2020年から、三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」の「それぞれの選考委員が選出した10語」が公式サイト上で公開されるようになりました。
今年2022年も「今年の新語2022」 選考結果のページ末尾に載っています。
新語選びの質の維持向上に有益ですのでぜひ今後も続けてください。
はじめに:「ポストモーテム」推しの私
そんなわけで、忖度(今年の新語2017大賞)なき批評(笑)としてもおなじみ(ではない)の、選出語ぜんぶを俎上に載せるポストモーテムも、
に続いてはや3度目となりました。
ただし日本語で「ポストモーテム」と書くのは今回が初めてです。今年(2022年)、それをタイトルにした和書が出たことがあと押しとなりました。
ポストモーテム(Postmortem)――。米国のIT企業は、システム障害が発生した後に社内外の関係者と共有する事後検証報告書をそう呼ぶ。
出典:『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』はじめに
チェスの感想戦も英語ではポストモーテムと呼ぶ。IT業界のポストモーテムもその用法に近い。プロジェクトマネジメントの教科書的存在である「PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)」も、ソフトウエア開発プロジェクトなどが終わった際に行う反省会をポストモーテムと呼んでいる。
今の職場での呼び名は「ふりかえり」ですし、引用テキストにもあるとおり、一般向けには「反省会」で十分通じるでしょう。
それでも次のニュアンスがほしいので、私は「ポストモーテム」を推します。
ポストモーテムは学びの宝庫だ。
IT業界におけるポストモーテムは、失敗を非難するためにあるのではなく、失敗から得た経験を教訓とするためにある。
私の「今年の新語ウォッチリスト」に入ったポストモーテム。いつか「今年の新語」入りする年が、めぐってきますでしょうか。
「今年の新語2022」ノミネートデータ
基本的なところの再確認です。「今年の新語2022」の選考委員は、例年どおり次の4者でした。 ※敬称略。以下同じ
- 小野正弘(『三省堂現代新国語辞典』)
- 飯間浩明(『三省堂国語辞典』)
- 『新明解国語辞典』編集部
- 『大辞林』編集部
「今年の新語2018」から『大辞林』編集部が加わって以来の顔ぶれです。
この4者が10語ずつを選出します。もしも「一切かぶりなし」で各者ばらばらの語を選んだなら、トータルは4×10=40語となります。
実際の得票結果は
- 3票:2語
- 2票:6語
- 1票:22語
でした。合計で30語です。
実は今年、この30語のほかに、選考委員の誰も選出しなかった語が1つ存在しました。記事タイトルの「+1」はそれを表します。
これら30+1=31語を次に示す3つのグループに分けレビューしていきます。
- 第一群(10語):大賞〜第10位の入賞語
- 第二群(2語):「選外」の2語
- 第三群(19語):どちらの選からも外れたもの。当記事では電波状況ぽく「圏外」とします
票数別のグループ分布は次のとおりでした。
- 3票{2,0,0}
- 2票{4,1,1}
- 1票{4,0,18}
- 0票{0,1,0}
以上を順に読み解いてゆきます。
総評
「今年の新語2022」の選考結果と選評が何を伝えていたかを、小学校の卒業式によくある「呼びかけ」の文体で簡潔にまとめます。
- 苦しかった \ベスト10選び/
- ほころび始めた \選考プロセス/
苦しかった \ベスト10選び/
苦心の選考結果(選評より)は、ノミネートデータにも現れていました。
ノミネート語単位の得票数とランキング順位の相関係数は、なんと驚きの「-0.36」! 過去2年と比べ絶対値が大きく下がっています(2021年=-0.69、2020年=-0.62)。この事実は、得票数と順位の2つがますます無関係になっていることを意味します。
ほころび始めた \選考プロセス/
なんでそんなことになってるんだろうか?
「今年の新語」を1つのプロダクトと見なすと、それを生み出すプロセスのどこかに問題が潜んでいるのではないか?
