます。

  • 第一群(10語):大賞〜第10位の入賞語
  • 第二群(3語):選外の3語
  • 第三群(20語):どちらの選からも外れたもの。当記事では「圏外」とします

合計33語を肴に、3時間半は呑めますね(私は酒飲まないけど)。岩本町のやきとん元気ならなおよし。このあとまだ15000字以上あるはずなのでどうぞごゆっくり。

※写真と本文は関係ありません

今年の新語2023→2024の小さな変化2つ

妻のヘアスタイルの変化に気づかない男性諸氏は、私含め世の中に数多くいます。

「今年の新語2024」では、妻の髪形以上に見過ごされている小さな変化が2つありました。俺でなきゃ見逃しちゃうね

1つは、先述のとおりベスト10・選外のすべてが選考委員のノミネートから選出されたことです。2022,2023と続いていた「出所不明の語の混入」がなくなりました。よい傾向です。

もう1つは「今年の新語」の要件です。2024年版の「今年の新語」とは?がこちらです。

「今年の新語」とは?2023年版はこうでした。

見てのとおり、

  • 2023までの「今後の辞書に採録されてもおかしくないもの」が、
  • 2024で「今後の辞書に見出しとして採録されてもおかしくないもの」

となりました。この「規制緩和」への賛否はあるでしょうが、要件がより明確となること自体は大変よいことです。

総評

小学校の卒業式によくある「呼びかけ」の文体で簡潔にまとめます。

  1. ずらしてよかった \開催日/
  2. ほぼほぼありな \ラインナップ/
  3. 根拠不明の \順位づけ/

ずらしてよかった \開催日/

「今年の新語2024」選考発表会の開催日が12月3日と知って、はじめ「なんで変えたんだろう?」と訝しんでいました。2020年から2023年まで、4年連続11月30日の開催だったからです。

どういう事情で変わったかまでは不承知です。案外「今年(2024年)は11月30日が土曜日だから避けた」ぐらいの単純な理由かもしれません。

ともかくこの変更が、結果的に吉と出ました。前日に発表された「ユーキャン新語・流行語大賞」が例年以上にダメだったからです。

私は従来「淡々と11月30日に発表すればよい」派だったんですが、「来年以降も新語・流行語大賞発表の翌日開催でいいかも」とゆらいでます。

というのも、開催日変更の影響かは不確かなままですけど、三省堂辞書出版部(@sanseido_dict)のアカウントが選考発表会と合わせて出したベスト10発表ツイートのインプレッション数とエンゲージメント数が、どちらも昨年とは文字どおり桁違いだったからです。「今年の新語2023」ではインプレッション最多の「地球沸騰化」でも1.2万、エンゲージメントも軒並み2桁でした。それが「今年の新語2024」では2桁3桁違ってます。具体的なデータは10位「顔ない」の段で紹介します。

今年と同様の日程でいくなら、「今年の新語2025」の選考発表会開催は12月2日(火)になります。11/30が日曜だし、この予感大。

過去の今年の新語「選考発表会」の開催データを、こちらにまとめています。酔狂な自覚はあります。

ほぼほぼありな \ラインナップ/

あらためて「今年の新語2024」ベスト10の顔ぶれを見ておきましょう。

セレクションとしては「まぁ、いいんじゃないですか」が総評です。「アレを入れてもよかったのでは?」はあっても、「なんでコレ入れるかな?」がほぼないからです。「別に入れなくてもよくない?」は2,3ありますけど、そこまで強い異論ではないです。

後知恵から強いて難癖をつけるならば、「飯間色」が若干強めかな、というのはあります。飯間さんの単独ノミネートからベスト10入りした語が半分の5つを占めてるんで。私としては2021~2022ぐらいの配合が好みですね、と言ってもマニアックすぎて伝わらないですね。当記事の末尾に、各「選考委員の10語」のうち、何語がベスト10入りしたかの経年データを付けておきます。

根拠不明の \順位づけ/

昨年のレビューで私はこう述べました。

今の私のもっぱらの関心は、旧「今年の新語」が2024年に何を選ぶかではなく、どう選ぶかになっています。

どう選ぶかは相変わらず不透明なままです。「選考プロセスは非公開」の意味で不透明でも構わないのですが、「選考結果からプロセスが読み取れない」意味で不透明なのが不快です。

「今年の新語2024」選評を読んで、大賞が大賞である理由は納得できました。けれども2位以下になると軒並み「?」です。選考委員の皆さんは、なにゆえその語がその順位であるか、説明できるんですかね?

飯間さんは半ば「できない」と認めてしまっています。

それなら野球やサッカーになぞらえたベストナイン、ベストイレブン形式でよくない?って思ってしまいますね。ランキングである必然はどこに?

