三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2021」選考結果のページ末尾に「それぞれの選考委員が選出した10語」が載っています。
昨年に続いての掲載です。新語選びの質の維持向上に有益ですのでぜひ今後も続けてください。
「今年の新語2021」ノミネートデータ
基本的なところの再確認です。「今年の新語2021」の選考委員は、昨年同様次の4者でした。 ※敬称略。以下同じ
- 小野正弘(『三省堂現代新国語辞典』)
- 飯間浩明(『三省堂国語辞典』)
- 『新明解国語辞典』編集部
- 『大辞林』編集部
もし仮に、4者が互いに一切「かぶりなし」でばらばらの語を選んだとすると、トータルは4×10=40語になります。
実際の得票結果は
- 3票:3語
- 2票:2語
- 1票:27語
でした。合計で32語という寸法です。複数票を集めた語が昨年の9語から5語に減り、票が散った形となっています。
なお2020は
- 3票:1語
- 2票:8語
- 1票:21語
でした。もっともこの程度の差なら統計的ばらつきの範囲の気もします。
32語を次に示す3つのグループに分けレビューしていきます。
- 第一群(10語):大賞〜第10位の入賞語
- 第二群(3語):「選外」の3語
- 第三群(19語):どちらの選からも外れたもの。当記事では電波状況ぽく「圏外」とします
票数別での各グループ分布は次のとおりでした。
- 4票{0,0,0}
- 3票{3,0,0}
- 2票{1,0,1}
- 1票{6,3,18}
単純に得票順でのランキングでもなく、順位と並べて見ていくと2票または1票の語が3票をさしおいてトップ10上位であったり、反対に2票集めた語が圏外だったりしています。そこらにどんな力学が働いたかを、順に読み解いてゆきます。
ちなみにこちらは2020のデータです。第二群が「コロナ枠」として7語と例年より多めの選出でした。
- 4票{0,0,0}
- 3票{1,0,0}
- 2票{4,3,1}
- 1票{5,4,12}
総評
「今年の新語2021」の選考結果をひと言で評するならば、愉快でした。非常に愉快。クイズダービーの篠沢秀夫(古いな)みたいになってますが、非常に愉快だったものはしかたありません。
わが「ジラ2021」との選考基準の違いが、いろいろとクリアになってきたからです。
俗に「歌は世につれ世は歌につれ」と申します。そこになぞらえれば、新語もまた世につれまたつられる関係だと申せましょう。
そのなかでなにを「新語」とみなすか、今年の新語の選考基準がおぼろげながらも見えてきました。そして今回の2021の選出語の一部にも、その特色が認められました。
ひとつは、あるワードの新語性を、その言葉でなく「世」の変化の側にも求めていることです。私の基準ですと、その場合はみじんも新語とはなりません。具体的には個々のところで述べます。
もうひとつは、拡散者(スプレッダー)と創始者(オリジネーター)をさほど区別せず一体視する傾向があることです。今年生まれた言葉に限らないのはよいとして、「広がった」と「生まれた」は違う事象なんですけどね。
たとえば2020コロナ枠の「アマビエ」のように初出の時期とタイムラグがありすぎる場合、私の基準では新語扱いするのははばかられます。そこを新語に選ぶのならば、ダーウィンが種に対して、アーレントが全体主義に対してしたように、その起源にまでできる限りの筋を通してからにしたいです。
