こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。
用件はタイトルの通りです。
この記事で言いたいこと
東京2020オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムが自作のベルギー・リエージュ劇場のロゴを盗用しているとして、デザイナーであるオリビエ・ドビさんとその代理人が、提訴も辞さない構えで、エンブレムの使用の停止(差し止め)をIOCに求めているところです。(8/11現在)
デザイン芸人「デザインや」は断言します。
本件でIOCを提訴しても、原告の勝訴確率は0です。100%ないです。
「やってもいないこと」で訴えられた、自分自身の経験からもそう言えます。
理由
なぜなら、原告が勝訴までのハードルを全部クリアするのはまず不可能だからです。
ドビ氏らの最終目標(=裁判所によるエンブレム使用差し止め命令)までにあるハードルの数と高さを考えると、原告側がゴールに到達することは無理だと思います。
もし私自身が本件の被告側で、こんな「やってもいないこと」で訴えられても、まるで負ける気がしません。粛々と必要な手を打っていくだけです。
というか、訴訟を進めるよりもっと建設的な方向を模索して交渉・提案します。
くり返しますが、負けそうだからではありません。ではなくて、こんなことで裁判しても、裁判所含めて誰も得せず、何もいいことがないからです。
デザイン芸人は、元「離婚裁判芸人」
デザイン芸人になる前のことです。
私には、「やってもいないこと」を「やった」とされ、嫁と嫁代理人の弁護士から
- 私の銀行口座にあった200万円の預金を差し押さえられ、
- 離婚を求めて提訴され、
- ひととおり単身で裁判を行った
という経験があります。
◆参考過去記事:離婚訴訟を弁護士なしで進められたのは、たった1冊の本のおかげ(2013/09/04付)
その経験からも、今回オリビエ・ドビ氏側の勝訴は100%ないと断言できます。
同じ、「やってもいないこと」を「やった」と言われた芸人のくくりとしても、私は本件で佐野研二郎さんと組織委員会サイドを支持します。
原告側「勝訴」までのハードル
オリビエ・ドビさんを原告とするリエージュチームの「ハードル」はこれだけあります。すべてをクリアするのは難しいと思います。
具体的に、時間的な順番に記していきます。
提訴:管轄地(裁判を開く場所)のハードル
ベルギー側の、8月以降の最新の報道に接していないので、ドビさんと代理人が訴状をどこへ持っていくつもりかは不明です。ただしもし、ベルギーで裁判を起こすつもりなら、ど素人です。ベルギーの裁判所に訴状を提出しても、事件として受理されないと思います。
なぜなら、IOCの本部はスイスのローザンヌにあるからです。
「IOC訴えるんならスイスでやって」
私がベルギーにある裁判所の事務官なら、書類を受け取らずにそう答えて、お引き取り願うでしょう。
具体的に何も調べていませんが、スイスは中立国ですので、(あると仮定して)EU地域内の特例的な何かも適用されないと思います。
「ベルギーで提訴」を受けて(2015/08/18追記)
ベルギーの裁判所で訴状が受理されたみたいですね。
日本の離婚訴訟と同じ感覚で述べておりました。こちらでは提訴に被告の戸籍謄本が必要ですから、受付の段階で管轄の案件であるかチェックするはずなので。彼我の実務の違いを軽視しており、失礼しました。
それでも今後、上述のような管轄地についての論議が出てくるかと思います。
くり返しますと、本件訴訟は被告のIOC本部があるスイスで裁判を開くのが筋です。
あるいはIOCの立場からは、自身は被告として不適任であるという主張、すなわち「東京の大会だからそっちを先に被告にして」という主張も成立します。「社長を出せ」に応じないパターンです。
こうした準備手続きを逆に利用して、事態収拾に向けた提案をすればいいのにと、デザイン芸人は思っています。記事の後半にも追記したので、つづきはそちらで。
(2015/08/18追記 ここまで)
まあ、なんやかんやでここをクリアしたとしましょう。
次です。
訴訟:立証責任(義務)のハードル
そもそも「盗作をした」と訴えるならば、訴えた原告(ドビさん)の側にそれを立証する義務があります。
ですが、どうやって? どう主張しても無理です。
私が被告側の代理人だったら、訴状にある論点に応じて、次のようなことを答弁書に書きます。
酷似?
酷似していません。ぜんぜん違います。
同じくベルギーを拠点とする別のデザイナーの方がブログで、互いに一見よく似ているシンプルな2つのデザインを比較して、「でもこれだけ違う」と具体的に示されていました。
- Comparatif de l’idée simple|DAVID CRUNELLE(2015/08/06付)
上の記事中にあった図を証拠「乙号証」として提出します。
でも似ている?