ベスト10入りした10語の得票数と順位の相関係数は-0.08です。過去最低をさらに更新しました。絶対値がほぼ0の相関係数は、票数と順位が「まるで無関係」と言っています。

「順位をつける」という行為の暴力性にもっと自覚的であってほしいですね。従来の主張「順位つけるならちゃんとやろうよ」をくり返します。

シン・旧「今年の新語2024」比較

一語ずつのレビューは、辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語2024」との比較を主軸にして進めます。

旧「今年の新語」選考の問題点を反面教師にして昨年から始めました。こちらの順位は「シン・選考委員4名による投票スコアの合計値」と根拠が明快です。

三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語2024」を、以下単に「シン・」と表記します。

パート1:選外の3語

選外の3語からレビューします。それぞれ別の観点から「異議あり」なので。

界隈(小野、新明国)

「○○界隈」の形で2票入りましたが、選外となりました。結論から言えば、「ベスト10に入れときゃよかったのに」です。

選外となった理由を、選評ではこう述べていました。

「ある分野(の人たち)」の意味で多く使われるようになりました。ただ、『三省堂国語辞典』にこの意味がすでに載っているため、入選の条件を満たしませんでした。

つい何週か前まで、そう思ってた時期が私にもありました。しかしそれも過去の話。

なんちゃらメディアほにゃららー、みたいな胡散臭い肩書きの人っぽいもの言いで煽ってみると、まだ「界隈2.0」の話してるの? って感じです。

時代はもう「界隈3.0」に入ってるんですよね。界隈はそこからさらにバージョンアップを果たしているのです。シン・の選評でも触れましたが、もう少し詳述します。単独でも通じるように書いたつもりなので、以下このままお読みください。

ミニ解説「界隈3.0の時代」

界隈のバージョンごとの仕様を端的に表すと、こうなります。

  • 界隈1.0=地理的な界隈

界隈1.0は国語辞典ならまず載ってます。

  • 界隈2.0=ジャンル的な界隈

三国8と三現国7はこの界隈2.0もカバーしてます。

2.0までの界隈は「集合論の言葉」でした。「集合論の言葉」とは、森羅万象という名の巨大なデータベースから取り出した部分集合を表すもの、ぐらいの雑な定義でいきます。SQLのSELECT文の実行結果みたいなもんです。

そこからバージョンアップした界隈は、

  • 界隈3.0=する界隈

です。事実、Twitterには「界隈してきた」報告が既に数多く上がっています。「してきた」とよく報告される界隈はなに界隈なのか、ランキングを作れるほどです。

自然界隈、回転界隈、振り向き界隈といった近年目立つ界隈の報告が多いなか、この「界隈してきた」には舌を巻きました。

界隈1.0の言葉を3.0に活用させててすごいですよね。松本先生(概念)に即報告しましたよ。

ことほどさように、界隈は既に集合論の言葉から手続き型の言葉にまで活動域を広げています。データベースの世界になぞらえれば、SQLを超えてオプティマイザの責務にまで進出してます。SQLにこんな仕様追加は起こりません。なぜならSQLがSQLではなくなるから。

あいにくと三省堂の辞書を編む人たちは、界隈3.0の存在をまだ認知できてなかったようです。

シン・での「界隈」は第4位でした。主宰する私が界隈3.0の存在を知る前に入選する点でも、シン・選考プロセスの頑健さが証明されています。

マンスプレイニング:「集合論の言葉」と「する」

しばしマンスプレイニングのお時間です。界隈3.0のように、集合論の言葉が手続き型の「する」化を果たすまでには、それなりの淘汰圧があるという話をします。関心なければ次へどうぞ。

言いたいのは、界隈3.0はその淘汰圧を超えてきた言葉だということです。

私の記憶が確かなら、集合論の言葉に「する」をつける語法は、1980年代に流行りました。当時の歌謡曲の歌詞

  • 翔んで 夏シマシタ ――石川優子とチャゲ《ふたりの愛ランド》(1984)
  • 愛情するよりこんなとき 友情したい… ――酒井法子《夢冒険》(1987)

に、その痕跡を見ることができます。

変則的なところで一種の「引っかかり」が生まれるゆえ、広告コピーの世界を中心に重宝されたのかな、と勝手に思っています。

2020年代の当世でも、書籍のタイトルや企業広告で時々見かけます。『学校するからだ』(2022)、『いつもの言葉を哲学する』(2021)とか「科学するヤクルト」cf. Yakult1000「村上宗隆:心と体」篇15秒 なんかが、そうですね。英語の例となりますが、マクドナルドが使っていた「i’m lovin’ it.」も似た手法です。

しかしこうした用法が表れるのは、あくまでキャッチコピー的な効果が求められる範囲にとどまります。その範囲を超えて日常に使われることはまれです。たとえば登下校する小学生に「小学校してるの?」と話しかければ、変質者と見なされるでしょう。ちなみに、ふつうの日本語で話しかけても、変質者です。

実は、集合論の言葉を「する」に接続するには、もう少しハードルの低い方法があるのです。わかりますか?

