To My Mother
日夜ネット世間に現れるクリエイティブな日本語を鑑賞するシリーズ、今回のテーマは「キャッチャー」です。
はっきり言って、デイヴィッド・カッパフィールド的なしょうもないあれこれを知りたがる人のために、その手の話をする気満々なのです。
報知新聞社 阿部慎之助(読売ジャイアンツ) 2020年 カレンダー
キャッチャーがどこで生まれたか?
ある日こんなツイートが目に止まって読みました。
書きました。
宇多田ヒカルの歌詞にモヤモヤしたのでその勢いで。
J-POPが新聞に対して厳しすぎる理由について考えてみました。
J-POPが新聞を殺した – 森の掟https://t.co/GcNrr49idF— ハシノ「マツコの知らない酸辣湯麺の世界」 (@guatarro) April 4, 2021
J-POPが新聞を殺した – 森の掟(2021/04/04付)
目を引いたタイトルは落語のまくらみたいなもので、趣旨は「みんな紙の新聞読もうよ」ぐらいに理解しました。
それはそれとして、日本語公安警察(私のことです)がマークしたのはこの部分。
だけど、あまりにも言葉としてキャッチャーすぎるために、
言葉としてキャッチャーすぎる?
ただしこのケースは変換ミスだったようです。同じアカウントを探すと、つまらない用例もありました。
ケミカルの映像がキャッチーすぎて膝の上の幼児が寝ない
— ハシノLL教室 (@guatarro) August 22, 2020
華麗にスルーされたキャッチャー
記事URLをシェアしているツイートのうち、この前後を引用しているものをいくつか見ました。一例です。
ツイストがありおもしろい文章だ…!
“「書を捨てよ町へ出よう」は、捨てるべき書が手元にあるからこそ意味がある言葉。
だけど、あまりにも言葉としてキャッチャーすぎるために、最初から書を読む気がない人間にも届いて、このままでいいんだと思わせる力も持ってしまった。” https://t.co/0NdVbigOqv— 伊藤 大地 / Daichi ITO (@daichi) April 6, 2021
ここのくだりをピックアップしたツイートはどれも、私が読み取る限りみんな「なるほどそうだ」「まったくだ」と我が意を得たり的ニュアンスでした。キャッチャー完全スルー。
この一方で、下の記述に対しては
「稲葉浩志」と複数ツッコミが入っていたのとは好対照です。
おー、みんな言葉がキャッチャーでいいんだ~。と感慨を覚えたのでした。
要約:Executive Summary
- ネット世間には、言葉がキャッチャーな人たちがいます。
- 変換ミスかもしれませんし、本当にキャッチャーかもしれません。
- なんでキャッチャーかというと、語彙が飽和してしまって、キャッチーを受け入れる余力が残されていないのだと考えます。
- 人の能力は有限です。語彙力もまた有限です。
キャッチャーの誕生
キャッチャーのことは2009年のQA掲示板に載っていました。遅くとも2000年代後半にはキャッチされていたと言えます。
「ポップでキャッチャーな」のキャッチャーの意味を教えてください|教えて!goo(2009/01/03付)
余談ですが、Google Docsを使っていると「キャッチャー」のところに修正候補が出てきました。
今どきはこんな校正支援までしてくれるんですね。
チャー?チー?
2010年付の質問からです。
キャッチーなメロディー?キャッチャーなメロディー? – チャーとチーってどっちが正しいんですか?|Yahoo!知恵袋(2010/09/06付)
今日「この曲すごくキャッチャーだよ」っていったら「野球かよ!それを言うならキャッチーだろ」と言われました。
そりゃ言われますね。ついていた回答も、想像の範囲どおりの内容でした。
そこからの「質問者からのお礼コメント」欄で
そうでしかた^^
5年間ずっと勘違いしてました。
と、さらにひとボケ加える、時代を先取りしたテクニックもあったり。いろいろ先駆的な書き込みでした。
ちゃ~
キャッチャーの半信半疑を楽しむ
キャッチャーを味わうアカウントもありました。
どこで見かけたのかは忘れたんだけど、「とてもキャッチャーなメロディー」という誤字を見かけたのを時々思い出してはじわじわ来てる。
— Luuc1A@太鼓公募「Do’n where DONK」 (@BUNvsBLANC) March 22, 2021
いいですね。ただ、「誤字」と安易にジャッジするのはどうかなと思います。
たしかにスマホの予測変換なら間違ってキャッチャーを選ぶこともあるでしょうし、
キャッチー!!
