こんにちは。
これまでおざなりにしてきた「ネタバレ」問題の考察が、「シン・ゴジラ」体験を機に喫緊の課題となりました。緊急に嫁と話し合いを持った結果、だいたい次のような結論を得ました。
※写真と本文は関係ありません。
定義:「ネタバレ」とは?
「ネタバレとは何か?」を定義してみました。
文字で書くと、
作品体験の満足度が下がる事前情報
数式で書くと、
Sk < Su
です。
ここで、
- Sは満足(Satisfaction)の度合いを表す関数
- kは、ある何かを「知っている」状態(known)
- uは、「知らない」状態(unknown)
を意味します。次項で詳述します。
定義
変数
ある作品(映画・小説・マンガ・ゲームetc.)に関する
- 情報全体の集合をI
- Iを形成する個々の情報をi
- 作品体験の質をEq
- 満足度をS
と表すとする。
変数間の関係
このとき
- IはEq(体験の質)を決定するパラメータ
- EqはIを入力(の1つ)とする関数
- SはEqの関数
である。すなわち
- Eq=f(I)
- S=f(E)
という関係である。
ネタバレ評価関数 [Sk, Su]
ある1人の体験者を想定し、ある個別具体的な情報(i)を伴う状態を「k(known)」、伴わない状態を「u(unknown)」とし、両者の満足度の関数Sを比較する。
SkがSuを下回る、すなわち
Sk < Su
なら、そのような情報「i」はネタバレである。
例:映画「FAKE」のネタバレ判定
映画「FAKE(2016)」を例に、2点ネタバレ判定してみます。
ネタバレ
- 映画「FAKE」に関する新垣隆所属事務所の見解|音楽家 新垣隆オフィシャルサイト(2016/07/08付)
上のページを映画「FAKE」鑑賞前に見ると確実にネタバレです。注意です。閲覧避けて正解でした。
鑑賞後に読むと、映画の仕掛けたアングルに見事に組み込まれていて、楽しいです。弁護士には頭が悪くてもなれることがわかる一例でした。
not ネタバレ
一方、「FAKE」公式サイトの煽り文句にあった
誰にも言わないでください、衝撃のラスト12分間。
ここに関する事前情報には接しませんでしたが、たとえ概要を知ってしまったとしても、私にとってはそんなにネタバレでなかったです。想定内でした。
ざっとそんなところです。
問題:ネタバレの反対語は?
ここでふと、
- 日本語には「ネタバレ」の反対語が見当たらない。
という事実に気づいてしましました。
SkとSuの関係にはあと2種類あります。すなわち
Sk = Su (→知っていてもいなくても、満足度にまったく影響しない情報)
Sk > Su (→知ると興味関心がいや増す情報)
の2パターンです。
Sk=Suの場合:「どうでもいい情報」とでも呼べばいいと思います。アナログタロウさんが得意です。
しかし、
Sk>Suの場合:これをどう呼べばいいのか、困ってしまいました。
つまり
あらかじめ知っていると満足度・興趣がいや増す情報
を端的に言い表せる語句が、日本語には見つからないのです。困ります。外国語にもないのかもしれませんが。
「いいネタバレ」?
仮に「いいネタバレ」と呼んでおきますが、そういう情報は実在します。
いいネタバレ(仮)の例
私の場合は、封切の初日(7/29)に発表された「シン・ゴジラ役は野村萬斎」がそうでした。
鑑賞予定を前倒しさせる、いいappetizerになりました。
「シン・ゴジラ」究極のネタバレ=「ゴジラ」
8月あたまに「シン・ゴジラ」を4DXで体験してきました。上映中にふと、既に自分が「ゴジラ」という存在を知っていることが、究極のネタバレだなと思ってしまいました。
むろん作る側も、大多数の観客の「ゴジラネタバレ」を承知です。そこを超える仕掛けがしてあったと、ネタバレさせておきます。
外国語の「ネタバレ」
比較対照用に、2つの近隣諸国言語の例を紹介します。
英語
英語では「ネタバレ」を「spoiler」といいます。「ダメにするもの」ぐらいの意味です。「spoiler: 」「spoiler alert」なんて用例をちょいちょい目にします。
Oxford dictionary「spoiler」の語釈が明快でわかりやすかったです。
1.2
A description of an important plot development in a television show, movie, or book which if previously known may reduce surprise or suspense for a first-time viewer or reader.
【拙訳】
テレビ番組、映画、本において、初めて見たり読んだりする人が事前に知ると驚き(サプライズ)やドキドキ感(サスペンス)を損ないかねない、物語の枠組みや事実関係の記述
日本語の「ネタバレ」に比べて、「(ネタバレのうち)台なしにするもの」と、より具体的に絞り込んだもの言いです。やたら説明的で理屈っぽい英語の良さが出てるなと思います。
韓国語
また韓国語でも、「스포일러(スポイルロ)」と、英語由来の言い方をするようです。
스포일러(スポイルロ)=「ネタバレ、映画の内容などを見ていない人に話すこと、またその人」|TODAY’s はんぐる(2014/12/02付)に詳しかったです。
映画レビューには「스포주의(スポチュウィ・ネタバレ注意)」の注意書きがあるものも。
だそうです。
あとの言語は調べていません。
まとめ
ネタバレを定義し、数式で表現してみました。
さらにその過程で、少なくとも日本語には「ネタバレ」の反対語が見当たらないことが発見できました。
ネタバレの何が問題なのか?
この問いに対し、より本質に迫って答えようとするならば、
言明と含意の両者が乖離していること
となりましょうか。「ネタバレ」という表現で描きうる領域よりも、それが実際に表す意味が限定されていて、乖離が生じているのが問題です。
それが、日本語世界での「ネタバレ」論議が紛糾する一因のように思われます。
こちらからは以上です。
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