「今年の新語」の選定基準が間違っていると言いたいのではありません。ひとつのあり方として成り立っているとは思います。それでも、世の中はいつも変わっているから頑固者だけが悲しい思いをする[1978]のかなというのは少しあります。
※写真と本文は関係ありません
パート1:入賞の10語
一語ずつにどの選考委員が選出したかのデータも付けます。敬称略です。
大賞 チルい(小野、飯間(チル))
3票集めた他の3語(後述)をさしおいて、大賞の座は2票の語へ渡りました。
例年、選考発表会での入賞語発表は10位からのカウントダウン式です。最後に現れた「チルい」に会場内外も騒然となりました(誇張)。私の感想を野球にたとえるなら、早い段階でポンポンとカウント取られて、見逃しとファールで粘ったあげく三振取られた、そんな感覚でした。いい配球です。
クローザー三省堂のウイニングショット「チルい」は、藤川球児のストレートでも岩瀬仁紀のスライダーでもなく、高津臣吾のシンカーでした。ひゅっと沈んでコースいっぱいに決まった、そんな球筋。今年の新語警察(なんだそれ)も、そこは手が出ませんわ。
しかし手が出なくともストライクであることに違いありません。ベンチの野村克也もニンマリ、そんな感じ。
7度目でようやくの「好きにした」感
三省堂の開催する「今年の新語」企画も、2015年から数えて7回目を迎えました。選評によれば
投稿数は「チルい」「チル」を合わせて4通でした。いわば下位のことばをすくい取った形です。
とのこと。私としては、今年の新語2020への忖度なき批評(笑)に書いた
全般に、三省堂「今年の新語」のランクイン時期は数年遅い印象があります。
へのアンサーと受け取りました。
「そろそろ好きにされたらいかがでしょう」(シーン#311)
選考委員たちの耳には、これまでの好き勝手な世評がシン・ゴジラのこのセリフに聞こえていたのかもしれません。新語だけに。
共感を切り捨てたのもよろし
さらに愉快なのは、こと大賞の選出に限れば、世間の安易な共感をきっぱり切り捨てていたことです。
共感を拒否られたTwitter世間は、さながら阿鼻叫喚の巷と化していました。いわく、知らない、初耳、どこで流行ってんの?、保育園落ちた日本死ね!!!(ウソ)などなど。世の中はとても臆病な猫だから[1978]「チルい」に大賞を与えるさまがまるで世間を見たような学者のごとくに映ったのかもしれません。
軽はずみな発信はTwitterの特長ではあります。しかし自身の過去の経験から言えば「発信しとけばよかった」と悔いるより「しないでよかった」と胸をなでおろす機会の方が何十倍も多かったです。なので正直、「チルい」に対するTwitter世間の反応を見るに、その軽はずみな発信に使ったのと同じスマホなりPCなりで世の中の「チルい」を探してみればいいのにと思ってしまいました。
しかしこれも、とてつもなく困難な要求をしているのかもしれません。
なんくせx2
ついでにひとつふたつ、選評から難癖をつけたいポイントを挙げておきます。
1つめ。
2021年、ある清涼飲料水の広告コピーに〈チルする?〉が登場しました。
具体名が出てませんが「ある清涼飲料水」ってCHILL OUTのことでしょうか。
CHILL OUTだったら、2019年10月の販売直後から「チルする?」使ってたみたいですけどね。
チルする?
