先日、「シン・今年の新語2024」トップ10とその選評をリリースしました。
匿名・流動型選考グループとして知られるシン・選考委員が選んだものです。
トップ10と選外を再掲します。
- すんと
- インプ(レ)
- メロい
- 界隈
- トクリュウ
- 生える
- イマーシブ
- 横転
- 顔ない
- ○○キャン
選外
- タイミーさん
- マルハラ
この記事では、以上の選からもれた言葉を取り上げ、セルフ解説します。選外1語を含め、全部で13あります。内訳は次のとおりです。
- 第2回投票分:2語
- 第1回投票分:6語(選外1含む)
- ノミネート分:5語
第2回投票分
順位確定のための第2回投票へ進んだ全12語のうち、「インティマシーコーディネーター」と「魔改造」が10位圏外となりました。選考プロセスからするとリアルな選外と言えます。
インティマシーコーディネーター
映像業界で生まれた新しい職能です。国内で活動するのはまだ2名とのこと。
そこそこ今年感もあっていい言葉だとは思います。Googleトレンドでも、6月末から7月あたまにスパイクを形成していました。ちょうど映画「先生の白い嘘」公開時期と重なります。
しかし私はノミネートせず、2回の投票とも10語から外しました。最大の理由は「時機を逃した」です。私の基準では2022年がリミットでした。以下、その根拠となる事実を並べます。
現在、国内でインティマシーコーディネーターとして活動されているお2人がIPAのライセンスを得たのは、ともに2020年のことです。翌2021年に浅田智穂さんへのインタビューがネット記事になっていました。
Netflix映画『彼女』で導入!インティマシーコーディネーターって?:今週のクローズアップ|シネマトゥデイ(2021/04/29付)
読んだ感じ、Netflixの「彼女」を国内でインティマシーコーディネーターが関与した第1作としてよさそうです。
2021年から2022年にかけて、インティマシーコーディネーターを取り上げた記事はネットにも数多く残っています。もうおひと方の西山ももこさんは、
二〇二二年だけでも、おそらく三〇件以上の取材を私は受けました。ほとんどは活字媒体です。
としていました。
出典:西山ももこ『インティマシー・コーディネーター』(2024)Ⅲ 4 インティマシー・コーディネーターの未来は?
2022年の段階で注目が集まっていたことが示唆されます。
決定的なのは、その年「ユーキャン新語・流行語大賞2022」のノミネート30語に「インティマシー・コーディネーター」が入ったことです。実際、私の認知もそこでした。
ダメなところばかり悪目立ちするのが恒例となって久しい同賞ですが、ノミネート30語を見ると、例年何語かは堅いセレクションしてるんですよね。
といった具合に、私の「いま選んでもねぇ」感が結果的に総意となり、トップ10圏外の11位となりました。
魔改造
第1回投票で3位、第2回でも5位に推したのですが、他のシン・選考委員からの票を全く得られずトップ10圏外となりました。「魔改造の夜」(NHK総合, 2020-)の功績もあって今さら感が強かったのでしょうか。
しかし4辞書のうちで「魔改造」を立項するのは大辞林4のみで、しかも
女性キャラクターのフィギュア-モデルを、エロチックな状態に改造すること。もともとあった着衣を脱がせるような改造など。
となっています。え?これ、由来を確認しての語釈なん?と首をひねってしまいました。仮にこれが原義であったとしても現今の用法とは乖離しています。
狙い目だと思ったんですけどね。辞書界の内輪ネタすぎたのでしょうか。難しいものです。
第1回投票分
私の投票したうち、トップテン部門5語、選外部門1語がランキングからもれました。
ミリしら
「1ミリも知らない」の略です。用例を見ると、「1ミリも知らないまま何かやること」まで含意されていそうです。遅くとも2011年の用例が確認できる歴の長い言葉ですが、今年知ってのノミネートでした。
過去に当ブログで開催した嫁の大喜利シリーズも、今なら「ミリしらナントカ」と呼べばいいことがわかりました。
ハイフ
High intensity focused ultrasoundの頭文字「HIFU療法」から「療法」が取れ、さらにカナ表記の「ハイフ」となったものです。次のニュース記事から知りました。
シワやたるみとる「ハイフ」、医師以外の施術は医師法違反…厚生労働省が通知|ヨミドクター(2024/06/12付)
厚生労働省式に表すと「高密度焦点式超音波を用いた施術」です。
回す
それですよ。
♪~
ド ド ドリフの大爆笑
チャンネル回せば 顔なじみ
「ドリフ大爆笑」の放送が始まった1977年当時、テレビのチャンネルは回すものでした。
ひるがえって2024年の配信です。
私もこの配信を視聴しました。けれどもそれでガンガン回したことになるんでしょうか?
