三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」(以下「今年の新語」)は、2020年以降「それぞれの選考委員が選出した10語」を公式サイト上で公開しています。
今年も「今年の新語2023」 選考結果のページ末尾に載っています。
「ジャッジペーパー」の公開、大変よいことです。新語選びの質の維持向上のため、ぜひ今後も続けてください。このデータから、いろいろなことがわかるからです。
「今年の新語」ポストモーテム2023
狙われるもんより狙うもんの方が強いんじゃ
そがな考えしとるとスキができるど
広能昌三 by 菅原文太の名セリフを胸に、「今年の新語」の選考結果に冷や水を浴びせる「仁義なき批評」シリーズも、選考委員のジャッジペーパー公開に合わせてはや4回目となりました。
例によって選出語ぜんぶを俎上に載せてまいります。
ありがたいことに、初回のレビューを選考委員のおひとりである飯間浩明さんが
三省堂「今年の新語2020」の結果について、ヤシロタケツグさんの忖度なき批評です。厳しい指摘に言い返せない自分がいます。先にkyo_tthreeさんに紹介されてしまったけれど、私もヤシロさんの文章はいつもひそかに読んで勉強しています。▽ヤシロぶ https://t.co/LbaDcrflpD
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) January 8, 2021
と取り上げてくださり、以降、毎年レビュー記事をシェアしてもらっています。当記事の最後に過去のシリーズへのリンクを張っておきますのでよかったらそちらもどうぞ。
アラート
大変残念ながら、私の評価は過去4回のうち最も悪いです。
私の中のアニー・ウィルクスを抑えつけ、ポストモーテムの鉄則であるblameless(非難しない)を精いっぱい守ったつもりですが、はみ出してたらごめんなさい。
「今年の新語2023」ノミネートデータ
選考委員は例年どおり次の4者でした。 ※敬称略。以下同じ
- 小野正弘(『三省堂現代新国語辞典』)
- 飯間浩明(『三省堂国語辞典』)
- 『新明解国語辞典』編集部
- 『大辞林』編集部
各選考委員がそれぞれ携わる4つの辞書を、以後『三現国』『三国』『新明国』『大辞林』と表記します。
この4者が10語ずつを選出します。もしも各者が「一切かぶりなし」でばらばらの語を選んだなら、トータルは4×10=40語となります。
実際の得票結果は
- 3票:1語
- 2票:4語
- 1票:29語
でした。この合計で34語です。昨年の30語より票が割れました。
このほかに、選考委員の誰も選出しなかった語が3つありました。記事タイトルの「+3」はそれを表します。昨年は選外の「平成レトロ」1語でした。増えてます。よくない傾向ですね。
これら計37語を次に示す3つのグループに分けレビューしていきます。
- 第一群(11語):大賞〜第10位の入賞語。第4位に2語入ったので計11です
- 第二群(5語):「選外」の5語
- 第三群(21語):どちらの選からも外れたもの。当記事では「圏外」とします
総評
昨年に続けて、小学校の卒業式によくある「呼びかけ」の文体で簡潔にまとめます。
- 悲しかった \ラインナップ/
- ブレっブレの \選考基準/
- ぐっずぐずの \選考プロセス/
選考委員たちの内向きの論理がひどかったです。名づけて、井の中の蛙化現象です。
※写真と本文は関係ないとも言い切れません
悲しかった \ラインナップ/
今回「今年の新語2023」選考発表会を、私はライブ配信で観ました。もしかするとリアルタイムでの視聴は初めてだったかもしれません。
けれどベスト10と選外の発表後の感情として、まず悲しかったです。
こういうとき「怒りを通り越して」と、教科書どおりの慣用句などが加わりがちですが、そうじゃないです。他の感情を経てません。ダイレクトです。ネット自動車保険のように、ダイレクトに悲しかったです。
たとえるなら、年取った親がYouTubeのおかしなチャンネルにハマって、陰謀論めいた何かとか素っ頓狂な政治批判とかを始めたときの気持ち、それに近いでしょうか。
ブレっブレの \選考基準/
バックヤードは反論で大盛り上がり #今年の新語2023
— 稲川智樹 (@ingwtmk) November 30, 2023
「基準がぶれぶれじゃねーかと。レギュレーションをしっかりしてほしい」
選考発表会に続けて開催された「国語辞典ナイト」の冒頭、稲川智樹さんの発言から頂戴しました。ですよね。