あらゆる場で「エナジー」を必要とする現代人に物申す。気楽にいこーよ。
時には、リラクゼーション。チルを求めてる方 RT#先輩方すみません#リスペクトゆえに@redbulljapan@MonsterEnergyJP@chillout_01#CHILLOUT#チルアウト pic.twitter.com/MR6kd0yTKh
— CHILLOUT【OFFICIAL】 (@chillout_01) November 27, 2019
「そっちのドリンクじゃなくてこっち」てのがあるんなら、こりゃまた失礼いたしました、なんですが。
2つめ。
「今年の新語2016」の2位に入った「エモい」の解説でも述べましたが、
と断っているとはいえ、
「外来語+い」(形容詞)が成立するには高いハードルがあります。
この学説が2016年の時と相変わらずなのがねぇ。おやおや、三省堂の辞書を編む人も時の流れを止めて変わらない夢を見たがる者たち[1978]のお仲間ですか?と皮肉の1つも飛ばしたくなります。
日本語での形容詞の作りやすさって、外来語だとかの出自はあまり関係なくて、シンプルに音価、すなわち音の数が大きな決定要因なんじゃないって、私なんぞは思いますけどね。
私の場合、20歳過ぎてから(新語に限らず)知った形容詞のうち語幹が3音以上のものは「いなたい」「おぼこい」ぐらいです。
日本語のイ形容詞って、2音の語に「い」を付けた「〇〇い」の形がいちばん作りやすいんじゃないですかね。新しめの例だと「チャラい」「しょぼい」「雑い」とか。動詞「違う」が「違かった」「ちげーよ」と形容詞っぽい活用をするのも、語幹が2音だからなのが大きそうです。チルもエモもその音数ゆえに形容詞形にハマってるんじゃないでしょうか。
既存の形容詞にしても、
- うざったい
- 気持ち悪い
- けばけばしい
- 恥ずかしい
これらみんな、2音+いの「○○い」形へ圧縮されていってますよね。他もできるものは順次「○○い」形に移ってゆくと予想しています。
と、当てはまってるケースだけ取り出しての言いぐさなので今日はこれぐらいにします。
第2位 ○○ガチャ(小野(親ガチャ)、新明国、大辞林(親ガチャ))
3票獲得の語が第2位です。ただし、うち2票を得た「親ガチャ」でなく「○○ガチャ」の形での入賞でした。
「ジラ2021」ではノミネート外でした。新しくなったのは「世」の側だとの認識であるためです。親とガチャを結びつけることをはじめ、ガチャをフィーチャーした用法の使用頻度が増加しているのは認めます。けれど「ガチャ」の語の側は変化してませんよね。
親ガチャを代表とする「○○ガチャ」は、ガチャが備えるランダム性と結果のばらつきに着目した修辞法の範疇に思います。なので私の基準なら辞書には「ガチャ」が何であるかが載っていれば十分で、親ガチャ的な用法の説明はなくてもいいです。辞書からその種の記述を排除すべしとの主張でもないですけれど。
生まれ落ちて最初に聞いた声は落胆の溜息だった[1986]時代から、子が親を選べないことは変わっておらず、さらに言えば、この世に生きとし生けるもの、生まれると選んで生まれてきた者など皆無のはずです。
そこらが普遍的ななか、生まれの格差が再び確定的な「超えられない壁」となりつつある世情と、かかる世情を含めて各自がどう受け取るかが変わってきたってことなんでしょうかね。私の敵は私です[1983]。
ところでガチャって商標名(登録第4106448号)なんですね。コトバンク>大辞泉「ガチャ」の解説で知りました。「ガチャ」応用分野の拡大傾向について、商標権者の株式会社タカラトミーアーツは今のところ静観のようです。
第3位 マリトッツォ(小野、飯間、大辞林)
わが「ジラ2021」では第2位でした。しかしながら、新語性は十分にしても新しい文物の名称ってだけで話は終わってしまいますね。
選考委員の1人である飯間浩明さんが面白い証言をされていました。
「今年の新語」の選評では、例年、大賞および第2位のことばに関して、それぞれ1000字を超える文字数を充てています。逆に言えば、少なくとも1000字は書けることがあるようなことばが入選するということでもあります。選考発表会で座が持つことばであることも必要です。重要な観点なのです。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) December 1, 2021
