こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
「細かすぎて伝わらない怒り選手権」シリーズを始めます。「エピソード1」の今回取り上げる「怒り」案件は、「JR-SH2」です。
誰のどんな怒りかを簡潔に紹介し、 その後、筆者(ヤシロ)による考察・講評を加えます。
では始めます。
(ジングル)
Atos接近メロディ/Jr東日本(山手線)
発車メロディー
¥150
細かすぎて伝わらない怒り:「JR-SH2」
もう15年以上前のことを、ふと思い出しました。
玉木宏樹さんの怒り
東京の朝のテレビでキレている人がいました。玉木宏樹さんという方でした。
この人じゃないですよ。
こちらの方です。
玉木宏樹|タイムドメイン.net より
で、玉木さんが怒っていた相手は、JR-SH2です。これです。
発車メロディ JR-SH2ー1
塩塚博
¥150
JR-SH2に、「この短さでなぜ転調がいる」とかみついていました。
いわく、
- 転調とは自然でない技巧であるゆえ、緊張を高める
- これは「早く乗れ」というメッセージだ
とか、記憶だよりではそんな言い分でした。
バイオリンで「実演」しながらの解説だったので、妙に忘れがたい記憶として残っています。
考察・講評
私の結論は、「一般人にはそれでいい」です。
玉木さんの言い分は至極もっともです。しかしJR-SH2が強烈な「早く乗れ」に聞こえるのも、玉木さんが高度でとんがった、ときんときんの音楽的感性と素養を備えているがゆえです。
音に関する感度がだるんだるんの一般人には「ちょっと耳に引っかかる」程度のちょうどいいメロディとなっているように、私には思えます。
「JR-SH2」をはじめとする「SHシリーズ」に、あざとく耳障りな手法が使われていることが事実であったとしても、そこに勘づけるほど音楽理論に造詣が深い人は、残念ながらこの社会ではマイノリティです。
SHシリーズの作曲者で、その筋からは「第一人者」「鉄のミュージシャン」とも称される塩塚博さんも、その辺はすべて計算済みのことに、私には感じられます。
こんなレポートがありました。※下線は引用者
発車メロディは、「電車が発車しますよ」というお知らせをするのが目的だ。あまりに気持ちのいい聞き心地だと、危機感が生まれない。そのため、「転調」や「偽終止」といった作曲テクニックを盛り込み、音楽的に気持ちのいい範囲での“小さな違和感”を残す曲になっているのだという。
出典:塩塚博氏の駅メロ作曲テクニック「小さな違和感を残す」|日刊SPA!(2013/05/31付)
たとえばJR-SH3の転調後の分散和音など、私程度の者には神業にも聞こえます。
発車メロディ JR-SH3ー1
塩塚博
¥150
「そこでこうつなぐか!」と驚きます。
これが俳句で言うところの「切れ」ですよ。知らないけど。
もろもろの制作裏話は、この本にも詳しく書いてあります。読んでないけど。
まとめ
この社会では、「JR-SH2の転調が気持ち悪い」という感性の持ち主の方が「変な人」です。
ゆえにデザインワークとして考えれば、塩塚さんの仕事は「正解」です。
念のため付け加えておきます。「変な人」を切り捨てていい、という話ではありません。
「細かすぎて伝わらない怒り」の受け止め方
では「細かすぎて伝わらない怒り」を表明されたとき、私たちはどうすればよいのでしょうか?
共感できなくとも、怒っていることそのものは受け止めてあげることが大事なのだと思います。
- 愛するものへの感性は、必然的に細かくなりがちです。
- 自分が濃やかなる愛情を注いでいる何かを、別のところで粗雑に乱暴に取り扱われているのを知ったとき、人が怒り心頭に発するのは、理の当然でしょう。
- しかしながらその怒りは細かすぎるゆえ、異なる(鈍い)感性を持った一般人の側にはおうおうにして届かず、共感を得られないことがほとんどです。
以上の各点をふまえれば、相手の怒りの「内容」にではなく、「怒りの表明」という形式の側に理解を示すことが、穏当な対応だと言えましょう。
つづく予定。
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