これを受け、前半に続いて登壇された飯間浩明さんがこう発言されまして、心底萎えました。
「競技をやってるわけじゃないんで、ゴールポイント(※ゴールポスト)を移すことによって誰が困るんだと」
よくない。イベントを盛り上げるためのアングル付けた発言であることを差し引いても、よくない。驕りが見えます。本当によくない。
誰が困るのか。風が吹けば桶屋が儲かる理論を展開させると、それはあなたたち選考委員です。そういう態度が全部返ってきますよ。これも詳しくは後ほど。
ぐっずぐずの \選考プロセス/
計37語について、票数別の{入賞, 選外, 圏外}3グループの分布は次のとおりでした。
- 3票{1,0,0}
- 2票{2,2,0}
- 1票{7,1,21}
- 0票{1,2,0}
入賞が合計11になってるのは、先述のとおり、元々別ノミネートだった2語がまとめられたからです。具体的には第4位の「性加害・性被害」です。
それよか、0票の語がここに存在することがおかしいです。あまつさえ入賞までしてます。どんな選考過程を経ての結果なのか、まるで不透明です。選考プロセス、ぐっずぐずじゃないですか。
別に、選考会の議事録公開しろとまでは求めませんよ。ボクらしてますけどね。
選考データシートはこちらです。
2つ合わせると、選考の各ステップでやったことが全部わかるようになってます。
シン・旧「今年の新語2023」比較
説明が前後しました。今年から、先出しじゃんけん企画「シン・今年の新語」始めました。
「今年の新語2023」発表前日の11/29に発表しました。
レギュレーションと選考プロセスを再設計し、昨年(2022年)のレビューで指摘した3つの問題、
- 昔の新語問題 → ラインナップ
- それもう載ってるやん問題 → 選考基準
- 得票数ないがしろ問題 → 選考プロセス
すべて克服しております。詳しくは下の選評記事で。
あらためてこちらが、編む人による「今年の新語2023」のベスト10と選外です。
例年2つ3つあるサプライズといいますか、やられた感が薄め。むしろ「あかんやん」が勝ってます。ですから自信を持って「旧・今年の新語」と呼べます。シン・旧の比較も真正面からできます。
ラインナップはシン・旧で五分、選考基準とプロセスは旧がまるでだめです。よって旧「今年の新語2023」の1分け2敗です。2014年ブラジルW杯での日本代表チームの成績と同じです。
パート1:選外の5語
説教するってぶっちゃけ快楽
酒の肴にすりゃもう傑作SEKAI NO OWARI《Habit》(2022)
選外の5語からレビューします。選考システムの歪みがよく出ていたからです。ここから全部狂っています。
旧・2023の選評にはこうありました。
これらの語にはランクインしてもおかしくないものも含まれますが、2023年刊行の『現新国』――すなわち『三省堂現代新国語辞典 第七版』にすでに項目があるため、選外となりました。
結論から言えば、これは悪手、失策です。内輪の理屈だからです。
いったんおいて、まずは個別に見ていきます。
該当する語に、カエルの絵文字「🐸」を付けておきました。実は「蛙化現象」を除く4語がそうなので、あっちも蛙、こっちも蛙の、蛙オールスターズとなりました。
オーバーツーリズム 🐸(-)
「シン・今年の新語2023」では第4位でした。レギュレーションで、『三現国7』の新規項目は可としていましたので。
旧の選考委員が誰も挙げてないのに、ここへ出てきているのが謎です。
蛙化現象(小野、大辞林)
「シン」でも選外でした。流行語なら大賞級に推せますけど。選評の方にいろいろ書いたのでここでは略。
「蛙化」最前線
けれど近ごろは、「蛙化」の形で案外「シン・今年の新語2024」以降のノミネートもあるかもなと思い直しています。
こんな用例に出会ったからです。
蛙化ポイントがそれである私としては、どっちなのか気になります。
出典:きゃりーぱみゅぱみゅの大人なLADYになるわよコラム〜 第53回 やべー人はそっ閉じするわよ〜|Hanako Web(2023/11/28付)
それがどんなのかを説明したくだりです。
何でもかんでも「だよね?」って言う人が私は苦手です。
(略)誰かから「いや、それ違いますよ」って突っ込まれると、「あ、ごめんごめん」と素直に謝らずに、「だよね? だと思ってた」と言う人です。
自然と偉い人の中にだよね系が多くなるんでしょうか?
それとも、(略)偉い立場こそが、最初は全然そんなことない人をだよね系へと育ててしまうんでしょうか?