確かに腹持ちはしても座持ちは悪そうです。この観点での比較で3位になったのでしょうか。
マリトッツォが国語辞典に入ることで喜んでくれたのは菓子屋とドレス屋と[1986]イタリア人ぐらいのものでしょうし、語れるだけの何かを得ようとマリトッツォの来歴をまじめにたどったら、とてもひと仕事ですまないでしょう。食品分野にどの程度有効な文献があるかも不明ですし、あるとしてもイタリア語から下手するとラテン語の典籍に至るハメに陥りそうですし。かけるコストの採算が取れないのは間違いなさそうです。
第4位 投げ銭(大辞林)
1票ワードながら4位での入賞です。
ただしこちらも、「ジラ2021」ではノミネート外です。検討した記録もありません。「投げ銭」の応用範囲が広がってはいても、語が示す概念は昔のままであるためです。
語り継ぐ人もなく[2000]固有名詞の「スパチャ」を選びづらかった事情からのいわば「替え玉選出」なのかな、と勘ぐっています。
第5位 人流(飯間、新明国、大辞林)
3票でも5位なんですね。2019年以前の投票データが未公開なのでわかりませんが、3票入ってここまで順位の低いワードって過去にもあったんでしょうか。
わが「ジラ2021」が大賞に選出したことで、避けられてるかもしれない予感 それとなくそれとなく感じてた[1993]とするのはうぬぼれが過ぎますけれども、下馬評も高いなかで人流を上位に選んでもつまらんと、流されまいと逆らいながら[2003]の判断だったんですかね。
「今年の新語2021」は選考過程も楽しんだ|毎日ことば(最終更新:2021/12/11付)によると、
小野さんは「辞書編集者魂をかき立てられるかどうか」を選考の一つの基準にしたそうです。そういえば、小野さんは選考会で「人流」について「まんまなので説明しなきゃという辞書編集者魂がかき立てられない。
と。なるほどそれでノミネートから外したと。
こちらは選評からです。
この語については、「人をモノ扱いしているようで違和感がある」という意見も多く聞かれます。心情的には理解できますが、(後略)
私なんぞ、人流はなんで人をモノ扱いしているように感じるのか、なんで心情的にでもそこを理解できてしまうのか、不思議でたまりませんけどね。「わからない」でなくて「わかる」から不思議なんです。けれどもそこらは辞書編集者の関心外ってことなんでしょうか。
第6位 ウェビナー(新明国)
私自身は2000年代後半から見聞きしていたのでウェビナーに新語の感覚がなかったです。時期的にはブログとかe-ラーニングとか、そこらが出てきた少し後だったと記憶しています。
何の試験の時間なんだ何を裁く秤なんだ何を狙って付き合うんだ[2003]とか思いながら、1つ2つ参加もしたんでしたっけか。
しかしながらGoogleトレンドで見ると2020年から「ウェビナー」の検索ボリュームが増えてました。それで知ったってことならいいです。
なおlexico.com webinarでは、Originを1990sとしています。
思い出しましたが「ブログ」も元はといえばWeblogの略語ですよね。おおかたの人が忘れてるか気にも留めてないでしょうけど。
第7位 ギグワーク(大辞林)
たしかに新しめですが、ランクインさせるほどかなって思いました。
辞書としては「ギグ」の項にその一回性にからめての語釈が入っていれば単独での立項はいらないかなっていうのが、私の感想です。
これはギグワークの語でなくて「世」の側の責任になりますが、あたし中卒やからね仕事をもらわれへんのやと書いた女の子[1983]も幸せにできるシステムになれるかってところですね。今のところ行く末には悲観的です。
第8位 更問い(大辞林)
一般人に伝わり始めた段階にある公務員用語の選出です。お、このフェーズで拾いますかと正直思いました。
選評には「役所の隠語」とありました。ですが隠語の持つ「仲間以外の者から秘密を守るためや,仲間どうしであることを確認しあうために使われる。」(大辞林4.0)性質とは、ちと違うような。
半面、選考委員が何をきっかけとして「更問い」を検知したかがよくわかったとも言えますが、語釈も選評も、きっかけのスプレッダーに引きずられていた気がします。
「更問い」の語に罪はありませんが、手なずけるゲームが流行ってる 冷たいゲームが流行ってる[1986]なかで知名度を得たことで、語にとっては不幸な経過をたどっています。
更問い、森へお帰り!この先はお前の世界じゃないのよ!
