「日本語警察が選ぶ今年の新語2022」トップ3は「世代」「こする」「ブルシット」【選評】

発表します。

日本語警察が選ぶ今年の新語2022、大賞は「世代」です。

第2位は「こする」、第3位は「ブルシット」です。以下、トップ10の一覧です。

今年の新語2022

どれも今年、日本語警察(私のことです)が「初めて見聞きした」「新しさを肌で感じた」のいずれかを満たしたワードたちです。

個々の選評を順に述べてゆきます。

大賞「世代」

トップガンは世代

のように、広義の消費コンテンツと組み合わせた

○○は世代

の語形を取れる「世代」が大賞です。

「世代」第5形態の誕生

この「世代」のどこがどう新しいか、審議の結果を記した記事のおさらいを兼ねてダイジェストします。

第5形態の「世代」論(今年の新語2022さきがけ)
いま、日本語の「世代」に静かな変革が起こっています。 国民の皆さまと日本語担当大臣に向けて、今年の新語警察がレク(チャー)します。

辞書にある旧来の「世代」は、大きく4つの形態に分けられます。

  1. 人口学的:息子の世代(デジタル大辞泉)
  2. 生物学的:一世代限りの種子(三省堂国語辞典 第八版)
  3. 社会学的:戦後世代(広辞苑 第七版)
  4. 工学的:第二世代コードレス電話(デジタル大辞泉)

どの形態も、それが生まれ育った時期が世代の要件となります。言わば「タイム認証」です。

ところが従来の4形態では説明不能に陥る「世代」が既に現れています。こういうパターンです。

アバンギャルドですよね。初めて見たとき、私の中の岡本太郎が「なんだこれは!」と叫びました。

簡単に解説しておくと、2つの「世代」のあいだで、従来のタイム認証から、それを楽しんできたかどうかの「エンジョイ認証」へと、認証方式が推移しています。

「世代じゃないけど世代」

「世代じゃないのに世代」

それぞれ後者の「世代」を決めるのは、エンジョイ認証の結果というあくまで私的な事情です。その意味で世代の小型化が起こっています。表面的にはごく小さい変化でも、大賞にふさわしい革新性があります。

シン・ゴジラのラストシーンをもほうふつとさせる「世代」第5形態を、同じトーンで「消費科学的世代」とでも名づけておきます。

第2位「こする」

夏ごろでしたか、とあるオンライン面接でのことです。画面の向こうの相手に

さんざんこすられてきたと思いますが、かっこいい名前ですね

と言われました。おぉ、こんな場面で当たり前に使うまでになったかと感慨深かったので第2位です。

この「こする」の意味を説明するなら「くり返し話題にする」ぐらいでしょうか。

物理的に触れてもいませんし、皮肉を込める「あてこする」ニュアンスもないので、辞書にある語釈とは少々異なります。

私の記憶が確かならば、このタイプの「こする」を最初に認知したのは、水曜日のダウンタウン「井森ダンス もう見られない説」(2015/04/29 OA)での、マネージャー氏のコメントでした。番組内容を書き起こししていたブログ記事から転載しておきます。

あのVTRは、あまりにもコスり過ぎてしまいまして、あまりこれ以上コスり過ぎると、面白くなくなっちゃうんじゃないかという事で、(略)一旦あのVTRは是非ちょっと皆さんには、一度忘れて頂ければ幸いかと思っております

水曜日のダウンタウン(2015/4/29) – ただの記録と記憶(2015/05/02付)より

再生するたびにVTRのヘッドがテープを「こする」ところから来たのかなと、勝手にイメージしています。

第3位「ブルシット」

2022年も、あまたの嘘語源・ニセ名言・創作美談・謎マナーその他の数々が跳梁する巷でした。

これらすべてに通底する「ことの真偽は二の次三の次な態度」に、既に名前があることを知りました。それが「ブルシット」です。

ハリー・G・フランクファートさんのエッセイ『On Bullshit』(2005)からです。

It is just this lack of connection to a concern with truth — this indifference to how things really are — that I regard as of the essence of bullshit.

