こんにちは。
「断捨離」という用語の出自を誤解されている方がしばしば見受けられますので、出典マニアが正しておきます。
タイトルに書いたとおり、「断捨離」は、沖正弘(1921-1985)の言葉です。
要約:Executive Summary
- 「断捨離」は、やましたひでこさんの造語ではありません。
- 「断捨離」は、沖正弘(1921-1985)の言葉です。沖の著書『ヨガ総合健康法(上)』(1976)『ヨガ総合健康法(中)』(1977)で「断捨離」が使われているのが確認できました。
- 一方、特許情報プラットフォームでの検索結果によると、やましたさんが最初に「断捨離」を商標として出願したのは2003年のことです。ですからやましたさんは「断捨離」の考案者でもありません。
- 「断捨離」を好くも嫌うも、あるいは断捨離から断捨離するも、どれも自由でしょうけれど、いずれであっても正確な事実認識に基づいて行いたいものです。
※写真と本文は関係ありません
はじめに:登録商標「断捨離」にザワつくブーム2019
狭く限られたコミュニティ内では周知の事実であっても、それ以外の世間一般にほとんど知られていない。なんて話は、よくあります。
- 「断捨離」は登録商標である
という事実もその1つと言えましょう。当ブログで2015年11月に公開した記事
登録商標「断捨離」にザワつくのが、いま静かなブーム【Tweetまとめ】
も、1日あたりページビュー1ケタが通常ラインだったんですが、この5月下旬からアクセスが突出して増え、多い日は100倍以上になっています。
上記記事へのアクセスの発生源はこのあたりです。1つはこちら。
『ナカイの窓』が「断捨離」使用でトラブル、終了にも影響か|ニュースポストセブン(2019/05/22付)
もう1つは、通告があり「断捨離」のワードを自身のコンテンツから削除したことをTwitterで公表されたYouTuberやブロガーの方がいたことです。波及して6月1週目のピークを作っています。
こちらの記事に、主な経緯とポイントがよくまとまっていました。
断捨離は言葉狩りで下ネタ化w? 商標登録とyoutuber動画削除問題|「趣味で家事やってます。」(2019/06/10付)
私自身もうすっかり収束したと思っていた“登録商標「断捨離」にザワつくブーム”が、2019年のいま、スケールを一段増して再来した感があります。まだまだ「知る人ぞ知る」レベルの情報だったってことなんでしょうね。
「断捨離」の起源をたずねて
まだまだ「知る人ぞ知る」レベルだった「断捨離は登録商標」という事実。
その権利者は『新・片づけ術「断捨離」』(2009)などの著者、やましたひでこさんです。
やましたさん本人も
「断捨離」を知っていても、「断捨離」が商標登録されていることを、その事実を知らないのが現実。
出典:似て非なるものは、まったく違うものより始末が悪い。|やましたひでこオフィシャルブログ「断捨離」(2018/09/01付)
と、この現実に憤懣やるかたないご様子です。
しかし、そこをクリアしている「断捨離®」上級者(笑)の中にもなお、次のような誤解がしばしば見受けられます。残念なことです。
よくある誤解
- 【誤解】「断捨離」はやましたひでこさんの造語である。
- 【誤解】やましたひでこさんは「断捨離」の考案者である。
どちらも誤りです。たとえばこんなツイートがありました。
コメント失礼します
自分もそう思います
何冊か著書を見ましたが そんな小さな人ではありませんただ、自分の生み出した言葉に 愛着があるから
誤解して使われたくないんだと思います
— ロックな哲学 たまご [チャンネル名] (@tamago_QOL) 2019年6月6日
「断捨離」という言葉が商標登録されているのを(お片づけクラスタの中でさえ)あまり知られていないことに驚いてる。
「言葉に執着している」という意見もあるみたいだけど、一般名詞ではなくやましたひでこさんが作った造語であるのは確かだし、それをビジネスにしているのだから当然だと私は思う。— なめこ@汚部屋片づけ中 (@tidyup08) 2019年6月6日
ヘェ〜こんなことになっていたなんて
そう言えばボクも古い記事で使っています。普通は自分の作った言葉がここまで広く浸透すれば、インフルエンサーって感じで嬉しいとか思わないのでしょうか?