と、風の谷のなにシカなのかわかりませんが、そんな声を上げたくもなります。
それもまた不幸な話なので、
に来てください。おれが本物の更問いを教えてあげますよ。
と、『なにしんぼ』のなに岡士郎なのかわかりませんが、別の記事に書いておきました。
第9位 おうち〇〇(飯間(おうち))
見過ごしていた意味でノーマークでした。でもあらためて検討してみると新しいですね。思った以上に新語でした。盲点でした。「おうち○○」、10語の中なら第3位に入れていいぐらいです。
選評では
従来なら「家庭○○」「自家製○○」など、漢語を使って表現したところを、柔らかく「おうち」と表現したものです。
としていました。そういう置き換えパターンだけでなくて、「おうち」は従来ありそうでなかったゾーンにもうまいことハマっていますね。
それは、外来語「ホーム」との比較でわかります。端的には、従来の「ホームなんとか」のうち、設備(エクイップメント)や製品(プロダクト)を表すものです。
たとえば
- ホームシアター
- ホームバー
- ホームベーカリー
これらのホームが「おうち」に入れ替わると、活動(アクティビティ)や行事(イベント)を表すのが基本となります。
- おうちシアター
- おうちバー
- おうちベーカリー
棲み分けできてますし、ここらは既存のワードがありそうでなかったゾーンですよね。
ですから既存の「ホーム○○」でも、ソフトウェア寄りの
- ホームセキュリティー
- ホームバンキング
なんかには
- おうちセキュリティー
- おうちバンキング
といった置き換えや棲み分けはできにくくなっています。変わらない夢を流れに求めて[1978]そこはホームのままでいいでしょと。
こうしたほっこりアクティビティな「おうち○○」の性格をふまえておけば、大喜利定番の「こんなおうち○○はイヤだ」のお題にも、「おうちローン」「おうち暴力」みたいなところを答えてゆくといった戦術も立てられます。
なお厳密に言えば、ノミネート語は「おうち」だったので、「おうち○○」をノミネートした選考委員は誰もいませんでした。ここは4者の合議制がプラスに働いていますね。
第10位 Z世代(小野)
ここも見過ごしていたところでした。過去12か月のGoogleトレンドを見ると3月にスパイクを形成していました。たぶんこの放送の影響だと思います。メディア主導のワードだったんですかね。
この後よる9時からは『新・情報7daysニュースキャスター いま注目のZ世代SP…次来るトレンドは?』。@TBS_newscaster
今夜は9時放送スタート!◆追跡!世界のZ世代…その思考&行動は?◆緊急事態宣言あすで解除“第4波”備えは◆なりたい職業1位は会社…#tbs pic.twitter.com/N18av9B9Uw
— TBS (@tbs_pr) March 20, 2021
少年たちの眼が年をとる[1983]なか、Z世代に対しては少なくとも自分は属してなかろうな程度のふんわりした認知でしたし。選評にもあったとおり、X,Yときて確かにZだけが普及しているのは面白いですね。はるか後ろを照らすのはあどけない夢[2000]です。
検証結果
というわけで入賞10語のレビューとともに「レビュー記事に中島みゆきの歌詞自然に盛り込むこと可能説」を検証してみました。ばれてなければ説立証です。プレイリストは記事末尾に付けます。
パート2:「選外」の3語
五十音順でいきます。
じゃないほう(飯間)
Wikipediaを見ると、アメトーークの「じゃない方芸人」初回放送は2009年らしいです。
芸人さん以外でも
今日のアド街西新井大師、じゃないほうの西新井な。
— どどどどれっど (@trendred_dan) January 11, 2014
こういったパターンで「じゃないほう」を使うのもまあ、ごく普通の使い方に思います。「じゃない方の彼女」の放送にかこつけての、半ば苦しまぎれのノミネートだったんでしょうかね。
それでも大きな文脈をたどると、「選外を選ぶ」というほこ×たてな営為にハマってるのがありです。「じゃないほう」を今年の新語「じゃないほう」として選出するのは洒落が利いてます。
鼻マスク(小野)
選評には
「鼻マスク」と言えば鼻にマスクをしているかのようですが、実際は「鼻出しマスク」であるところが不思議です。「あごマスク」が「マスクをずらしてあごにかけた状態」であるのと対照的です。
とありました。
私も「鼻マスク」と「あごマスク」をネタにしようとして、吹く前に「三省堂国語辞典第七版」のアプリでマスク検索したら
