佐野研二郎さん、ロゴの「展開」を語る(2008)

こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。

第1期の審査委員であった平野敬子さんが、この10月になって開設した「HIRANO KEIKO’S OFFICIAL BLOG」とともに、しつこく五輪エンブレム問題を考えています。

はじめに:平野敬子さんの語る「展開」

なかに、こんな記述がありました。※下線は引用者

エンブレム問題発覚後の情報収集でわかったことですが、私にとって聞き慣れない『展開性』や『展開力』という文言は、広告業界では一般的に使用される用語のようで、ネット上に公開されている広告代理店の報告書類にこの文言が記載されており、広告業界用語であることを理解しました

このたびの審査では、この『展開力』という文言が頻繁に登場します。

003 『展開』『展開性』『展開力』(2015/10/17付)

というところで、じりじりと注目キーワードになっている「展開」が、この記事のテーマです。

古い資料を掘り返してきました。

要約:Executive Summary

2008年出版の『日本のロゴ II』という本に収録された佐野研二郎さんの「デザイナーインタビュー」では、8ページの紙面に、「展開」という語が見出しを含めて合計6回出てきました。

以上の事実から、次の2つのこともわかりました。

  1. 2008年の時点で、佐野さんがロゴマークに対して展開性を重視していたこと
  2. 少なくとも平野敬子さんと佐野研二郎さんのお2人については、「展開」の面において「同じ業界の人」とひとくくりにしにくいこと

資料:『日本のロゴ II』(2008)

白紙撤回された「佐野デザイン」に代わるエンブレムに選ばれるように今度応募するので(大ウソ)、参考に図書館で資料をいろいろ見てきました。

そのうちの1冊がこちらです。2008年の本です。

各分野のロゴマークやそれらの歴史的変遷を集めた1冊でした。

ここに、佐野研二郎さんのインタビューが載っていました。

完全版・佐野研二郎さんの「展開」用例 in 『日本のロゴ II』(全6回)

冒頭に述べたとおり、佐野研二郎さんの「デザイナーインタビュー」では、全8ページ中、「展開」という単語が見出しを含めて合計6回登場します。

以下に、6つ全部を列挙して「コンプリートコレクション」します。

いずれも強調・下線は引用者によるものです。

また添付の画像は、ネットから採集した類似のイメージです。書籍のものとは異なります。

【#01】 『日本の表現力』展@国立新美術館(2007)

ロゴ使用例のキャプションに登場します。

こちらが実際の使用例。いくらでも展開できる。使い勝手の良い“箱”の機能を持ったマークであることがよくわかる(p.197)

いきなりで恐縮ですが、これは佐野さん自身の言葉ではなく、ライターさんによるテキスト部分でした。

国立新美術館のサイト情報によれば、この展覧会、正式名称を、

文化庁メディア芸術祭10周年企画展
「日本の表現力」

といい、

観覧料:無料

だったようです。

参考画像

この展覧会に夫婦で訪れた方のブログがありました。引用します。

入り口のポスターには、いろんな巨匠のサインがされていた。うちでリスペクトされているマンガ作家の安野モヨコさんのサインもバッチリ。

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出典:「日本の表現力 アート/エンタ/アニメ/マンガ」展 国立新美術館|うちのパンキョー。(2007/02/05付)

【#02・#03】金のつぶ超やわらか納豆 とろっ豆(2007~)

見出しに1回、本文に1回出てきます。

展開に楽しみがあるシンボルマーク

この“ミスターとろっ豆君”、今度表情が微妙に違うパッケージが9種類出るんですけど、そういう風に「どういう人となりになっていくのか」も考えた、展開に余裕のあるロゴマークを設計するのが大切ですね。(後略)(p.198)

参考画像

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※ニュースリリース > 新パッケージ 「金のつぶ(R) 超やわらか納豆とろっ豆TM」/9種類の表情で売場を楽しく!/3月初旬より店頭にて展開!!|mizkan.co.jp(2008/02/27付)より

なるほど確かに、2015年の今も、スーパーの納豆売り場に行けばこのパッケージを見ます。エンブレム騒動で「佐野研二郎デザイン」と知って以来目に留まるようになりました。「豆」の字形が数パターンあるのにも気づいていました。

でも一度も買ったことはない。

【#04・#05】 東京放送(TBS)(2001~)

見出し部の

展開の中心になれるキャラクター

とコメント

キャラクターを作って欲しいという話だったんですけど、テレビ局らしく、いろんなコンテンツに対応できるという展開の例と、「TBS」そのものもアピールできるような「TブーS!」という言葉もセットにして作ったんです。そこまで頼まれてないんですけどね(笑)。(p.201)

に1回ずつ出てきます。

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※Boo Channel > プロフィール|tbs.co.jp より

頼まれていないところ(厳密には、かつ、その先の工程で当然に必要となるところ)まで作り込んじゃうっていう「制作裏話」、ウェットでちょっといい話じゃんよと思ってしまいました。

【#06】インタビュー

最後の6つめは佐野さんが答えている部分

良いロゴやシンボルは展開しやすいので、後はCMであれWebであれ、いかようにもなるんです。(p.202)

でした。

以上、奇しくもTBSのナンバーと共通の「6」となりました。

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※Boo Channel > かべ紙より

佐野研二郎さんのロゴデザイン論

引用箇所の前後は、佐野さんによるこんなデザイン論でした。少し抜粋します。

まず前、(いずれもp.202より)

僕はデザインというのはブランドや商品の“人格”を作ることだと考えています。可愛い感じなのか、知的な人なのか、やんちゃな奴なのか。

その前提に立って、僕はほとんどの仕事をロゴから考えていくようにしています。

そうしてロゴが出来上がったとき、実はもう、そのブランドや商品を描く仕事は半分終わっているんですよ。ロゴマークが決まれば人格=内容も決まる。

「展開」の出てくる文の後ろです。

ロゴマークは、魅力的であるのはもちろん大切ですけど、同時に、シンプルに言語化できるものでもなければいけないと思うんです。単純な話、企業の担当者が僕の説明を聞いて「なるほど!」と納得して、世の人にも同じく説明できる、それくらいシンプルじゃないと駄目だと。社内でも伝わらないものが、世間に伝わるわけはないですからね。(pp.202-203)

さあ、なぜ伝わらなかったのか、じっくり検証しようじゃありませんか。(って誰向け?)

