冬将軍の新たな称号「JPCZ」が激寒、つまり激アツ!

新語警察・会員番号4番、新田恵利です。ウソのうえ、古すぎ!

要約:Executive Summary

冬のオペラグラスで「JPCZ」をのぞけば、尊い尊い、あまりに尊すぎる新語世界がありました。

ひと言でまとめると、そんな話です。

冬のオペラグラス(1986)
新田恵利
¥255

何を言ってるかわからねーと思いますので、ありのまま今起こった事を話す「ジョジョの奇妙な冒険」のポルナレフシステムでまいります。

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※写真と本文は関係ありません

まとめ:Facts and Findings

それでも忙しい人のために先に結論を書きます。

  1. 学術的見地から判断すれば、「JPCZ」の命名者は浅井冨雄さんです。
  2. 確認できたJPCZの初出は、1988年の日本気象学会機関誌「天気」でした。
  3. JPCZには、「熱帯収束帯」という”元ねた”がありました。
  4. 命名から30有余年を経てJPCZが私にまで届いた事実を含めて、すべてが尊く感動的です。
    早くも「2022年最大の泣ける感動作」と(私の)話題沸騰です
  5. 意味が明確でぶれが小さい点で、私は「JPCZ」を支持します。

それではあらためて、ポルナレフシステムのスタートです。

第1部:JPCZとの奇妙な遭遇

Twitterをパトロール中の新語警察ジラ隊(私のことです)のレーダーが、次のツイートをキャッチしました。

JPCZ、はじめて知りました。冬の日本海側に大雪をもたらすあなた、JPCZ(じぇーぴーしーぜっと)っていうのね。なんか売り出し中のJ-POPグループみたい。

さっそくJPCZにチューンすると、初見の反応も多く見られました。ひとつ気づかされたのがこちらです。ポイントは1行目。

なるほどそうでした。これは冬将軍の新たな称号といえますね。

対比を見たくて「JPCZ 冬将軍」を検索してみました。結果を先に述べると、JPCZは遅くとも2010年代には気象業界ではあたりまえで、かつ、メディアでの使用例も認められるワードでした。

余談ですが「主観が溶けていて自他境界がやばい人あるある」1個だけあります。「はじめて知った“新語”、そのワードもできたてと錯覚しがち」です。

一方私は、この世界には無数の他者が存在することを知っているので、そうとも限らないケースも想定し「それっていつから?」を確認できるわけです。自他両者、マジ感謝。

第2部:尊すぎて泣ける!JPCZはじめて物語

それはそうと、出典マニアのいつもの悪い癖です。「以前からあるんだったらJPCZはいつ世に出たんだろうか?」と思ってしまいました。

今回わりあいに早く、「原点」がほぼ特定できました。くり返しますと、尊いof尊い、尊すぎる調査結果でした。当該の文献を読んだ時間含め、トータル3時間弱でだいたい突き止められるようにできている世の中のシステムも含め、尊い。ハイパー尊いです。

なお当記事の「尊い」は、三省堂「今年の新語2018」第4位的「尊い」も若干量含むものの、大部分は既存タイプの「頭が下がるような感じだ」(三省堂国語辞典 第七版)です。既存タイプの「尊い」の語釈としても、最新の第八版よりもこちらの方が好きです。

以下、どこが尊いか「尊いポイント」をいちいち示す試みも取り入れます。義務教育やないんやけど。

Google Scholar、エピグラフが尊い

業界用語、それも学問寄りの専門用語って話なら、ルーツをたどるにはGoogle Scholarで探すのが最も近道でしょう。

Google Scholarといえば、トップページにエピグラフのように示されている「巨人の肩の上に立つ」。

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Google Scholar 2022

私はこの言葉が好きです。先人の築いた成果に乗っかってゆけ。そのメッセージが尊い。

旧ロゴ時代にもスクリーンショット撮ってましたわ。

Google scholar 2014

通常のWeb検索ですと、近年は的外れな結果ばかりで徒労に終わるケースも目立ち、失望したおじさんのGoogle離れも引き起こしていました。Scholarの利用も久しぶりです。どうなりますか。