- アイマスク
- ガスマスク
- デスマスク
と全部、マスクと前に付く語の関係が違ったので「そっ閉じ」したことがあります。
黙食(大辞林)
このワードが世に出た経緯と関係なく、読み方が気に入らないのでどちらかと言えば嫌いなワードです。餌食や断食と同じように、この「食」の字は呉音で「じき」と読みなさいよって。
選評では「福岡市のカレー店」と、これまた実名を避けて触れていましたが、当のスプレッダーが
黙食は私の造語ではなく、子供の頃の給食指導で聞いた言葉です。意味も同じですね。仏教用語にもあるようでたぶんそちらが元ネタなんだと思います。「もくじき」というらしいですね。
出典:「黙食」がバズってアワアワしている件とメディア対応など|マサラキッチン いマサラすんません(最終更新:2021/01/30付)
と書いていましたんで、まあいいかと私はそこでおさめました。
前述の「今年の新語2021」は選考過程も楽しんだ|毎日ことば からです。
飯間さんが「コロナ色が強すぎる」と言っていた語
と、この「黙食」評もスプレッダーに引っぱられていますね。
念のため付け加えておきますと、その種の戒律めいた何かは古来その筋にあったろうにしても、「黙食」ワードを仏教由来とするのは眉唾ものです。
パート3:圏外の19語
最後に、圏外となった19語です。
うっかり選びそこねた語が隠れてないかがチェックポイントでしたが、おおかた順当だったかなという気がしました。
〇〇テック(新明国、大辞林(フェムテック))
2票でしたが圏外でした。いまいちピントの絞りづらい語なのかな。
ただ、technologyにしてもtechniqueにしてもこれまでは日本語に入ると「テク」とするのが主流に思うので、「テック」となっているところは直輸入感があって新しいです。
「テック」ってもしかすると、「多摩テック」(1961-2009)か《恋はハイ・タッチ-ハイ・テック》(EPO, 1984)以来じゃないですかね。
そこの新しさはありますけど、「うん。で?」ってなってしまいそうです。
以下、選考委員別に並べます。
小野正弘(5語)
圏外となったのは、世相語とマーケティング用語で言うところの「レイトマジョリティー」「ラガード」とで占められていた印象です。
SDGs
既に「ジラ2020」第4位に選出済みである手前味噌からものを言えば、ぼちぼち「今さら選んでもねー」な領域に入りつつある気がします。
なんなら
何年か前、わが新語「ジラ」でもなんならを候補にしたことがあります。けれども青空文庫収録作品になんならを求めて
いゝえ、ただ、あたし、東京へ帰りたくなりました、なんなら、一人で帰していただきます、さう云つてやつたの。
出典:岸田國士「驟雨」(初出1926)|青空文庫
みたいな用例を見るうちに、現今のなんならが新しいのかどうかよくわからなくなって結局は取り下げたのでした。
よしんば新しさを認めるにしても、
島田泰子 副詞「なんなら」の新用法 : なんなら論文一本書けるくらい違う|「二松学舎大学論集」第61号(2018)
が出たのが2018年3月なので、そこからするとtoo late感はあります。
ブースター接種
うーん時事性だけかなあ。
副反応
前述の記事からすると、「ブースター接種」ともども、人流よりもこれらに小野さんは「辞書編集者魂をかき立てられた」って話になりますけど、それでいいんですかね。
やつ
ハライチの岩井勇気さん的な「やーつ」なのかな。どういう「やつ」を指すか量りかねるので、聞いてみたいのはあります。
飯間浩明(5語)
新語は新語でいいんですが、いろいろ細かすぎて選から漏れるべくして漏れた印象です。
インクルーシブ
見聞きする場面がじわじわ増えてるとは思いますが、インパクトは弱めですね。
ギルトフリー
いい着眼点だなとは思います。でも乗っかりづらいです。なんだろう。
私個人のことを言えば、「ギルト」の感覚がいまいちつかめていなのが影響しているかもしれません。
○○してもろて
「してもらって」の意味ではなく、「してやって」「してくれ」と命令に近いレベルの依頼での用法ってことなんですかね。関西圏ならわりと受け入れやすい範疇の表現なので、自身ここらの新しさには鈍感かもしれません。
ライバー
「ライブ配信をする人」のことかな。「ラブライブ!の好きな人」もライバーみたいですが。
これも着眼点はいいと思うんですが、なんだろう、ワードとして基礎点が少ないっていうか、麻雀でいえば「タンヤオのみ」みたいな?
