コピペだらけの名言業界は、フェイクの温床でもあります。
過去、当ブログで調査報告したものを中心に「本当は言っていない名言」を集めてみました。
画像はいらすとやより
はじめに2、3前置きです。
紹介基準
「本当は言っていない」と題してはいますが、紹介基準としては、単に「実は言ってない」だけでなく、「ではいつ頃、誰が言い出したのか?」「どのように伝染していったか?」など、生産流通の過程が多少なりとも解明されているものに限りました。
分類
「本当は言ってない」には、大別すると次の2タイプがあります。さらに細かく見ると3タイプに分けられます。
二次創作タイプ
まず、別人が創作した「二次創作タイプ」です。このタイプは、文言そのものが創作です。関与した人数は、1人から大勢までバリエーションがあります。
すり替えタイプ
もう1つが、発言者を偽装した「すり替えタイプ」です。もとの発言者が実在することが前者との違いです。発言者を正しく帰属させれば、ステートメント自体はフェイクでなくなる(かつ、面白くもなくなる)タイプともいえます。
ミックスも
そして両者をミックスしたタイプもしばしば見られます。
本当は言っていない名言たち(順不同)
では順にまいりましょう。
余裕のある方は、「二次創作」か「すり替え」か、はたまた「ミックス」タイプか、それぞれどのタイプのフェイクかを当てる「ききフェイク」も合わせてお楽しみください。
最も強いものが生き残るのではなく最も賢いものが生き延びるわけでもない。唯一、生き残るのは変化できるものである
2009年以降に出所の研究が大きく進んだ、言ってない名言です。
見出しの文言は、北城恪太郎さんの2000年9月の講演録から取りました。2020年の現在もなおスタンダードの1つとなっています。
系譜をたどると、もとは別人の言葉を「すり替え」たものが、細部に変異を生じつつ整えられていったことがわかります。その点でミックスタイプに分類できます。
十二、十三歳くらいまでに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅んでいる
まるで老舗の秘伝のタレのように、文言を入れ替え継ぎ足しでできあがった「共同創作」の代表格です。外国人の名を借りてはいますが、日本独自の言ってない名言です。
文言は、竹田恒泰『現代語古事記 ポケット版』(2016)p.6から取りました。しかし、この文言に竹田さんの創作は1つもありません。
ご当人の名誉のために付け加えておきますと、ここにときどき、「百年以内に」と期限がつくことがあります。この期限付きバージョンが収集できた最古の用例は、2010年の竹田さんの著書です。「百年以内」は竹田さんオリジナルの創作だと言ってよさそうです。
滅亡する民族の3つの法則(共通点)
このかたわら、同一人物に擬せられている別の「言ってない名言」があります。
過去の2回にも増して、一層の熱弁を時間の限り奮っていただいた今回の講義では「滅びの3原則」について、身振り手振りを交えて教えて下さりました。
1.理想を失った民族は滅びる。
2.全てを物の価値に捉えて、心の価値や豊かさを忘れた民族は滅びる。
3.そして、自国の歴史を忘れた民族は滅びる。
出典:中條高徳:「日本に遺(のこ)す」(2010年5月)|rongoken.com
などを見るに、ステートメント自体は中條高徳が言い出しっぺと見られます(未確認)。
これを第三者が勝手にすり替えた結果、別人の言葉として流通しているようです。困ったものですね。ここらの裏が取れれば、「すり替え」タイプ名言となります。
「I love you」は「月が綺麗ですね」
人の成果にただのりします。
こちらの記事で、経過を詳細に調べてありました。
私個人は、このフェイクの普及に貢献したのは、「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディング曲になったこれじゃないかなと思っています。
FLY ME TO THE MOON
Claire
¥255
三題噺よろしく、「I love you」と「月」と「言い換える」が揃っていますし、それにほら、エヴァンゲリオンのファンの人たちって、こういう話に食いつきよさそうじゃないですか(ド偏見!)。
天災は忘れた頃にやって来る
中谷宇吉郎が、師の言葉として「天災は忘れた頃来る」とうっかり捏造したのがことの始まりのようです。うっかり二次創作タイプです。
いつ頃から五七五に整った形が出てきたかは、未調査です。
公的なアカウントもフェイクを混ぜてきます。こんな具合です。
「天災は忘れた頃にやってくる」という警句を残した、高知県出身の物理学者寺田寅彦の命日は昭和10年(1935)の大晦日です。画像は「東京帝国大学教授寺田寅彦賞与ノ件」。令和2年は災害の少ない年になりますように。
皆さま、本年もありがとうございました。どうぞ、良いお年をお迎えください。 pic.twitter.com/b61EIviaeu— 国立公文書館 (@JPNatArchives) December 31, 2019
このケースは、中谷と同類の「うっかり」タイプだと思料しますが、文脈によっては公的「だからこそ」フェイクを流すことも十分にありましょう。おのおのがた、油断めさりませぬよう。
美しい村など、はじめからあったわけではない
レファレンス協同事例データベースの未解決事例を追跡しました。
関与したのはほぼ単独の人物に絞られる「二次創作」タイプです。
今回軽く検索してみましたが、ネットからは、2016年に公開して以降の用例がほとんど拾えなくて、いくらか寂しい気持ちもあります。
愛の反対は無関心
エリ・ヴィーゼルの発言を別人へ「すり替え」たタイプです。
さらに別人の著書にさかのぼれるとの情報もありました。私は未確認ですが。
まとめ
つまらない真実よりも面白い嘘を好むのが、ヒトの習性みたいですね。
今後も何か調査したら、あるいはいい研究成果を見つけたら、ここに足していきます。
その時まで、ごきげんよう。
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