こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
仕方ないから、その「作品」そのもののみに即して(製作者の資格と品位の瑕疵や、製作や選出、修正のプロセスの不明朗さは、いまはさて置いて)、以下に、はっきりと説明し、引導を渡すことによう。
という、
佐野五輪エンブレムは超弩級の駄作!(純丘曜彰)|INSIGHT NOW(2015/08/26付)
こちらの記事を読みました。面白かったです。
《「作品」そのもののみに即して》という趣旨に賛同し、五輪エンブレム全力応援!プロジェクトの一環として、またディベートの練習として、反論しておきます。
といっても、もっぱら反対の論点の提示だけという大ざっぱなやり方です。
総論:Executive Summary
まず、リンク先各ページの冒頭に記されているこちらのサマリー
/製作者の資質の瑕疵や、プロセスの不明朗さはさて置き、この「作品」は、1:中心にあって全体の三分の一をも埋め尽くす黒ブロックの閉塞下降感、2:ナチス・フラッグを想起させる陰鬱で特殊な色遣い、3:異物として動きを止めている右上の梅干と進出色の右下銀パーツという構成の失敗、4:Tもどきモティーフに精神的根拠が無い、という四点などからして、国際的な場での使用に耐えない。選び直しが当然だ。/
これを分割して、賛否を述べておきます。引用に適宜改行を加えています。
製作者の資質の瑕疵や、プロセスの不明朗さはさて置き、
趣旨に賛同します。
この「作品」は、
1:中心にあって全体の三分の一をも埋め尽くす黒ブロック
事実認識として一致しています。
の閉塞下降感、
はて?
2:ナチス・フラッグを想起させる陰鬱で特殊な色遣い、
どんな眼鏡をかけたらいいでしょうか?
3:異物として動きを止めている右上の梅干と進出色の右下銀パーツ
偏頗な形容はおいて、趣旨は諒とします。
という構成の失敗、
ゆえに、展開性が重視されるデザインになっています。
4:Tもどきモティーフに精神的根拠が無い、
「無い」ではなく、正確には「認めたくない」でしょう。
という四点などからして、
という客観的根拠に乏しい指摘などからして、
国際的な場での使用に耐えない。
「使用に耐えない」というような結論とはなりません。
選び直しが当然だ。
よって、「選び直しが当然」との主張も成立しません。
各論
qiita.comにて作成
次の各論点について反論を進めます。
- 形状
- 黒い縦長の方形
- 金と銀の円弧
- 右上の円
- 配色
- 構成
- Tの精神?
論点1-1:黒い縦長の方形
このロゴのメインは、中央にあって天地(図形の上下の限界)に付き、ロゴ全体の面積の幅三分の一をも埋め尽くす黒い縦長の方形である。
これが最初の論点です。
以下、こういった主張です。
その辺の長さが異なるとき、人間の心は、短辺より長辺に方向性を感じる。
これはいいとして、※下線は引用者
この場合、一般に、白(青)=上昇、黒(赤)は下降を意味する。
本当でしょうか?