それが私の問題意識となりました。具体的には個々のところで述べます。
加えて、「新語」の基準がぶれ始めてないか?との疑念も起こりました。
- その言葉の何が「新しい」のか、
- そもそも、ある言葉が「新しい」とはどういうことなのか
これを今一度問い直さなければならない気が強くしてきました。いずれまとめたいです。
※写真と本文は関係ありません
余談ですが、卒業式での「呼びかけ」の始まりは1955年、群馬県の島小学校と特定する研究があります。(有本真紀『卒業式の歴史学』(2013))
パート1:入賞の10語
今年は10語のラインナップが、わが今年の新語「ジラ2022」と一切かぶっておらず、ことごとく違っていました。
例年だと同じ語がいくつかあるんですけどね。すがすがしいほどの不一致。
それでも「なぜ、自分はそれを選ばなかったのか?」を問い直しての結論は「おおむね納得の10語」です。順位は納得いかないけど。
一語ずつにどの選考委員が選出したかのデータも付けます。敬称略です。
ポストモーテムのあいだに思考のノイズとして去来したのは、なぜか古今の芸人たちが生んだ名フレーズの数々でした。レビューコメントに多言を費やしても誰も幸せにならない予感大なので、言いたいことはインスパイアされた小ネタに込めておきます。
大賞 タイパ(飯間、大辞林)
新語は新語でいいんですが、大賞ってほどかなと思いました。10語の中で私が順位つけるなら、5位ぐらい。
大賞にした理由は想像がつきます。世相に寄せ(今年の新語2018第8位)やすいからです。そうやって語れば映える(今年の新語2018大賞)もんね。
でも私には意味づけが過剰に思えて、選評を読んで軽く引いてしまいました。
「映画を早送りで観る」行為は、探求に値すると私も思います。けれども「タイパ」の登場時期も成立と伝播の過程も十分に追い切れていない段階でそこらとリンクさせて語るやり口は、安直です。
松鶴家千とせ風
オレがむかしタイパだったころ 姉さんはコスパだった
弟がボイパで 父さんが天パ 母さんがタコパだった
わかるかナ? わかんねェだろうナ
意味づけなんて、これぐらいで十分なんですよ。
それがお前らのやり方かー!(おかずクラブ風)
発表イベントのレポート記事からです。頭の中を、はてな?の絵文字が飛びかいました。
小野氏いわく、「タイパ」という言葉は「タイ」から「タイム」を連想することはもちろん、「パ」から「パフォーマンス」を連想することはそれほど簡単ではないと説明。そして、これら「音や文字からの連想しづらさ」を言語学では「不透明性」と言うと明かしつつ、「タイパ」は不透明性が高い単語であると指摘した。
出典:「タイパ」使う人なぜ増えた? 元の言葉は連想しづらいが…「今年の新語」選考委員が解説した背景|J-CASTニュース(2022/12/02付)
話がずれてます。
連想しづらいのは当たり前です。「タイパ」単体で見てるからです。用例単位で見る場合も、見てる用例が間接的なパターンだからです。「今どきはタイパなんて言うらしいよ」、みたいな。「メタ用例」とでも呼びましょうか。ほぼほぼ(今年の新語2016大賞)ノーヒントなんですから。
そうではなくて、タイパをタイパのまんまタイパとして使うダイレクトなパターンだったら、前後の文脈からわかる確率が上がります。
実例を示しましょう。私が初めてタイパを知ったのは、こちらの「直接用例」でした。
「動画に比べて漫画はタイパが悪い」っていう若者の感覚マジで全然分かんねえなってなってしまう。(@kyouji0716)
費用対効果がコスパだからタイパは時間効率のことかな?って、すぐ連想できましたけどね。すぐに想像がついたのは、私の頭がいいからですか?
出典マニアなので付け加えます。見出しにしたおかずクラブ風の文句は「それがお前のやり方か」(長州力, 1999)が元ネタです。
第2位 ○○構文(大辞林(構文))
1票ですけど、2位でいいと思います。
ぶっちゃけ、「○○構文」を3位にしていた
ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2022|四次元ことばブログ(2022/11/28付)
を先に読んで納得してしまったので。ながさわさんの選評からその新語性の高さを教えられ、これを選んでおかなければいけなかったなと改心ずみだったのでした。
ですよ。風
ヤシロこの前、「○○構文」をスルーしたんですYO!
そしたら SO!
チョココロネだったんだYO!
あ~い とぅいま てぇ~ん!
