「バイデンが井戸に毒」を差別扇動認定した「心のケガ人」に何が起きていたか?

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ツイートに点火し油を注いだ「心のケガ人」たち―ひろしまタイムラインの教訓
シュン@ひろしまタイムラインの「朝鮮人」ツイートが騒ぎになって以来、日記の底本を含め、全部で20冊以上の資料を読みました。読んでいちばんしっくりきたのは、この図でした。

で、

  • 差別扇動の判定精度が低い人は、心のケガ人である確率が高い

との知見を得ました。

この知見を、津田大介さんが差別扇動のオオカミ少年と化したケースに適用してみます。

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画像は、バイデン氏が被災地の仙台訪問/日米同盟の結束誇示|四国新聞(2011/08/23付)より

※写真と本文はあまり関係ありません

要約:Executive Summary

心に傷を負った心のケガ人の中では

  • 実際に過去にあった差別事件、あるいは現在進行形で存在する差別事案
  • それら現実の差別から自ら複製して作り出した想像上の差別

この両者が渾然一体となっており、うまく仕分けられないようです。

調査記録

ミス・ジコチョー(ウソ)の調査ファイルからです。

経緯

ことの経緯を簡潔に振り返っておきます。

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画像は@Tapi_Oca14より

2021年2月13日深夜に東日本で起こった地震のあと、おねロリキメセク天皇さんによる

バイデンが福島の井戸に毒を投げ込んでるのを友達が見ました!

との文面のツイートに、津田大介さんが

と反応した結果、発信元のTwitterアカウント@kimehitoが凍結されました。

【2021/04/01 追記】私の環境から上記アカウントにアクセスできなくなったのは2月14日の昼ごろと記憶しています。そこまでの経緯が不透明なところもありますので、「凍結に至りました」に訂正します。以後、同様に訂正済みです。(追記ここまで)

元のツイートを当記事に埋め込めていないのはそういう事情です。

定義

次のとおり、この記事では差別と扇動をそれぞれゆるいめに定義して使います。

  • 差別とは、誰かを不当に低く扱うこと
  • 扇動・煽動とは、人に対して何か特定の行動をとるよう仕向けること

評価

上の定義に照らして2つのツイートを評価します。

  • おねロリキメセク天皇さんによるツイートは、バイデンさんへの差別と辛うじて言えるかもしれないにしても、扇動とは認めづらく、
  • 一方で、津田大介さんによるツイートは、差別の要素はなくとも、はっきり扇動です。

したがって本件での津田さんの姿は、ことの重大性の点で決して同列には置けないものの、

  • 「流言に反応して無辜の他人に攻撃を加えた」点で、あるいは
  • 反応自体を攻撃と評価しなくとも、少なくとも扇動をした点で、

関東大震災発生後に朝鮮人らを虐殺した官憲や自警団のさまといい具合に重なっています。

関東大震災後に起きた惨劇を再現させてはならないとの動機で行ったであろう津田さんの呼びかけが、関東大震災後に起きた惨劇のプチ再現として実を結びました。因果なものです。

津田大介さんに何が起きていたか?の検討

どうしてこんなことになってしまうのでしょうか。津田さんの言い分を検討してみましょう。

津田さんの言い分(1)もたらす悪影響

一般論としては賛成できます。「差別」(しかもこうした災害時に)をネタにすることは、不謹慎で悪趣味ですよね。

問題は、本件に当てはめて考えたときです。不謹慎で悪趣味な元のツイートが社会と被差別対象(バイデンさん?)にもたらす悪影響ってなんなんですかね?

そこが共有できていませんし、できたときもそれは違うんじゃないですかとなる気がしています。

津田さんの言い分(2)結果として起こること

自分なりに、津田さんいうところの「広義には差別煽動」の「結果として起こることに目を向け」てみたのですが、狭義の差別煽動と同じ結論にはなりませんでした。「結果として起こること」として、津田さんは何を想定してたんですかね?

考察

津田大介さんは、元ツイートそのものよりも「もたらす悪影響」や「結果として起こること」を見越して反応したように受け取れます。

よって津田さんが実際に反応していたのは、もっぱら現実の差別事案から自ら複製して作り出した想像上の差別、言わば差別のクローンだと言えます。

なので「もたらす悪影響」や「結果として起こること」が、社会とか被差別対象とかでなく津田さん自身において、であるならば、話はつながります。

トラウマメガネで見る津田大介さん

津田大介さんを「心のケガ人」認定し、何が起きていたか?を探ります。

トラウマの三角形

前の記事に続いて、野坂祐子『トラウマインフォームドケア』(2019)p.99に登場する「三角形モデル」が理解に役立ちます。

この図に当てはめると

  • 地震発生からの「バイデンが福島の井戸に毒」ツイートまでが、リマインダー(きっかけ)
  • 「悪質な差別煽動。皆さん通報しましょう。」ツイートが、トラウマ反応(症状)
  • そして一連の出来事には表れていない部分が、「トラウマ体験」

