こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
- 米グラフィックデザイン団体、五輪エンブレム公募に苦言 デザイナーの“ただ働き”と対価の低さ批判|ITmediaニュース(2015/12/11付)
をきっかけに、「スペックワーク」という言葉を知る人も少なからずいらっしゃったようです。
ここに乗っかって、上の件の発信元である「米グラフィックデザイン団体」AIGAのページにあったAIGA position on spec work から、「スペックワーク」の定義をかいつまんで紹介します。
そんな「右から左」記事です。
※写真と本文は関係ありません
スペックワークとは
米国のグラフィックデザイン団体AIGAのページでは、「スペックワーク」がこう定義されていました。
Speculative or “spec” work: work done for free, in hopes of getting paid for it
スペックワーク:支払いを期待して無料で実施する仕事
【出典】AIGA position on spec work > What is spec work?
くり返すと、スペックワークとは
- お金の支払いがあると期待して(だが確定ではない)
- 無料で行う
そういう仕事のことです。
スペキュラティブ(speculative)って?
スペックは「スペキュラティブ(speculative)」の省略形です。
「speculative」を英和辞典で引くといろんな訳語が載っています。英辞郎on the webだと、「思索の」「推測の」「投機の」といった具合です。一見、意味がばらばらでつかみづらいかもしれません。
でも大丈夫です。
speculativeの根底的な性質として「不確か」というのをおさえておけば、だいたいうまくいくと思います。
ということで、「スペックワーク」の性質をひとことで言うと「支払いがありそでなさそで、うっふーん」という、そんな仕事のことです。つまり、金銭的報酬が「不確か=スペキュラティブ」なわけです。
「金銭」が焦点となります。
相次ぐ新語への疑問
しかし「タダ働き仕事」には、既に他の名前もついています。「ボランティア」とか、日本語なら「サービス残業」とか。これらとどう違うのでしょうか?
わざわざ新しく「スペックワーク」という名前をこしらえる必要があるのでしょうか?
「ボランティア」「インターンシップ」「プロボノ」との違い
そんな疑問に答えるため、かは知りませんが、同じくAIGAの「What is spec work?」では、スペックワークに似た仕事についても説明が加えられていました。
具体的に述べると、「ボランティア」「インターンシップ」「プロボノ」です。
ポイントとなるところに線を引いておきます。
Volunteer work: work done as a favor or for the experience, without the expectation of being paid
ボランティア:親切として、または経験とひきかえに、支払いを期待せずに行う仕事
Internships: a form of volunteer work that involves educational gain
インターンシップ:教育的成果を含む、ボランティアの一形態
Pro bono work: volunteer work done “for the public good”
プロボノ:「公益のために」自発的に行われる仕事
「コンペ」との違い
また、「コンペ」についての説明はこうです。
Competitions: work done in the hopes of winning a prize—in whatever form that might take
コンペティション:(どのような形態であれ)入賞を望んで為された仕事
コンペ=スペックワークではない
東京五輪エンブレムの公募を筆頭に、日本のデザインコンペは、スペックワーク案件になりがちです。
五輪エンブレムの場合、今回AIGAから指摘された2度目の公募はもちろん、応募資格を主な賞の入賞実績のあるデザイナーに絞っていた1度目も、スペックワーク案件です。応募時には支払いが約束されていないからです。
しかし、世のコンペがすべてスペックワークではありません。コンペの重点は「prize=賞」であって、「無料」が要件ではないからです。
たとえば、過去の実績(作品)がノミネートされて競いあうようなコンペなら、それはスペックワークと言えません(きっと)。ノミネートされる過去の実績仕事は、そのコンペのために新たに「タダ働き」したものではないからです。
ですので、文学の芥川賞・直木賞などは、スペックワークではないコンペと言えそうです。一定期間内に発表された小説を対象に候補作のノミネートを行い、委員による選考で授賞作が選ばれています。
亀倉雄策賞など、デザインの賞にもこのパターンはあります。
毎年『Graphic Design in Japan』応募作品の中から、年齢やキャリアを問わず、最も輝いている作品とその制作者に贈られます。
という具合に、応募作を選考対象にしますが、応募者は受賞を狙って「タダ働き」するわけではありません。
まとめ
以上、ぐだぐだ説明を加えつつ、AIGAによる「スペックワーク」と類似の各用語の定義を見てきました。
違いの微妙さに問題か
「ボランティア」「インターンシップ」「プロボノ」、そして「コンペ」は、いずれも、金銭の支払いがあったりなかったりという点はスペックワークと変わりませんが、重点が微妙に違います。
各者は概念的にとても近いところに位置するので、ときに区分が難しいケースも十分に起こりえます。
スペックワークをめぐる議論がややこしくなりそうな一因かなと思います。
2016年の「スペックワーク元年」成立を目指して
日本語の世界では、まだまだ「スペックワーク」は「元年」以前の「夜明け前」の状態に思います。
まずは言葉が広く知られるという意味で、2016年が「スペックワーク元年」になればいいなと思いつつ、ぼつぼつと続けていきます。
とりあえずそんなところです。
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