それは、「2回くり返す」です。次のように使います。すべて2024年の用例です。

  • Busuuの方が学校学校して好き。(@Eiji_dal_1974
  • 地方地方したとこなら中学受験は遠い世界よ(@Yak38m
  • 医者医者する働き方以外にも色んな働き方がありますよ。(@Ishikura_ai
  • 今時反社が反社反社してるゲームを出すのは(略)厳しいと思います(@PuniKnife
  • 久々に月9月9しとるな(@paru_6554

という具合に、集合論の言葉を2回くり返すと、「する」に接続しやすくなります。「なんで2回言うねん」にもきちんとわけがあるのですね。作り方が一緒ですから、「どきどきする」「うつらうつらする」といったオノマトペの仲間と私は見ています。

それよりすごいのは、上の各用例、大多数の現代人には何も説明がなくてもきっと意味が通じることです。怖いですね。

本邦を代表するポストモダニズムの大家は、2020年の段階で早くも発信済みでした。

さすがと言うほかないです。

さらに本邦を代表する小型国語辞典の1つも、最新版の改訂で

④〔名詞のくり返し+した・して〕…らしい特徴がはっきり感じられる。「いかにも小説小説した作品」

『三省堂国語辞典 第八版』「する」より

と織り込み済みでした。すごいね。

集合論の言葉に「する」を接続して手続き型へも進出した先例として、思いつく代表は「お茶」ですかね。4つの辞書を確認すると、三現国7・三国8・大辞林4の3者が「お茶する」を掲載していました。

三国8では、ほかに「青春」も、名詞と動詞「青春する」の2つを説明しています。1980年代以降の淘汰圧をはね返したサバイバーの風格すら感じます。

集合論の言葉を、くり返さずに単独で「する」へつなげ、さらにキャッチコピー的な用法を超えて日常的な用法に進出するにはそれなりの障壁があるのですよ、という話でした。界隈3.0を代表する用法の「界隈してきた」は、そこをくぐり抜けてきているのです。

今の趨勢なら、「界隈」もいずれ三国8の「青春」と同じスタイルの語釈が必要となるでしょうね。

裏金(小野)

シン・でのノミネートはありませんでした。

選評を読んでも、「話題先行の選出じゃない?」の疑念は拭えなかったです。もう辞書に載ってるし。

新語性に疑義のある語は、ノミネートの段階で事務局からいっぺん照会かけないといけないのでは?と、思いました。

アニマルウェルフェア(大辞林)

シン・ではノミネートがありませんでした。

選外にしてこの語を取り上げるなら、大事な話が抜けてますよ。厚切りジェイソンさんの出世ネタをパクって、Why Japanese 大辞林!? ですよほんと。

Why Japanese 大辞林!?
これがリアルガチの「今年の新語2024」の1つだってこと、なんで言わないの?

2024年、アプリ版大辞林の辞書データがアップデートされました。私の使っているロゴヴィスタのAndroid版で言うと、辞書データ1.0から1.1に更新されてます。

このデータ更新により、「アニマルウエルフェア」が新たに立項されていました。ですから「見出しとして採録されてもおかしくない」どころでなく、ガチに採録された「リアル今年の新語2024」です。
【注】「新たに立項」は、加入しているATOK Passportプレミアムで利用できる大辞林4.0と比較対照して判断しました。

データ更新後の大辞林4を、試しに「二〇二四」で全文検索してみると、次のようなところが立項あるいは加筆されていました

  • 2024年の物故者。「曙」「小沢征爾」「唐十郎」「鳥山明」など(谷川俊太郎と中山美穂は間に合わなかった様子)
  • 「二〇二四年(令和六)七八回大会から改称」(国民スポーツ大会)
  • 「二〇二四年三月に富良野・新得間は廃止されてバスに転換された」(根室本線)
  • 「二〇二四年にはエジプト・イラン・エチオピア・アラブ首長国連邦が加盟」(ブリックス BRICS)

どれも「そうそう」「なるほど」「へぇ」があって、カズレーザーさんが出るクイズ番組のネタにできそうです。

というところで要望2つです

  1. 差分データがほしいですね。できればdiff形式で
  2. このレベルでデータ更新するなら、お金取ってください

パート2:入賞の10語

順位 入賞語(ノミネートした選考委員)

の見出しをつけ、順に肴にします。

大賞 言語化(飯間)

シン・ではノミネート外でした。

発表時の第一印象は「あ、そういうやつか」。その次に思ったのは、「飯間さん、いつかこういう言葉を大賞にしたかったんだろうな」でした。

「野望」とするとちと大げさでしょうが、今回満を持して飯間さんの「野望」をひとつ果たせたのでは?感を勝手に覚えています。選評のサブタイトル「気づかずに使っている新しい言い方」にもそれが表れているように感じました。

投稿を探すと「言語化」1件だけありました。

こうした一般投稿から、検討を始めたということでよいでしょうか?

