三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」(以下、「今年の新語」)を12倍楽しんでいきたい。そんな2022年の後出しじゃんけん企画は「今年の新語2022を選び直す」です。
♪~
ヘンにね合わせ過ぎても たぶん辛いだけさ
Timing~タイミング~(1998)
ブラックビスケッツ
¥255
記事にまとめてるあいだ、ずっと頭の中でこのBGMが鳴ってました。世代じゃないのに。
これまでのあらすじ
にて実施したポストモーテムによって、「今年の新語2022」に次の問題があることがわかりました。
- 「昔の新語」問題
- 「それもう三省堂の辞書に載ってるやん」問題
- 「得票数ないがしろ」問題
これらの問題を解消ないし軽減させる対策として、「今年の新語」の選考プロセスを設計し直しました。この記事は、そのテスト記録です。
設計し直した選考プロセス自体については、後ほど順次説明します。
この記事で言いたいこと
- 「選び方」はデザインできます
- いい感じにデザインされた「選び方」は、かなり有能です
今年の新語「シン・選考委員」のベスト10はこう生まれた
テストにあたって、「今年の新語」に高い見識を持つ次の方々に協力をお願いしました。※順不同・敬称略
- ながさわ(@kaichosanEX)
- 西練馬(@nishinerima)
- アンゼ(@anze4fgo)
ご協力いただけたことにあらためて謝意を表します。
日本語警察の私を加えての4名を、デザインパターンを生んだGoF(ギャング・オブ・フォー)になぞらえるのは僭称がすぎますでしょうか。僭称以前にたとえの通じる層が狭すぎて難がある説。
以後、辞書を編む人と区別するために「シン・選考委員」と自称します。
あらためて触れておきます。今回シン・選考委員がテストした対象は、下記の「今年の新語2022」ベスト10です。
「今年の新語をテストする」とか『暮しの手帖』の花森安治きどりかよ、といったニッチすぎるツッコミがございましたら、甘んじてお受けします。むしろ受けてみたい。
ジャッジペーパー
いつの間にか選考委員になってた
— ながさわ (@kaichosanEX) December 26, 2022
私が回答フォームを通じて「シン・選考委員」にお願いしたことはごくシンプルです。
- 「選考委員の30語」からベスト10を選び直してください
要約すればこれだけ。
はたしてシン・選考委員のジャッジペーパーをまとめると、次のとおりでした。
30語のうち、延べ17語に票が入りました。
このデータをもとにします。別の言い方をすると、ここに今年の新語「シン・選考委員」のあらゆる意思が詰まっています。
選考プロセスの概要
話が前後しました。次のルールに基づいてベスト10を選び直すことにしました。
- 今年の新語「選考委員の30語」を候補とする
- ボルダルールを適用する
使用したデータセットは、「今年の新語」選考委員の30語です。「今年の新語2022」 選考結果の末尾に載っています。
4者「それぞれの選考委員が選出した10語」が延べで30語ありますので、「選考委員の30語」と称しています。
順位付けには、ボルダルールを適用することにしました。ボルダルールとは、
投票者がすべての候補者に対して、よいと思う順に高い点数をつけ、総得点が高い候補者を当選とする。
出典:コトバンク>デジタル大辞泉「ボルダルール」の解説より
というルールをいいます。私は坂井豊貴さんの本から知りました。
ネットだと次の記事が詳しかったです。
多数決の代替案として最適な「ボルダルール」 | 「決め方」の経済学(坂井豊貴)|ダイヤモンド・オンライン(2016/07/27付)
ちなみに三省堂の大辞林4.0には「ボルダルール」載ってなかった。ボルダルール、万能ではなくともかなり有能なのに。ぴえん。
結果発表
以上のルールに基づき、三省堂の辞書を引く「シン・選考委員」が選び直した「今年の新語2022」ベスト10がこちらです。
どうでしょうか?
私の評価は「かなりいい感じ」です。
満足度で、辞書を編む人の「今年の新語2022」を上回ったのはむろんのこと(私もシン・選考委員なのである意味当然です)、さらに私の投票したベスト10よりも全然納得できる結果となったことに、まず私自身が驚きました。
三人寄れば文殊の知恵、四人寄ればゲスの極み乙女(嫁調べ)とは、よく言ったものです。
元のベスト10を基準に概観しておきましょう。
ちょうど半分の5語がランクアップし、5語がランクダウンしています。10語の後ろに付けた矢印「↑」「↓」はそれを表しています。そしてランクダウンしたうち「メタバース」と「ガクチカ」の2つが圏外に消え、代わりに「NFT」と「マイクロアグレッション」が入りました。
根拠となる集計シートを抜粋しておきます。
納得しすぎて逆に引くという、珍しい経験でした。なんなん?