いったい何をどう回せばよかったんですかね?
というわけでシン・今年の新語2024にノミネートしました。
答えの想像はできますけど、合ってるかはわかりません。
概念
シン・選考委員の西練馬さんのノミネートに乗っかりました。
「概念コーデ」「好きな概念発表」といった用例があり、従来の用法から拡張しています。
巻き取る
6月にこういったツイート群を観測してノミネートしました。
ふつうのビジネス用語だと思ってましたが、なじみの薄い業界もあると知りました。
こちらは由来に関する有力な証言です。
言われてみれば、回線撤去工事のときに工事部門の人が言ってた気もします。
選外:MBTI
2023年の「蛙化現象」に続く、心理学風味の用語です。
「マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標」の頭文字で、3/4OAのあさイチで取り上げてて認知しました。国内でも1995年からMyers & Briggs Foundationの登録商標になってました。
私の持論として、心理学「風味」の用語は辞書に載せなくていいです。そのため選外部門のノミネートとしました。
選外部門で2位に投票したものの、他の委員からの票はありませんでした。また、並行してトップ10部門にも他のシン・選考委員からノミネートがありましたが、こちらも投票スコアが伸びずランキング外となりました。いずれも妥当に思います。
巷に出回る「MBTI」については、MBTIビジネスを展開する商標権者(厳密にはライセンシー)から次の声明が出ていることにも注意が必要でしょう。
簡単な質問項目が掲載されており、それに回答するとタイプがでるようになっていたり、MBTIの有資格者であることの証明と有資格者の氏名の掲載もないものについては、そのどれひとつとっても、MBTIでもなく、世界規格のMBTIとは一切関係ありません。それは「似て非なるもの」です。
出典:MBTIと似ている性格診断テストについて|一般社団法人日本MBTI協会
こうした状況下でトップ10入りさせて便乗はしゃぎに映るのも不本意でしたので。
ノミネート分
自身でノミネートしたものの比較検討の末に投票しなかった計5語です(初回3語+追加2語)。外来語多めなのはきっと偶然です。
エムポックス(mpox)
サル痘の新ラベルです。2022年11月に、WHOが旧称monkeypoxから移行するリリースを出しています。
WHO recommends new name for monkeypox disease|who.int(2022/11/28付)
その後国内でも徐々に新ラベルの用例を目にするようになりました。
アルファベットなら「mpox」4文字ですみますが、カタカナ表記になると旧名よりも字数が増えてるのが皮肉です。
反サロ
「反サロン医療」の略語です(ただし別解もありそう)。
Twitterでは2022年9月頃より用例が観測できます。特定層の特定気分をよく表していること、ネット発ながらも徐々にオフラインへも進出している気配がすることからノミネートしました
ひとつ興味深いのは、初期の用例では「サロ」がどうやら湿布薬のサロンパスを指していたらしいことです。伝播の過程で修正が施された事実も面白いです。
もしも今後さらに用例に接する機会が増えるようなら、その主張の是非も検討せねばならないところです。自分では手が回らないのが困りもの。
ポーザー(poser)
字づらどおり「ポーズを取る人」が基本義です。元は変哲のない英単語であるせいか、いろいろな界隈で使われています。どのジャンルの用法も共通して「カッコだけ」の侮蔑のニュアンスが入ってそう。
同時多発的に多様な層に使われているゆえ、発生と伝播の過程をたどりづらいのが難点です。
チンツ(chintz)
更紗を意味する英語chintzにyがついた北米の俗語chintzyが元のようです。「チープ」に近いニュアンスです。日本語になると名詞形に戻ってるのが面白いですね。流入ルートは未調査です。
デミロマンティック(demiromantic)
デミは半分または一部を意味する接頭辞です。「初めて知った」「こう言えばいいのか」といった反応が複数観測できます。
以上13語でした。今後の情勢によっては、シン・今年の新語2025への再ノミネートもあります。
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