佐野研二郎さんのロゴ観

さらにその先は、「ロゴ」に対する2008年時点での佐野さんの考えが一層よくわかる記述になっていました。p.203より引用します。

「シンプル」が美学

でも、そうやってでき上がったものが「理屈っぽくない」ということ。これが僕にとっては一番のミソなんですよ。決してゼロからは辿り着けないものだけど、見た人が「シャレじゃん!」「俺でも作れるかも」って思うくらいシンプルで印象深いところまで持って行く。それが一応、僕の美学ですね。(p.203)

「こんなの俺でも作れる」って言ってた人、ネットに腐るほどいた。今もいそう。

良いロゴには「ノイズ」も大事

印象に残るという点では、他にノイズというものも大事にしています。

このノイズ、最初に話した「人格を作る」という上でも大事だと思います。ひとは完璧じゃなくてノイズがあるから面白いわけですからね。

何だか気になる魅力的なノイズがあって、ちゃんと言葉で「こんな奴」と説明できる。それが僕にとっての良いロゴです。

例のエンブレムの場合、言うところの「ノイズ」が面白すぎた可能性がなかったか、検証が必要に思いました。

完全に「展開」の話

そしてここからは、「展開」の単語こそ使っていませんが、完全に「展開性」「展開力」の話です。

そして、そういうロゴは後で様々な使われ方をする場合にも、とても使いやすいんです。

その意味では、ロゴを作るとは、みんなが使いやすいフォーマットを作ることでもあるんだと思います。

ロゴは1個で決まりではなくて、その都度変化していくものの方が、逆にそこに意味が出てコミュニケーションもしやすくなる。それが、年月が経っても風化しないということにもつながっていくんだと思います。

こうしたロゴ観の延長上に、佐野さんの「TOKYO 2020」のエンブレムがあったことは明らかに思えます。

その意味で、

  • 「佐野エンブレム」は2008年の時点で既に「基本方針」ができ上がっていた。

と言えそうです。

余談:「もう一人」は、ざわめくあの方

ところで、この『日本のロゴ II』にインタビューが収録されているデザイナーが、もうおひと方いらっしゃいました。

誰あろう、第1期の審査委員代表だった永井一正さんです。

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なんということでしょう。紙上ながら、既にこのとき、佐野さんと隣同士で並び合っているではありませんか。

もうどえらいざわめきポイントです。

2015年の目からは、もうほとんどこんな感じ↓に見えました。

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「きょうのニュース振り返り」東京五輪エンブレム正式発表|ホウドウキョク(2015/07/24付)より

そのうえ永井さん、「心に残るマークは?」というインタビューテーマに、こう答えています。(いずれもp.195より)

亀倉雄策さんの東京オリンピックのマーク、あれはやっぱり傑作だったと思います。

あれに決まった時には目から鱗が落ちました。(略)日の丸(太陽)と五輪のマークと「TOKYO 1964」のロゴが入っているだけ。でもそれが合わさると、まさにあれ以外に東京オリンピックのマークは有り得ない、というほどの強さと象徴性がありました。そこには、実はものすごく計算された造形があったんですね。

既に在るものを集めたとしても、造形性によってあれだけ新鮮な、インパクトの強いものが生まれる。

※image from mag.sendenkaigi.com

今年のエンブレム会見での発言とまったく区別がつきません。全くブレていない。

ここで重要なのは、オリンピックと何の関係もない文脈でこの答えだったという点です。

と、なまら永井さん方向へのポテンシャルを感じつつも、この記事ではここまで。

翌2009年の「展開」例:TOKYO_2016

そういえば、佐野さんは3人で競っていた「デザインの現場」2009年6月号での「TOKYO 2016」ロゴデザイン企画でも、1人だけ、展開例を作っていました。

詳しくは過去記事:佐野研二郎さん、「TOKYO 2016」五輪エンブレムもデザインしていた(2015/09/17)をご覧ください。

パターンパターン! 展開見えてきたよ!

【おまけ】佐野さんの次回テレビ/ラジオ出演プランも考える

とはいえ9月朔日の取り下げ決定以降、理解を得られないまま一般国民の前に姿を現さない佐野研二郎さんは、ネット世間的にもうあらかた「過去の人」扱いです。実際、当ブログにも「現在」「今」というキーワードでの検索がちょいちょいあります。

そんなこんなのご時世なので、佐野さんのための出演番組として、以下のいずれかを希望しておきます。

具体的な収録ならびにOAの時期は事務局にお任せします。

相似形の「先輩」として新垣隆さんの前例もありますし、実現される日を楽しみに待っています。

私としてはぜひともTBS(というか、藤井健太郎プロデューサー)に手がけていただきたいところですが、「やっぱりTブーSかよ」「出来レースだな」などと陰口を叩かれるのも心外です。

公正なコンペを設けて決めるのがいいんじゃないでしょうか。

こちらからは以上です。

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