こんにちは。11号こと豊川悦司です(ウソ)。
日本有数のヒマなデザイン芸人が、優しい日本人たちにほとんど顧みられていない題材で遊びます。
遊ぶ題材は、「五輪エンブレム審査会」です。(以下、当記事では単に「審査会」と表記します)
この審査会での「最終の審議」を舞台とした脚本を書く、という遊びです。より正確に述べると、三谷幸喜さんに完成品を書いてもらうための下ごしらえを行う、という趣向です。
まずは「当て書き(←詳しくは後述)」で有名な三谷さんへ依頼するための「仮配役」として、8人の審査委員をそれぞれ役柄に割り当ててみることにしました。
画像は、8月28日 東京2020エンブレム 選考過程に関する記者ブリーフィング・質疑応答(全文) 『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』|聞文読報(2015/08/28付)より
要約:Executive Summary
予想してみました。
もしも三谷幸喜さんが、平野敬子さんのブログ記事を原案にした五輪劇
「8人の疚しい日本人」
の脚本を書くとしたら、その配役はこうなると思います。
- 三谷幸喜作「8人の疚しい日本人(仮題)」配役予想 ※敬称略
- 委員1号:長嶋りかこ
(1位案支持・4人目) - 2号:永井一正
(1位案支持・3人目) - 3号:細谷巖
(3位案支持。造形表現とタイポグラフィを評価) - 4号:片山正通
(2位案支持・2人目。支持理由の発言なし) - 5号:浅葉克己
(2位案支持・1人目。他案を執拗に批判) - 6号:高崎卓馬 [確定]
(早々に1位案支持表明) - 7号:真鍋大度
(4位案支持→1位案支持・5人目) - 8号:平野敬子 [確定]
(1位案支持・1人目/「8人の~」“原案”筆者)
いまのところ、委員「1号」役と「2号」役は互いに入れ替えが可能です。ここでは6号に次ぐ「審査委員第2の黒幕」でもある永井さんを便宜上「2号」に配しました。
プラス、「元ネタ」が2号の発言から議論が始まるのでそれに揃えた、という細かすぎるポイントもありますが、いまはどうでもいいです。
なお、以上はあくまで「デザイン芸人による予想」です。実際の配役は三谷幸喜さんが決めますので(超テキトー)、上記と異なる可能性があります。
くどいですがもう一度。最善の努力を尽くしたうえで予想を示したつもりでおりますが、その正確性は保証しません。
基本情報をいくつか
冒頭のサマリーで結論を急ぎすぎた感もありますので、出発点に立ち戻って「1周目」の情報から説明します。
まず「審査会」とは、こちらの「佐野エンブレム原案」が選び出された会議のことです。
画像は、五輪エンブレム:「オリジナルと確信」…組織委、原案公表|毎日新聞(2015/08/28付)より
以下、前掲リンク先に記された会見内容(2015/08/28開催)からの要約です。
- 審査会は、2014年11月17・18日の2日間開かれました。
- 審査対象は、条件付き公募形式のコンペで集まった五輪エンブレム応募作・全104作品でした。
- 17日に「104→37→14作品」と絞られました。
- 審査委員8名のうち、真鍋大度さんは初日17日は欠席でした。PerfumeのNYツアーに帯同していたためです。したがって初日は7名での審査でした。(詳しくは、当ブログの過去記事を参照)
- 翌18日に「14→4→1作品」に絞っています。
- 14作品に絞られてからの段階で真鍋さんが加わり、8名での審査となっています。
「最終の審議」について
「最終の審議」とは、最後4作品から採用作を選び出すことを主な目的とする会議のことです。名称は原案(後述)によります。
「最終の審議」冒頭での投票結果は次のとおりでした。
- 1位案(作品No.不詳):4票
- 2位案(No.42):2票
- 3位案(No.9):1票
- 4位案(No.不詳):1票
審議結果
