「今」の言語的統一理論なう―「時間」ではなく「関係」

こんにちは。小野正嗣です(ウソ)。愛読書はガルシア・マルケス『百年の孤独』です。

突然ですが、私、今の今まで「今」を誤解していたことに気づいてしまいました。

「今」とは「関係」を表す語だったのです。

これはぜひとも伝えなければなりません。だったらいつやるか? 今でしょ!

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なりすましが続きません。あらためましてこんにちは。

そんなわけで、自称今やるブログのこの記事では、「百年の孤独」ならぬ「若年の誤読」を正します。ダジャレかよ。

事ここに至るまでの経緯に興味がある方は、次の過去記事をご覧ください。

「今」の言語的統一理論

今から「今」が表す本質を示します。今さらですが、言語的に統合された「今」の体系を構築し、今一歩「今」への理解を深める試みです。

パート1.よくある誤解を正す

「今」へのよくある誤解を正します。

よくある誤解(その1):今=現在

「今」とは「現在」である。

誤解です。

反証:「そば屋の出前」のケース

「出前遅いよ。どうなってるの?」と電話されたそば屋さんの返答例です。

  • 今出ました。(過去)
  • 今出てます。(現在)
  • 今出まーす。(未来)

いずれの答え方もありです。成立します。

よって、「今=現在」という認識は誤りです。現在でない今も実在するからです。

「今」とは過去で現在で未来です。時間の中に今はあふれています。

よくある誤解(その2):今=時間

「今」は、「瞬間」や「時間」を指している。

ということになるのでしょうか?

だいたい合っています。けれども、認識として不十分です。「今=時間」という認識だけでは、誤ります。

たとえばですが、

  • いつやるか?」に「でしょ!」と答えるのはOKです。
  • でしょ!」に「今っていつ?」と問うのは、場合により不適切です。

どういうこと?

反証:なんかいまいち

「なんかいまいち」「うーん、今ひとつだなあ」

こんな言明があったとします。

「いまいち」というのは、「さっきは3つで、今1つ」みたいな対比ができる言葉ではありません。「いまいち」は時間軸上のどこにあっても「今ひとつ」です。

よって「いまいち」の「今」は、時間とは独立した系にあると考えるのが妥当です。

今の話、いまいちわかりにくいですか?

パート2.「今」の真実

「今」とは、「関係」を示す語のひとつです。

今が示す「関係」とは

「語る主観」と「語られる何か」の関係です。

「今」の類似語

「今」とは関係を示す語のひとつと述べました。

語の機能や意味内容として近いのは、「これ」「ここ」「こちら」です。

  • これ
  • ここ・こちら
  • いま

の順に「視覚的に指し示せる」という意味での具体性が下がり、抽象度が上がっていきます。

何が「今」か

語る主観の近傍にあって、抽象度の高いもの

それが「いま」と呼ばれます。

肉体を伴う主観が表現する場合、おおむね「手の届きそうな範囲」を指すとしてもいいでしょう。

今一度、「今」の確認

「今」とは、「語る主観」と「語られる何か」の関係を示す語のひとつと述べました。

語る主観の近傍にある事物のうち、相対的に抽象度の高いものを指す」ときに使われる、それが「今」です。

検証:武満徹の「今」

今の定義をふまえて、作曲家の武満徹(1930-1996)の言葉を検討してみます。

これからじゃないんだ、本当のことを言えば。今、今なんだ。僕が何をするか。を正確に……だめでもを正確にやる、正直にやるってことですよ。それはジョン・ケージがいつもそうだった。現在を正確に行う。

出典:『カメラの前のモノローグ』(マリオ・A, 2000)p.193 ※強調は引用者

ここでの武満の「今」は「現在」に引っ張られてはいます。そこもふまえつつ、単なる「時間」概念に収まらない「今」を言い表そうとしている武満の煩悶を感じることができれば、この言葉の滋味も増すものと言えましょう。

いろんな「今」を集めてみた件

今しがた行った定義で破綻していないか、今一度、国語辞典の「今」に登場する用例を中心にピックアップして確認してみましょう。

  • 今お昼です
  • 今は忙しい
  • 今どきの若者
  • 今太閤
  • 今こう定義すると、
  • 今のなに?
  • どうも今ひとつだ
  • 今に見ていろ
  • 今しばらくお待ちください

今のところ、上述の定義に収まっているように思います。

くり返しますと、時間に寄せた発想のみで「今」をとらえていると、時に誤ります。

付記:惜しい!新解さん

オンライン/オフラインの辞書を見た範囲では、手元の『新明解国語辞典(第四版)』の語釈がいいセンいっていました。

いま【今】

その人[=言語主体]が・何かをしている(何かの状態にある)瞬間を静止的にとらえたもの。

いいところまで「今」の本質に迫っています。「統一理論」を求める意志を感じます。でも惜しい!今一歩だ。

ここらあたり、「新解さん」も今にわかることでしょう。期待します。

まとめ

今一度くりかえします。

  1. 「今」とは、「語る主観」と「語られる何か」の関係を示す語のひとつです。
  2. 「語る主観の近傍にあって、抽象度の高いもの」が「今」と呼ばれます。

今に始まった話ではありませんが、「今」とは必ずしも「現在」や「瞬間」ではありません。「今」を時間的な何かとのみとらえるのは、狭量です。

以上、ハイレベルすぎて伝わらない「今」講座でした。

なお、こちら↑に今のような話は書いてません。念のため。

「心」のすぐ上にある「今」、それが「念」です。なんてね。

今の今となって、武田鉄矢さんのような適当なことを言ってしまいました。

おわり

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