第3位 きまず(飯間)
私がこれまで遭遇した「きまず」は「Z世代の間で“きまず”が流行っている」のような、間接的な「メタ用例」ばかりです。類語の「きまZ」を含めて直接的なきまず用例の見聞経験がありません。なので圏外でした。
自己基準だとこの順位にモヤる(今年の新語2018第2位)のは否めませんが、異議をはさむ根拠としては弱いですね。
選評には
本当に気まずければ沈黙するところですが、あえてことばに出すところが新しい。
とありました。
ふんわりした感覚で話をすると、日本語は、自分がなぜ声を出しているかを説明する傾向が強い言語に感じます。他の言語でのサンプルが集めづらくて満足に比較できてないんですが。
たとえば炊事中に手先を誤って何かに触れたとき、思わず声が出ます。そのとき、とっさの状況にもかかわらず、触れた何かの温度によって「熱っ」「冷たっ」を使い分けます。たまに間違えもしますが。
「きまず」が発声されるときは、「沈黙する」の慣習よりも「なぜ声を出しているかを説明する」運用ルールが上回ってるのかなと愚考します。
ほかに思い返すと、結婚したばかりのころ、夜中3時ごろに突然それまで経験したことのない強烈な腹痛に襲われ、嫁に救急車を呼んでもらったことがありました。
救急車が来るまでずっと、「いたたたた……」「あいたたたたた……」とくり返していました。別の言い方をすると、自分がなぜ声を出しているかをずっと説明してました。
いまの職場の隣の席の方はミャンマー語がわかるので、雑談がてらそういうときミャンマー語ではどう言うのか聞いてみました。「人によりますけど、弱い痛みなら「痛い」と言うかもしれません。でも痛みが強ければあーとかうーとか唸ります。言葉を出すという感じじゃないです」とのことでした。n=1ですが。
バカリズム風
きまずーノ
トツギーノ
義実家行きーの
きまずーノ
ユーチューバーに、なりたい?(博多華丸・大吉風)
レビューの途中ですがちょっと、ご相談が
なんでしょうか?
ユーチューバーに、なりたい
「今年の新語2022」からの新たな取り組みとして、YouTubeの三省堂公式チャンネルからPR動画が全部で5本、募集・選考期間を通じて断続的に公開されました。山本康一さんの「薬味」がいい味出てるんですけど、再生回数的には低調です。
5本全部視聴した私など、さしずめ「和牛一頭からこれだけ」みたいな「今年の新語」愛好者層の希少部位?
みんな、見てもろて!(今年の新語2021圏外、ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2022大賞)とただ煽るのも無責任に思えて。
アイヒマンスタンダード風
すーみません、ちょっと電話が
ヨボセヨ デイ、デイ、YouTubeスムニダ ……どんずべりセヨ
試行錯誤しながら制作を続けるもヨシ、評価指標と目標設定を見直すもヨシ、いっそやめてしまってもっと費用対効果が高そうな施策に注力するもヨシでございます。
本題というか、次の「フリ」はこちらです。
山本さんは、【三省堂】「今年の新語2022」エモすぎる!?投稿いただいた新語を紹介!で「カヌレ」を例にこう話されていました。
実は既に『三省堂国語辞典』と『大辞林』に項目があります
すでに見出しのある言葉もですね、選ばれませんので
以下、これをふまえて。
第4位 メタバース(小野、飯間、大辞林)
3票集めて4位ですか。「今年の新語2022」選考プロセスのほころびの証左の気がします。
なんの自慢にもなりません(という自慢です)が、「メタバース」は既に、わがジラ2021の第6位に選出ずみです。
「メタバース」の語を生んだ1992年のSF小説『スノウ・クラッシュ』。その邦訳が、2022年1月に再刊されるとの情報をキャッチしたなどあって。
サンドウィッチマン風
世の中いろいろ興奮することありますけど、いちばん興奮するのは「今年の新語」の忖度なき批評(笑)だね
間違いないね
もう1つのほころび。「メタバース」の選評からです。
デジタル版『大辞林』もすでに項目を立てています。
え?
すでに見出しのある言葉って、選ばれないんじゃないの?
デジタル版『大辞林』は、大辞林じゃないの?