形容詞のliveにrが付くのは日本式を感じます。臨海副都心が好きな人はお台場ーっていうのかな、などとオヤジギャグを放っており。
レベチ
段違いを略した「だんち」の新ラベルの印象です。使用者層の広がりがほしいですね。
『新明解国語辞典』編集部(6+1語)
エコーチェンバー
2017年の時点でCollinsがWord of the yearにノミネートしているので、出遅れ感はあります。
GIGAスクール
出元を調べてみると、文部科学省2019年発のワードみたいです。
乗っかると一緒にすべったみたいになるので、選びづらいのはありますね。
キャンセル
「キャンセルカルチャー」を推すならまだしも、単に「キャンセル」だったらただただ世相の話になってしまいますね。
ハウる
動く城なら聞いたことあります。でもそれじゃなさそう。英語のhowlから来てるのかなと用例を探すと、まだまだ特定ジャンルの用語の段階でした。
BAN
「垢BAN」みたいな用法、たしかにありますけど、英語て。逆にそこを評価してのノミネートってことですかね。
ラグい
知りませんでした。lagとrugどっちだろうと思いながらTwitter検索してみると、ほとんどの用例にゲームプレイ動画が付いていました。なるほど。
ジャンルを超えたら、ランクインもあるかもしれません。泳がせて様子見とします。
『大辞林』編集部(2+1語)
オリパラ
両者「にこいち」で言うのが新しいってことですかね。にしても時局におもねりすぎでしょ。
ヤングケアラー
「ジラ2021」では第8位に選びました。語釈に面白みを込めづらくてこちらでは圏外だったのかなというのはあります。
おまけ:選考委員「調和の霊感」
選考委員それぞれの選出した10語の「入賞」「選外」「圏外」3グループへの分布状況は、次のとおりでした。
- 小野 {4,1,5}
- 飯間 {4,1,5}
- 新明国{3,0,7}
- 大辞林{6,1,3}
2020はこうでした。
- 小野 {3,3,4}
- 飯間 {9,0,1}
- 新明国{3,4,3}
- 大辞林{1,3,6}
昨年より委員単位での入賞語のばらつきは少ないです。スプレッドシートのcorrel関数で得票数と順位の相関係数を求めてみると、-0.69でした。若干ですが、昨年の値(-0.62)より相関が強くなっています。
それに昨年のデータと違い、各者のウエイトをいじってみても相関係数の絶対値は上がらず、むしろ下がりました。大辞林の票のウエイトを少し上げると-0.71ぐらいにはなるんで「大辞林がんばった」とも言えそうですが、この水準なら誤差の範囲に思います。
そんなところです。ご静聴ありがとうございました。
プレイリスト(登場順)
中島1978
世情 (中島みゆき ライブ リクエスト – 歌旅・縁会・一会 -)
中島みゆき
¥255
中島1986
やまねこ <「一会」(いちえ)2015~2016‐LIVE SELECTION‐ver.>
中島みゆき
¥255
中島1983
ファイト!
中島みゆき
¥255
中島2000
ヘッドライト・テールライト
中島みゆき
¥255
中島1993
慟哭
中島みゆき
¥255
中島2003
宙船(そらふね)
中島みゆき
¥255
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