この色の方向性は、株式市場などでも世界共通の「ローソク足」としておなじみだろう。
ローソク足(candlestick chart)は世界共通で使われていますが、色の方向性は案外ばらばらです。
主張に合わない「ローソク足」の例
「一般に、白(青)=上昇、黒(赤)は下降を意味する」との主張をされていました。
内外のキャンドルチャートに反対の例を見つけることは、さほど難しくないです。
(その1)
こちらのチャートでは、
スマートチャート > 日経平均株価|nikkei.com より
- 陽線(上昇)=赤枠・白
- 陰線(下落)=青
です。
(その2)
こちらも同様で、
FXチャート・レート|YAHOO!ファイナンス
- 陽線(上昇)=赤
- 陰線(下落)=青
となっています。
(その3)
海外からも例を取ると、
Renko & Tick Chart plug-in for Metatrader 4|az-invest.eu
では、
- 陽線(上昇)=緑枠・黒
- 陰線(下落)=白
です。
主張に合う例:
むろん、合った例もあります。
複数のチャートを活用する|saxobank.co.jp
こちらは、上昇=緑、下落=赤です。
画像検索結果からすると、カラーでの配色はこの仕様が多かったです。
論点1-1・中間まとめ
「共通認識」と呼べるほど、世界は統一されていません。
ついでに日本語も論難
論点と無関係ですが、気持ち悪かったので日本語のことに触れておきます。
ロゴ全体の面積の幅三分の一をも埋め尽くす黒い縦長の方形である。
こういう文脈でここを強調したいときは、
- 三分の一「をも」ではなくて、
- 三分の一「もを」といいます。
通じる「をも」
たとえば、
- (例文)
- 周辺道路をも埋め尽くすファンたち
みたいな例なら、「をも」でいいです。
この例では、ファンたちは「ホール」なり「アリーナ」なり、暗示的に別の場所を既に埋め尽くしており、そこに加えて「周辺道路を」「も」埋め尽くしていると考えられるからです。
通じない「をも」
一方、
面積の幅三分の一をも埋め尽くす黒い縦長の方形
という用例では、「三分の一を」を何と対比しての「も」かが不明です。ほかの何も埋め尽くしていませんから。
単に「三分の一」を強調したいのですから、「三分の一もを」としなければいけません。
日本語って、難しいですね。
余計な話でした。
論点1-1・まとめ
つまり、この塗りつぶしのメインパーツの形だけでも、閉塞下降感があって、祝祭にふさわしくない、と人々が感じるのは当然。
上の文が言うところの「閉塞下降感」は気ままな感覚です。
そう感じる人がいてもいいですが、当然ではありません。
論点1-2:金と銀の円弧
引用は前後します。
a)9分割内の扇形のありさまについて
このロゴが九分割ユニット構成で、多様な部品の組み替えを想定したものであるとの説明をしていた
実際は、ユニットの外、ロゴの中心を扇形の孤の中心としている。
そのとおりです。
このパーツがユニットとして個々に完結しているのなら、この扇形の切り欠きの中心もまた、ユニットの中に収まって、ユニットの正方形の角でなければならない。
なぜ?
説明のようにユニットパーツとして組み換え、別の場所に置くと、孤はロゴの外を、その中心として指し示してしまう。
そのとおりです。
それゆえ、この九分割ユニットとその展開は、話としてもデザインとしても無理と矛盾がある。
なぜ?
円弧の中心が分割したユニット内(の一頂点)になければならないとする理由は、なに?
この孤の中心がロゴの中心にある限り、この2つのパーツは、このロゴの四隅以外に配置することは不可能である。
なぜ?
b)いわゆる「亀倉雄策円」の存在
もう一つの説明としては、この両隅のパーツによって、ロゴ全体をおおう大きな白い円を表現している、というものである。
でしたね。
残り四分の三の孤を自分で補って大円を見ろというのは、デザイナーの思い上がり以上のなにものでもない。
「見ろ」という主張ではありませんでした。
佐野研二郎さんは8月5日の会見でこう述べていました。
亀倉雄策さんが1964年の東京オリンピックの時に作られた、大きい日の丸っていうものをイメージさせるものになるんじゃないかなというふうに思いまして、
亀倉雄策先生の大きい丸とか、そういうものを内包さしてみてはどうかとか、この“T”の片っぽ側を下に降ろすとかいうことで差をつけていくっていうデザイン作業をしてった
【書き起こし】8月5日 佐野研二郎 槙英俊(組織委) 記者会見・質疑応答(全文) 五輪エンブレム問題 『東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会』|聞文読報(2015/08/26付)
言うところの「大円」は背景に内包される存在です。
28日の会見から、原案にはない概念だったことが判明して「?」ですが、それはまた別途。
c)扇形の形状
このパーツは、(略)むしろ鋭角の残片の方に存在感を生じてしまっている。
両側が鋭角な形態は、敵意や攻撃心、もしくは切り裂かれた深傷を思わせる。
はあ、そうですかとしか。
これも日本語的に
論点と無関係ですが、気になるので。
左上と左下には、立方体から扇形を切り欠いた金と銀のパーツがある。
「左上と右下」ですね。ミスタイプでしょうけれど。
ですが、なぜに「立方体」? なぜゆえ3D?