恋愛感情うんぬんとは無関係な、ごく一般の対人関係の話に「蛙化」を使っているのがわかります。進化系の「蛙化」です。
「蛙化」がどの方向へどう育つか、今後の動向を注視しておきます。そういえば旧「今年の新語」も、2017年に「インスタ映え」を見送って、翌年「映える」を大賞にしてました。
それと、ネット検索した感触だけで言えば、カエルの寿命も案外長かったです。
グローバルサウス 🐸(大辞林)
「シン」では、第1回投票のスコアが6でトップ10に届かず圏外となった語です。通過ラインのスコアは9でした。
てか『大辞林』編集部はなんで、『三現国7』に項目のある語を10語に入れたんすかね。
ということで大辞林、1カエルポイント獲得です。
生成AI 🐸(新明国、大辞林)
シン・2023では第5位でした。くり返しますと『三現国7』の新規項目はノミネート可としたので。
『三現国7』に立項されたのを理由に選外になる語を、社内の別の2つの辞書が推すという惨事です。ほんと惨事です。
辞書を編む人って、人の編んだ辞書引かないんですかね。だったら引くわー。
新明国と大辞林、それぞれ1カエルポイント獲得です。
近しい 🐸(-)
これもまた、旧の選考委員が誰も挙げてない謎ラインナップです。
ただ気になる事実として、シン・選考委員の1人であるながさわさんが応募締め切り数日前に投稿されてた。というのがあります。
近しい #今年の新語2023
「近い」のかっこいい言い方。
「しかし夢小説界隈と、なりきり界隈は「萌えを与える」という点において、限りなく近しいものがある」(木爾チレン(2022)『私はだんだん氷になった』二見書房 p.57)— ながさわ (@kaichosanEX) October 26, 2023
もしそれきっかけで入れてたらダサいの極みですけど。どうなんですかね。
なお、シン2023ではノミネート外でした。
「今年の新語」蛙化ポイント(その1)
「蛙化現象」を除く4語、「オーバーツーリズム」「グローバルサウス」「生成AI」「近しい」は、『三省堂現代新国語辞典 第七版』にすでに項目があるため、選外となったそうです。
じゃあ尋問しますよ。一緒に答えますけど。
『三現国7』の刊行って、いつですか? 2023年10月半ばですよね。
「今年の新語2023」の募集開始日、いつですか? 2023年9月1日ですよね。
Webの応募フォームから、X(旧Twitter)から、書店店頭から、この4語を投稿した方、いたはずですよ。Twitter見返したら9月の段階で「#今年の新語2023」付けて出してた方、実際におみえでしたよ。自分の投稿した言葉がベスト10入りするかどうか、注目されてた方も多かったはずですよ。そういう方々がこの結果発表を見てどう思いますかね。
10月にそれ載せた辞書出したから選外でーす。なにそれ? ってなりませんかね?
そういうの、後出しじゃんけんってゆうんやないすか?
後出しじゃんけんのこと、『新明国8』には「反則行為」って書いてましたよ。
「今年の新語」に応募した人って、お金出して三省堂の辞書を買ってくれてるか、買わずとも、少なくとも関心は持ってくれてる人でしょ。どっちの意味でもお客さんですよ。顧客に対して、なんでそんな無礼なマネができるんですか。私の倫理観では考えられないですよ。
冷めるわー
「🐸」の絵文字には、そんな意味も込めてます。
パート2:入賞の11語
惨事を報じるテレビなどは消して・・・
哀しいだけ東京事変《秘密》(2006)
選考結果に感じた悲しさは、その選評を読むことで輪郭が見えてきました。
主役であるはずの言葉が、どこか脇に追いやられてる感じがしたからです。
「今年の新語」蛙化ポイント(その2)
あなたたち、世相談義がしたいんですか?