その前提で続けると、見事なピックアップと言えます。ふざけ半分の投稿扱いしてスルーでも何ら不思議でないところですから。

選考結果発表会では、タイトルに「言語化」が付いた本の言及もありました。たしかに最近ありがちですね。当の書籍の関係者にも好意的に受け入れられていました。

書籍タイトルの世界には、一種独特な流行語がありますよね。「技術」もまた『「捨てる!」技術』(2000)がヒットして以来の定番ワードです。書籍タイトルの流行語、定番語は思いつきでも10ぐらい出てきます。

なんであれ、今年の新語の「味方」が増えるのは慶賀すべきことでしょう。

あと、三現国7「言語」の用例に「感情を言語化する」が既に載ってました。昨年までならツッコミを浴びていたネガティブ要素ですが、2024からの要件緩和により免れました。


しばらく無駄話です。

手前味噌の極みで自慢しますと、2022年に私は「シン・今年の新語」の前身にあたるソロ企画で「世代」を大賞にしました。「トップガンは世代」の世代です。

このほかに、ステルス性の高い、まさに「気づかずに使っている新しい言い方」こそが顕彰に値する新語ではないかと考え、2021年より隠れ新語大賞を授与しています。2021年は「充電」2022年は「最大半額」2023年には「(数字)卒」を大賞にしました。毎年1語ではなく「見つかったら発表」スタンスでやっていて、2024年は見つからなかったのでなしです。

「言語化」はこの系譜に連なるものとも言えます。とまれ、いい言葉が見つかりましたね。

無駄話ついでに、書籍タイトルに関して有料級の情報です。タイトルの末尾が「の誕生」で終わる本は名著・好著ぞろいですからおすすめです。2015年にはおすすめが高じて日本代表イレブン「誕生ジャパン」を選出したほどです。

近年も『セーラー服の誕生』(2021)『女の氏名誕生』(2024)を筆頭に次世代の台頭が著しく、W杯制覇も決して夢物語ではありません。余談でした。


私事ですが、今年から夫婦で犬を飼い始めました。犬は「言語化」のいう言語とは異なる手段で意志を伝えてきます。なのに想像をはるかに上回るレベルで伝わってくるのが新鮮な驚きでした。

言語化の有用性を認めつつも、言語化の効力が及ばないエリアも実在することにも留意しておいてよさそうです。

第2位 横転(飯間)

「ベスト10入りはいいけど、なんでこの順位?」です。10位までぜんぶ同じなので以下略します。

シン・では第8位でした。まだまだオンライン中心に思えて、自身も順位決定投票となる第2回投票で9位と低めの評価にしました。

蛇足ですけど、選評の中で新婚さんいらっしゃい!が(テレビ朝日系)となっていて、軽くイラッとしました。間違ってはいないんですが「新婚さん―」の制作は大阪の朝日放送テレビなので、解像度低っ、て。

第3位 インプレ(飯間、大辞林(インプレゾンビ))

シン・では「インプ(レ)」の形で第2位でした。

「インプレ」と「インプ」の2つの省略形が数的に拮抗するところで、なにゆえ「インプレ」を採用したんですか?は聞いてみたいですね。

なんか、大辞林が推した「インプレゾンビ」に引っぱられてない?と疑ってしまいます。もう、噛みつかれてしまったのかしら?