表内のあれこれが目に入って気になった方のために一応。
- 「→マ」「→G」「→知」とあるのは、選外にした語と代わりにランクインさせた語を紐づけるための作業メモです
- スコアが同点となったものにどう順位を付けたかは、個々の講評で触れます
「合議」実質ゼロ
選出にあたり、シン・選考委員間での合議は実質ゼロ(※)でした。「今年の新語2022」選評やそれにまつわるネットの声など、各ワードに関する情報は十分に出そろっていたためです。
やったことはこの2つです。
- 「シン・選考委員」各自で「選考委員の30語」からベスト10を選ぶ
- 全員の投票結果を、ルールに基づいて順位付けする
※ただし当プロジェクトの着手前に、一部の方とは「ぶっちゃけ、(大辞林に掲載済みなのに)メタバースが入っているのってどう思います?」というやりとりを1往復半しました。厳正を期すために明かしておきます。
シン・選考委員の「シン・今年の新語2022」講評
選考プロセスを中心に講評します。
くり返しますと、選出にはボルダルールを適用しました。
具体的には、4名の「シン・選考委員」が選んだ10語それぞれに対して1位10点、2位9点、……、10位1点とスコアを付けてゆき、合計スコアの高い順にそのまま順位としています。
先ほど画像で発表したベスト10とそれぞれの合計スコアを、テキストでも書いておきます。
- ○○構文 38
- きまず 32
- タイパ 27
- 一生 27
- NFT 19
- リスキリング 18
- ○○くない 18
- 闇落ち 10
- 酷暑日 8
- マイクロアグレッション 6
以下、個別の寸評です。あわせてシン・選考委員別のスコア内訳も示しておきます。
往年の「ザ・ベストテン」のスタイルを取り入れ、三省堂「今年の新語2022」の順位を「先週」と呼ぶことにします。
付記:同スコアの順位付けルール
スコアが同じものについて、次のような評価ルールを設けて順位を付けることにしました。
(1)スキージャンプの飛型点の出し方をまねます。※下線は引用者
5人の審判が各ジャンプ毎に得点をつけ、最高点と最低点をカットした3審判分の得点合計が採用される。
出典:ジャンプとは(ルール解説)|jsports.co.jp
学術的にこの方式をどう呼ぶか知らないので、以後、そのまま「飛型点」と書きます。
(2)その合計も同じ場合、「最高点と最低点の差が小さいもの」が上です。
(3)それも同じだったら……まだ考えてません。
ベースとする設計思想は「同スコアなら、評価のばらつきが少ないものが上位」です。
大賞 ○○構文 38(な10,西9,ア10,ヤ9)
「○○構文」が大賞=ベストテン第1位に輝きました。
シン・選考委員の全員が1位または2位に選んでおり、設計仕様上のフルスコア40に迫っています。ここまでの高スコアは西城秀樹の《ヤングマン》以来ではないでしょうか。
○○構文、シン・選考委員の好きな言葉です。
2位 きまず 32(な9,西10,ア6,ヤ7)
先週から1ランクUPです。
集計したらこの順位になりました。それ以上でもそれ以下でもないです。
きまず
3位 タイパ 27(な7,西5,ア9,ヤ6)
先週の第1位(大賞)から2ランクDOWNです。
大賞には事務所のプッシュがあったのでは?とか、ゲスな想像をふくらませて遊べます。
4位 一生 27(な5,西4,ア8,ヤ10)
先週から3ランクUPしました。3位の「タイパ」と同スコアでしたが、わずかの差で4位です。
あるいはこれが妥当な順位で、先週の順位が不当に低かったとの見方も成り立ちます。
3位「タイパ」と4位「一生」がスコア27で並びました。
先述の評価ルールに従って「(1)最高点と最低点をカットした得点合計=飛型点」と「(2)(除外後の)最高点と最低点の差」を求めます。
- タイパ (1)7+6=13、(2)|7-6|=1
- 一生 (1)5+8=13、(2)|5-8|=3
(1)の飛型点も同点となっていますが、(2)の差が小さいことでタイパがわずかに上回りました。
5位 NFT 19(な8,西8,ア-,ヤ3)
ベストテン圏外から一躍ランクインしました。「メタバース」と入れ替わる格好となっています。
裏事情となりますが、「メタバース」のランク入りはおかしいやろが持論の私が、入れ替え候補の回答例として示した影響もあるやもしれません。
6位 リスキリング 18(な2,西7,ア1,ヤ8)
10位から4ランクUPしました。
先週の順位に「3票入っててなんで10位?」と首を傾げた私も納得のゆく結果です。
7位 ○○くない 18(な-,西6,ア7,ヤ5)
先週から2ランクDOWNです。
「リスキリング」と「○○くない」も、スコア18で並びました。
同スコア時の評価ルール(1)=飛型点で「リスキリング」が上回り、6位です。
- リスキリング (1)2+7=9
- ○○くない (1)6
