こんにちは。 周回遅れの議論を侮らず、丁寧に進めておきます。
「国歌を歌えないような選手は日本の代表ではない」。東京・代々木の体育館で3日にあったリオデジャネイロ五輪の代表選手団の壮行会で、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が来賓のあいさつでそう述べた。
としたこちらの記事:
「国歌歌えない選手、日本代表じゃない」森喜朗氏|朝日新聞デジタル(2016/07/03付)
写真:角野貴之撮影
場内ではみんなで声を合わせて歌う「斉唱」ではなく「国歌独唱」とアナウンスされ、ステージ上のモニターにも「国歌独唱」と表示されていた。
このオチを起点に話の「周回」を戻し、「1周目」からはじめます。
「斉唱」と「独唱」の違いです。
解説:「斉唱」と「独唱」
基本的な情報としての、つまらない解説です。
斉唱(せいしょう)とは?
「一斉にとなえること」「同一旋律を二人以上でうたうこと」(広辞苑)です。
独唱(どくしょう)とは?
「歌曲を一人で歌うこと」(広辞苑)です。
斉唱と独唱の違い
両者の違いを端的に述べると、
- 二人以上が声を「ひとつに」合わせて歌うのが「斉唱」で
- 誰かが「ひとりで」歌うのが「独唱」です。
音楽以外での「斉唱」「独唱」も
いつ頃から、どのように使われていたんだろうか?
アンテナに引っかかったどんな言葉も、そこが気になるのが私です。例によって、国会図書館のデジタルコレクションから古い用例を探してみました。
面白かったのは、ともに「歌唱」以外にも使われていたことです。
それぞれ当該の用例があります。教科書を「読む」、お経を「唱える」にも使える言葉だということです。これは意外。
カタカナで書き換えると
外来の音楽用語で書き換えてみますと、
- 「斉唱」はユニゾン(unison)です。「ひとつに」がポイントです。
- 「独唱」はソロ(solo)です。「単独」「ただひとり/ひとつ」がポイントです。
具体例では
ひとつずつ例を挙げてみましょう。
斉唱
わかりよさげな「斉唱」なら、2013年の国民的ヒットチューンのこれなど、いかがでしょうか。
【MV】恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式](2013/10/30付)
ソロパートを除けば、1本のメロディーラインをみんなで歌います。ユニゾンです。
独唱
一方、「独唱」の代表なら何と言ってもこれ。
森山直太朗 – さくら(独唱)(2010/11/02付)
自称するとおりの「独唱」、ソロでございます。
2003年リリースのヒット曲ですから、オリンピックの現役選手世代にもおなじみのことでしょう。
付記:全員でなくても「斉唱」だよ
ひとつ余談めいて、実は大事な話。
「全員」は斉唱の要件ではありません。
先ほど広辞苑の語釈で見たように、斉唱とは「二人以上で」歌うことでした。歌うのが「全員であるかどうか」はどうでもいいのです。
- 複数の人数が
- 同一の旋律を
歌っていれば、「斉唱」とするにはこと足ります。
全員でなくても「斉唱」は成立する。これ豆な。
明治の教育者が書いた本にもそんな説明がありましたので引用します。漢字表記は現代のものに差し替えています。
斉唱といふことを、全級にて読むことゝ思うて斉唱と云へば、常に全級同時に読ましむるはよくない。二人三人、或は一側でよんでも、斉唱である。
出典:利根川与作『現今教授上の誤謬』(1902) 四〇「斉唱に関する誤」|国会図書館デジタルコレクション
群馬の師範学校で教鞭を執っていた(らしい)著者は、
全級の斉唱はあまり器械的になりて効力が薄い。(略)さりながら、少数の児童にて、斉唱させるのは、読方練習上利益かある。
と、クラス全員よりも一部少数での「斉唱」の方が国語科教育に有効だとしています。
明治35年の豆知識でした。
文教族だった森喜朗さんにも届くといいなと思ったり思わなかったり。議員時代も国会図書館には行ってないんだろうなあと思ったり思ったり。
まとめ&次回予告
以上、今一度「斉唱」と「独唱」の違いを確認しておきました。
それにつけても、代議士引退後もまったく話題にこと欠かない森喜朗さんです。殊に五輪報道では、リオから東京まで森さんにおんぶにだっこの感すらあります。騒いで世間を騒がせることが商売のマスメディアにとって、実にまぁ~ありがたい存在であります。
マジか?森喜朗さんだけじゃなかった
実は今回ひとつ、あまりに意外な発見がありました。
国歌をめぐる森さんの発言の真相は「ガチで混同?持論をぶつための確信犯?その他?」どれなんだろうか?
そこの半信半疑を検証したくて、国歌「君が代」(独唱)をめぐり本件を含む2つの事案を精査していると、先にそっちを見つけてしまいました。
それは、
- 一部のメディアは、「斉唱」と「独唱」が区別できていない。
という驚愕の事実です。複数メディアの記事で「斉唱」と「独唱」の区別が全然付いていなかったのでした。
ウソやんと思ったけど、ウソじゃなかった。こわいわ。
つづく
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