シン・での選評をくり返しますと、「インプレ稼ぎ」と「インプ稼ぎ」に頻度差はないですし、ゾンビに接続するなら「インプレ」が多数派と言えますが、無視できないボリュームで「インプゾンビ」派も実在しますから。

ひいては「選考会の選考時間が足りてないんじゃないの?」との疑念が起こります。

先例「メアド」「メルアド」を検証してみた

「インプ」「インプレ」と同じように、3音と4音の省略形が並存する例としてご教示いただいた「メアド」「メルアド」を4つの辞書がどう取り扱っているかを検証すると、次のとおりでした。

  • 三現国7:「メアド」を立項し、メールアドレスへ誘導
  • 三国8:「メアド」を立項し、メールアドレスへ誘導。「メールアドレス」の解説に「メアド。メルアド。」を併記
  • 新明国8:立項なし。「メール」の用例に「メールアドレス」があるのみ
  • 大辞林4:「メアド」「メルアド」両者を立項

4者4様でした。これがそのまま各辞書での「インプレ」と「インプ」の未来予想図になりそう。

「国語辞典ナイト21」で出たワードを借りると、新明国の「体幹の強い辞書」ぶりが際立ちました。私の好みと合わないですが、その強さは買います。

第4位 しごでき(飯間)

シン・でもノミネートがありましたが、第1回の投票スコア5で圏外となりました。

「しごはや」「しごおわ」のように、仕事を「しご」と略す仲間との合わせ技での入選と考えれば、理解はできます。一つの正義は百万パワー

意味上は「し・ごと」で別れる仕事を「しご」と略すのは面白いけれど、珍しいと言えるほどでもない気もします。「たなチュー」の上2音は「田中」から取ったはずだし、ふてほどの「ふて」も不適切の上2音ですし。

第5位 スキマバイト(新明国)

シン・では選外部門にノミネートがありましたが、スコアが伸びず圏外となりました。

どの辞書の見出し語にもなってませんから「今年の新語」の要件は満たしてます。けれども世相優先、話題先行タイプをわざわざ選ばなくってもいいんじゃないのって思ってしまいました。2位以下同文なんですが、5位である意味もわからないし。

「すきま」の項には既に

  • あいた時間。ひま。(三国8)
  • あいた時間。すき。(新明国8)
  • あいている時間。ひま。すき。(大辞林4)

の語釈もありますので、「すきま」と「バイト」で十分まかなえる気もします。

大賞から4位まで、飯間さんがノミネートした言葉の入選が続きました。うち3語が単独ノミネートです。多少言葉が悪いですが、どこか箸休め的な入選にも映ります。「このへんでこういうのも入れておきましょう」みたいな。いらぬ想像を進めれば「今年の新語」のランキングに対する態度への根本的な相容れなさも感じてしまいます。

第6位 メロい(小野、飯間、新明国)

シン・では第3位でした。

「3票入って、なんで6位なん?」って思いませんか? 私は思います。

三省堂公式チャンネルの「今年の新語2024」いよいよ本日選考発表会♪(2024/12/03付公開)から、「疑惑の画像」を1枚キャプチャしました。

えっと、なんで「メロい」と「言語化」を上下に並べて書いてるんですかね?

「大賞にするならどっちでしょう?」みたいな議論の様子ってこと?

最多の3票を得たから「メロい」が大賞ってのも、何かつまらんな。ってところまではわかります。わからないのは、そんなメロいが6位になるまでの道のりです。

侍ジャパンの監督にでもなったつもりなんですかね?「不振のメロいを6番に」みたいな。

ここでも「今年の新語」のランキングに対する態度への根本的な相容れなさを感じてしまいます。

第7位 公益通報(小野)

シン・にはノミネートありませんでした。

「今年よく見た・聞いた」は認めますけど、ベスト10に入れるほどでもないなと思いました。先に世相から語りたがる悪い癖が出てるんじゃないかと危惧します。

大辞林に「公益通報者保護制度」「公益通報者保護法」があるのでそれで事足りるんじゃないですかね。2024年の巷に出回った「公益通報」も法制度の言葉のままなので。

第8位 PFAS(大辞林)

シン・では第1回投票スコア4で圏外となりました。

それを選ぶのもありなので、ベスト10入りへの強い異論はないです。でも大辞林第四版の辞書データ1.1には入ってなかった。

第9位 インティマシーコーディネーター(飯間)

シン・では決選投票に進みましたが僅差でトップ10に届かず、11位となりました。

以下、インティマシーコーディネーターを「IC」と略表記します。

ICへの私の評価が辛めの理由は前の記事「シン・今年の新語2024」入りを逃した13語:選考委員セルフ解説で既に述べました。もう1つ付け加えると「話題先行がすぎる」です。

私がICの語を認知した2022年末から2024年末の現在まで、国内でICとして活動するのは浅田智穂さん、西山ももこさんのお2人のままです。2年経って全然増えてません。

しかも、西山さんは今年刊行した著書でこう述べていました。

現時点では、ICとしての仕事だけで生計を成り立たせることは困難です。

出典:西山ももこ『インティマシー・コーディネーター』(2024)Ⅰ 5 インティマシー・コーディネーターへの架け橋となった突然の休業とコロナ禍

ならばICにとって第一に必要なのは、職業基盤の確立でしょう。部外者であるこの私がこの状況下でできるベターな選択は「事態を見守る」であって、便乗してはしゃぐのってどうなのと思ってしまったのもあります。