(【拙訳】まさに、こういった真実への関心の欠如、つまり物事が実際どんな具合なのかに無関心であること、それこそがブルシットの本質であると私は見ている。)

それをブルシットと呼ぶと知り、登山にたとえれば尾根道に出て一気に視界が広がったかのようなクリアさがありました。その心の動きの大きさで、第3位です。

日本語には「クソ」な側面にウエイトが置かれたブルシットの用例も多いので、「ことの真偽は二の次三の次な態度」なブルシットを今後推していきたいです。

ブルシットのケーススタディ

あえて1つ例示しておきます。こういうのがブルシットです。

ことの真偽は二の次三の次な態度にあふれています。隅から隅までブルシットです。

本件のことの真偽に興味がある方は、こちらからどうぞ。

いくつ知ってる? 本当は言っていない名言たち【リンク集】
コピペだらけの名言業界は、フェイクの温床でもあります。 過去、当ブログで調査報告したものを中心に「本当は言っていない名言」を集めてみました。

ただし注意してほしいのは、私がブルシットだと名指ししているのは先掲のツイートであって、ツイート主ではないことです。そこは混同しないよう願います。ブルシットな発信を生みやすい性格傾向がこの世に実在するにしても、ケースごとに丁寧に切り分けなければいけません。

大洪水のように世に渦巻くブルシットに対し、私のできることは限られています。今後も粛々と、ことの真偽に関する議論を進めてまいります。

手前味噌ではありますが、こちらがひとつの成果です。

ネギトロの語源・由来にでっち上げられた日本語「ねぎ取る」の起源を調べてみました!
違います。逆です。 「ねぎ取る」の語源・由来が、食べ物の「ネギトロ」です。 「ねぎ取る」は、「ネギトロ」から生まれた言葉です。
追跡・ネギトロ嘘語源:始まりは、葱のない「ねぎとろ」の方便説
2007年7月以前に「ねぎる」または「ねぎ取る」を聞いたことがある。と推定できる証言から 葱のない「ねぎとろ」を提供するときの方便だった を、「ねぎ取る」の始まりに関する新たな仮説として示します。

なお英語圏での「bullshit」は自動生成字幕がカットするレベルの汚い言葉のようです。使うのは日本語のブルシットだけにしておきます。

第4位「案件」

既存の辞書の説明で収まると言えば収まるのですが、

隧道事故案件は衝突事故発生を5件確認しています(「シン・ゴジラ」シーン#11)

のような従来の「案件」に対し、毛色が少々異なる使いみちの拡大傾向を感じます。

ひとつはこういう「案件」です。

こういうの、少し前は「コラボ」とか「タイアップ」とか、文脈によっては「ステマ」とか言ってた気がするんですが、漢語に回帰してきたんでしょうか。だとすると面白いですね。

もうひとつは、こういう案件です。

「いかにもほにゃららで扱っていそう/題材になりそう」みたいなニュアンスでしょうか。試しに先日、職場で聞きたいことが出たときに「これは○○さん案件かな」と言ってみたら、すんなり通じました。

  • 企業案件の略語、かつ「タイアップ」の類義語としての「案件」
  • パブリックイメージに立脚する「ナントカ案件」

この合わせ技で、第4位です。

第5位「コーダ」

7月に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、世間では「宗教2世」がにわかにクローズアップされた感があります。

しかし日本語警察の注目を集めたのは、こっちの2世です。3月に「Coda(邦題 コーダ あいのうた)」(Prime Video)が作品賞を含むアカデミー賞3部門を受賞したことで知りました。

Apple’s “CODA” wins historic Oscar for Best Picture at the Academy Awards(2022/03/27付)

Apple’s “CODA” wins historic Oscar for Best Picture at the Academy Awards
Apple tonight made history after “CODA” landed three Academy Awards from the Academy of Motion Picture Arts and Sciences...

