こんにちは。
以前にツイートしたものと同内容ですが、肉づけしてブログ記事にもしておきます。
2013年の第1位の本の紹介です。年内にあと何冊読むかはわかりませんが、認識が変わることはないでしょう。
加藤智大『解+』(批評社, 2013):いろんな意味ですごい本
それが、タイトルにも書いた『解+』です。
「秋葉原無差別殺傷事件の意味と そこから見えてくる真の事件対策」が副題です。
とにかく第一級の資料であることは間違いありません。当事者中の当事者なのですから。それも含めて、いろんな意味ですごい本でした。
たとえばここがすごい
一般化して言うと、本書は「やらかしてしまった人が、やらかした経験をふまえ、考え抜いて書いた本」なのですが、その考え抜き方が、すごいところのひとつです。
読むことにしたのはそこが決め手でした。それがなければ買いませんでした。
だが万人向けではない
考え抜いて書かれた本ですから、万人向けではありません。考えられる人にのみ、おすすめです。
おすすめするのも、非常に慎重にならざるを得ません。テーマがテーマだけに、間違えて日本語が読めない人や考えられない人が手にしてしまったら、的外れな批判をするだろうことは、容易に想像がつくからです。
そんな具合に、間違った人に届いてしまう危険もありますが、ひとりでも多くの考えられる人に本書のことが知られるといいなと思って書きました。
ある意味「加藤智大からの挑戦状」(煽り)
煽って煽っての言い方をすれば、『解+』は「秋葉原無差別殺傷犯・加藤智大からの挑戦状」です。
要約すると、
- 皆さんに伝えられていることはいろいろと間違っています。
- 本当はこういうことです。
- だからこうすればいいです。
- で、皆さんどうしますか?
と、読者に突きつけているからです。
前半、上記のような説明(のための説明)に入るまでのパートで特に顕著なのですが、
事件直後、秋葉原で何があったのか、思い出していただければわかることです。確かに、一部、事件を事件として見た方もいました。しかし大抵の人は、ケータイで「ショー」を撮るだけです。それを喜々としてネットにあげ、友人知人にメールするのがほとんどの人でした。
「犯人叩き」も、見せ物の一部のようなものです。怪獣映画よろしく、「怪獣」が散々いたぶられた後で殺されるのを見て満足したいだけでしょう。このように書いている私にイラついている人こそ、そういう人です。 (p.17)
など、このような筆致で、読者を振り落としていきます。
自殺対策についても考えることができる
副次的なテーマで、著者サイドは必ずしもそこを求めてはいないかもしれませんが、本書では加藤さんが過去に何度か自殺を企図し、思いとどまったり失敗したりした経緯にも触れていることから、人が自殺に至る過程についてもケーススタディとして知ることができます。
そして世の中に出回っている自殺をめぐる言説に、間違っているものが少なくないことに気づかされます。
さらに、自殺対策についても知見を深められます。自分の中ではまだ整理しきれていませんが、本書をきっかけに考えを深めていけば、世にある自殺対策のうち、有効なものとそうでない的外れなものとが、明確に区別できるようになれる感触はあります。
前作『解』はいまいち
実は、彼の著作は『解』につづいてこれが2冊目です。書名に「+」とあるのはその意味です。『解+』のカバー裏の記述によれば、加藤さん本人は『解』を全面的に書き直したかったようですが、間に合わずに出版されてしまったみたいです。
書店で『解+』と並べて売られていましたが、『解』のほうは全体をざっと見て、買いませんでした。『解』は読まなくていい本だと思います。
年間1位を7月に発表する理由
判断を早める訓練の一環です。2011年に後悔した経験もあります。
2011年の第1位、近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』は、2月に読み終えた時点でマイ年間1位を確信し、実際そうだったのですが、誰にも言わず、ネットにも書かずでした。
ただ離婚裁判が終わってから、嫁には話しました。嫁の実家で1冊購入して、みんなで「こんまり」して、それぞれ成功したりしなかったりしたそうです。以来嫁は片づけを「こんまり」と呼んでいます。
なお2012年は「該当なし」です。
ちなみに
加藤智大さんはこの記事を書いた2013年7月現在、1審2審とも死刑判決を受け、上告中です。
もし自分が判断する立場だったらと考えてみました。死刑判決を維持するでしょう。
それでもたぶん
加藤さんが読者に突きつけたことは、ほとんどの人に顧みられることなく、世の中はほとんどなにも、変わることはないでしょう。そしてほとんどなにも変わることがないまま、似たような事件がまた起こるでしょう。
僕はそんな世の中は厭ですが、なんとかするにはあまりに無力です。
おわりに
今後の話をします。『解+』の存在によって、起こらなくてもいい事件がどれだけ未然に防げたか、どれぐらい起こらずに済んだかを計測するのは困難です。
僕だって、いつ事件を起こす側になるかわかりません。しかし少なくとも僕自身は、『解+』を読んで考えることで、事件を起こしてしまう地点からさらに半歩遠ざかることができていると思います。
事件を起こしたいわけではありません。いつそうなるかわからない、と警戒しながら毎日を生きているだけです。
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