これは余談ですが、この12月にあった一連のいろいろを通じて、「不適切にもほどがある!」の第4話にICが登場したことを知りました。情報元はこちらの記事です。

クドカン脚本の誤算?『不適切にもほどがある!』はなぜ“うかつ”な描写が目立つのか(福田 フクスケ)|FRaU(2024/03/22付)

たとえば警官や医師といった職業を実態とは違う形で誇張して笑いにするのと、ICのようにその必要性がようやく認知されはじめた新しい職業を戯画化していじるのとは、意味や影響が違ってきてしまうだろう。

同感です。ドラマ見てないけど。

第10位 顔ない(飯間)

シン・では第9位でした。

1つ違いの順位のくせしてエラそうにダメ出ししてしまいますけど、これはダメです。10位には10位の語を置きましょう。10位に顔ないは強すぎます。

2022の10位「リスキリング」、2023の10位「闇バイト」に続いて3年連続同じ話をしました。10位なのにどれも新語として強すぎるんですよ。

「顔ない」の強さは、三省堂辞書出版部のアカウントが発信したベスト10各ツイートのインプレッション数とエンゲージメント数のデータに如実に表れています。

どちらも「顔ない」が断トツです。10位なのにね。

〈第10位は「顔ない」。〉発表ツイートのインプレッション数はデータ取得時点で329万、記事執筆時点で332万です。エンゲージメントの合計は5万に迫ります。見てのとおり、大賞の「言語化」すら歯牙にもかけない突出ぶりです。「今年の新語」が募集要項で候補として例示するうち、「自分自身や周りの人が、ふだんの会話やSNSなどでよく使うようになった言葉。」にカテゴライズされそうな「横転」「メロい」と比べても全然強いです。

現物貼り付けておきますので疑うなら確認お願いします。

ちなみにグラフのデータは選考発表会からほぼまる6日経った12/9(月)17時台に取りました。その時間帯なのは「取る時間があったから」という完全な自己都合です。2週間近く経ってもう一度見ても値に大差なかったんでそのまま使ってます。

選考委員各位にあらためて問います。「顔ない」のどこが10位なんですか?

情状として、発表後の反響が想定外だったのはあるかもしれません。それでもなお、互いに生息域の近い「横転」を2位に、「メロい」を6位に、「顔ない」を10位にしたのはなんで?と問い続けますよ。

「打線を組むような面白さ」で配置してるのならばなおのこと、「今年の新語」のランキングに対する態度への根本的な相容れなさを感じてしまいます。

10位には10位の語を置きましょう。忠告はしましたからね。

10位として発表するならそれは10位です。打線で言うトップバッターとは違います。断じて違います。そこを混ぜこぜにしているなら言語感覚として鈍すぎますし、もっと言えば、そのような真似は選出する言葉に対する暴力です。暴力反対。

パート3:圏外の20語

最後に、圏外の20語です。

中に2票を獲得した語が3つもあります。まずはそちらから。

どれも共通して、複数得票なのにどういう議論を経て圏外となったかに興味があります。

スン(ッ)(小野、新明国)

シン・では「すんと」の形で大賞でした。

「メロい」の段で載せた「疑惑の1枚」のキャプチャでも、ホワイトボード左上が「すん」と読めました。どんな議論があったんですかね。シン・旧「今年の新語」の落差が興味深いです。

推し活(新明国、大辞林)

なんなん?です。

新明国は2年連続、大辞林は2年ぶり2度目のノミネートです。そこはいいです。

今年推し活って例年以上に特別アツかったですかね? そこがよくわからないので「なんなん?」です。

それから要件緩和でNG判定を免れてはいますけど、三国8「推し」の解説中に「推し活」が記載済みです。

まるハラ(新明国、大辞林)

シン・では「マルハラ」の形で選外部門に入りました。

「マルハラ」でなく前の半分がひらがな表記の「まるハラ」なのは、句点の「。」由来の日本語だからなんでしょうね。両辞書編集部の妙なこだわりが素敵です。

となると「スキマバイト」の「スキマ」がカタカナ表記なのはなんなん?ですけど。


2票を得た5語のうち、選外となった「界隈」含め実に4語がベスト10から外れました。ちょっとした異常事態です。ノミネート語がかぶると「これはおかしい」「そんなはずはない」みたいな否定的な態度から入ってるんじゃないのと勘ぐってしまいます。多数決を疑うのも結構ですけど。

以下、選考委員別です。

小野正弘(5語)