2019年のインタビュー記事からです。
書籍には入りきらなかったものでも電子版のみに収録した項目もあります。第4版の改訂では、電子版を含めた全体のデータを「大辞林のフルセット」と捉えました。
出典:「令和」を記録し進化する ―大辞林編集長に聞いた|毎日ことば(最終更新:2020/11/10付)
山本さん、ちょっと何言ってるかわかんない。
そんな「今年の新語2022」 選考結果の「メタバース」です。
ATOKから引いた大辞林4.0の「メタバース」です。
そのまんまじゃねーか
どげんとせんといかん(そのまんま違い)
第5位 ○○くない(飯間)
ノーマークでした。
まいりました。いろんな語形に続くようになった、文句なしの新語です。
あ~い とぅいま てぇ~ん!(ですよ。風)
第6位 ガクチカ(小野、大辞林)
新卒採用する企業のFAQ「学生時代に力を入れたこと」をこう略すとは知りませんでした。知らない言葉は選びようがありません。
けれども選評によれば、既にして「昔の新語」のようです。「苦心の選考結果」のひとつでしょうか。ただ「成長株のことば」の評価は少々、過大なものに響きます。なぜならガクチカの使用場面って限られてるから。
「就活生まれの新語」のくくりで言うなら、小粒ながらも着実に育ってきている別の新語が私のウォッチリストに1つだけあります。もう少し泳がせたく、今年の新語「ジラ2022」入りは見送りました。引きつづき動向を見きわめます。
余談。フレーズを略した新しめの言葉といえば、ハンガリー由来の「逃げ恥」がありますね。固有名詞から離れ、日本語世界でも慣用句的な用法へ育って「鴨葱」や「泥縄」の仲間入りしそうかウォッチしてます。今のところその兆しはなさげです。
ZAZY風
あなたの「ガクチカ」を教えてください
私が学生時代に力を入れたことは
やはり何といっても
学生生活です
なんそれ!
いぃや、進次郞構文!(東京ホテイソン風)
突然の三連コラボ(霜降り明星風)
山岡士郎風
来年また来てください。おれが本物の「今年の新語」を教えてあげますよ。
謎の煽り(霜降り明星風)
第7位 一生(飯間)
検討し直した結果、大賞です。
はじめは、強調表現に充当された語のひとつと見くびっていました。「永遠」や「無限」の同類ですね。
個人的にはどれも好きじゃないです。終わりがあるものを「永遠」、限りがあるものを「無限」と称するのは不誠実に思えて。「一生」も同じく。
同様の文脈で使うなら、京都・大阪方言の「せんど」が好きです。誇張はあっても有限だから。
しかし選評にこうあって、考えを改めました。※下線は引用者
言い訳ばかりする人に「一生言ってなさい!」と捨てぜりふを言うことは昔からありました。この「一生」は「この先もずっと」という意味です。一方、新しい用法の「一生」は、現在のことや過去のことにも使います。
確かに。時制を超えてきてますね。これは革命的です。
「一生どうでしょうします」と宣言した人たちを例に考えてみましょう。
はたして彼らは一生どうでしょうしたのか? これまでですと、それは彼らの一生が確定することで、初めて検証可能でした。無法松も嫌われ松子も、その一生が語られたのは区間が確定してからでした。まさにラテン語の原義どおりの「ポストモーテム」です。
それがなんと、一生の区間が確定する前に「一生どうでしょうしてますか?」と「進捗確認」できるようになったんですよ。
すごくない?
補論:一生今年の新語します(大泉洋風)
似た経過をたどった言葉として「先(サキ)」があります。「この先もずっと」の「先」です。
勝俣鎮夫さんによると、日本語の「サキ」に未来の意味が加わったのは、16世紀以降のことだそうです(「バック トゥ ザ フューチュアー」(2007)『中世社会の基層をさぐる』所収)。
そこに依拠すれば、たとえば「お先真っ暗」は16世紀以降のどこかで生まれた新しい表現だと言えます。
一方「先の副将軍」といえば、「将来副将軍になる人」ではなくて「副将軍だった人」のことですね。15世紀以前からあるほうの「先」です。
『三省堂国語辞典』を見ると、「後にも先にも」を
〔後=以前。先=以後〕
としていました。これは、近代人のとらえ方ですね。「時代(いま)を写す辞書」なら、むべなるかな。
中世史LOVEな私なので、はたして本当にそうかな? と問いただしておきます。
第8位 酷暑日(新明国、大辞林)
選評で述べられていた背景までは知りませんでした。世間での使われ方のほうが、変わってしまったんですね。既存の語釈が陳腐化していて「要アップデート」の意味での選出として、理解できます。
【#今年の新語2022】
なんと「#酷暑日」が、8位にランクイン…
あ、ありがとうございます…!!