世相談義「してはいけない」ではないです。したいならすればいいです。けれど私はいらないです。そんなのそこらに転がってますから。
辞書を編む人たちだけが語れること、あるはずでしょう。少なくとも私の期待はそっちですよ。
だから悲しかったです。
大賞 地球沸騰化(小野、大辞林)
「シン・2023」では投票スコア5でトップ10圏外でした。
選評読むとなんや世界の終わりみたいにいうとりましたけど。2023年の観測気温が世界的に高かったことも、国連の事務総長がそれを「地球沸騰化」と呼んだのも事実です。新語として特に文句はありません。ですから選ぶかどうかはセンスの差、究極には好き嫌いの話となります。
気候変動を問題視したいならすればいいです。問題ないと無視を決め込むのも違う気もします。それでも私は、ハンス・ロスリングが『ファクトフルネス』に込めた、〈思い込みや毎日のニュース内容とはまったく違って、世界は可能性にあふれている〉メッセージを支持します。読んでないけど。
気候変動より、旧「今年の新語」のありようの方がよっぽど危機的です。目の前にあるその危機をまずなんとかしましょう。
第2位 ハルシネーション(小野、飯間)
シンでは大賞でした。特にコメントはないです。
上位2語がともに2票獲得していて、それはそれで順当なランキングです。
第3位 かわちい(飯間)
シンでは投票スコア7でトップ10圏外でした。
正直、「かわいい」から「かわちい」への語尾変化を一種の悪ノリと見くびっていたところはあります。ほら、SNS発信するご当地キャラが無理くりな語尾使ってるの、よくあるじゃないですか。たとえばイカゲソのキャラなら「~じゃなイカ?」「~ますでゲソ」みたいな。今でっち上げたので、実在するかは知らん。そういう類と見てました。
語尾を「ちい」と変えることで、形容詞のクラスチェンジを果たしているところまでは思い至りませんでした。
そういう話を見たいし聞きたいんですよね。それを選評で「清涼剤」とか、倒錯も甚だしいですよ。
第4位 性加害・性被害 🐸(飯間)
2語別々にノミネートしていたのを、一括してのランクインとなっています。
シンではどちらもノミネート外でした。
コンビでの選出は日和ったな、という気がします。「日和った」は新旧どっちの意味でもいいです。入れるなら「性加害」単独でよいと思います。ピン芸人の大会であるR-1グランプリに2人組でエントリーしてるような違和感もあります。けれどプレスにも流して傷ついた人に見つかりやすくもなってるし、致し方ないですかね。
とは擁護できません。なぜなら『三現国7』に「性被害」載ってますから。「性」の用例に「―行為・―衝動」と並んで「―被害」があります。なので性被害に「🐸」マークです。飯間浩明さん、1カエルポイント獲得です。
選評は「主要な国語辞典にはどちらも載っていません。」としてました。『三現国7』は主要な国語辞典に入らないそうです。ひどいな。
「自分たちの携わる辞書に載ってたら外す」ことをせず、選考基準がブレっブレになってるから、こんなことになるんですよね。あちこちに歪みが出てます。
悪口ばかりでしたので、いいところも。
1つめ。言葉が一般化したことで「性に関する多様な加害・被害をカバーした議論ができるようになりました」との指摘はうなずけます。特に加害の側は重要です。
事実、各辞書のアプリで全文検索した件数を比べても、「加害」の件数が「被害」より顕著に少ないです(LogoVista版での比較)。
- 『三国8』 加害 5/被害 70
- 『新明国8』加害 4/被害 72
- 『大辞林4』加害 20/被害 270
さらに、筑波ウェブコーパスを「○○加害」で探しても、ほぼ全部が「加害者」の用例です。「者」のつかない加害は、2,3の専門用語を除くと「戦争加害」ぐらいです。加害「者」を一度おいて加害を語り考えることができるようになったのは、日本語が成熟してきた証とも言えます。
2つめ。語釈での用例が、加害被害のどちらも「~を受ける」となっていました。選考発表会でそこを拾った小野さんは好プレーでした。子細に見れば、選考結果にはこういう工夫がたくさん詰まってるはずなんですよ。
くり返しますが、私の見たい聞きたいは、そっちです。
第5位 ○○ウォッシュ ♪(飯間)
シンではノミネート外でした。
手前味噌ですが、私は「グリーンウォッシュ」を2021の10位にしました。
多様な○○ウォッシュが出現しているのは認めます。選評が触れたもののほかに「スポーツウォッシュ」を見たことがあります。けれど今年そこまでよく見聞きしたかな、という感想です。そこは体感の差なのでいいです。
「グリーンウォッシュ」が『大辞林』に立項されてます。「もう載ってる」のカエルポイント獲得には至らないので、♪マークを付けておきました。0.5カエルポイント換算とします。
第6位 アクスタ 🐸(飯間)
シンではノミネート外でした。自身よく見聞きはしますが、これを今さら拾うのもなといった心理が働いたかもしれません。
『三現国7』の「アクリル」の項に、もう載ってました。
―スタンド(=キャラクターグッズの一つ。アクスタ)
飯間浩明さん、さらに1カエルポイント獲得です。
第7位 トーンポリシング(飯間)
シンではノミネート外でした。既におなじみで、「今年」かなというのはあった気もします。