8位 闇落ち 10(な3,西-,ア3,ヤ4)
先週から1ランクUPしました。
選ばなかったシン・選考委員からのコメントです。
闇落ちの順位が浮上したのだけはとても驚きです。ご高評を楽しみにしています
— 西練馬 (@nishinerima) December 26, 2022
「集計したらこうなりました」としか言いようがありません。
デザインした選考プロセスが持つロバストネス(堅牢性)による結果と受け止めています。
9位 酷暑日 8(な4,西2,ア-,ヤ2)
8位から1ランクDOWNです。
10位 マイクロアグレッション 6(な6,西-,ア-,ヤ-)
「得票数1票だった語8つのうち、もっとも順位スコアが高かったもの」が圏外から10位に入りました。
11位~15位の計7語
そのほかに1票が入った語とそれぞれのスコアは、次のとおりです。
- 11位 メタバース 5
- 12位 知らんけど 4
- 13位 コンカフェ 3
- 14位 フェムテック 2
- 15位 ガクチカ 1
- 15位 GX 1
- 15位 ロジハラ 1
なおこちらの同一スコアは差を付けず、同順位としました。これで全17語です。
先週のベスト10からランク外となったもの2つに触れておきましょう。
メタバース 5(な-,西-,ア5,ヤ-)
4位から7ランクDOWNし、ベスト10圏外の11位に消えました。
私自身は、大辞林4.0に掲載済みだったことを根拠に除外しました。
英単語metaverse の初出であるSF小説『SNOW CRASH』の刊行は1992年で、邦訳も1998年に出てますので、初出の時期を基準とすれば「昔の新語」とは言えます。しかしその事実は、私にとってマイナス要因とはなっていません。
シン・選考委員の私がメタバースを除外した理由をくり返しますと、三省堂「今年の新語」選考委員の携わる辞書のひとつに掲載済みだったからです。
ガクチカ 1(な-,西-,ア-,ヤ1)
スコア1で15位タイでした。
私は「昔の新語」でも「三省堂の辞書に未掲載」ならベスト10入りしててもいいかな、と10位(スコア1)にしました。加えて「今年の新語2022」ベスト10発表で初めて知った個人的事情もありました。
しかしシン・選考委員の総意は「それはない」でした。
突き詰めれば、「新しい」とは主観的な現象です。ですから客観的に、第三者が検証可能な「新語」の指標となると、私には「現在、三省堂の辞書に掲載されているかどうか?」しか思いつかないです。ほかに何かありますかね?
参考文献
博多大吉さんが「M-1グランプリ2022」の審査結果をふり返った、TBSラジオ「たまむすび」の特別配信を聴いて、今回大いに触発されました。
まったくのジャンル違いの話ですが、軽く紹介しておきます。
博多大吉、例の〝首かしげ〟の真相を語る。|TBSラジオ(2022/12/21付)
配信リンクは↑こちら↑のページにあります。(2023年1月31日まで)
個別の講評に入るまでの部分を書き起こしたページもありました。
博多大吉『M-1 2022』審査員としての採点基準を語る|miyearn ZZ Labo(2022/12/21付)
博多大吉さんは「ネタの構成力」「共感度」「所作」などの全7項目、合計18点満点で採点したといいます。表示上の点数は80~98点となる由。
聴いて何より私が感銘を受けたのは、職業人としてaccountableであろうとする、その姿勢です。審査基準に「ネタ順」や「客席のウケ」が入っていないのもいいです。運不運に左右される要素は極力除くというコンセプトが感じ取れるからです。
告知:「今年の新語2023」展望
1年前の
に続いて、「今年の新語」にからんだ後出し記事をお届けしました。
けれど、いつまでも後出しが続くと思ってたら大間違いですよ。
水面下でシン・選考委員による「シン・今年の新語2023」の準備を進めています。
#今年の新語2023 を検討します
— 今年の新語2023 展望 (@Lompame) December 26, 2022
こちらのヤシロの企画アカウント(@Lompame)で、2023年1月より本格始動させます。
目指すのは、「今年の新語」界のブラビ的存在です。どうぞごひいきに。
♪~ ズ~レた間~のワルさもぉ~ そーれも君の”タイミング”
突如《タイミング》ブームが来てYouTubeを探していたら、めちゃめちゃアガる歌い手さんの「歌ってみた」を見つけてしまいました。
#ポケビがブラビを歌ってみた #因縁の曲タイミングを歌ってみた #ブラックビスケッツ #ブラビ #タイミング #ポケビ100万人登録者運動 【100万人でポケビ復活】やってます|千秋の歌YouTube
世代じゃないのに世代!
と、わが今年の新語「ジラ2022」大賞にしたイチ推しの新語をぶっこんだところで、お開きといたします。
ご静聴ありがとうございました。
コメント