社内で検討した甲斐が…(Twitter担当より)https://t.co/xUqvymach0 https://t.co/uv9vhBTve8— tenki.jp (@tenkijp) December 2, 2022
との声も。
(藤井隆風)
ワン、ツー、スリー、フォー
酷暑日入ってよかった うれしはずかしOh my heart
酷暑日入ってうれしい僕の 体の一部がHOT! HOT! HOT! HOT!(くり返し)
ランクイン!
第9位 闇落ち(小野、飯間)
2票得た割に順位低くないですかね。私だったらあと2つか3つ上げます。
というのも、「闇落ち、前からあったけど」といった声を
新潟市の農園が2021年5月に商標出願した「闇落ちとまと」(登録は12月 6481777)も、話題となりました。応用分野の広がりもあり、第6位です。
のように封じるストーリーが作れるので。
闇落ちとまとについて|曽我農園(2022/02/14付)
ナイツ風
インターネットのヤホーで調べたら、闇落ちしてしまった芸能人をひとり見つけたんです
松本伊代さんって知ってますか
いや、落ちたけども 「ソクオチ」だよ
ねづっち風
ととのいました
松本伊代さんとかけまして 落とし穴の安全対策と解きます
そのこころは
スペシャルな、B21の“広み”が受け止めます
ねづっちです(ではない)
第10位 リスキリング(小野、新明国、大辞林)
わが「ジラ2022」では圏外でした。どちらかと言えば嫌いな部類に入るので。当事者不在の、もっぱら部外者のための言葉に感じられてならないのです。
言い切ってしまうと、「リスキリング」とはそれをしない、していない人のための言葉です。必要な人は用語の有無に関係なくやってきたし、やっているはずですから。
著名人に例を求めると、増田明美さんが時に「ビッグデータ」と称されるほどの取材力を獲得した過程も「リスキリング」にあたるのでしょうが、そう呼ぶのは端的にダサいです。
そんな私情は捨ておいて、選ばないといけなかった一語でした。
にしても、3票集めてなんで10位なんですかね。もっと上位に置かなきゃいけなくない?
投じた票の重みを自らないがしろにしているように思えて、不愉快です。
ケイスケホンダ風
切り替えましょう
ボクらが勝手に期待して勝手にがっかりしてるだけなんで
パート2:「選外」の2語
都合により順番を入れ替えてレビューします。
Y2K(小野、新明国)
私にはむしろ「昔懐かしい」部類に入る言葉です。かつて「西暦2000年問題」ってのがありまして、その頃「Y2K」の表記もよく目にしたものです。
どんな問題かの説明は省きますが、「起こるわけねーだろ」と思いつつも世の風潮には抗えず、敷かれたオンコール体制に組み込まれたり組み込まれなかったり。
コア部分は不変でいながら、置かれた時と所が移り変わったことで新しさを得た、ってことでいいんでしょうか。
ちょうど「チコちゃんに叱られる!」(レギュラー放送 2018~)が、オープニング曲にカリキュラマシーン(1974~1978)のテーマを採用していることが、類似の例となりそうです。
チコちゃんに叱られる! オープニングテーマ カリキュラマシーンのテーマ ORIGINAL COVER INST.Ver.
NIYARI計画
¥204
コンテキストを追えていると、なるほど制作陣は「現代のカリキュラマシーン」をやりたいんだなと、目指すところが即座に伝わるのは便利ではあります。
サンシャイン池崎風
平成を愛し、平成に愛された男~
財布はいま、楽屋に置いてあります
暗証番号は2000 「Y2K」って覚えてください
ジャスティス!