けれど今年の話題に上った語ですし、4つどの辞書にも載ってなかったのでランクインは「あり」です。伝え聞いた(直接は正直しんどい)、井ノ原さんの有能さが悲しかったですね。
ワシらどこで道間違えたんかのう
坂井鉄也 by 松方弘樹のセリフを思い出しました。
第8位 リポスト(-)
選出者不明の謎選出です。よくないですね。
選評も無理がありすぎました。
「リポスト」が一般名詞になった
って。リポストって、元から一般名詞ですよ。日本語世界ではインスタグラムだけが使っていたのが「これで複数の主要なSNSで使用されることになり、言わば一般名称という位置づけに」て理屈みたいですが。
倒錯してます。
たとえば落語好きの間で「家元」といったら立川談志(1936-2011)を指します。特定のコンテキストでは固有名詞の役割を果たしてはいます。けれど「家元」はあくまで一般名詞です。
仮定の話ですが、今後の落語界、あるいは付近の伝統芸能分野で誰かが「家元」と呼び呼ばれるとき「家元が一般名称という位置づけになった」とするのは、特定のコンテキストには合っていますが、狭い了見でのもの言いでしょう。
Twitterの突然のブランド変更に触れたいんなら、素直に「X(旧Twitter)」あたりを選外に置けばよかったんです。ところが選外に『三現国7』掲載語を多数入れたがためにそこに配置できず、あろうことかベスト10本体の側に、関連語に無理のあるおかしな選評を付けて混ぜ込んだ。そう見えてしまいます。
こういうところも、世相談義がしたいんですか?との疑念を生む元です。「Twitterの話がしたい」動機が先に立ってしまってませんか? その動機、新語に優先するものでないはずですが。
ブレっブレの選考基準が、選考プロセスはじめあちこちに歪みを生んでます。よくない。
第9位 人道回廊 🐸(飯間)
大辞林4に掲載済みです。飯間さん、さらに1カエルポイント獲得です。
シンではノミネート外でした。というか、されようがありません。仮にシン・選考委員からノミネートがあっても、スクリーニングで差し替え対象となりますので。
第10位 闇バイト(小野、新明国、大辞林)
「シン・今年の新語2023」では、トップ10と選外の両部門にノミネートされました。しかし、どちらも投票スコアが伸びず圏外となりました。
新語性に異論はありません。けれど「闇」と「バイト」普通の語を2つつなげただけと感じたのもあり、私も投票しませんでした。
けれど今は、辞書に載ることに意義もあるかなと認識を改めています。大辞泉が選ぶ新語大賞2023の選評に、こうあったからです。大賞に次ぐ次点の2語の1つに「闇バイト」を選んでいました。
これは本当にアルバイトなのでしょうか?(略) SNSなどで【闇バイト】に誘われると「闇」とは言うものの「バイトなのだ」という気軽さと安心感から、犯罪に手を染めてしまった人がいるような気がします。言葉には、ものごとを正しく伝える本来の力だけでなく、逆に、本質をオブラートに包んでしまう力もあります。
確かに。
加えて「闇」の方にも、グレーながら「あり」じゃないかと思わせる響きがあります。たとえば「闇営業」は契約の問題であって、それ自体が不法行為ではありません。敗戦後に「闇物資」をさばいた「闇市」にしても、当局が取り締まれば没収対象となる違法行為でしたが、横行していました。今で言えば自動車の速度制限ぐらいの感覚だったのでしょうか。
この機に乗じて、私的な思い出話を1つリリースします。
もう何年も前のことです。嫁と法務局に用がありまして、その待ち時間に刑事裁判の傍聴をしたことがあります。被告人は20歳そこそこの若い男の子でした。
高校を出て就職するもほどなく辞めてしまい、Twitterで見つけた働き口が、特殊詐欺の受け子だった。検察側の冒頭陳述はそんな内容だったと記憶しています。その頃私はまだその言葉は知りませんでしたが、「闇バイト」ですね。
こんな子がスーツ着て銀行員だか市役所職員だかを名乗って家に来たら、おかしいって気づいてやれよと、被害者側へ理不尽な怒りが向いたりもしましたし、また、情状証人に立っていた被告人の祖父という方が、本当に普通of普通の田舎のおじさんで、近所に知られてるとさぞ肩身が狭いだろうと余計な心配もしました。
詐欺は初犯でも実刑判決が出ることが多いです。経緯や情状はどうあれ、既遂の実行犯ですから。今も時々、あの時のあの子、刑務所出て元気でやってるかなと嫁と話題にしたりもします。
それであの子を救えたかはわからないけれど、辞書にはっきり「犯罪ですよ」と書いておくのもありだと思います。
「今年の新語」第10位の「闇」
もっと理不尽なのはこの順位です。2022のリスキリングと同じく、3票集めて最多得票だったのに10位です。
この理不尽は、「今年の新語」選考発表会の段取りによって生まれていると考えます。「今年の新語」は例年、10位からのカウントダウン方式で発表されます。10位の語が、野球で言うトップバッターの役目を負わされてるんですね。冒頭でつかまねばと、続く9,8,7位あたりよりも「手堅い」語が置かれる傾向があるように思います。
10位には10位の語を置くべきです。悪い習慣ができてしまってます。「今年の新語」の秘密、恐ろしい闇です。よくない。