ロゴデザインの場合、「似ている」だけで盗作・剽窃は成立しません。
画像共有サービスで公開していた。見たに違いない。
たしかに「ありうる」話で、蓋然性はあります。
しかしそれは原告の心証にすぎません。盗作の主張を立証するには不十分です。
解説
東京五輪エンブレムのデザイナーが、それを間違いなく見ていたことを示す証拠が必要なんです。
でも、どうやって? どこでその証拠を集めるんでしょうか。
本件で盗作の嫌疑をかけられている佐野研二郎さんは、SNSサイト等を既に閉鎖されているとも聞いていますし。
無理です。
知らなければできるわけがない
いいえ。
5日の会見で佐野さんが説明していたとおり、デザイナーがリエージュ劇場のロゴの存在を一切知らなくても、あのエンブレムは十分に作れます。
※第三者の私にも、納得できる説明でした。
その後、佐野氏のパクリ事例がたくさん見つかったと聞いている。ロゴもパクったに違いない
本件とは無関係です。
たとえ佐野研二郎さんがパクリ常習犯であっても、それを理由に東京五輪のエンブレムが「盗作」だという話にはなりません。
いくら過去に「犯罪歴」がある「前科者」だからといって、やってもいないことの罪まで着せていいわけがありません。
ですよね田代さん?
【仮定の話として】ほら、これが確たる証拠だ!
(証拠が出てきたと仮定しての話です)
なるほど。これはたしかに、デザイナーが事前に見ていた動かぬ証拠と言えそうですね。
ですがね、ドビさんもデザイナーですからご存じでしょうけれど、「事前に見ていた」だけでは盗作とは言えませんよね。
ドビさんも、ロゴブックなどで既存の事例を参照されますし。
※Le logo de JO de Tokyo est une copie presque conforme de celui du Théâtre de Liège !|RTL INFO(2015/07/29付)よりキャプチャし加筆
出来上がったエンブレムは、原告側のロゴも参考にしたうえで「ぜんぜん違う」ものになっています。具体的な違いは、書簡で回答したとおりです。
リエージュ劇場のロゴから着想を得ていたのだとしても、そこにまったく異なるデザインコンセプトを実装しています。その結果出来上がったロゴは、元のロゴと相互に誤認する可能性の低い、別のものとなっています。
よって盗作ではありません。
こちらからは以上です。
補足
現時点で証拠が出せていないなら、今後も多分出てこないと思いますから、こういう事態が来ることは恐らくありえないのですが、言い訳としての「想定外」はダサダサワードなので、「確たる証拠が見つかった」と想定して書きました。
証拠が出てきたとしても、ここで述べたとおり、被告側は十分に反論できます。
盗作にはなりません。
それでもエンブレムは盗作だ
そんな無茶な。
でしたらこちらも、この写真についてお尋ねします。【乙号証を示す】
出典:www.facebook.com/StudioDebie/
これは原告が、最初に盗用の疑いを指摘したFacebook投稿にある写真です。
この写真、どこで入手されたんでしょうか?
たぶん、このあたりでしょうね。【乙号証を示す】
(AFP Photo/Yoshikazu Tsuno)
出典:Tokyo Games logos unveiled amid stadium row(AFP)|Yahoo! Sports(2015/07/24付)
原告は投稿する際、このAFP通信社の写真を「盗用」したうえ、右側を「改変」していると思われます。どうでしょうか?
代理人の方にお尋ねします。こういった行為は著作権法上、認められているのでしょうか?
他人の著作物に対する自らの態度も、いちど問うてみることをおすすめします。
以上です。
オレ様感いっぱいの補足
最後に書いた話がそもそも「1周目」の議論なのですよね。ですが法廷戦術上、最後のカードとして温存するプランにしてみました。
訴状が来たところで、まず最初の証拠固めとして、許諾を得ているかどうかを当該写真のクレジットを持つAFPの津野義和さんに照会して裏を取っておきます。
おのれの恥をさらすようですが、本件の「1周目」の話について検討していた時点で、こんな「オレ様」ツイートもしています。
東京五輪公式エンブレムの盗用騒ぎに関して、誰ひとりとしてAFP通信社の津野義和@YoshikazuTsuno さんにコメントを取りに行った形跡が見られないのが、なんだかな感いっぱいである。
— ヤシロタケツグ「デザインや」 (@yashiro_with_t) 2015, 8月 4
絶対はないので
ここまでで最大限条理を尽くしていますので、おかしな結果になることはなかなか想定できないです。しかしそれでも、あらゆる可能性を想定しておくならば、
- 訴訟をベルギーにある裁判所が担当し、
- かつ、当該の裁判所が「勝訴」の判決を出す
ことが、「絶対にない」とは言えません。
もし、私が事件当事者で、事件審理の進行に応じて懸念を覚えたら、ベルギーの裁判システムのありようを疑って、いろいろ調べ始めると思います。
何も情報のない現段階では、とりあえずは国内の司法機関と同程度の信頼を置いております。
最初の注目ポイント
ですので目下のところ、デザイン芸人の「デザインや」元被告は