お一人だけ別のルールで参加されているかのようなセレクションです。よくないですね。

よくないんですけど、「今年の新語2024で呑む」暁には、盛り上がりそうです。

新NISA

面白くはないけど新語には違いないのでこれはいいです。

耐える

どう新しいのかなと思っていたら、後日飯間さんから説明がありました。

この用法なら私が中高生の時分にもうあったと記憶していますし、既存の辞書がいう「耐える」の範疇でしょうね。

デコピン

正気を疑います。三国8と大辞林4に「でこぴん」が立項済みですから。

大谷翔平・真美子夫妻の飼い犬の名前がデコピンでしたけど、まさかそれっすか? 正気すか? 正気なら三現国の次の版に載せてみなさいよ。「今後の辞書に見出しとして採録されてもおかしくないもの」だからノミネートしたんですよね?

と問い詰めてしまいたくなるほど、よくない。

道義的責任

見出し語じゃないですけど、大辞林4の「道義的」の用例に「道義的な責任」があり、三国8の「道義」の用例に「道義的責任」があって、なんだかなってなります。

見出し語に昇格させるべき新語として推せるだけの根拠が、何かあったんでしょうかね。

両片思い

どんな意味だったか理解があやふやだったので確認してみました。

漫画や小説などで、二人が互いに好意をもっているにもかかわらず、双方ともその好意を告白していない状態。両片想い。

って、大辞林4に載ってました。ダメじゃん。

ノミネート段階で疑義照会入れましょうよ。こういうの通してしまったら、かえって小野さんに恥かかせてることになりませんか?

って、事務局にも苦言を呈したいです。外部の先生に言いにくいんなら私から言ってあげてもいいですよ。ただし「今年の新語2024で呑む」席に限る。

小野さんには道義的責任を取ってもらいたいので、私からユーキャン新語・流行語大賞2025の選考委員に推薦します!

飯間浩明(3語)

ノミネート10語中7語がランクインしてますので、残り3語です。

好き

全然わからないので、「どう新しいんですか?」からですね。さすがに「今年の新語」の要件は心得てらっしゃるはずですから。

DEI

知りませんでした。探すとDE&Iの形で「今年の新語2023」に投稿ありました。

勉強になりました。

こういうきれい事は端的に疲れますので、いずれ揺り戻しのフェーズに入りそうですね。

データドリブン

なにゆえ2024年にこの語を?という点で興味を引きます。

データ・ドリブン・マーケティング』の訳書刊行は2017年ですし、ドリブンにまで広げると『テスト駆動開発』(Test-Driven Development By Example)旧版にあたる『テスト駆動開発入門』日本語版は2003年刊ですから、界隈ではもはや古典の領域です。

『新明解国語辞典』編集部(4語)

他の委員とかぶった語もあって、単独ノミネートで圏外となったのは4語です。

「国語辞典ナイト21」での指摘で気づきましたけど、新明国は「今年の新語」にどこか「他人事」的に参加している風がありますね。「いいんだけどそれ、新明国にまず載せないでしょ」みたいなノリ。

イマーシブ

シン・では第7位でした。

だからってわけでもないですが、ベスト10でもいいと思うんですよね。なんで外れちゃったんですかね。

オヤカク

いい着眼点だとは思います。

自身が「就活用語にそういうのがある」ぐらいのあやふやな理解だったので確認しました。

2014年4月の日本経済新聞の記事「我が子の就活をかき乱す過干渉の親たち」がマスメディアでの最初期の用例みたいです。お金出せば今も読める様子。お金ください。

そこから起算しても10年選手なわけですが、就職活動の文脈に使用が実質限定されていて応用が利きづらい印象があります。

観光公害

三現国7の「オーバーツーリズム」の項に載ってますので、「今年の新語」の旧要件ならアウトです。

現要件で評価しても、じゃあ新明国が本当に見出し語にするかは微妙です。当記事で出した例だと「お茶する」も「メールアドレス」も立項していないほどの「体幹の強さ」なので。

沼る

「今さらかよ」とする向きもあるかもしれませんが、私は肯定側に立ちます。いいきっかけがあればベスト10入りさせてもいいんじゃないですかね。

というのも、過去の「今年の新語」は「沼」を入れそこねてるんで。

「今年の新語」が入れそこねた新語たちを補完するべく、2021年に「じゃないほうの新語2015-2021」として選出した10語の大賞が「沼」でした。選評はこちらで読めます。

レビューの体で自己宣伝に終始するお見苦しいさまをお見せしました。

『大辞林』編集部(5語)

例年、比較的手堅いセレクションしてるのにベスト10入りが少なくて、いささか割食ってる印象です。今年もそんな感じ。大辞林大辞林してるから?

