こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
東京2020オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムに対する盗作疑惑を皮切りに巻き起こった「佐野研二郎デザイン」のパクリ問題。8月5日に開かれた佐野さんの会見後、過去の「パクリ」事例が次々と明るみに出てきています。
サントリー「夏は昼からトート」プレゼントなど、個別の事案についてはそれぞれ検証・対応していただくとして、デザイン芸人はもっと根源的なところで遊びます。
この記事で言いたいこと
そもそも「佐野研二郎デザイン」は、菊池寛「形」(1920, 1929)のパクリです。
菊池寛(1888-1948)※commons.wikimedia.orgより
※初出年情報の参考:菊池寛の「形」の初出年を知りたいと思います。|レファレンス協同データベース(登録日:2012/11/07)
検証:短編小説対決
両者の「短編小説対決」により、説を検証します。
- 引用テキストは菊池寛「形」(青空文庫版)から
- つづく青字テキストは、そこからパクってこさえた短編「佐野研二郎デザイン」です。
結末まで書いておりますので、いちおう「ネタバレ注意」と念を押しておきます。
「形」vs.「佐野研二郎デザイン」
摂津(せっつ)半国の主であった松山新介の侍大将中村新兵衛は、五畿内中国に聞こえた大豪の士であった。
広告業界の主であった博報堂出身のクリエイティブディレクター佐野研二郎は、五畿内中国に聞こえた大豪の士であった。
そのころ、(略)大名小名の手の者で、『鎗(やり)中村』を知らぬ者は、おそらく一人もなかっただろう。それほど、新兵衛はその扱(しご)き出す三間柄(え)の大身の鎗の鋒先(ほこさき)で、(略)功名を重ねていた。
そのころ、大名小名の手の者で、『ミスターデザイン』を知らぬ者は、おそらく一人もなかっただろう。それほど、研二郎はその扱(しご)き出す三間柄の大身のデザインで、功名を重ねていた。
そのうえ、(略)火のような猩々緋(しょうじょうひ)の服折を着て、唐冠纓金(えいきん)の兜(かぶと)をかぶった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりのあざやかさをもっていた。
そのうえ、火のような「佐野研二郎デザイン」をまとった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりのあざやかさをもっていた。
「ああ猩々緋よ唐冠よ」と敵の雑兵は、新兵衛の鎗先を避けた。
「ああサノケンよ佐野研二郎デザインよ」と敵の雑兵は、研二郎のデザインを避けた。
こうして鎗中村の猩々緋と唐冠の兜は、戦場の華(はな)であり敵に対する脅威であり味方にとっては信頼の的(まと)であった。
こうして「佐野研二郎デザイン」は、デザイン界広告グラフィック界の華であり敵に対する脅威であり味方にとっては信頼の的であった。
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「新兵衛どの、おり入ってお願いがある」と元服してからまだ間もないらしい美男の士(さむらい)は、新兵衛の前に手を突いた。
「研二郎どの、おり入ってお願いがある」と業界入りしてからまだ間もないらしい若手デザイナーは、研二郎の前に手を突いた。
「ほかのことでもおりない。明日はわれらの初陣(ういじん)じゃほどに、なんぞはなばなしい手柄をしてみたい。ついてはお身さまの猩々緋と唐冠の兜を借(か)してたもらぬか。あの服折と兜とを着て、敵の眼をおどろかしてみとうござる」
「ほかのことでもおりない。明日はわれらの初陣じゃほどに、なんぞはなばなしい手柄をしてみたい。ついてはお身さまの『佐野研二郎デザイン』を借してたもらぬか。あの『佐野研二郎デザイン』を着て、敵の眼をおどろかしてみとうござる」
「ハハハハ念もないことじゃ」新兵衛は高らかに笑った。新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名心をこころよく受け入れることができた。
「ハハハハ念もないことじゃ」研二郎は高らかに笑った。研二郎は、相手の子供らしい無邪気な功名心をこころよく受け入れることができた。