平成レトロ
謎です。
くり返します。謎です。マジ謎。
いえ、令和に入って台頭した言葉に違いないでしょうから、新語性に問題はありません。
謎なのはそこではなく、選考委員の誰ひとり選出していないのに選ばれているからです。しかも選外に。
選評にもそのへん、なーんにも書いてないし。
ということで「選考委員の30語」に合算できず、30+1語です。
試しに #今年の新語2022 と一緒にTwitter検索してみると、ふた方お見えでした。
#今年の新語2022
推し活
平成レトロよく聞いた気がする〜 https://t.co/Q2YzfgK6zi
— ゆったん (@yu_tttan) October 28, 2022
平成レトロ #今年の新語2022
— ソレイユライター (@soreiyuraita) October 31, 2022
庄司智春風
世の中にはいろんなパピプペポがある
アブローラーマン 誰が選んだんだ
アブローラーマン 不透明だぞ
アブローラーマン 無責任じゃないか
アブローラーマン ヤフコメは気にするな
アブローラーマン 一般投稿へのリスペクトを欠いていないか
アブローラーマン 事務局仕事しろ
アブローラーマン そっからは悪口だ
歌 アブローラーマン フルバージョン|庄司智春チャンネル(2022/02/15付)
パート3:圏外の19語
最後に、圏外となった19語です。
このパート、品質低下がやばいレベルですね。ガチやばい。
インボイス(新明国、大辞林)
2票でしたが圏外でした。
私にとって新語感はゼロです。昔、ごく短期間ですが通関業務に関わったことがあって、インボイスなる書類の存在はそこで知りました。
ちゅうか大辞林4.0に「インボイス」と子項目「インボイス方式」が、もう載ってました。なんで当の『大辞林』編集部がその「インボイス」選出してんすか。
なんそれ!(ZAZY風)
ちょっと何言ってるかわかんない(サンドウィッチマン風)
時事語の「インボイス制度」のつもりなら、そうノミネートしないと。
インボイス制度並みにダメじゃん。詳らかに把握してないままの断言。
以下、選考委員別に並べます。
小野正弘(5語)
団体競技で負けるなどの悪い結果をまねいた人(『三国8』)です。
それのどこをどう「新語」と評価しての選出なのか、聞いてみたい。
塩味
『三国7』からあります。論外です。それより前は知らん。
手元の電子辞書に入った広辞苑第五版で「えんみ」引いても出てきました。問題外です。
クィア
「クイア」で大辞林4.0にあります。ィのサイズの問題?
知らんけど
関西ではおなじみだった文末表現が、近年急速に全国的な知名度と使用者層を獲得した感があります。したがって流行語であるのは確かですが、「新語」と評価するのは不平等です。
線状降水帯
『三国8』にあります。論外です。
はにゃ?
はにゃ?といったら「おーい!はに丸」(1983~1989)ですよね。なので私には全然新語じゃないです。ただそこと無縁の新たな使用者層も獲得していて、使用頻度的にも復興トレンドにはあります。
昭和40年代から官庁での用例が認められる「人流」(今年の新語2021第5位)と同じく、「遅れてきた新語」としてのノミネートととらえておきます。
私も近年のトレンドに影響されたかして、テストしてるアプリが予想外の動作をしたときなど、はにゃ?と口に出てます。
おーい!はに丸 | NHK放送史(動画・記事)に、第1回のアーカイブがありました。見るとそこからはにゃはにゃ言ってました。
これに先行する用例は探せてませんので、ひとまずのルーツとしておきます。
クールポコ。風
師匠、お願いします
世の中には、どんな選考委員がいるんだ?
「今後の辞書に採録されてもおかしくないもの」に、もう辞書に載ってるものを選ぶ選考委員がいたんですよ~
なーにー! やっちまったな!