カエルポイント・中間集計
恐ろしい闇無かったことにする為
秘密(2006)
東京事変
他の辞書に載っている語を選出してしまった選考委員に与えられる「カエルポイント」、選外とベスト10までの中間集計です。
- 小野:
- 飯間:🐸🐸🐸♪
- 新明国:🐸
- 大辞林:🐸🐸
飯間さんが3.5カエルポイントと一歩リードしています。
反対に、他の辞書の選考委員が選出した語を既に載せていた辞書に「蛙ディフェンス」ポイントも付けました。ここまでの中間集計結果です。
- 三現国7:5
- 三国8:0
- 新明国8:0
- 大辞林4:1.5
2023最新の『三現国7』が強いですね。最終結果が楽しみです。
パート3:圏外の21語
最後に、圏外の21語です。
小野正弘(6語)
昨年のひどさからやや持ち直しました。生活実感からの選出に見えて、むしろ好感が持てます。『三現国7』を世に出しての余裕でしょうか。
朝ウナ
朝+サウナ ですね。お好きなんですかね。
ちいかわ
流行ってますけど、まだ固有名詞の範疇かな。
○○散らかす 🐸
もしかして『三国8』のこれじゃないですかね。
[俗・方]さんざんに…する。「ほめ―・笑い―」
カエルポイント獲得です。
ニキ
アニキの略語でいいんでしょうか。ネットではおなじみです。使用者と使用局面の広がりがほしいところです。ならネキは?となるのも弱点でしょうか。
無理 🐸
『三国8』の「無理」の疑いです。
④〔俗〕感情が高ぶって、感動詞的に使う。(a)拒否をあらわす。(略)(b)感激をあらわす。
厳しめに、カエルポイント獲得としました。違う「無理」なら釈明がほしいところです。
沸く
自身の感情に使う「沸く」でしょうか。「たぎる」に近い使い方はネットで見ます。
飯間浩明(2語)
ノミネート10語中8語がランクインしていますので、残り2語です。
社不
社会不適合(者)の略ですね。今の人なりの生きにくさを表す語ではあります。
選考の話から離れますが、不適合を起こしているのは社会の側かもしれないという発想は、常に持っておいてほしいですね。
発達性トラウマの本を読んでいて、「生きづらさが過度に個人化されがちな現代」の記述にはっとさせられた今年でした。
ペッパーミル 🐸
大辞林4に掲載済みです。
それではなくて、WBCのパフォーマンスの話をしたかったんでしょうか。
『新明解国語辞典』編集部(8語)
ネットミームでいう「モルダー、あなた疲れてるのよ」状態です。
別の会社から同じ職場に来ている新卒1-2年目の社員がこうなっていたら、私は辞めてしまうサインと受け取ります。後輩社員なら即面談案件です。
あれ 🐸
阪神タイガースの「アレ」なら、『三国8』あれ⑥の
口にしにくいことを、遠回しにさすことば。
で足りてます。他に「あれ」ありましたっけ。
推し活 🐸
『三国8』推しの用例に
―事〔=ファンとしての活動。『推し活』とも〕
と掲載済みです。
セルフレジ 🐸🐸🐸
『三現国7』セルフ:←セルフサービス ―レジ
『三国8』セルフ:―レジ〔=店で、客が自分で会計する方式〕
『大辞林4』セルフレジ→無人レジ
『新明国8』以外の3つの辞書に全部載ってました。トリプルカエルポイント獲得の大技が出ました。
ChatGPT 🐸
『三現国7』が立項しました。カエルポイント獲得です。
デコ活
環境省の「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称です。なにも自ら乗っかって一緒にスベらなくてもいいのにと思いました。
デコ活|環境省
シン・ゴジラの尾頭ヒロミがフィクションの存在と知っていても、本邦の官僚の優秀さを疑ったことはない私です。社会システムの側が不適合を起こしている一事例と言えそうです。
呪い
「シン・今年の新語」でもノミネートされました。第1回投票スコア4でトップ10圏外でした。
「呪縛」が受け持っていた「自分を縛る観念」の意味が数十年かけて「呪い」へ移ってきています。地味めですが、各辞書とも、次の改訂で入ってよさそうな変化ではあります。
マイナカード 🐸
『三現国7』マイナンバーに
―カード(=マイナカードとも)
とあります。カエルポイント獲得です。
「マイナンバーカード」は新明国含め4つすべてに載ってました。
むにむに
肉感を表す擬態語、でいいんでしょうか。Twitter検索すると、頬によく使われていました。いいと思います。
『大辞林』編集部(5語)
例年、新語性の面でこのパートは安定してます。確認していきます。
アーバンベア
里に出没するクマのニュースで時々見聞きしました。輸入もののタームなんですかね。出自は調べてないです。
アンコンシャスバイアス
シンでもノミネートありました。積極的に拾うまでには至らなかったです。
ビジュ
ビジュアルの略です。私自身は特に気持ちが動かないですが、いいと思います。
フェムテック
「シン・今年の新語」でも「フェム○○」の形でノミネートされ、投票スコア8であと一歩トップ10入りに届かずでした。「フェムゾーン」や「フェムケア」など造語力をつけつつあります。
それよか気になるのは、フェムテック、『大辞林』編集部から2021年以来3年連続でのノミネートなんですよね。少年少女ならSOSのサインですよ。選考会でそこ議題にならなかったんですか?
