こんばんは。林修ナイトの時間です。
前に書いた「林修さんの「のぞみ」「ひかり」「こだま」のネーミングに関する考え違いを正します」のつづきです。
大半の根拠をWikipedia の記述だけに求めて書く雑な記事ですので、そのつもりでお願いします。
実はほとんど林さんに関係なくなってますが、最終的に林さんの価値観の倒錯を指摘します。
キーワードは「超」です。
この記事で言いたいこと:Executive Summary
- そもそも、列車の愛称同士に序列は必要ありません。「ひかり」「こだま」の上に「のぞみ」を持ってこられたのは、ラッキーな結果オーライです。
- 他の新幹線のネーミングに秩序がないことを嘆く林さんは、価値観が倒錯しています。
※画像はWikipedia「名古屋飛ばし」より
前回のあらすじ
林修さんは著書のなかで、「ひかり」よりも速い列車の名が「のぞみ」であることに対し「もうここに秩序はありません」と書いています。
それに対し、光よりも望みの方が速い例を示し、秩序はあると反論を行いました。
この記事で書くこと
東海道新幹線の特急列車のネーミングに、林さんの言う「逆算の哲学」が欠けていたとあえて言うとすれば、それは列車の愛称を付ける際に、当時の国鉄関係者が「速さ」にフォーカスしすぎたという点にあります。
別の言い方をすると、真の問題は、東海道新幹線の開業の際に、列車のネーミングの側に新たな秩序を作ってしまったことです。
この記事では、前の記事から持ち越した上の点を詳しく説明します。
しつこくくり返しますが、大半の根拠をWikipedia の記述だけに求めて書いています。反例などのご指摘を歓迎いたします。なお本文内のリンクは、特に断りのない限りWikipedia へのものです。
「ひかり」と「こだま」
東海道新幹線は、1964年10月1日に開業しました。10日の東京オリンピック開幕とセットで語られることが多いですね。
「ひかり」「こだま」の名称は、1964年7月7日に決定しています。(『国鉄・JR 特急列車100年』 p.198 による)
Wikipedia には、こうありました(下線引用者)。
計画時には列車名は設定せずに個々の列車を航空機のように列車番号だけで区別する予定だったが、「名前が欲しい」という要望が多数来たために列車名を付けることになった。(ひかり(列車))
なのだそうです。この心理、面白いですね。別途考察します。
開業前に公募で選ばれ、応募総数約559,000通のうち、1位が「ひかり」で約20,000票(ひかり(列車))
「こだま」は第10位だったそうです。
でもって、
新幹線列車の名称としては在来線特急「こだま」を引き継ぐものという意味のほかに、超特急を「ひかり」とすることで「光速」と「音速」という速さの対比を付けたとされる。(こだま(列車))
ということになったのですが、今の視点から見れば、これがそもそもの間違いの根本です。林修さん含め、多くの人の価値観の倒錯を生んでいる元凶でもあります。
列車の名称が付けられる単位
僕が見るに、列車の愛称は「運行区間」と「種類」ごとに付与されています。
たとえば「さざなみ」「わかしお」、あるいは「はまかぜ」「こうのとり」。どれも特急列車ですが、それぞれの運行区間ごとに名前が付いています。
一方、運行区間が同じでも「種類」の違いがあれば、「北斗星」と「カシオペア」のように、別の名前が付けられます。
愛称同士に序列はいらない
愛称をどのジャンルから持ってくるか、ざっくりしたくくりはありそうですが、序列と呼べるほどのものではありません。
事実、利用経験者か業者かないしは鉄道ファンでもない限り、「北斗星」と「カシオペア」のどちらの料金が高いか、わからないでしょう。名前だけで判別はつきません。
それでいいと思います。
「特急」と「超特急」
○×クイズでこんな問題が出たとします。
「東海道新幹線を走る列車は、特急のみである」
1964年の開業当時で言えば、正解は「×」です。「特急」「超特急」2種類の列車があったからです。特急に「こだま」、超特急に「ひかり」の名がそれぞれ割り当てられました。
「ひかり」が「超特急」として割高な「超特急料金」を徴収したのに対し、「こだま」は「特急」として運行された。(こだま(列車))
開業当初、超特急「ひかり」は東京・名古屋・京都・新大阪のみに停車し、東京-新大阪間を4時間で結びました。
一方、特急「こだま」は新幹線の各駅に停車し、それでも東京大阪を5時間で結んだといいます。
「北斗星」と「カシオペア」のように、運行区間が同じでも種類が違えば別の名前を付ける。
東海道新幹線でも、それは同じだったわけです。
愛称に序列がついたのが問題の始まり
問題なのは、「北斗星」と「カシオペア」の例とは違って、東海道新幹線の場合は名前の方にまで序列がついてしまったことです。さらに問題だったのは、その「ひかり」「こだま」のネーミングが、列車の運行特性の違いを上手に表しすぎたことだと言えます。