変わった人ですね。
もう二度と使いたくないですね。
頼まれてもゴメンですネ
— ちゅうた (@cyuta0319) 2019年6月9日
「自分の生み出した言葉」「やましたひでこさんが作った造語であるのは確か」「自分の作った言葉」という各点、すべて事実誤認です。他の論点はスルー。
「断捨離」の起源に関する、ヨガ業界の(恐らく正確な)認識
やましたひでこさんは「断捨離」ワードの考案者ではありません。同じ話ですが、「断捨離」はやましたさんの造語でもありません。
少なくともヨガ業界の一部では、それは周知の事実であるようです。
『伝説のヨガマスターが教えてくれた 究極の生きる知恵』(2013)という本には、こう書いてありました。筆者クレジットは、龍村修さんです。※下線は引用者。以下同じ
ちなみに「断捨離」という言葉は、沖ヨガの本以外では出てこなかった言葉です。仏教の中には「断業」「捨業」といった言葉は出てきますが、それらをまとめて「断捨離」と言っているような文献は見たことがありません。沖先生の造語だと思いますし、また先生はそこに独特の意味をつけていました。ですから「断捨離」は、沖先生が言い始めて、やましたさんが広めていった言葉だと思います。(p.210)
また、あるヨガ団体が2011年に開いたセミナー合宿の案内には、こうありました。
今回のテーマは、総合ヨガの創始者、沖正弘師の教え「断捨離」。
ほかに、龍村修理事長の講演「沖導師の断捨離」、武藤吐無本部講師の講演「食の断捨離」、
出典:[PDF]断捨離・ヨガ 行法と哲学NPO国際総合ヨガ協会 第4回全国合宿(2011)
「食の断捨離」はよくわかりませんが、前の2者はすっかり「断捨離といえば沖なにがし」の風情です。
どちらも2019年のいまこんな記述を載せていたら、「断捨離®」の権利者であるやましたひでこさんか代理人の弁護士が、何か送ってきそうな不穏さもあります。
話が前後しました。「沖先生」「沖正弘師」というのは、
沖ヨガとは、日本におけるヨガの草分け的指導者である沖正弘師(1921-1985)が、古典的なインドヨガに東西のあらゆる宗教や修行法、日本の伝統文化、武道、東洋医学、民間療法などを組み合わせて体系化したヨガです。
出典:『沖ヨガ』とは|okiyoga.com
と紹介されていた、沖正弘のことです。
検証:断捨離が「沖正弘師の教え」は本当か?→本当
さて「断捨離」です。「沖先生が言い始め」「沖正弘師の教え」というのは本当でしょうか? 確かめてみました。
結論から言うと、今回の調査の範囲で「沖先生が言い始めて」かははっきりしませんでしたが、断捨離が沖正弘の教えであることは事実としてよさそうだと判明しました。その著作に「断捨離」の用例が複数存在したからです。
引用は、Google ブックス>沖正弘『なぜヨガで病気が治るのか ヨガ総合健康法(中)』(1977)からです。
治り救われるコツは、自己を知り、自己の喜べる生き方の工夫をすることである。(略)ヨガ健康法は、診断法即治療法即健康法即悟道法になっているのである。(略)しかし不自然因(罪業即病因)が身についているかぎり、この業がブレーキになるので治る力があっても治らないのである。この業因をのぞく方法が、断捨離を基本とした修正行法(別書に詳記)である。
(pp.7-8)
「即」は「すなわち」と読ませたい感じがします。余談でした。
同じく、Googleブックス>『ヨガ総合健康法(上):沖ヨガの考え方と修行法』(1976)では、
ヨガにはこの執着を除く方法として、断捨離行法と修正行法と瞑想行法とがあり、三つをあわせて浄化行法(クリヤヨガ)、またはアカルマ(無業)行法という。断食、断性、断財、捨家庭、離社会、放下心などである。
(p.196)
しかし普通生活を続けながら断捨離を行なうことは、よほど意志の固い人でもむずかしいことである。思う存分自分自身と対面し、自分の過去と対決して断捨離行法を完全に行なうために、昔から宗教的な道場があり、一生それを行なおうとする人が出家をする。ヨガ道場は、その練習と訓練の場所を提供しているところである。
(p.196)
という感じで、「断捨離」というワードがしばしば現れます。これらを沖の「教え」とするのも差し支えないかと思います。
狭いコミュニティ内では周知の事実であっても、それ以外の世間一般にほとんど知られていないことって、たくさんあるのですね。
※おことわり
私自身が界隈の事情にまるで疎いため、当記事では「ヨガ業界」とひとくくりにしております。「アレと一緒にするな」とする向きもあるやもしれませんがご了承ください。
やましたひでこさん、ヨガ業界では音なしの構え?