学問の作法が尊い

はたして「JPCZ」について、2つの記事が同じ文献を参照していることがわかりました。その2つを引用します。※下線は引用者。以下同じ

日本付近では寒気が西回りで侵入しやすく、日本海寒帯気団収束帯(JPCZ: 浅井 1988)が発達しやすかったことがその一因と考えられる。

出典:[PDF]日本海沿岸に大雪をもたらす日本海上の高気圧性循環(本田明治, 2021)1.はじめに


These regions correspond to the Japan-Sea Polar-airmass Convergence Zones (JPCZ) named by Asai (1988).

出典:日本海寒帯気団収束帯帯状雲に沿って発達するメソβスケールの渦列 : 数値シミュレーション(永田雅, 1993) 1. Introduction

有力な情報が簡単にヒットしたので、Google Scholarの命脈は保たれているものとします。よろし。

で両者とも当然のごとく先行研究を参照するし文中にも示すし、参考文献・Referencesにも具体的に示すわけです。それが作法だからです。

リファレンス情報はそれぞれ次のとおりでした。

浅井, 天気, 35, 156-161, 1988.

Asai, T., 1988:  Meso-scale features of heavy snowfalls in Japan Sea coastal regions of Japan.  Tenki, 35, 156-161 (in Japanese).

万事たどれるようにものする学問の作法が、尊い。

ピンポイントの検索システムが尊い

目指す記事の所在は、どうやら日本語の学会誌みたいです。そこで「学会誌 天気 日本海 1988」と、今度はBingで検索しました。

トップに出てきたのは、このページへのリンクでした。うお!って変な声が出ましたね。

日本気象学会機関誌「天気」記事検索

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わがのニーズにピンポイントで応える検索システムが既に世の中にあった事実。尊くて尊すぎます。

タイトルに「日本海豪雪」と入れてみて、ラストコール!(児玉清風)

結果もピンポイントでした。

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調査開始からここまで、この所要時間で到達できるインターネットのシステムやばくない? いや、尊い。

[PDF] 5.日本海豪雪の中規模的様相(浅井冨雄)|昭和62年度日本気象学会秋季大会シンポジウム―「“どか雪”―日本海における中小規模じょう乱」の報告 

をさっそく開きまして、JPCZを探しました。

ありました。

それを日本海寒帯気団収束帯(Japan Seapolar Airmass Convergence Zone, 異称 JPCZ)と呼ぶことにする.

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出典:日本気象学会機関誌「天気」35巻3号(1988)p.160

ただし厳密には、ひとつ前のp.159の見出しに見える「4.  日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)」が最初の登場箇所です。

これだけで初出用例の確定判断とするのは気が早いですが、ひとまずここまで。

つづきは後述します。初出で間違いなかろう、が結論です。

第3部:JPCZの”元ねた”=熱帯収束帯(ITCZ)

先ほどは引用を「それ」から始めて、それってなんなの?をあえてスルーしました。話を分けたかったからです。

「それ」とは収束帯のことです。前のページからつなげてもう一度引用します。

これら収束帯はグローバルな熱帯収束帯(ITCZ)に比してローカルな現象ではあるが,それを日本海寒帯気団収束帯(Japan Seapolar Airmass Convergence Zone, 異称 JPCZ)と呼ぶことにする.