論点1-3:右上の赤い円
最悪なのは、右上の梅干。
いきなりのレッテル貼りですが、ひとまずよしとします。
このロゴの場合、この小さな梅干が、ロゴ全体の中心であればともかく、ロゴの隅であるために、ロゴの全体とはまったく独立して、別の場所に別の求心性を発揮してしまっており、全体からすれば、いかにも異物
だとすれば、そこがいい。
ゴキブレムの方は、全体に回転の力動性があるにもかかわらず、この梅干がその回転を刺し留めてしまっているかのようだ。
だとすれば、そこがいい。
品のないレッテル貼りもありますが、ここでは流しておきます。
論点2【配色】:ナチス・フラッグ色って?
「ジャーマン・グレイ」と呼ばれるナチスドイツの特有色
くり返します。
そう見える眼鏡、どこで手に入るんでしょうか?
込み入った話に入ります。
たとえ日米の人々に抵抗が無くても、かつてのナチスの大量虐殺にいまでも激しい嫌悪感が渦巻いているヨーロッパなどにおいては、この軍事配色(「ジャーマン・グレイ」と呼ばれるナチスドイツの特有色)では、絶対に拒絶される。
ならば既に、そういう声があってしかるべきです。
しかし「Tokyo 2020」と「German gray」で検索してみても、本日(8/30)時点でエンブレムの配色をそのように称しているサイトは見当たりませんでした。
このエンブレムは7月24日に東京で公表され、世界中のメディアが報道済みです。ゆえに、ベルギーの劇場ロゴとの類似を指摘されてもいます。
リエージュ劇場のデザイナーにしても、その形状の類似を指摘しているのであって、配色を問題視している節は見られません。
「黒」について
黒は、ほとんどすべての文化で、死や悪、権力、固着、腐敗、を意味する。
必ずしもそれらに直結しない黒・ブラックの例です。
Black Swan, from Wikimedia Commons(Taken by fir0002 | flagstaffotos.com.au)
あとは、
ブラックコーヒー、黒板、ブラックボックス、黒パン、黒いダイヤ、黒字、などなど。
クロちゃんです
問題のロゴは、余白指定が甘く、全体に占める黒の比率が大きすぎ、この面積効果のせいで拡大すればするほど暗くなってしまう。
これはそうかもしれません。
せめてそこにグラデーションでもかけるべきだった。また、日本の伝統的意匠技術という意味でなら、縮小しても拡大しても同一に見えるミツウロコのようなフラクタルな地紋を使ったり、大きさによって違った印象の深みが出る江戸小紋でも織り込んだりする手もあったはずだ。
それらも一案です。
ただ以前、蒔絵で試してみた結果、
これはこれで「あり」ですが、トータルではいまいちでした。ない方が良かったです。
デザイナーの思い切り、ないしは無思慮を感じます。
ワワワワワァ〜♪
論点3【構成】:失敗は展開の母
問題のロゴは、フラット・デザインの体裁をまねただけで、その本当の難しさを理解しておらず、
フラットが売りなんですかね?
右下の銀パーツが致命的な進出色であるために、そればかりがやたらと目立って、浮き上がってしまっている。
であるがゆえに、このエンブレムは「シンボルマーク」としての完成度ではなく、意匠としての展開性に富んている点が売りだと言えます。
言わば「標本展示」ではなく「生態展示」が、このエンブレムの本態です。
それで、そのパーツの存在の意味不明さ加減が世間一般の人々にも問題視されるところとなっている。
「スルメを見てイカがわかるか」という話です。
論点4:モティーフ「T」の精神?
先に重要な論点から。
つまり、この「Tもどき」のモティーフは、オリンピックとしても、日本開催としても、およそ精神的な根を持っていない。
東京で開くオリンピックだから「T」。
これで何か不足でしょうか?