「child(ren) of deaf adult(s)」の頭文字でCODAです。CとAは参照ページによって単複両方ありました。「大辞林4.0」には掲載済みでしたが、グランピングのひそみにならい(しつこい)、入選です。

ちょうど同時期に、2022年のベストTVドラマと(私の)呼び声高い「しずかちゃんとパパ」(NHKオンデマンド)の放送もありました。ワードとしての「コーダ」も第6話に出てきました。このドラマによって、吉岡里帆さんに対する私の認知は「やたらCMで見る人」から「しずかちゃん」になりました。

コーダに限った話でもありませんが、この世界の解像度を上げるためにもこういう言葉たちが必要です。

第6位「○○られ」

「怒られ」「叱られ」といった語形まとめて第6位です。共起しやすい動詞は「発生する」です。

この2つに限らず、喜怒哀楽の感情をはじめ、論理的には森羅万象、ありとあらゆる「○○られ」「○○れ」が発生できます。

エキゾチックな日本語ですよね。英語で言うと、What is important is ~(重要なのは~だ)といった、関係代名詞whatが作る名詞節のような、あるいはthe ideal and the actual(理想と現実)といった「定冠詞the+形容詞」で表すインスタンスに似た響きを感じます。「今年」感は最も弱いながらも、エキゾチックジャパンなところで入選です。


日本語の特徴のひとつは、受け身を表す語句の活用範囲がきわめて貧弱なことです。

事実、辞書に載るレベルの「○○(ら)れ」って、ものすごく少ないです。試しに探してみてください。私はまだ10も見つけられていません。NTRも載ってないし。

たとえば医師や看護師でもないのに、一般人がワクチンを「打つ」んです。変ですよね。

だいたいなんですか、昔話の「舌切り雀」って。雀は切られた側でしょ。私が当の雀だったらブチ切れてますよ。

もしも日本語が語句どうしの関係を適切に記述できる言語であるならば、猫なで声、どっちの声なんだ問題|四次元ことばブログ(2021/09/13付)なんて、発生しようがありません。全部大泉のせいだ。

旧来の日本語が貧弱だった領域を補う「○○れ」「○○られ」に、大改造!!劇的ビフォーアフターな未来を少しだけ託したいです。喜ばれ、怒られ、悲しまれ、楽しまれ、どれも論理的に成立しますし、使用頻度に差はありますが、用例もあります。各分野でのイノベーティブな○○られに期待します。

ちなみにネット検索したところでは、○○られが比較的よく発生していたのは、射出成型や鋳造の業界でした。キャビとられ、なめられ、洗われ、すくわれ、飛ばされ、などなど、数々の○○られが発生していました。日本語世界での○○られは、かつては物理法則に人知で立ち向かう境界面に限られていたのかなと、雑な仮説です。

第7位「エアプ」

「エアプレイ」の略でいいのでしょうか。エアギター、エア彼女、エアグルーヴに連なるエア冠名です。

Twitter検索結果から判断すると、ゲームやコスプレ界隈から興った表現のようです。2010年ごろから用例が見られます。十中八九偶然でしょうが、同じく2010年に、iTunesバージョン10.0でAirTunesが「AirPlay」に改名されたのも、面白い符合です(Wikipedia「History of iTunes」による)。

「エアプ」には「実際にやってない」のほかに、「なのに知ったかぶりする」ニュアンスも持つようです。かつて「陸サーファー」なんて言葉もありましたが、それよりも使いみちが広いですね。

まだオフラインでエアプを見聞きした経験はありませんが、時間の問題の気がします。

第8位「差分」

既に浸透している世界を部外者が今さら垣間見たので第8位です。

主に絵を描く人たちのあいだで使われる「差分」が、私の知る、基本情報技術者試験に出題されるような差分と少し違うのを知りました。

一例です。

20221129_71aZMrqAccS

メガネ男子の描き方』(2021)