出典:[PDF] 5.日本海豪雪の中規模的様相(浅井冨雄)|「天気」35巻3号(1988)pp.159-160

JPCZの「元ねた」となった継承元クラス「ITCZ」があったんですね。それも初めて知りました。もしかしてだけど、気象学に少しでも首を突っ込んでいれば常識の範疇? 不案内ですまん。

となると前2文字を「JP=日本」にしたくて2文字目がPになるワードを選んであてこんだのかな?などと邪推もできます。

熱帯収束帯について詳しくはWikipedia「熱帯収束帯」を見てください。

熱帯収束帯 - Wikipedia

第4部:JPCZへの奇妙な尊い感情

当記事では「ありのまま今起こった事を話す」ポルナレフシステムを採用していますので、前掲記事内での目を通した順番で進めます。

目的に照らしてまずは「4.  日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)」を読みました。尊くてやられました。長くなりますが、先ほど引用した部分を除いて、残りも2つに分けて全部を引用します。尊さを示したいからです。

4.  日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)
 冬期,北西季節風卓越時,日本海上には北西から南東へ走る多数の筋状雲が発現することは周知の通りであり,また,鉛直シアーのある風の場における熱対流として理論的にもよく理解されている.その中で,朝鮮半島の東側を北西から南東に日本海を横切って朝鮮半島つけ根から北陸・山陰付近に達する帯状雲の見られることがある(岡林1969,他).遠藤ら(1982)が1975~1977年の三冬期間を通して得た帯状雲の発現頻度の最も高い位置は前節で示した中規模渦状雲の頻発域と一致する.

出典:[PDF] 浅井冨雄「日本海豪雪の中規模的様相

先行研究を参照しています。1988年の浅井さんもまた、誰かの肩の上にいたわけです。尊いですね。

ここからさらに尊いが加速しますよ。

そこはまた,海陸分布と地形の影響により寒帯気団内に形成された水平シアーを伴う収束帯でもある.即ち,(1)朝鮮東方海上では沿海州からの北よりの風と朝鮮半島からの西(北西)よりの風とにより収束帯が形成される.(2)北海道西方海上では沿海州からの西よりの風と北海道からの東よりの風とにより収束帯が形成される.収束帯の形成には陸風が重要な役割を果たすが,更に,沿海州や朝鮮半島の沿岸部山岳地帯からのカタバ風が収束帯の強化に貢献している.

出典:[PDF] 浅井冨雄「日本海豪雪の中規模的様相

なんですかこれ。海と山と空がきれいにつながって、まるでリアルおかえりモネじゃないですか。

それはそれ、モネはモネとしても、尊い以外の何も出てこないですよ。


浅井冨雄さんによる記事「日本海豪雪の中規模的様相」は、参考文献リストを含め次の6つのセクションに分かれていました。

  1. はしがき
  2. 豪雪の機構と予測の問題点
  3. 中規模渦状雲
  4. 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)
  5. 日本海豪雪モデル
  6. 参考文献

はしがきからテーマを自分なりに要約すると「1960年代に気象研究所が実施した「北陸豪雪特別研究」の研究成果と今後の課題」です。

「38豪雪」の時代からそんな研究が綿々と続いてたんですか。アツいですね。

豪雪をもたらすメカニズムの解明のポイントを整理した「2.豪雪の機構と予測の問題点」なんて激アツでしたよ。豪雪の話だけど激アツ。

抜粋します。

  • (1)豪雪の源である水分がどのようにして大気に供給され蓄積されるのか?
  • (2)蓄積された大量の水蒸気がどのようにして降雪として解放されるのか?
  • (3)降雪がどのようにして或る特定の場所と時間に集中するのか?

なんですかこれ。まるで巨大不明豪雪に対峙するリアル巨災対じゃないですか。

想像をふくらませれば、

  • それだけだ。その先を調べるのも我々の仕事だ(シーン#113)
  • 素朴な疑問なんだが、あれのエネルギー源は何なんだ?(シーン#113)
  • そうだな。噛み合わせが悪そうな歯並びだ(シーン#306)

