こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
あまりに衝撃的すぎて?ガセじゃないかとの説も見られた、週刊新潮(10月8日号)に載った「佐野エンブレム」パラリンピック原案を検証します。
結論
週刊新潮の「佐野エンブレム」原案は、きっと本当です。
こちらの図案(再現)が、佐野研二郎さんが当初提出した「パラリンピックエンブレム原案」である蓋然性は高い。
というのが当ブログの結論です。
謝辞
当記事のロゴ図案は、いずれも
東京五輪2020エンブレムで学ぶSVG超入門|qiita.com(2015/08/09付)
を参考にして作成しました。ありがとうございます。
前回のあらすじ
10/1発売の週刊新潮の記事にはびっくりしました。中でもいちばん驚いたのは佐野研二郎さんデザインのパラリンピック原案でした。こちらで記事にしました。
- 【緊急特集】「佐野エンブレム」のパラリンピック原案がヤバすぎ!(2015/10/02)
びっくりしたと同時に、自身でもパラリンピック原案が「最終案と全然違っていた(オリンピックの原案・最終案以上に)のでは?」と仮説を立てて検証途中であったため、先を越されて悔しくもありました。
また「副作用」として、上記記事へのアクセス状況から、発売日にこの件をネットで誰も騒いでいなかったのを不審がっていた私が、実は「ネット騒然」の先頭グループに属していたらしく、国内トップクラスのヒマ人だったことも判明してしまいました。
なんやかんやで衝撃の新事実が盛りだくさんでした。
検証・「佐野エンブレム」のパラリンピック原案
週刊新潮の「佐野エンブレム」パラリンピック原案に焦点を絞り、その真正性を検証してみることにします。
検証対象
想定する「原案」として、次の2つを比較することにします。
(1)まず、週刊新潮掲載の「パラリンピック原案」のケースです。(再掲)
(2)「対照群」として、こんな仮想の「パラリンピック原案」を作ってみました。
見てのとおり、既報の五輪エンブレム原案の「T」を元に、最終案にならってベース色の黒白を反転させたものです。
「新潮のアレは誤報。実はこうだ」という「対抗馬」にしてみます。
検証のアプローチ
以上の2案を「原案」と想定し、それぞれの場合における周辺事実との論理的な整合性を比較するアプローチをとります。
要は、諸事実・推論に照らして、どちらがより「原案」として整合性が高いか?というアプローチです。
余談:色も原案から調整が入ったもよう
少々脱線して、配色の変遷について。
報道されたオリンピック原案の「T」をよくよく見ると、肩に当たる三角形部分の色調が最終案とは異なっているかのようにも見えます。
たとえば、五輪エンブレム 組織委幹部、審査委通さず修正要求|朝日新聞デジタル(2015/09/28付)
に添えられた原案の図は、最終案とは三角パーツの色が若干異なっていました。
SVG描画で再現してみます。色データはWindows「ペイント」のスポイト機能で拾いました。
図の中の原案?はこんな感じでした。
配色として「原案=最終案」「変化なし」ならば、こうなります。
ただし当記事ではマイナーな論点とみなしてこれ以上は触れません。
おことわり:パーツ配置にフォーカスします
ということで、当記事では個々のパーツの配置をもっぱらの検証対象とします。色調の違いについてはこれ以上言及しません。
検証過程
くり返しますと、私としては週刊新潮が報じたとおり、「P」を模した図案が実際の「佐野エンブレム」パラリンピック原案だったのだろうなと思っています。
根拠となるのは次の2点です。
- 【事実】公表された原案の「展開例」にパラリンピック原案が出てこない。
- 【推論】「[T]の反転」のアイデアは、デザインの修正過程(2014年11月~2015年4月)で加わった可能性がきわめて高い。
会見での関係メンバーの発言とも照らしあわせた、なんちゃって言説分析(ディスコース・アナリシス)です。
1.パラリンピック原案「展開例」の不在
大会組織委員会は、エンブレム3rd会見(2015/08/28)で佐野デザインの原案を公表しました。
この会見で示された、佐野さんが提出したという「展開例」に、パラリンピック原案は出てきません。
一例を示します。例の「羽田空港」のやつです。
あるのはオリンピックの側だけです。
一方「最終案」の展開例では、同じ画像をベースにした例に、オリ・パラ両方のエンブレムが出てきているのがわかります。
以上から、少なくとも「羽田空港」の展開例画像については、最低一度は作り直したことがわかります。
付記:各種情報ソースについて
なお上の画像は、
- 8月28日 東京2020エンブレム 選考過程に関する記者ブリーフィング・質疑応答(全文) 『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』|聞文読報(2015/08/28付)
の会見テキスト記事から転載しました。謝意を表します。
ちなみにこの画像が個人ブログからの無断流用だったことが、エンブレム取り下げの一因ともなりました。比較用に元画像も転載しておきます。
【元の画像はこちら】
転載元:[Japan] Haneda Airport, Tokyo|SLEEPWALKING IN TOKYO(2012/05/31付)
情報ソース:「取り下げは行きすぎ」「複雑な気持ち」 エンブレム「展開例」に写真使われたブロガーがコメント|ITmediaニュース(2015/09/02付)
考察:不自然な「パラリンピック不在」
もし、パラリンピック原案が、先ほど「対抗」として示したようなT原案の「配色反転形」だったならば、ここまでの「展開例」の紹介で一切登場してこない「不在」は不自然です。
だって両者は「イコール」なんでしょ?
「不在」の事実を勘ぐってしまうと、組織委員会側が会見でパラリンピック原案に触れられるのを忌避していたようにも読み取れます。
3rd会見での質疑応答でも「避けていた」?