(眼鏡差分付き)の文句が見えます。

この「差分」に「修正の前後」「時系列上の変化」といったニュアンスはほとんどなく、バリエーションとして楽しむもののようです。

第9位「縦型」

「縦型ドラマ」「縦型コント」のように、画面サイズの比率であることを織り込んだ「縦型」の用例を見るようになりました。

視覚を想起させる語句と結びついた「縦型なんとか」は以前からあります。たとえば縦型ミュージックビデオのさきがけ、lyrical school《RUN and RUN》の公開は2016年です。

https://vimeo.com/161487817/8dc6bebe6f

RUN and RUN / lyrical school 【MV for Smartphone】 on Vimeo

そこから数えて6年、クローズアップ現代も今年「タテ型コンテンツ」を特集しました(2022/05/31 OA)

現代日本語で単に「ドラマ」と言ったらテレビドラマのことなので(でないとラジオドラマ、配信ドラマ、人間ドラマ etc.となるので)まだわかります。けれども話がコントになるとコントの何が「縦型」なのかって、私はなります。

「縦型」一語の情報量が増えてゆくさまは、ちょうど、文字どおりに読めば「倫理に反する」意味しかない「不倫」が、どう倫理に反するのか極めて具体的に意味するようになってきたさまにも似ています。

「不倫とは何か?」の近代史―不倫(2)
こんにちは。 この記事では、「不倫」という言葉が明治以降何を意味してきたかを雑にふり返ります。 ※写真と本文は関係ありません 要約:Executive Summary 「不倫とは何か?」の歴史は、大きく5つの時代に分けられます。 すなわち、...

トータルすると、用例のシェアとしてまだまだ「縦型」が画面サイズの意味を獲得する途上ではあります。そこを青田買いしての9位です。

ところで、『三省堂国語辞典』第八版の「たてがた」項目の表記は[立て型・竪型]の2つでした。「縦型」入ってないんですね。「一般的な文章で使うのにふさわしい標準表記」p.(11)から意図的に除いてるわけでなく、改訂過程で見過ごされていると私は見ています。

第10位「JPCZ」

浅井冨雄さんが命名した1988年生まれの気象用語が、30有余年を経て日本語警察のところにも届きました。

2021年12月23,24日から、NHK報道局社会部災害班がJPCZの使用を事実上「解禁」したためです。

調査結果はこちらです。

NHK報道局社会部災害班からの「JPCZ」バタフライエフェクト
2021年12月23日と24日付でNHK NEWS WEBに公開された2つの記事 これこそが、2021-2022シーズンになってJPCZを頻繁にみかける一大現象を引き起こした「小さな蝶の羽ばたき」にほかなりません。

選外

選べなかった2語が選外です。

ボートマッチ

世はマッチングアプリ花盛り。出会い系とは無縁の私も、7月の参議院議員選挙でNHKとYahoo!の特設ページを使いました。

ボートマッチ 参議院選挙2022 候補者とのマッチング NHK

Yahoo! JAPAN、第26回参議院議員選挙に向けて 「Yahoo!ニュース参議院選挙2022」特設サイトを公開(2022/06/22付)

多くのメディアが、同様の特集ページを開設していました。

ボートといったら横山やすし(古いな)の乗り物ですが、voteを指すのは珍しいですね。類例がなければ推せるかなと思って探すと、既に「キャスティングボート」がありました。

それ以前に、「ボートマッチ」は大辞林4.0に載ってました。ということでこちらは選外です。

きつねダンス

ファイターズガール発のムーブメントです。尾暮沙織さんの企画提案により2022年シーズンから披露されたので間違いなく今年の新語ですが、ウケてるだけでは国語辞典に載りませんたぶん。だから選外です。

きつねダンスを踊る「ファイターズガールA2ポスター」&今シーズンを1冊にまとめた「ファイターズガールフォトブック」オンラインストア限定受注販売!≪ファンフェスティバル2022≫グッズ販売コーナーでイベント発生!? | 北海道日本ハムファイターズ

こちらからは以上です。

コメント

  1. ヘリコプター子猫 より:

    愛の反対は無関心を調べていて
    こちらにたどり着きました

    100%関心の赴くままなのが
    素晴らしいですね。

    ネトゲ ネトラレ。
    死人にシナチク

    私のなかでは
    ヤフコメの検閲にひっかかる言葉探しがブームです。

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