をも彷彿とさせます。

とにかく「尊い」しかなく、尊いが最大の感情でした。尊いが極まって、学会誌の記事を読んで涙するという、まさにポルナレフのようなわけのわからない経験もしました。


当記事では「JPCZ」の命名者を浅井冨雄さんとひとまず認定しました。

というのも、もしもJPCZが先行研究の成果であるのなら、浅井さんは記事内でその事実を示さなければならないからです。なぜならそれが作法だから。けれども記事ではそうはなっていませんでしたね。そこを「作法を守っていない」ではなく「当該記事が初のJPCZ」と判断しました。

しかし、より激しめの人間不信ベースで発想するならば、その時期に他の誰かのJPCZアイデアをネコババした説はまだ残ります。手柄横取りパターンですね。しかし可能性として残るにしても、基本は棄却していい気がします。

私は研究者を含めて個別の人間を基本的に信用しませんが、学問の手続きと人類の叡知とは基本的にも最終的にも信頼しています。主語がでかい。

第5部:尊いから始まる「JPCZ」支持論

新語警察のレーダー観測結果によると、Twitter世間には、アルファベット4文字略語であるJPCZに難色ないしは拒否反応を示す人も実在するようです。「横文字でまたわけのわからない新語を」ってところでしょうか。

そうした抵抗勢力の存在を念頭に置き、私はあらためて「JPCZ」の支持を表明します。

なぜならまず、既に世間にはおなじみのアルファベット4文字略語がいくつもあふれているからです。HTML、ISBN、YMCAなどなど、みんなそうですね。

JPCZが気に入らない理由って、「新しい」以外に何かありますか? って聞いてみたいです。ヤングマン!

次の理由として、意味が明確で話者間でのぶれが小さいことです。

たしかにJPCZを含む4字略語に一見とっつきにくい点があることは事実です。字面からはまるで何言ってるかわかんないですからね。しかしその反面、いったん何なのかがわかれば大丈夫です。短所長所差し引きで、ありです。

余談となりますが、翻訳するときある意味最もやりやすいのが、各ジャンルでの専門用語です。ソースとターゲットの両言語でそのワードを何と言うかをそれぞれ確定できれば、ほぼ自動的な置き換えで間に合うためです。「日本海寒帯気団収束帯」と「JPCZ」のペアもしかりです。

あと、日本海寒帯気団収束帯とか長くてダルいからJPCZでええやん、みたいなノリも全然賛同できます。ページ単位に1回書いといたらいい<script>タグみたいなもんです。

ただし中には一般人レベルに多用された結果、意味がぶれてしまってるケースもあると言えばあります。ADHDがその代表格でしょうか。実際、私自身がそのワードに対して極めてふんわりした認識で、ぶれているかどうかのセルフチェックすらも心もとない状態です。

それでもADHDのケースと違うのは、JPCZがもっぱら冬期限定の季節性ワードであることです。「シーズンオフ」の存在が、意味の崩れを防ぐ歯止めになる気はします。

いずれにしても、今後のJPCZ業界の動向を注視してまいります。

おわりに:今後の課題

思いがけず長くなりました。

うかつな発信ばかりが幅を利かせるネット世間なので、なにかについてものを言うなら、せめてその最低限の事実関係を把握してからにしよう。いつ頃からか徐々にジョジョに、それが自身に課す倫理基準となってきたためです。すまん。

この記事で、JPCZについて最低限の事実関係の究明はできたと信じます。次の課題はこのへんでしょうか。

前半部「JPCZ自体は別に新しい用語でもなんでもない」は確認できました。

その一方で、私も巻き込まれた「どういうわけか今季になって気象情報レベルで頻繁にみかけるようになった」、この現象の解明はまったく手つかずのままです。

ひとまずありそうなパターンとして、全部で4つ仮説を立てました。

  1. それだけ今シーズンのJPCZが強力
  2. JPCZの勢力は偏差の範囲だが、諸メディアのヘビロテにより、ワードの露出が増えた
  3. 研究の進歩に伴い、相対的に最先端ワードから一般人向けワードへとポジションが移った
  4. 気のせい

気が向いたら検証します。

そんなところです。

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