そして、この「審査会・最終の審議」を通じて選ばれた「1位案」こそが、世に名高い?「佐野エンブレム原案」だったというわけです。
「2位案」「3位案」は、2015年10月に週刊新潮が報じたのが初出です。ロゴ部分のみ&不鮮明ですが誌面を載せておきます。
週刊新潮(2015年10月8日号)pp.22-23
ちなみに記事の本文は、Webで読めるようになっています
→[五輪エンブレム問題]「新委員会」船出の前に片付けたい「インチキ選考」仰天の真実|デイリー新潮
おことわり:「不正」は今回の範囲外
なお周知のとおり、2015年12月18日に公表された調査報告書(参考資料)で、冒頭「104→37」の段階で不正(不適切な投票)があったと認定されているところですが、今回の三谷脚本では取り扱いません。
上演後の反響により「スピンオフ作品」構想にのっけます。
「8人の疚しい日本人」原案
原案は、平野敬子さんによるこちらのブログ記事です。
014 最終の審議|HIRANO KEIKO’S OFFICIAL BLOG(2015/11/19付)
余談:会議の命名案
いま、TOKYO 2020の大会組織委員会の本部は虎ノ門ヒルズにあるそうですから、この会議を「清洲会議」ならぬ「虎ノ門会議」とでも呼びましょうかねえ(テキトー)。
余談でした
その他参考資料
原案のほか、前掲の会見テキスト書き起こし「8月28日 東京2020エンブレム 選考過程に関する記者ブリーフィング・質疑応答(全文) 『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』」の記述も参考にしました。
元ネタはこれ
三谷幸喜さんが脚本を手がけた「12人の優しい日本人」です。ご存知でなければWikipediaで概略をどうぞ。
DVDには舞台版(2005年上演)と映画版(1991年公開)があります。
予想の理由
細かな論証を省いてひと言にまとめると、
上で予想した配役が、「各素材」から聞こえる「音楽」がいちばん美しいからです。
当記事の最後に、もう少しだけ詳しく説明します。
「三谷脚本」の基礎知識
こんにちは。ゴースト脚本家の三谷前期(命名 by ナイツ)です。
「当て書き」で作る
もれ伝わるところによりますと、なんでも三谷幸喜さんの脚本は、先に演じる役者を決めてから、その役者をイメージして書くという、「当て書き」と呼ばれるスタイルでできあがるのだそうです。(作品の特徴|Wikipedia「三谷幸喜」による)
そのため、
再演に当たって役者の交替が生じる場合は、自身が演出するか否かに関わらず、新しい役者のイメージに合わせて台本を改訂する。
ほどなんだとか。
完全に「人ありき」の、演劇にはきわめて珍しい(と思う)「ひと系」台本を書かれます。
それをふまえて、次へ。
三谷幸喜さんのための「8人の疚しい日本人」脚本素材集
ゴースト三谷前期が、三谷幸喜さんのために整理しておきます。判明しているものは時系列に記します。
あいまに適宜、演出上必要となる細部を創作します。創作した部分はその旨明記します。
【再掲】配役(仮バージョン)
同じく敬称略で再掲します。三谷前期(誰やねん)による配役は次のとおりです。
- 委員1号(#30支持・4人目):長嶋りかこ
- 委員2号(#30支持・3人目):永井一正
- 委員3号(単独で#9支持):細谷巖
- 委員4号(#42支持・2人目):片山正通
- 委員5号(#42支持・1人目):浅葉克己
- 委員6号(#30支持・2人目):高崎卓馬 [確定]
- 委員7号(#71支持→#30支持・5人目):真鍋大度
- 委員8号(#30支持・1人目) :平野敬子 [確定]
幸喜さんによる最終確定まで、暫定的にこちらを「仮の配役」として進めます。
エンブレム審査会・最終審議=「虎ノ門会議」に入るまで
- 初日(11/17)は真鍋大度さんが欠席。7名で審査
- 真鍋さんは18日、14作品の絞り込みより参画
- 審議の対象としたのは、4作品
作品番号について 【一部創作】