どうしたの?何かあったの?って、せめて話、聞いてあげましょうよ。
ステルス値上げ
時事寄りですけど、説明が必要な語ではありますね。紙パック飲料の多数が1割減の900mlになって世知辛い昨今です。同種の用語として英語にも「shrinkflation」があります。
カエルポイント結果発表
他の辞書に載っている語を選出してしまった選考委員に与えられる「カエルポイント」最終結果の発表です。
- 小野:🐸🐸
- 飯間:🐸🐸🐸🐸♪
- 新明国:🐸🐸🐸🐸🐸🐸🐸🐸
- 大辞林:🐸🐸
圏外の部でトリプルゲットなどの大技をくり出した『新明解国語辞典』編集部が、合計8カエルポイントを獲得し、差し切って優勝です。
こちらは、既に載せていた辞書の方です。「蛙ディフェンス」ポイントの最終結果です。
- 三現国7:8
- 三国8:5
- 新明国8:0
- 大辞林4:3.5
2023最新の『三現国7』がそのまま逃げ切って優勝です。ナイスディフェンスでした。
三省堂「今年の新語」リバイバルプラン
三省堂「#今年の新語2023」の選評です。時事用語が多いと思われそうですが、決して一時的なことばとは考えていません。将来辞書に載りうるという観点で選びました。「地球沸騰化」は冬季には実感が湧かなくなりますが、今後どう使われるか、引き続き観察したいところです。 https://t.co/oZ1eg2RLOa
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) December 1, 2023
ジャッジペーパーのデータから、選考委員がいう「将来辞書に載りうる」の「辞書」とは、それぞれ自分が携わっている辞書に閉じていることが明らかとなりました。
観客からするとゴールラインが4本あるようなもんですよ。ひどいもんですね。三苫選手もびっくりです。
そういうの「井の中の蛙」ってゆうんやないですかね?
4つの辞書全部に載ってましたから、「井の中の蛙」の語釈みんな引用しましょうか? 本当に引用するとウルトラモラルハラスメントなのでやめておきますけど。
まあ言いたいのは、瀕死の重体は大げさでも、両足骨折ぐらいの重傷なんですよ。「今年の新語」が。
というわけで、あたかも「ミザリー」のごとく選考委員が自ら殺しかけている「今年の新語」を蘇らせるべく、狂気の「リバイバルプラン」を策定しました。具体的にいうと
- 第4位以下のランキング廃止
- 事務局による初期スクリーニングの実施
この2つがマストです。
第4位以下のランキング廃止
旧「今年の新語2023」での得票数と順位の相関係数は-0.32となっており、その絶対値が過去最低を更新しています。係数の絶対値の低下は、得票と順位の2つがまるで無関係になってきていることを表しています。
旧「今年の新語」は、2年連続で3票の語が10位となりました。その順位、根拠あるんですか? 選考発表会で10位に「つかみ」の役割を負わせていませんか? 歪んだ動機に基づいたランキングシステムなら、いらないです。第4位以下の順位づけは廃止しましょう。
というところで「今年の新語2024」は、ベスト10発表は従来どおりとするも、
- 大賞・第2位・第3位の3語
- ベスト10入り 7語
ぐらいの2グループの発表でいいんじゃないですかね。
次の選考発表会では、冒頭で7語いっぺんに発表すりゃいいです。その後の個別のコメント順も司会の裁量に任せて。
ちなみに、「シン・今年の新語2023」トップ10の相関係数は-0.98です。1に近い絶対値になってます。投票スコアの大小がそのまま順位となるように設計したので当たり前ですが。
事務局による初期スクリーニングの実施
旧「今年の新語2023」の選考結果と選評を読むと、事務方がきちんとデータ集計していることがわかります。
- 総投稿数(2,207)
- 異なり語数(1,087)
- 投稿数の第1位から第5位の語
- 投稿数第8位の語(地球沸騰化、かわちい)
などのデータが述べられていましたので。