そしてこんなことになりました。
新幹線が岡山まで延びて消えたもの
1972年3月15日、山陽新幹線の新大阪-岡山間が開業し、東海道区間との直通運転が始まります。
これと同時になくなったものがあります。「超特急」という種別です。
これを機会に超特急の種別を廃止。「ひかり」「こだま」とも種別を特急とし、(略)「ひかり」全列車に自由席が設定された。 (『国鉄・JR 特急列車100年』pp.86-87)
「ひかり」ってそれまで全車指定だったのですね。はじめて知りました。それはそれとして、引き続き同書からです。
なお、超特急の種別廃止だが、これは当時利用客はもちろんのこと、マスコミの間でも全くと言っていいほど話題にならなかった。『時刻表』でも昭和42年頃から「超特急」の文字が省略されているように、「ひかり」と「こだま」の列車名そのものが、“列車種別”としての市民権を得ているようであった。 (p.87)
「ひかり」「こだま」の愛称の側から言えば、列車種別の違いを示す役割までをも担わされてしまったわけです。
このため、後に「ひかり」よりも速い列車種別を設ける際に、愛称も「ひかり」に劣らぬ速い名前でなければ、という一種の“呪縛”を生んでしまいました。
「のぞみ」の登場
東海道新幹線の「のぞみ」は、1992年3月より運行が開始されました(のぞみ(列車))。
「のぞみ」の名称は、1991年12月6日に発表されています(名古屋飛ばし)。
命名までには、次のような内情があったそうです。以下、引用はいずれも「のぞみ(列車)」からです。
名称決定委員の一人、阿川佐和子が父(作家 阿川弘之)より「日本国鉄の列車の名前は歴代全て大和言葉でつけられてきた」とのアドバイスを受け、委員会の最後に父の言葉とともに、最有力候補となっていた「希望(きぼう)」を大和言葉にすると「のぞみ」になると進言したものが採用されたとのことである
「週刊文春」2007年3月15日号、「阿川佐和子のこの人に会いたい」より
それまでJR東海内部では、「スーパーひかり」という仮称が付いていました。
念のため:そもそもなぜ新しい愛称が必要だったか
なぜ既存の「ひかり」「こだま」以外に新しい呼び名が必要だったか、念のため確認しておきます。
それは、
それまでの「ひかり」よりさらに速い種別の列車
であったからですね。具体的には
東京駅 – 新大阪駅間を従来の最速列車よりも19分早い2時間30分で結び、運行車両には東海道区間の当時最高速となる270km/hでの運転に対応した第三世代車両である300系を充当し、(略)それまでの新幹線列車とは別格と位置づけられていた。
ためでした。
昔の名前で出ています
仮の名称ながらも、かつて廃止された「超特急」が、「スーパー(=超)ひかり」でよみがえっている格好です。
特急列車の「スーパー」という呼称について調べていると、面白いことがわかりました。ですがそれはまた別の機会に。鉄道の話が脱線するのは、どこかぞっとしません。
ラッキーな結果オーライ
列車の愛称の機能としては、「違うもの」であると区別ができるだけで十分であり、種別の差、あるいはその他の何かを示唆させるような秩序など必要ありません。そう主張します。
「こだま」「ひかり」にしても、元来は「特急」「超特急」という列車種別が、運行形態の違いを示す機能を担っていたのですから。
こだま・ひかり(参考:geocities.jp)の場合は、これからという時期に不運(と全面的には言えませんが)があり、キャリアが途絶えました。
という事例もあることから、望みが光よりも速いがために秩序を保てたのは、ただただラッキーな結果オーライに見えます。むろん、再三申し述べているとおり、この秩序は本来必要のない秩序であります。
こだま・ひかりについては、その後、形式上序列のないこだま・ひびきに入れ替わって現在に至っていることも事実として指摘しておきます。
林修さんの倒錯
したがって、全面的にご本人の責任だとは言いませんが、
その後の新幹線のネーミングの状況は皆さんご存じのとおりです。一切の秩序もなく、山の名前だったり鳥の名前だったり花の名前までが(適当に)つけられています。
今や、新幹線は世界に誇る日本のトップ技術です。だとしたら、明確な秩序性を感じさせるネーミングがあれば一層よかったのになぁと、たまに考えたりしてしまうのです。(『いつやるか? 今でしょ!』p.096)
と著書で述べる林さんは、価値観が倒錯してしまっています。
付記
参考にした『国鉄・JR 特急列車100年』は、Google ブックスで多くのページを参照できます。本書で引用した記述は、そちらをベースとしました。
こちらからは以上です。
コメント
林修は東海生の恥。さっさとご隠居してもらいたい。本業に専念してほしい