事実、8/28のエンブレム3rd会見では、
パラリンピックの佐野さんのオリジナルの作品というのを公表されないんでしょうか
という質問(ニコニコ動画・七尾さん)に対し
パラリンピックにつきましては、現在、パラリンピック自身のエンブレムについては特段問題になっていないわけでございます。
パラリンピック自身が訴訟の対象になっておりませんので、これはIPCの方もそれを、結果を出せば充分であるということで、その原案を公表するということはしてないわけであります。
と事務総長の武藤敏郎さんが答えています。
そっちは「出したくない」「触れてほしくない」という意思を感じます。
大穴としての、原案「展開例」改ざん説
あるいは「大穴」として、会見で公表した原案の「展開例」は、「P」の原案を隠すために、会見用に別画像を貼りつけて「改ざん」した可能性も考えました。
すなわち、
- 実際には「T」原案の右側に「P」が並んでいたのだけれども、(それは見せたくないので)人の影の形をした別画像を貼りつけた。
そんな可能性です。
だとした場合の「張本人」は、マーケティング局長の槙英俊さんです。困ったことに、いったんそう思い始めると、どんどんそう思えてきます。
しかしながら、なにぶん根拠が弱く「勘ぐりすぎ」の目も大いにありますし、槙さんが退任してしまった今となっては追及の優先度も低いかなとも思います。
2.会見メンバーは、みな「最終的に」と証言
ここでは今一度、一連の会見における関係メンバーの発言を振り返ってみることにしましょう。
注意深く検討してみると、会見で言及した全員が、パラリンピックエンブレム最終案の「反転」アイデアが「最終的に」加わったと証言していることがわかります。
以下、その「証言集」です。 ※強調・下線は引用者
佐野研二郎さん(制作デザイナー):
まず佐野研二郎さんは、既に8/5の2nd「盗用疑惑。」会見の冒頭でこう述べています。
大いなる情熱をもってこのチャンスに挑み、ブラッシュアップを何度も繰り返して、世界に類のないエンブレムが出来たと、完成時に私自身、確信しました。
質疑応答の中でも
何回かブラッシュアップをして、これだったら問題ないんじゃないかというところまでたどりついた
とくり返していました。
パラリンピック原案の具体像がわかる証言ではありませんが、少なくとも「原案は違っていた」ことがわかります。
武藤敏郎さん(組織委員会・事務総長):
もう少し踏み込んで述べていたのは、事務総長の武藤敏郎さんです。
8/28の3rd「原案公表。」会見からです。
原案のシンプルな力強さ、展開力を維持しつつ、オリンピック・パラリンピックのエンブレムが同じ要素で構成されているという、たいへん素晴らしいデザインに改善されました。
この発言での「同じ要素で構成」は、原案の側でなく「改善」に含まれています。
整理すると、こう言っています。
- 〈原案が持っていたもの〉
- シンプルな力強さ
- 展開力
- 〈デザイン改善の結果〉
- 原案の良さを維持
- エンブレムが同じ要素で構成
要するにパラリンピックのエンブレム原案は、当初オリンピックの側と「同じ要素で構成されてはいなかった」という話です。
わたしどもがこのパラリンピックのエンブレムを持ち出しておりますのは、全体としてコンセプトができあがっていると、最終的なものはですね。
これも同様です。「最終的なものは」、全体としてコンセプトができあがった。という趣旨の説明です。
言っているのは、「はじめは違った」です。
永井一正(審査委員代表)さん:
こちらも、8/28・3rd会見での発言からです。
それとパラリンピックとの整合性っていうのが、最初よりもずいぶん良くなったというようなことで、これに収まった
「最初よりもずいぶん良くなった」のだそうです。
そもそも永井さんは、最初の「デビュー。」会見(7/24・1st)でもこうおっしゃっていました。
いろいろ国際商標上、変化はしたんですけれども、パラリンピックはちょうど重なる感じでイコール、東京のオリンピックとパラリンピックがイコールの関係にあるっていうことに結果としてはなったという
「結果としては」イコールになった。そういう説明です。
いずれも「パラリンピックとの整合性」の面で、原案の完成度が不十分であったことが示唆される証言です。
全員「イコールではなかった」で一致
という具合に、関係者の証言はすべて「原案は違った」という面で一致しています。もっと言えば「オリンピックの側と『イコール』ではなかった」という方向での一致です。
つまり裏を返せば、「色の反転」によるオリ・パラの統一デザインは、原案には入っていなかったアイデアだったということになります。
こうしてみると、永井一正さんが7/24の1st「デビュー。」会見で
何しろこのエンブレム、2つのオリンピック・パラリンピックのエンブレムは生まれた時、いま生まれた時です。
と強調していたのも、「なるほどそういう意味もあったか」と答え合わせができたような心地がいたします。
謝辞
発言テキストはいずれも、聞文読報の次の文字起こし記事から採取しました。
7/24 1st「デビュー。」|8/5 2nd「盗用疑惑。」|8/28 3rd「原案公表。」
ありがとうございます。
まとめ:ヒマ人の結論
以上から、国内トップクラスのヒマ人である私は、佐野さんが実際に提出した「パラリンピック原案」も、だいたい週刊新潮が報じたとおりであったのだろうと考えております。
反証を歓迎します
当然ながら、この結論が、整合する事実だけを取り上げた「確証バイアス」による誤謬である場合も大いにありえます。
ヒマ人はもとより、ヒマ人でない方からも、反例となる事実の指摘を歓迎いたします。
その状況によって、自分自身のヒマ人ぶりを検証してみたいと存じます。
こちらからは以上です。
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