審査会の席で、委員たちは作品を番号で呼んでいたはずなので、振っておきます。
- 判明している作品番号は2つあります。42と9です。
2位案を「No.42」
3位案を「No.9」とします。
※まだ、実際の番号が互いに逆である可能性も残っています… - 【創作】前後しましたが、残る2作も番号を振っておきます。
1位案が「No.30」(さの)
4位案が「No.71」(ない)です。
作品番号の表記は「No.」に代えてナンバーサイン「#」を頭に付け「#30, #42, #9, #71」とします。
#42、#9の出典はこちらです。※強調は引用者
11/20
IOCブランド担当会議 審査会の決定案に大いに賛同
NO.42オリとパラの類似性が強く難しい
NO.9世界各国でのマーケティング利用の観点から厳しい
029 審査委員として知り得た情報のすべて|HIRANO KEIKO’S OFFICIAL BLOG(2016/02/18付)
会議スタート
- 4作品への投票結果は、順に「4・2・1・1」票
作品ごとの投票委員の内訳は次のとおり。
- #30(1位案):委員1号・2号・6号・8号
- #42(2位案):委員4号・5号
- #9(3位案):委員3号
- #71(4位案):委員7号
- 6号「昨日から、このプランのことしか頭に浮かばなかった」>#30
- 全体の進行はもっぱら永井一正さんが担当
(ソースはこちら)
審査員代表として全体を、進行も含めてやっていただきました永井さんに来ていただいておりますので
(聞文読報 > 2015/08/28会見録より)
#71(4位案)、「それはないわ」と早々に外れる
- 8号「造形性等を総合的に判断し、最終議論に残す作品ではないと思いますが」>#71
- 複数委員が賛同
- 7号、支持取り下げ(後に#30支持へ)
以下、時系列ランダムの「順不同」となります。
#30(1位案)に対して
(評価しない、否定的意見)
- 「新しくはない」
- 「50年前に主流だった表現であり、新しい表現ではない」
- 「既知感に対しての危惧がある」
(評価する、肯定的意見)
- 「自分たちにとっては新しい表現に見える」
- 「展開力がある」
- 「展開への検証が行なわれており、すぐにでも具現化できる」
- 8号「黒色の表現がいい」
- 8号「展開例のなかでも、エンブレムの黒い部分がスクリーンとなり、表彰者の顔が映し出される空間的な演出とディレクションが優れている」
#42(2位案)に対して
画像は、2020東京五輪エンブレム第1回設計競技案|ndc.co.jpより
議論の対象とならず
- 「三越の包装紙っぽいって、どうよ?(大意)」
支持者との論議も成立せず
- 5号、他作品の問題点の指摘に終始
- 8号「そこまで批判するのであれば、どの案を評価するのですか。評価する作品とともに、その理由をお聞かせいただきたい」
- 5号、#42を指し示すが、発言はなし
- 4号(支持者2人目)も、まったく発言せず
#9(3位案)に対して
- 3号「これは素晴らしいデザインである」
- 3号、造形表現とタイポグラフィへの評価を主張
- 他の委員からも、好意的な評価はあり
(反対意見)
- 「好感が持てる良いデザインだが、オリンピックというテーマに対して相応しいかは疑問」
そしてこうなった
- 2時間程度議論は続くが、平行線
- #42支持の4号・5号、#9支持の3号がそれぞれ折れる形で#30に決定
- 8号「後味の悪い印象は残った」と述懐
ざっとこんなところです。
まとめ:五輪エンブレム問題の「音楽」を聞く
まとめに入ります。
ここで今一度、聞文読報による2015/08/28の会見録から、永井一正さんの発言をふり返っておきましょう。
永井語録(1):「虎ノ門会議=審査会・最終の審議」について
大事なところに線を引いておきました。
審議方法
多数決に頼らずに、(略)4点で徹底的に議論をしたっていうのは、やっぱり今までの審査ではあまり見られない状況だったわけです。
