不健全な「※諸説あります」の見分け方、ツッコみ方

世の中には不健全な「※諸説あります」があふれています。

常識の部類かと思っていましたがそうでもなさそうで、あらためてその見分け方を記事にしました。方法はごく簡単です。一般的な読み書き能力があればできます。

2023-03-21_syosetsu

内容としては

テレビ番組で「※諸説あります」と言う件について
更新日:1月13日16時44分

テレビ番組で「※諸説あります」と言う件について|Togetter(2019/01/13付)

ここに出ている以上の新しいものは特にないです。

結論:Executive Summary

次の「テスト」のどちらにも合格しない「※諸説あります」は、不健全です。

  1. 複数の説を紹介しているか?
  2. なぜその説か、または、その説でないかを説明しているか?

逆の面から言うと、どちらか1つに合格すれば、健全です。

「※諸説あります」健全性テスト結果

実際にテストしてみましょう。WebとTwitterを検索してサンプルを集めました。

念のため付け加えておきますと、一部を除き、そこで取りざたされる事柄に対して私は何の見識もありません。でも大丈夫です。テストに必要ないので。

健全な『その話、諸説あります。』

『その話、諸説あります。』(2020)は健全です。

その話、諸説あります。
この世界はわかっていることよりも、わかっていないことの方が多い。研究者たちは仮説を立て、検証を繰り返して、事実に迫ろうとする。本書では、さまざまなジャンルで提唱されている“謎

その話、諸説あります。| ナショナル ジオグラフィック日本版サイト

私はこの本を読んでいません。それでもリンク先のサンプルを見れば、健全だとわかります。複数の説を紹介しているからです。

もし、同書がある特定の説を無視しているようなことがあったならば、不健全です。けれどもそれは別のタイプの不健全です。

まだ健全な「自刃した白虎隊士」

以前BS-TBSで放送されていた

BS-TBS|番組詳細

諸説あり!

このページの「■7月14日放送「白虎隊 悲劇の真相」に関して」で述べられている「自刃して絶命した白虎隊士の人数」の「※諸説あります」はまだ健全です。

複数の説が紹介されているからです。

補足しますと、2018年の放送です。

まだ健全と、「まだ」を付け足している理由は、記事の後半で触れます。

不健全な「やぶ医者の語源」

https://www.city.yabu.hyogo.jp/soshiki/kenkofukushi/hoken_iryo/1/7070.html

「やぶ医者」の語源は、養父の名医?!|養父市(2020/07/10付)

は不健全です。

1つの説だけを紹介し、他にどんな説があるかわからないからです。

加えて、「諸説」からなぜその説を取り上げているかも、全然わかりません。

説の内容にも触れますと、まるで支持できない、質の低い説です。

「鎌倉時代からやぶ医師(くすし)の形で使われた。」とする『三省堂国語辞典 第八版』など、既にあちこちで「時代が合わない」と指摘されているためです。

(「薮医者」の語源については、様々な説があります。)

に、

他にはどんな説があるんですか?

なぜ、粗悪で不合理なその説にしがみついているんですか?

とツッコんでおきましょう。

「?!」の付いたでたらめを吹聴したがる養父市は何に困っているんでしょうか。

不健全な「マヨネーズ発祥の地」

字数の都合もあってか、Twitterの「※諸説あります」は不健全がデフォルトです。

説が1つしかありません。なのでこちらにも

他にどんな説があるんですか?

とツッコんでおきましょう。

フランス説の妥当性については精査した上で判断しなければなりません。

判定に困る「鉾復活巡行」

下には下の不健全といいますか、斜め下な「※諸説あります」もありました。

何に対して諸説あるのか、私の読解力では読みきれませんでした。

どこに諸説があるんですか?

とツッコみたいです。というのも、論点を「鳳凰に関する何か」と解釈すると、「諸説ありますが」の文意が通じなくなるからです。

鳳凰について「想像上の鳥」以外の説も、「そんな伝説ねーよ」と否定する言説も(理論上可能ですが)その実例を私は知りません。そして「聖天子が現れる」は「よいこと」の1つであり、かつ「兆し」は「起きる前触れ」と言い換えていいでしょうから、どこにも対立はありません。よしんばそこを2つの説と読んだとて、「ぜひお見逃しなく」へ接続する論理が不明です。

鳳凰がらみでない何かの「諸説」だとすれば、それが具体的にどんな論点なのかが、まるで見当がつきません。なので

どこに諸説があるんですか?

となります。

斜め下へきた「※諸説あります」です。不健全の域を超えてきた感もあります。

検証不能な「埼玉あるある」

サンプルを採取する前には予想だにしなかった「※諸説あります」も収集できました。

どんな内容かと見てみたら、

え?

困惑するばかりです。検証不能だからです。

「池袋を歩いている人の8割は埼玉県民」なら、その真偽が検証可能です。

ではなくて、「だと思っている。」のですから、それはご自由にと言うしかありません。

どういう「諸説」を想定しているんですかね?

「あるある」「ねーよ」の大きく2パターンなんでしょうか。「そう思っている主体など存在しない」といった主張ならありうるけれども。

などと上のツイートをためつすがめつしているうち、

「説」は検証可能な言辞に用いる

と暗黙のうちに前提している自分に、気づかされました。

ここまでと次元の違う「※諸説あります」です。

検証不能なタイプの言辞、たとえば各自の「所感」を指して「説」と呼んでいるのならば、そこに諸説があるのは当たり前です。当たり前のことをわざわざ表明するところが、薄気味悪いです。

私からすると解読に通常以上の手間を必要とする点で、語法として偏っています。

てなことを考える力が発信者にあるとは思えませんので、実のところは「なんも考えてない」なんでしょうけれど。

「まだ健全」の補記

先述の諸説あり!のコンテンツを「まだ健全」と形容したのは、どうやら放送後の抗議によって、こうなったらしいためです。

資料館|白虎隊の会 の「諸説あり 自刃6人説顛末記」に経緯がありました。

最終的に健全な範疇に落ち着いているとはいえ、「声の大きさ」でことが進むのはよくないですね。そこに書かれたとおりの顛末だったならば、はじめから健全な形で諸説を提示しておけば良かったものを、という話になります。

まとめ:「※諸説あります」を逃がさない

テレビの「※諸説あります」に対し、清水克行さんは週刊誌の連載コラムで次のように述べられていました。

僕は、あのテロップは「たぶん間違った情報だけど、なんか面白いから紹介しました」という作り手の無責任なメッセージと理解している。

出典:室町ワンダーランド 第44回「伊達政宗とずんだ餅」(週刊文春 2023年3月16日号 p.73)

うーん。「かしこ」の憤懣を昇華させるやり方としてなら、そんな理解もありなんでしょうけれど。

諸説あるって主張なんだから、

  • 複数の説
  • それを採用した根拠

の少なくともどちらかを問いただして、「※諸説あります」の責任を取ってもらえばいいんじゃないですかね。それが学問の手続きでもあるはずです。

他方で、斜め下ないし別次元のサンプルから、「※諸説あります」は学識もしくは日本語の運用能力に難のある層にとって、ある種の呪力を持つ「安全・安心フレーズ」である可能性も浮上してきました。そのさまは、他力念仏により極楽往生を願った門徒の姿にも重なります。

であるならば、「※諸説あります」に救済を求める縁なき衆生を、慈悲の心で見守ってあげたいとも思います。

そんなところです。

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