「T」への難癖たち
あと、いろんななんくせに対応しておきます。
ローマ字へのなんくせ
なぜ日本でローマ字のTなのか
ホスト国がローマ字を公用としない日本であるにもかかわらず、なぜローマ字のモティーフを据えたのか。
世界的に最もポピュラーな文字だからです。
英語へのなんくせ
まして、チームだ、トゥマロウだ、などという中学生のような能書は、
その点はダサいですね。続きは後述。
英語圏でしかこれらの語がTを頭文字としていない以上、まったくモティーフとしての意味をなさない。
いいえ。国際的には英語がデファクト・スタンダードなので、ひとまず問題ありません。
私の場合は、今回の件で接点を持ったベルギーの「デザイン師匠」とも、タイのホテルのエレベーターで乗り合わせたおっちゃん(ジェームス・ブラウン似)とも、嫁の親戚が嫁いだ先の台湾の家族とも、英語で意思疎通をします。
能書きへのなんくせ
こういう時に「中学生のような」ダサい能書きを付けることも、どうやら世界的なデファクト・スタンダードのようです。外国語のWebニュースで「はいはいTokyo、TeamにTomorrowね」というトーン(たぶん)でそのまま報じられているのを複数見ました。
一例です。
佐野研二郎解釋,2020年東京奧運會標誌中的英文字母T,代表東京(Tokyo)、團隊(Team)及明天(Tomorrow),紅圈則取材自1964年東京奧運會標誌。
東京奧運標誌爆抄襲 設計師堅稱原創|chinatimes.com(2015/08/29付)
Teamへのなんくせ
そもそも、オリンピックには数多くの個人競技もあるのだから、それらを統括するロゴでチームを強調すること自体、奇妙すぎる。
奇妙ではありません。なんくせもいいところですが、答えておきます。
個人競技であっても、オリンピックへの参加は個人が単位ではなく、国家が単位だからです。
可読性へのなんくせ
そもそもあのロゴでは、だれもTとは読めまい。
読めました。
あれはだれの目にもTLのモノグラム(合わせ文字)としか見えないことになってしまっている。
なら、Tは読めるという意味ですね。
総評
もともと他のものに似ていたのに修正に修正を重ねてもなおまた結果として他に似たものが出てくるほど、オリジナリティ皆無の出来
似ているものがあるからオリジナリティ皆無というのは、論理が粗雑です。
オリンピックは、人類の祭典として、日本のすべての人々に、そして、世界のすべての人々に祝福されなければならない。
なぜ「人類」?
なぜ「すべての」人々?
もしかして、全体主義の人なんですか?
鋭角の殺意と戦争の悪夢を想起させるような、こんな不出来で不吉なものを(後略)
想起するのは勝手ですが、あらためてお尋ねします。
その眼鏡、どこで手に入るんでしょうか?
タイトル「超弩級」へのツッコミ
タイトルにある「超弩級」って珍しい修飾語だなと思って、辞書で確かめてみました。戦艦の規模を表したのが由来らしいです。
殺意と戦争を想起する傾向がどこに由来するか、一緒に考え直すのも一興です。
結論
以上より「佐野五輪エンブレムは超弩級の駄作!」という主張は、成立しません。
- 駄作
- 佐野
どちらの点においてもです。
意趣返し的な言い回しとして、「五輪エンブレムは超弩級の傑作!」というタイトルにしてみました。
感想
はっきりと説明し、引導を渡す
という意図で書かれているはずの文章が、こんな品質でいいんだーと思いました。
- あれこれケチが付いているのは残念ですけど、私はこのエンブレムのデザイン、好きですよ。
みたいに、「嫌いだ」とか「気に入らない」とか、もっと感情的に表現すればいいのに。
おわり
<超弩級といえば>
自由へ道連れ(2012)
椎名林檎
¥250
コメント
読めない。。。
読みづらい。。。
読む人のことを想定して書いてない。。。
読みづらい人がいるかもということを想定してない。。。
デザインですよDESIGN