こんばんは。林修ナイトの時間です。
「あすなろラボ」授業の感想シリーズ、その6です。と見せかけてのブックガイド記事です。
家庭の食問題を考えるための4冊
全部で4冊紹介します。
1.現代主婦家庭の食卓のリアルを知る本
はじめに、現代の「家庭の食問題」を考えるにあたっての必読書といえる本を紹介します。「まず読め。話はそこからだ」的な1冊です。
『変わる家族 変わる食卓』(岩村暢子 2003, 2009)
〈食DRIVE〉という調査結果のレポートです。10年前に出た本ですが、追随する類似の調査研究が見られないことから、いまも価値が損なわれていません。
ちなみに僕が2005年に読んだ本第1位です。手元のメモだと、この年は全部で60冊弱読みました。
調査対象は、首都圏在住/1960年以降生まれ/子供を持つ という条件の「現代主婦」。おそらく、今回林さんが授業を行った「生徒」像にもぴったりと当てはまります。
調査手法は、食卓に上った料理の写真を撮ってもらう。そして事前事後にインタビューを行う。と、ひたすら定性調査です。
余談ですが、僕はこの本に接して、定性調査を定量調査より一段下に置いていた偏見を改めました。
のべ111人、2331の食卓の調査から浮かび上がってきたのは、食生活の「崩壊の危機」どころでなく、とっくに崩壊しきったなれの果ての姿でした。
たとえば「○日目 夕食」といった具合に、料理を写した写真が掲載されているのですが、その破壊力たるやすさまじく、IPPONグランプリだったら一本が取れそうな「答え」がいくつもあります。
なにより恐ろしいのは、ここで現代主婦が一切ボケていないことです。
もちろん、調査対象の偏りを指摘するのもいいでしょう。そこも含めて、この結果はなんなのか、だからどうなのかなど、議論がどのような方向へ向かうにせよ、ここを出発点に始めるのがいいやり方と思います。
2.「現代主婦」のルーツをたどる本
『「親の顔が見てみたい!」調査』(岩村暢子 2005, 2010)
1.に続く岩村暢子さんの著書です。文庫化の際、書名は『〈現代家族〉の誕生』から改題されています。〈食DRIVE〉での調査結果を受け、岩村さんのチームは「親の顔を見る」調査を進めます。「現代主婦」らの親世代が、食生活に係る伝統をむしろ積極的に破壊してきたことが描き出されています。
と、これだけ語ったにもかかわらず、僕は未読です。
3:より広い時間軸でとらえる本
ここまでの時間的スコープは、現代主婦とその親の2世代だけでした。そこで、さらに広い時間軸を視程に入れ、本質をとらえようとする必要があります。
『食生活の歴史』(瀬川清子 1957, 2001)
地味な研究書です。文庫版は、1957年初版の復刻。今回調べてみたら、文庫版も新刊では入手不可のようです。
直接の答えは書いてありませんが、たとえば次のような疑問を呼び、ヒントを与えてくれます。
- ご飯をよそうのが、なぜあの形をした「茶わん」なのか
- ナイフ、フォーク、皿などの洋食器はそうでないのに、なぜ箸と茶碗は家族ごとに使うものが決まっているのか
いま「あたりまえ」「正しい」とされているあり方を、幅広い時間軸のなかで評価し直すことをしたいわけです。その目的に照らして、本書が最良とまでは思わないので、ほかにより適切な文献があればご教示いただければ幸いです。
4:吉本隆明と吉本家の生活史に俄然興味が湧いてしまった人のための本
最後に、上記のような方限定のケーススタディです。
『開店休業』(吉本隆明/ハルノ宵子 2013)
食の雑誌「dancyu」での連載エッセイの書籍化。2007年1月号から2011年2月号までの計40回分が収められています。「吉本隆明、最後の自筆連載」ですから、まさにこれが吉本の「料理についての遺書」です。
本書の何よりの付加価値ポイントは、長女・ハルノ宵子さんの書き下ろしパートです。40回分のエッセイの1つずつに、追想の一文が寄せられています。また、本文中の挿画もハルノさんの手によるものです。
ハルノさんの追想はツッコミあり暴露話ありで、興味深いです。そしてエッセイ1つごとに父と娘との両方の視点が切り替わる構成で、非常にリズミカルに読み進められるようになっており、味わいを増しています。読んでいて面白かったです。
あわせて読みたいWeb記事
「ほぼ日刊イトイ新聞」の対談記事、ハルノ宵子×糸井重里 父と母と、我が家の食事。もあわせて読むと、一段と面白いです。
チームDの必読書?
チームDのグルメデ部門に属する林修さんですから、「dancyu」もきっと愛読し、吉本隆明の連載もご存知だったでしょう。単行本で実現した「父娘コラボ」が非常にいいので、『開店休業』、僕からおすすめします。
ご静聴ありがとうございました。
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