となります。

過去の体験が今,影響して、津田大介さんは「バイデンが福島の井戸に毒」ツイートにまで強く反応した。こうとらえ直すと、腑に落ちる感覚があります。

類似のケース:ビル火災に巻き込まれた男性

「類似の内容を組み合わせた架空の事例」ではありますが、『トラウマインフォームドケア』には、ビル火災に巻き込まれ九死に一生を得た男性の「1年後」のケースが記されています。

愛煙家ではあったが,ライターを使えずタバコを吸えなくなった(略)。ある日,喫茶店で隣に居合わせた客がタバコを吸おうとした途端,男性は突然わめき声を上げ,一緒にいた同僚や店員に取り押さえられる騒ぎになった。(p.34)

この男性に「何が起きていたか?」を、同書はこう解説します。

 隣の客がつけたライターの炎の一瞬のゆらめきとわずかなガスの臭い。それらを感じ取った瞬間,男性の目には真っ黒な煙が立ちこめるのが見え,目や喉には強烈な痛みが襲い,呼吸ができなくなった。動転して,「この場から逃げなければ」という一念で力を振り絞ったところ,周囲の声かけで,ふと我に返ったのだった。(p.34)

このケースの男性と同種のパニックを津田大介さんが起こしていた可能性も念頭に置く必要がありそうです。引用つづき。

もちろん,そのとき喫茶店では火事など起きていないし,煙も立っていない。しかし,男性はそのとき,まさに火事の最中にいる感覚に襲われたのである。(p.34)

津田さんもまた、そのときまさにかつての差別事件である、朝鮮人虐殺現場の真っただ中にいる感覚に襲われたのかもしれません。しかしそれは、どれほど現実の差別事件とそっくりな姿かたちをしていても、津田さん自身が生み出した想像上の差別、差別のクローンです。

トラウマ体験へのアクセスは「素人さんお断り」

このように、私からは過剰とも思える反応を生じせしめるほどに強烈な、津田さんの「トラウマ体験」とは、なんでしょうか。しかし残念ながら、次の記事を読むとクソ素人の私が安易に立ち入れる領域ではなさそうです。

「被害者支援」を軽々しく口にする人たちの特徴
私は社会福祉学のマクロ(政策)を中心に研究しています。研究には行動経済学、医療経済学、公衆衛生・疫学、データサイエンス、社会保障などのさまざまな専門知が必要です。本稿では、DVや児童虐待によりPTSD(心…

「被害者支援」を軽々しく口にする人たちの特徴(和田一郎)|東洋経済オンライン(2020/06/11付)

「フォロワー数」言説の変遷 2012-2021

そこでトラウマ体験の探求に代え、フォロワー数に関する津田さんの言説を拾ってみました。足かけ10年分からピックアップして時系列で並べます。

といったトーンに、2018年以降変化が見られます。

また、前掲記事の以下のような記述に、津田大介さんに通じるものを感じもします。

凄惨な事件が起こったとき、SNSで過剰に反応する人がいます。事件発生直後で背景もわからない、でもつい反応してしまう。(略)何か反応しなければ自分の思いが消化できない、自分の何か欠けたパーツを埋め合わせるように、書き込みをしなければならない、自分自身のトラウマ反応です。

SNSに書き込みをすると、攻撃されたりひどく落ち込むこともあるがやめられない。(略)そして義憤に駆られるトラウマ反応を利用する人に搾取されるのです。

出典:「被害者支援」を軽々しく口にする人たちの特徴(和田一郎)|東洋経済オンライン(2020/06/11付)

トラウマ反応を利用するメディア(1)共同通信

「搾取」とは違いますが、本件でもトラウマ反応を利用する人はいました。メディア企業です。

半月ほど経ち、いくつかの地方紙のサイトにこんな記事が載りました。テキストは埼玉新聞の記事キャッシュからです。

 深夜の地震発生後、ツイッターには「バイデンが福島の井戸に毒を投げ込んでいるのを友達が見ました」という内容が書き込まれた。バイデンが米大統領を指すとすれば、事実無根は誰の目にも明らか。一方でこの投稿は、歴史上の惨劇を連想させる内容にもなっている。

出典:災害時のデマ、巧妙に 専門家「根底に差別意識」(2021/02/28付 配信:共同通信)

 一方で、今回の投稿には批判が殺到した。ジャーナリストの津田大介さんは悪質な差別扇動に当たるとして、ツイッター社に問題を報告する「通報」を呼び掛けた。だが「明らかにネタ(冗談)だ」と投稿を擁護する書き込みもあった。津田さんは「冗談だと分かるが、在日の人たちを傷つけることは変わらない」と話す。

関東大震災後の「朝鮮人が井戸に毒」すら実態のない流言だったというのに、「バイデンが福島の井戸に毒」の流言を、在日の人たちと結びつけるわけですか。素晴らしい想像力に驚愕します。

といった具合に津田さんを難詰する方向でも論を進められますが、心のケガ人に対してあまり適切でないアプローチであるのは、既述のとおりです。

ところでこの記事に関してはひとつ興味深い事実があります。クレジットにあったように、これは共同通信の配信記事だったのですが、配信元の共同通信からは、当の記事について全然ネットでの発信がなかったことです。記事タイトルでサイトやTwitterアカウントを探しても、ヒットは皆無でした。