4→3(#71が脱落)
4点でいろいろ議論して、この1点はやはり、ちょっといろんな、それは優れていても、展開とかそういうもので少し弱いんじゃないかということでまず1点が落ち
#30・#42・#9の議論
そして3点が、ほぼこれが入選じゃないかという、高レベルのものだっていうような認識を得て、それの、その3点について、徹底的に議論したわけです。
点数の多少は相違があったんですけども、それはもう、ほとんど差別がないくらいこの3点っていうのは非常に力作ですし、それぞれがオリンピック・パラリンピックへの参加の意欲、そしてどうしてもこれをやりたいというような意欲に満ちた作品だったわけです。
永井語録(2):「作品#30=佐野エンブレム原案」の評価
要点を抜き出します。
- アルファベットを基準としている
【難点】
- 僕なんかは少し既視感っていうか、何かが少しはあった
【利点】
- それにもまして、やはりひとつの強さっていうか、すっきりしたものがある
- それから亀倉雄策さんの東京オリンピック、わたくしの札幌冬季オリンピックをリスペクト
- (東京1964・札幌1972以来の)ずっとここまで至る日本らしさ
- と同時に、ひとつの強さっていうか、インパクトの強さがやはり、これが一番優れているんだろうか
札幌冬季オリンピックをわたくしがデザインしました。そして、それをさらに継承した形で、佐野さんのがいちばん、やはりその継承度っていうか、そういうものも含めて優れていたと。それと同時に、展開例っていうのが非常に優れていたっていうことだと思います。
これらをはじめ、永井一正さんの方面から聞こえる「音楽」も再度ふまえて、審査会の「音楽」を再現したいところです。
「音楽」の元ネタ
ここまで何ら注釈を加えず、「音楽」という比喩表現を使ってきました。
この言い回しの元ネタは、『コンサルタントの秘密』(原著1985・邦訳1990)にある「不調和の洞察」「ブラウンのすばらしき遺産」です。
不調和の洞察(The Incongruence Insight):
言葉と音楽が合っていなかったら、そこに欠けた要素がある
ブラウンのすばらしき遺産(Brown’s Brilliant Bequest):
言葉は役立つことも多いが、音楽に耳を傾けることはつねに引き合う。自分の心の中の音楽は、特にそうだ。
本書は、問題を抱えたデザイン芸人が状況判断と事態の打開のために必ず見返す「バイブル」となっております。
そして上の2つは、第5章の末尾に登場する、それはそれはありがたい教えなのであります。
原書での名称は「5. seeing what’s not there(そこにないものを見る)」です。
前の章で「そこにあるもの」を見たうえに、こちら第5章で「そこにないもの」まで見るので、もはやほとんど迷いようがないのであります。
というわけで、以上、下ごしらえ担当の三谷前期(by ナイツ)が、自身の内面に響く「音楽」に耳を傾けた結果をまとめました。
三谷後期(by ナイツ)も続けて担当するかは、幸喜さんの状況次第です。と、適当なことを言って終わります。
おわり
p.s. 「元ネタの元ネタ」
こちら「元ネタの元ネタ」も面白いですよ。
この映画を、組織行動論の教材にしている大学もあるほどです。
参考ツイート↓
教材としての「12人の怒れる男」https://t.co/K6dXT4Pd01
・真実を究明するために行われるべき議論とは
・たった一人の反対意見であろうとそれは尊重され、多数意見の中に反映されるべき
出典(PDF):https://t.co/mhoA6NeUNm p.77— ヤシロタケツグ「デザインや」 (@yashiro_with_t) 2016年3月28日
うまいやり方です。さすがいいところに目つけるなあ金井壽宏さんは、と思いますほんと。
マジでおわり
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