こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
亀倉雄策のエッセイ集『デザイン随想 離陸着陸』(1972, 新装版2012)を読んでいたら、こんな書き出しの一文がありました。
このところ切手の盗作問題で、世は騒然とデザインに関心を寄せ出した。
タイトルは、「オリジナリティー/1966/デザイン十話」となっています。
巻末の注によると、初出は「毎日新聞」昭和41年7月27日付です。10日間連続で掲載された「十話」の8日め=第八話にあたる随筆です。
この「切手の盗作問題」ってなんだろうと思って調べ始めたら、こんなシリーズ記事になりました。
- 発見!「五輪エンブレム問題」のパクリ元(1)昭和41年の「ガン切手盗作問題」(2015/10/29)
- 永井一正さん、ついに例の盗作問題に言及―エンブレム問題の「パクリ元」(2)(2015/10/30)
- 岡本太郎、「最近のデザイナー」をdisるの巻―エンブレム問題の「パクリ元」(3)(2015/10/31)
(3)の「次号予告」にこう書きました。
1966年当時のデザイン界も、岡本太郎に言われっぱなしではありませんでした。追っていくと、岡本のコメント掲載から半月後、「モダン」の側からひとりのデザイナーが敢然と反旗を翻していました。
誰あろう、亀倉「TOKYO 1964」雄策その人です。
というのが、ここまでのあらすじです。
亀倉雄策のエアリプ反論
亀倉雄策は、エッセイ「オリジナリティー」(デザイン十話 #08)のなかで
この事件で日本のデザイナーはオリジナリティーがないと批判している人がいたが、この批判は的はずれであることは、おわかりのことと思う。
と、相手の名前を出さずに「エアリプ」で反論していました。
相手はきっと、岡本太郎
他にもいたかもしれませんけれども、亀倉が想定していた「オリジナリティーがないと批判している人」というのはきっと、岡本太郎のことです。彼の念頭には、岡本による次のコメントがあったに違いありません。
故意か、偶然かは別として、問題は、最近のデザイナーにオリジナリティー(創意)がまったく見られないこと、外国のパターンにばかりよりかかっていることにあると思う。
出典:朝日新聞(1966/07/12 夕刊)
この8日後(7/20)に、毎日新聞紙上で亀倉の「デザイン十話」10日連続掲載が始まっていますから、時間的にも整合は取れています。
デザイナー亀倉の言い分(1)
亀倉の反論をピックアップします。ポイントとなる部分に線を引いています。
現代では互いに影響し合ってすべてが成り立っている。(略)ましてや、デザインは国境なしに影響し合っている。
だから影響されたって、ヒントを得たってよい。結果が美的にすばらしい成果を上げ、作った人の人間が反映すればよいと私は思っている。
ここで亀倉が基盤とする思想は、「モダン」です。狭義には「無国籍」のことです。
「国境なしに影響し合って」いるのですから、その「結果」が「美的にすばらしい」かどうかを判定する基準は、個別の「国」に依存しない「国際」基準であるわけです。
岡本太郎による「国籍不明デザイン」dis
前述の紙面で、岡本はこういうコメントもしています。
オリジナリティに富んだ作品より、国際的に通用するデザインのほうが、選ぶ側も安心するので、国籍不明、個性喪失のデザインが横行することになる。
「無国籍」「没個性」を否定的にとらえる「アンチモダン」な態度です。根底の部分で、亀倉と正反対であるのがわかります。相容れません。
亀倉雄策の反論(2)
亀倉は「人間性が大切になる」として、こう(エアリプで)反駁しています。
人間性の豊かさ、深さによって発想も違ってくるだろう。表現も違ってくるだろう。それを個性というなら個性といってもよい。その個性が強いか弱いかが問題なのだ。(略)これがオリジナリティーだといえないこともない。まあ点を甘くして、一般世間的な用語としては通用するだろう。
互いの相容れなさを意識したか否かは知りませんが、亀倉なりの「個性」「オリジナリティー」の定義がされていました。
まとめ:そんな「浦島決戦」
国籍不明でオリジナリティーがないとdisった「反モダン」岡本太郎に対し、名指しは避けつつも、国籍を超えたデザインを志向する「モダン」の立場から、亀倉雄策が反論を加えていました。
名づけて「浦島決戦」の一幕でした。太郎と亀だけに。
次回予告:また腰が抜けたゾ
当記事で紹介した「エアリプ反論」のくだりは、「オリジナリティー」の2段落目にあたります。しかしこの文章の真骨頂は、むしろこのくだりをはさんだ前後の第1・第3段落にあると言えそうです。
というのも、岡本太郎うんぬんとは関係ない方面へ向けた、亀倉の悪口が冴えまくっていたからです。読んで(また)腰が抜けました。その前衛ぶりにもほどがあるキレッキレの筆致を「亀倉アヴァンギャルド」とでも名づけたい気分です。
つづく
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