比率がどの程度かは不明ですが、ネット層とは別に「紙面でニュースを読む人」用に配信記事をより分けているってことですね。しっかりセグメントされています。「紙面だけで読む層」をターゲットに、「ネットは怖いところ」の印象を強化させ、かりそめの安心を得させる手口、と見立てるのはひねくれすぎた見方でしょうか。

ついでに

「バイデンが―」の投稿はその後、削除された。

の、微妙に事実を矮小化した書きぶりも気に入りません。事実を曲げずに、アカウントごと凍結みたいに書けばいいじゃないですか。アカウント殺しの一端を担ったのですから。

トラウマ反応を利用するメディア(2)正論編集部

津田さんにはかつて、別件でこんなオファーもあったようです。

事の是非はいったん措いて、どちらもそういう商売だってことなんでしょう。

津田大介さんにとって、このような人士らに囲まれる環境に身を置くことは、精神の安寧に決してプラスに貢献しないであろうどころか、むしろマイナスに思えます。

その他の論点など

本題から外れた部分をいくつか。

yet another 心のケガ人

本件の観測範囲では、私の「心のケガ人リスト」入りに名乗りを挙げていた人がもうひと方いました。こちらの記事筆者の方です。

「バイデンが井戸に毒を入れた」は、なぜ差別扇動投稿なのか
<10年前の3.11を思い出させる強い地震が東北地方を襲ったとき、混乱と不安に乗じてマイノリティーに対する暴力を扇動するデマツイートが拡散された>2月13日深夜、福島県沖で最大震度6強を観測する地震...

「バイデンが井戸に毒を入れた」は、なぜ差別扇動投稿なのか(藤崎剛人)|ニューズウィーク日本版(2021/02/17付)

読んでも肝心の「なぜ」がわからない記事でした。長くなるので具体的な検討は省き、筆者によるツイートの紹介ですませます。

記述がねじくれまくっていて、「安全圏からゲラゲラ笑ってるマジョリティ」と何を一緒にするのか、さらにはなぜそれが失礼にあたるのか、私の乏しい読解力では皆目読み取れません。

パニックを起こして、自身の感情の動きに追いつかない状態で出されたものと理解しておきます。

noteのクソ加減

おねロリキメセク天皇さんが2/14付で出した「これって差別の扇動なのか?」は、現在はリンク先のWebアーカイブで閲覧できます。

元はnoteで発表された記事なのですが、当初の発表媒体であったnoteでは現在閲覧できなくなっています。賛否はあるでしょうが、この記事自体はまじめで切なる問いかけです。

この一件から、noteは外部の圧力から利用者を守らず、議論すら封じるクソサービスだとわかりました。

「フェイク式の崩壊」現象の検討は別途

さらに、ごく少数の方のみが触れていたにとどまるマイナーな、でも大事な論点があります。

元のツイートが「友達が見ました」となっていることです。私の用語で言えば、高次フェイク式の構文で記述されています。

ところが論評の過程で、この「友達が見ました」部分が実に安直に切り捨てられました。私の用語で言えば、「フェイク式の崩壊」が起きています。誇張込みで私に言わせれば、まるで素手で劇薬をさわりにいくに等しい、無謀な行為に思えます。

心のケガ人たちの認知特性の1つに挙げられるか、検討を続けます。

まとめ

この記事で津田大介さんらを「心のケガ人」と認定したのは、悪く言えば決めつけです。

けれどもそう前提し「トラウマメガネ」を通して見てみると、津田さん発のツイートを筆頭に、それまで不可解に思えた言説の多くが、賛同はできずとも理解可能なものとなりました。

というわけでこれを上書きできるだけの優れたモデルが出ない限り、この理論の有効性は維持されます。

最後に、青木省三『ぼくらの中の「トラウマ」』(2020)「第7章 安全感・安心感を提供する――周囲の人にできること」にあった金言を再掲します。

語られない出来事があり、それがトラウマとなってトラウマ反応が起こっているのではないかと考えてみる必要がある。

急にパニックになったり、怒り出したりする人に、トラウマがあるとわかれば、その人の苦しみや言動の変化の原因が理解できる。そうすると、不要な誤解や衝突を避けることができる。周囲の人が、気づき、わかることが何よりも大切なのだ。

支援は、その人を変えるためのものではなく、その人がその人らしく生きることを支えるものである。自分の価値観や考え方を押し付け、その人を変えるものではない。

これからも、津田大介さんの苦しみとメンタルヘルス状態を遠くから見守ってまいります。

そんなところです。ご静聴ありがとうございました。

2020/04/01追記

記事公開後、例によって更新を知らせるツイートをしましたところ、

半日経たないうちに津田大介さんが私のTwitterアカウントをブロックしていました。

以来「人が自ら不幸になる権利もまた、最大限認めるべきか?」が私の中の課題となっています。

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