1,087語の中には、過去の入賞語など、選出には不適格な語も一定程度混ざっているはずです。Twitterでは実際、2022の「タイパ」や2016の「エモい」を投稿されている方を見ました。
陰で支えている事務方にはもう少しがんばってもらい、そういった語を事務局が除外して、応募締め切り後に「ここから選んでください」と選考委員に候補語のリストを渡すように選考プロセスを変えましょう。そうすれば「それもう載ってるやん問題」は原理的に発生しません。語数も数百ぐらいにはなりそうなので、応募期間中に一度渡しておく2段構えでもいいでしょう。
当レビューで見たとおり、三省堂の辞書を編む人は他の三省堂の辞書を引かないか、引いてもそれを意に介さないことがはっきりしました。各選考委員が獲得したカエルポイントに、それが表れています。
どういう語を除外するかはレギュレーション次第ですが、三省堂の辞書に載ってたら除外するのが規定としては最もシンプルでしょう。だって三省堂が自分の冠付けて開いてるイベントなんですから。その段へきて辞書の性格がそれぞれ違ってうんぬんとかごねる選考委員がいるなら、それは内向きの論理であり、驕りです。そう指摘すればいいです。
ちなみに「シン・今年の新語」では、募集開始の9月1日を基準日として「基準日時点で三省堂の4つの国語辞典に載っていないもの」を要件にしました。選ぶのになんも問題なかったですよ。
以上の2つがマストのプランです。
オプショナルプランの例
こっから半分思いつきなんで、余力があるならこういうのもやってみては?レベルです
- 「選考委員のノミネート語」の先行公開
- 「新語ロト」開催
ここであらためて問います。「今年の新語」って、なんのためにやってるんですか?
ビジネスパーソンぽく粉飾して言えば、三省堂と三省堂の出す国語辞典のプレゼンス向上のためじゃないんですか?
そこで重要となる評価指標の1つが、集まった「にわか」の数じゃないでしょうか。先述した過去の入賞語の比率など、「にわか」の実数を推し量る貴重なデータになりそうです。
業界やコアなファンの方だけを向いて、「にわか」を生まない、取り込まないジャンルは死にますよ。ジャンルが死んだら選考委員も食い上げですよ。というところで思いついての施策です。
「選考委員のショートリスト」の11月上旬の先行公開
ユーキャン 新語・流行語大賞の2023年ノミネート語30語のリスト発表は、11月2日でした。
このノミネート語発表の直後に、「今年の新語」が後追いで「選考委員の候補語リスト」も公表し、潰しにいくアングルを作れば面白くなりそうです。当然に、合計の語数を30に絞るわけではなく、実際のノミネート結果そのままの公表です。理論上の最大は40です。
こうすることで、誰も選んでいない語が混入する謎の後出しじゃんけんも防げます。
「新語ロト」
候補語が絞られると、結果発表までにいろいろ企画できます。ガチ予想もやりやすいですから、上位3語と7語を予想する「新語ロト」も開けます。
1.2.3位と残り7語を全部的中させた方から1名限定で、iPadの1台ぐらい賞品にすれば、盛り上がるんじゃないですかね。
まとめ
壊してみせろよそのBad Habit
Habit(2022)
SEKAI NO OWARI
レビューとリバイバルプランで「今年の新語」を煽ってみました。
「今年の新語」とは、世界の終わりを憂うような安易なものでなく、もっと曖昧で繊細で不明瞭なナニカなはずなんです。
今の私のもっぱらの関心は、旧「今年の新語」が2024年に何を選ぶかではなく、どう選ぶかになっています。ここまで言われたらどう?普通
「今年の新語2024」がどっちへ転んでも、井の中の蛙化現象が完成します。
もし選考基準とプロセスを改めたら、井の中の蛙ぶりを省みてのこととみなしますし、
これだけ冷や水浴びせたのにまるで今年のままだったら、蛙の面に水だった、ということなので。
そんなところです。
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