— こう (@hotelkong1) April 1, 2021
みたいに自分で返信を入れていたら、変換ミスによる誤字だったのはわかります。
けれどいろいろ見ていると、どうもミスばかりでもないような感触があるのです。
たとえばこちらのキャッチャーは、
欅坂46表題曲の中で「風に吹かれても」のライブでの出塁率の高さは異常
キャッチャーなイントロとサビ
構成の良いフォーメーションダンス
広い会場でも展開できるソロパートの存在
コールの入れやすさこの曲無いと欅坂46のライブに来た気がしなくなってきた#欅共和国2019#風に吹かれても
— 欅丘46 (@nogihill46) July 5, 2019
「出塁率」比喩からの流れを意識したものにも見えますし、
ダースレイダーさん、プチ鹿島さんのYoutube「ヒルカラナンデス」聞いてたから大体想像はついてたが、記事をちゃんと読んだら想像以上に反吐が出そうなほど最悪だった。TVの報道が1年前のLINEの内容ばかりで、実はそんなの大した内容ではなくキャッチャーなだけだ。(続く) pic.twitter.com/X27cuYCjFs
— 刈屋さちよ (@kaSa3) March 27, 2021
上の用例の場合、キャッチャーのまま文意も通じます。「読者を捕まえるもの」の意味に使ってるようにも読めるからです。
さらには
塩害台風
今日、ニュース23の取材で台風24号についての印象を問われ、思わず塩害台風と答えました。災害を防ぐにはキャッチャーな言葉が必要だと思います。
塩害は直接人命に関わる事がないので見過ごしがちの災害ですが、経済的損失は重大なのだかも知れませんね。#塩害 #台風24号— 森田 正光 (@wm_morita) October 5, 2018
私のTLにいろいろな意見が流れてくるけれども、宣伝技術者をめぐる歴史に照らすと、公共機関や官にはキャッチャーなキャラクターはむしろ使わせない方がいいと思いますよ。また『翼賛一家』とか『フクちゃん』みたいなことになったら目も当てられない。
— 若林 宣 (@t_wak) October 4, 2018
そういえば、マンガはマンガとして読んでいたけれども(というほどたくさん読んでいたわけではないが)、テキスト主体の本ににやたらキャッチャーな絵がついていると気が散って読めなかったな。
— 若林 宣 (@t_wak) October 24, 2018
みたいに、キャッチャーだけを使っていたアカウントだと、正直よくわからないんですよね。
ほかにも、botアカウントがこんなキャッチャーも発信していて、
ただ単にキャッチャーでポップ、そんで派手、みたいな曲を提供しようとするならそれで出来るのかもしれないけれど、やっぱり、聴く人にとって今面白いと思ってもらえることをやりたい。
— 中田ヤスタカ語録bot (@le_mon_nikki) August 15, 2013
出典探したら、本当にキャッチャーだったりして。(強調引用者)
-先ほどアルバムを作る際楽曲のストックをしないとおっしゃっていましたが、capsule名義ではなくても他のプロデュース作品においてもそのようなスタンスなんでしょうか?
中田「そうですね。ほんと、基本的にストックを持たないんですよね。(略)プロデュースすることになったアーティストを見て、“今、このアーティストにとってどんな作品がいいかな?”というところから始めようと思うと、ストックからっていう風にはならないと思うし。ただ単にキャッチャーでポップ、そんで派手、みたいな曲を提供しようとするならそれで出来るのかもしれないけれど、やっぱり、聴く人にとって今面白いと思ってもらえることをやりたいから。」
出典:中田ヤスタカ(capsule) Interview part1|HMV&BOOKS onlineニュース(2007/12/05付)
こういった向きには、たとえば村上春樹さんが翻訳したサリンジャーのベストセラー小説も、キャッチャーな作品なのかもしれませんね。キャッチャーだけに。
つづく
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