アテンションエコノミー

マス-メディアやインターネットの発達などにより情報過多となった社会で、情報よりも人々の関心や注目が希少価値をもつ状況。(略)一九六九年に経済学者H=サイモンが問題提起した。関心経済。注意経済。

と、2024年リリースの大辞林辞書データ1.1で新たに立項された、リアルガチの「今年の新語2024」の1つでした。

MBTI

シン・ではトップ10部門と選外部門の両方にノミネートされたものの、最終的にどちらからも漏れました。

私の持論として心理学「風味」の用語は辞書にいらないです。

きゅるきゅる

一部で盛り上がってるのを認知してなかったです。そこをキャッチしたならグッドです。

けれど私としては「え、今?」って感想です。

大森靖子《きゅるきゅる》は2014年の楽曲ですし、

さらにさかのぼれば、2010年からあらびき団(TBS系)できゅるりんアイドルりなんなんを見てる者からすると、でございます。

2013年7月付のりなんなんファーストDVDリリースの告知も貼っておきます。

きゅるきゅるについては国語辞典ナイト21の檀上でしたか、飯間さんから「オノマトペはメロいがもう入ったので」や「選考会で大辞林からは特に何も」みたいな発言もありました。聞き捨てなりません。

「選考時間が足りてないんじゃない?」疑惑が再燃します。

トクリュウ

シン・では第5位でした。

この2024年を代表する語に違いないんで、ベスト10でもよかったんじゃないですかね。察するに、ネガティブなイメージがあって入れづらいのはありそうですけど。

私の場合むしろ「インティマシーコーディネーター」がそれに近いであろう忌避感があるんですよね。どう近いかは9位の段で既に述べました。

猫ミーム

流行ったのは確かですけど、「ミーム」があれば辞書には要らないかな。

まとめに代えて:コアとマスのあいだ

以上、33語のレビューでした。

最後にひとつ。レビューの過程で、「今年の新語」をはじめ2024年の各賞が揃ってノミネートから漏らしている言葉がひとつあることに気づかされました。

それは「闇バイト」です。

私の主宰した「シン・今年の新語2024」もその例外ではなく、同じく漏れてました。

ちょっとした事情通からは「それなら2023年じゃない?」との声が出そうです。

はい。「闇バイト」は、三省堂「今年の新語2023」の10位、「ユーキャン新語・流行語大賞2023」でもトップテン(順位なし)、「大辞泉が選ぶ新語大賞2023」では次点でした。

事実の記述としてはそのとおりです。けれどもその事実が2024年のノミネートやランキングから外れる理由にはならないことに、気づいたんですよね。世間の大多数には「知らんがな」ですから。

孫正義さん風に言えば、マス層が遅れてるのではなく、コア層が進みすぎているのです。

実際、2024年に「今年は闇バイトでしょ」みたいな下馬評ツイートをいくつも見ました。コア層とマス層のあいだで、新語をキャッチするタイムラグが、時には年単位で存在することに留意しないといけないなと、あらためて思わされたのでした。

M-1グランプリにたとえれば、2006のフットボールアワー、2009のNON STYLE、2024の令和ロマンのように、一度グランプリを獲得した翌年以降に、また決勝まで勝ち上がってきて全然いいわけです。出場資格があるのですから。

今年の新語も同じです。辞書の見出し語になってないという「出場資格」がある限り、何度ベスト10入りしたっていいはずです。

  • 2回目の特番の「この人誰だっけ?クイズ」で、1回目の特番と同じ問題を出した
  • 「自称そっくりさんクイズ!誰に似てるでしょう?」で、「織田信成に似ている」が正解となる問題を3連続で出した

といった「クイズ☆タレント名鑑」のエピソードからも、それを教えられました。

参考:藤井健太郎『悪意とこだわりの演出術』(2016)pp.48-50

付録:選考委員別・ベスト10入り語数データ2020-2024

年ごとにベスト10入り語の多い選考委員の順に並べます。()内に単独と書いてるのは内数です。重複して数えているので毎年の合計は10を超えます。

  • 2024:飯間7(単独5)、大辞林2(単独1)、新明国2(単独1)、小野2(単独1)
  • 2023:飯間8(単独7)、小野3(単独0)、大辞林2(単独0)、新明国1(単独0)
  • 2022:飯間6(単独4)、大辞林6(単独1)、小野4(単独0)、新明国2(単独0)
  • 2021:大辞林6(単独1)、飯間4(単独1)、小野4(単独1)、新明国3(単独1)
  • 2020:飯間9(単独4)、小野3(単独0)、新明国3(単独0)、大辞林1(単独1)

2021~2022の配合が好みと述べたそのニュアンスだけでも、伝わっていましたら幸いです。

また来年、お目にかかれるといいですね

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