小野さん、まじめにやってください
これじゃあ小野不まじめだよ~
飯間浩明(4語)
新語性に文句はないですが、他の点でちょい気になる。
気になる
こちらの「気になる」でしょうか。
あくまで印象ですが、「気になる」という言い方が、「興味をそそられる・結果が心配になる・心にひっかかる」といった心が波立つ状態だけでなく、近年は、単に「疑問を感じる」という意味でも多く使われるようになってきたということではないでしょうか。これはメモ程度に記しておきます。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) October 19, 2022
微細な変化をとらえたグッドトライです。
コンカフェ
コンセプトカフェの略ですね。私も数年前に検討したことがあります。予想より古い用例があり、ときめいたほど新語じゃなくてリトラクトしました。
界隈では定着して久しく、「安定期」に入ってる感もあります。そこから何かしら「育った」事象を観測できないと、選出は厳しそうです。
シンプルに「なんでそれ?」を知りたいですね。もちろんblamelessです。
罪悪感
昨年の「ギルトフリー」から入れ替わってのノミネートです。
こういう罪悪感を念頭に置かれてるのでしょうか。
【おつまみにも♪罪悪感なしで食べられる「野菜×にんにく」のレシピ集】
ヘルシーなので罪悪感なく食べられる!ガーリック風味がたまらない「野菜」が主役のレシピをご紹介。おつまみにもぴったりです♪https://t.co/nw5On06ZoZ#にんにく #おつまみ #レシピ集 #みんなのきょうの料理— みんなのきょうの料理 (@m_kyounoryouri) November 18, 2022
ことに食品業界で「罪」や「罪悪」の持つ情報量が増えてきてる傾向はありそうです。
また、罪悪感の少ないヘルシーなイメージとからあげの美味しさや品質感をより感じていただけるよう、パッケージデザインも一新しました。
出典:「罪なきからあげ」(9月27日発売)|日清食品グループ(2021/09/27付)
といった用例を見るに、消費者の「罪」「罪悪感」をいかに乗り越えるかが大きな課題となっている様子。
私自身の倫理基準として、そこへ便乗してはしゃぐにはリアルガチの罪悪感を究めてからにしたいです。
ライバー
2年連続のノミネートです。それ自体はいいとして、「今年はここがキテた」ときっちりプレゼンできたのでしょうか。そこが気がかりです。
一度「不合格」と判定されたメニューで再挑戦するなら、改良を加えるのは実質マストです。何の工夫もないまんま、ジョブチューン(ではない)に出しちゃだめですよ。
まさかとは思いますが、手ぶらで推してるなんてこと、ないですよね?
ともかく「グランピングの悲劇」をくり返してほしくはありません(マジしつこい)。
『新明解国語辞典』編集部(6+1語)
昨年同様、合計7語が圏外でした。新語は新語でいいんですが、他の委員からの賛同を得にくくてうずもれがちなところをノミネートしている印象です。
あと、まったく難癖つける筋合いのところでもないんですが、ノミネート語のセンスが『新明国』から感じるキャラと離れてるんですよね。なんなんでしょうね。
偏見全開で決めつけると、集英社っぽいんですよなんか。新書レーベルや雑誌の特集企画のイメージと照らすと、小学館でも光文社でも講談社でもなく、ましてや文藝春秋や中央公論や岩波書店でもなく、集英社。
良くも悪くも「らしくない」センスを確認していきましょう。
NFT
わが今年の新語「ジラ2021」では第4位に選出ずみです。今さら感で、こちらでも選から漏れたんでしょうか。
ガチ○○
「ガチ中華」は見聞きしました。音としてもキャラとしても、先輩格の「町中華」といい対比になっています。ポケビの対抗軸としてブラビが登場した故事を彷彿とさせます。
ところで「ガチ○○」でのノミネートってことは、他にどんなガチ○○を想定してるんですかね。私は思い当たらないので。
ソバーキュリアス
知りませんでした。検索すると、まんまフィーチャーした書名が。
提唱者による著作の邦訳が、2021年に出ていたようです。どれ1つ知らなかった私ですが、偶然にも、5年近くやってきたことでした。
ここを拾うのはユニークな着眼点だと思います。けれども「飲まない生き方」という名の補助輪も付いた状態ですので、もう少し様子を見ましょう。
sober はnot drunk (= not affected by alcohol) (OALD)なんですね。そこは覚えました。