先ほど紹介した、2013年の『伝説のヨガマスターが教えてくれた 究極の生きる知恵』の「断捨離」にしても、2011年のセミナー合宿の「断捨離」にしても、「断捨離®」の権利者であるやましたひでこさんが知らなかったはずがないと思うのです。
わざと隠していましたが、やましたさんは前者の共著者ですし、
後者のセミナーでは講演を行っています。
[PDF]断捨離・ヨガ 行法と哲学NPO国際総合ヨガ協会 第4回全国合宿(2011)より
ところがやましたさんときたら、同書のあとがきでは
初めて「断捨離」の本を出版した当時、私の中には迷いや不安がありました。
周りには沖ヨガの大先輩がたくさんいらっしゃる中で、レベル的にお粗末な自分を自覚していましたし、そんな私が「断捨離」の本を出しても「何もわかっていないのに、こんな本を出して……」と批判されるかもしれないと不安だったからです。(p.218)
と、そして講師紹介の「やましたさんと沖ヨガ」のくだりでは
指導員歴35年。
本人談「けれど今は引退の身で・・・・、とても指導員とは申せません」。
[PDF]断捨離・ヨガ 行法と哲学(2011)
と、どちらもずいぶんと殊勝でしおらしく見えます。
ヨガ業界に対して、やましたひでこさんはこういうポーズを取ることにしているのかしらん、などとつい勘ぐってしまいました。ヨガだけに。
まとめ:ヨガと断捨離と商標ゴロたち
ちょっとこれみたいな感じで言ってみました。
当記事では、「断捨離」が元は沖正弘の言葉であったことを確認しました。
この世はうかつでテキトーでいいかげんな人であふれていますので、うかつでテキトーでいいかげんな一般人が、「断捨離」を商標登録したやましたひでこさんオリジナルのワードだとうっかり早合点してしまうのも無理もないことかもしれません。
しかしながら、かかる誤解が蔓延している現状については、発信側であるやましたさんサイドにも問題があります。たとえば、
amazonでの『伝説のヨガマスターが教えてくれた 究極の生きる知恵』の内容紹介が、「断捨離」考案者のやましたひでこ となっていること
オフィシャルブログのプロフィールに 『断捨離』の言いだしっぺ と、きわめてまぎらわしい表現をしていること
などがその証左です。「積極的な不作為」といいますか、当記事で正したような誤解を都合よく放置しよう、あわよくば招いてやろうとさえ感じられます。
商標権をタテにしたビジネスも大いに結構ですが、やましたさんにおかれましては、断捨離ビジネスに勤しむ労力の100分の1でもいいので、「断捨離」がご自身の造語だと誤解されている現状を憂い、その是正にも力を割いてもらいたいものです。
と書いてもたぶんやらないでしょうから私がやっておきました。
当記事ではとりあえずここまで。面白くなったらつづくかも。
ご静聴ありがとうございました。
「断捨離」にざわつく諸氏へおすすめ
『伝説のヨガマスターが教えてくれた 究極の生きる知恵』のやましたさんパート、とっても味わい深いのでおすすめです。
ですから私は、断捨離をユニバーサルなレベルにまで広めていって、自分からは手放す方向で行きたいのです。
――断捨離で「内在智」を磨く より
とか、名言連発です。
Kindle Unlimitedに登録すれば、30日間無料で読めますよ。ぜひ!
とそんな、長い長いアフィリエイト記事なのでした。
コメント
読めば読む程、悪質に思えるのは私だけだろうか。
他人の作った言葉を商標登録して商用独占なんて許される所業ではない。
訴えられた人は反訴で登録無効を主張するべきだ。
法的権利の乱用、悪用は許すべきではない。
何より沖正弘さんや遺族の方に対して本当に無礼で非礼な所業だ。