「が、申しておく、あの服折や兜は、申さば中村新兵衛の形じゃわ。そなたが、あの品々を身に着けるうえは、われらほどの肝魂(きもたま)を持たいではかなわぬことぞ」と言いながら、新兵衛はまた高らかに笑った。
「が、申しておく、あの『佐野研二郎デザイン』は、申さば佐野研二郎の形じゃわ。そなたが、あのデザインを身に着けるうえは、われらほどの肝魂を持たいではかなわぬことぞ」と言いながら、研二郎はまた高らかに笑った。
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そのあくる日、(略)戦いが始まる前いつものように猩々緋の武者が唐冠の兜を朝日に輝かしながら、敵勢を尻目にかけて、(略)一気に敵陣に乗り入った。
そのあくる日、コンペが始まる前いつものように「佐野研二郎デザイン」のデザイナーが兜を朝日に輝かしながら、敵勢を尻目にかけて、一気に敵陣に乗り入った。
吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを、猩々緋の武者は鎗をつけたかと思うと、早くも三、四人の端武者を、突き伏せて、またゆうゆうと味方の陣へ引き返した。
吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを、「佐野研二郎デザイン」のデザイナーは鎗をつけたかと思うと、早くも三、四人の木っ端デザイナーを、突き伏せて、またゆうゆうと味方の陣へ引き返した。
その日に限って、黒皮縅(おどし)の冑(よろい)を着て、南蛮鉄の兜をかぶっていた中村新兵衛は、会心の微笑を含みながら、猩々緋の武者のはなばなしい武者ぶりをながめていた。そして自分の形だけすらこれほどの力をもっているということに、かなり大きい誇りを感じていた。
その日に限って、上下黒のスーツを着て、南蛮鉄の兜をかぶっていた佐野研二郎は、会心の微笑を含みながら、「佐野研二郎デザイン」のデザイナーのはなばなしい武者ぶりをながめていた。そして自分の形だけすらこれほどの力をもっているということに、かなり大きい誇りを感じていた。
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彼は二番鎗は、自分が合わそうと思ったので、駒を乗り出すと、一文字に敵陣に殺到した。
彼は東京オリンピックの公式エンブレムは、自分が応募しようと思ったので、駒を乗り出すと、一文字に大会組織委員会に殺到した。
猩々緋の武者の前には、戦わずして浮き足立った敵陣が、中村新兵衛の前には、ビクともしなかった。そのうえに彼らは猩々緋の『鎗中村』に突きみだされたうらみを、この黒皮縅の武者の上に復讐せんとして、たけり立っていた。
「佐野研二郎デザイン」の前には、戦わずして浮き足立った敵陣が、佐野研二郎の前には、ビクともしなかった。そのうえに彼らはエンブレムの『佐野研二郎デザイン』に突きみだされたうらみを、この黒スーツのディレクターの上に復讐せんとして、たけり立っていた。
新兵衛は、いつもとは、勝手が違っていることに気がついた。(略)今日は、彼らは戦いをする時のように、勇み立っていた。どの雑兵もどの雑兵も十二分の力を新兵衛に対し発揮した。二、三人突き伏せることさえ容易ではなかった。敵の鎗の鋒先が、ともすれば身をかすった。
研二郎は、いつもとは、勝手が違っていることに気がついた。今日は、彼らは戦いをする時のように、勇み立っていた。どの雑兵もどの雑兵も十二分の力を研二郎に対し発揮した。二、三人突き伏せることさえ容易ではなかった。敵のパクリ・盗作の鋒先が、ともすれば身をかすった。
新兵衛は必死の力を振るった。平素の二倍もの力さえ振るった。が、彼はともすれば突き負けそうになった。
研二郎は必死の力を振るった。平素の二倍もの力さえ振るった。が、彼はともすれば突き負けそうになった。
手軽に兜や猩々緋を借(か)したことを、後悔するような感じが頭の中をかすめたときであった。
手軽に「佐野研二郎デザイン」を貸したことを、後悔するような感じが頭の中をかすめたときであった。
敵の突き出した鎗が、縅の裏をかいて彼の脾腹(ひばら)を貫いていた。
敵の突き出した鎗が、縅の裏をかいて彼の脾腹を貫いていた。
(終)
検証結果
「佐野研二郎デザイン」は、菊池寛『形』の形をパクっていた。
教訓&次回予定
匿名をやめると、デザインは腐り始める。というお話です。
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