ノンバイナリー
自身は「宇多田ヒカルさんのアレ」程度の認知です。慎重に扱わなければならないデリケートゾーンなので静観です。
マイクロアグレッション
(前略)差別言動のうち、主に無意識、無自覚に行われるものを指す概念。
アメリカの精神科医であるC.M.ピアースが初めて用い、コロンビア大学のD.W.スー教授(臨床心理学部)が多様な差別問題との関連で定義づけを行った。出典:マイクロアグレッション(文公輝)|imidas.jp(2021/03/29付)
だそうです。「マイクロ」要素が抜け落ちてるので、語釈には改良の余地がありそう。
引用元では
日本でも被差別マイノリティが日常的に感じている生きづらさ、ストレスを表現する概念として注目が高まっている。
出典:同
としてあるものの、Googleトレンドで見る検索ボリュームは相当小粒です。使用者の母数が限られていて、一般層への浸透はまだまだ弱い段階と見ます。願わくは画期をなす出来事がほしいですね。引きつづきウォッチ対象とします。
ロジハラ
接尾語「ハラ」の造語力は周知の事実なので、その点で新鮮味に欠けるきらいはあります。
と、『どんなわたしも愛してる』集英社っぽいノミネート語たちでしたね、うん(確証バイアスまみれ)。
今年の新語を選考する『新明解国語辞典』編集部の「中の人」が携わっているのはあくまで『新明国』の編集であって、語釈本文を書く人たちはまた別にいるってことでしょうかね。さしあたり、キャラのずれを感じる「らしくなさ」の正体をそう解釈しておきます。
『大辞林』編集部(3+1語)
結果論ですが、面白みに欠けるワードたちが圏外でした。
推し活
推し活のどのあたりを「新語」と評価してるのでしょうか。
Twitterには2011年頃から用例があって大して新しくもないし。
ここ10何年で育ってきた概念の「推し」と、この10~20年で造語力を獲得してきた「活」が結びつくのはほとんど自然の理ですし。
GX
初めて知ったものの、この形のXはDXから学習してました。なのでビジネス界発の「なんちゃらトランスフォーメーション」を指すんだろうな、ってとこまでは初見で想像できました。だいたい合ってました。
Gは候補がいくつかあってノーヒントでは絞れませんでしたが、調べるとグリーンのことだそうです。
「グリーン」は界隈でここ10数年バズワードの座にありますし、ここらを選んでもなんか、アガらないですよね。そういうポーズを取ることが目的のブルシットに思えてならないし。
フェムテック
飯間さんの「ライバー」と同じく、2年連続のノミネートです。よってコメントもそちらと同じです。
同じくまさかとは思いますが、手ぶらで推してるなんてこと、ないですよね?
今日はこれぐらいにしといたるわ(池乃めだか風)
選考委員「2強2弱」の構図
毎年恒例、「今年の新語」グループリーグ(ではない)の選考委員別メトリクスデータです。
選考委員それぞれの選出した10語の「入賞」「選外」「圏外」3グループへの分布状況は、次のとおりでした。
- 小野 {4,1,5}(13)3位
- 飯間 {6,0,4}(18)★1位
- 新明国{2,1,7}(7)4位
- 大辞林{6,0,4}(18)★2位
今年はサッカーリーグと同じ方式を取り入れ、勝ち点(ではない)を計算してみました。
勝ち点(ではない)18で飯間さんと『大辞林』編集部が並びました。
勝ち点(ではない)で両者が並びましたので、単独入選語の数
- 飯間:「きまず」「○○くない」「一生」
- 大辞林:「○○構文」
この得失点差(ではない)によって、飯間浩明さんが1位、『大辞林』編集部が2位となりました。この2チーム(ではない)がグループリーグ(ではない)を通過(ではない)し、ノックアウトステージ進出(してない)です。
小野正弘さんと『新明解国語辞典』編集部の2チーム(ではない)はグループリーグ(ではない)敗退(ではない)です。
まとめ
ポストモーテムによって、「今年の新語」に次の3つの問題が潜んでいることが明らかとなりました。
- 「昔の新語」問題
- 「それもう載ってるやん」問題
- 「得票数ないがしろ」問題
どれもこのまま放置すれば大事故につながりかねない重大インシデントです。安全対策が必要です。
私が安全対策を講じるなら、その選考プロセスです。
(松本人志風)
「今年の新語」は不安よな。
ヤシロ 動きます。
つづく
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