- まず、ドビさんの側が訴状をどこの裁判所に出すか
- もしベルギーに提出した場合、裁判所の対応がどうなるか
ここに注目しています。
先ほど述べたとおり、スイスでの提訴を求めて受理しないかどうかで、ベルギーの裁判所の信頼度がある程度推測できます。
「ベルギーで提訴」の意味もわかった【追記】
(2015/08/18追記)
訴状がベルギーで受理されたことを受け、追記します。当初私は、
ベルギーで裁判を起こすつもりなら、ど素人です。
と上にも書いておいたように、ドビさんとその代理人がベルギーで提訴していることの意味が全然わかりませんでした。管轄違いもはなはだしいからです。
しかしその後、ベルギーの「デザイン師匠」との問答を通して、自身の見識不足を知りました。
ひとことで言えば、ドビさんの代理人は、素人ではないからベルギーの裁判所に提訴したのです。
すなわち、
- 真の目的は「使用差し止め」ではなく「金銭的解決」
- ベルギーでの提訴はそのための「時間稼ぎ」
ということだとみられます。提訴後に問題となる管轄地の件も知ったうえで、あえて「ベルギーに提訴」としたのだと思います。
ここから、次のことが言えるかと思います。
- 彼らも裁判の進行は望んでいない
- なぜなら、判決では負けるとわかっているから
いろんな論点の1つとして、以上の話もこちらで触れています。
【東京五輪エンブレム問題】勝手に深夜の「白日」対策会議。【Tweetまとめ議事録】(2015/8/14)
考えうる最もポジティブな解決案
ではどうすればよいか?の対策案は、「東京で“裁判”を開く」です。
Having a trial in Tokyo–The most positive way to end Tokyo2020 logo case successfully(2015/08/16)
潜在的な読者数を意識して英語で書きました。
ラフなものですが、それなりに全方位に顔が立てられる決着シナリオを書いています。世の議論が早くここに追いついてほしいと願っています。
(2015/08/18追記 ここまで)
「やってもいない」のに…
ということで、「やってもいないこと」で遠くベルギーのリエージュから、また国内からも「盗作」「パクリ野郎」呼ばわりされている佐野研二郎さんの心痛、本当にいかばかりかと察します。
やってもいない(1)
佐野さんは5日の会見でも
- 【五輪エンブレム・佐野さん会見】
(3)「自分はベルギーに行ったことも、(模倣とされる)ロゴを一度も見たことない」|産経ニュース(2015/08/05付)
と答えられていました。心証として、私もそうだろうなと思います。
なのにこのありさまです。
東京大会の組織委員会も、会見で十分理のある反論はされていましたが、それでも印象として、その後を含めた佐野さんを守れている水準に達していません。
ここがドイツなら、民衆扇動罪(Wikipedia)の適用すら検討していい案件の気がします。
やってもいない(2)
しかしその後伝わってくる情報に接しているうち、ふと、恐ろしい仮説が浮かんでしまいました。
それは、
- 佐野研二郎さんにとって、五輪のロゴデザイン自体も「やってもいないこと」
というものです。
何ら確たる証拠はありません。また検討を進めれば、遅かれ早かれ否定される可能性も十分にあります。
あくまで現時点でのjust an idea、思いつきの仮説です。この世は何があっても不思議でないので、後日の「答え合わせ」のため書きとどめておきました。
合わせて言いたい
合わせて、離婚裁判芸人(名前変わっとるがな)からのお願いです。知っておいてください。
(1)訴訟は最終手段ではない(こともある)
世間一般からは、「裁判」となると「いよいよ」とか「そこまで」とかみたいに受け取られるんですが、えてしてぜんぜん違います。
詳しくは述べませんが、私達の場合も違いました。
(2)あの嫁はいまココ
嫁とは一時期、「原告」「被告」と書面上で呼び合う関係だったわけですが、そんな嫁もいまは、私のとなりで寝ています(だいたい本当)。
私は嫁を愛しています。いま、嫁と私に足りないのはお金だけです。
(3)金しかないなぁ!(岸部四郎, 2002)
愛は地球を救いません。だからお金ください。
大事なのでもう一度。お金ください。
金しかないなぁ!
おわり
コメント
受理されないってドヤ顔で書いてたのに受理されたら、言い訳かましてて読んで損した。サントリーのパクリは関係ないって書いてますけど、裁判官の心証は悪くなります。これは常識です。そして、最後の画像をパクってるという幼稚な指摘には笑いました。これによる直接的金銭の授受はうまれません。本当にパクられたと考えるなら訴えると思いますよ。訴えない時点であなたの指摘は幼稚なのです。
コメントありがとうございます。損させたようで不本意です。
ご指摘の各点について、以下のとおりお答えします。
記事本文のスタイルは、次のような信念に基づいております。
・私流に考えていますから、もちろん私は間違えます
・間違いを「なかったこと」にするのはつまらないです
裁判官の心証に影響しないとの主張はしていません。
原告の行為が著作権侵害に相当するかの話をしています。
[…] 【五輪エンブレム盗作疑惑】リエージュ劇場のロゴデザイナーが提訴しても、勝訴の確率はゼロ。その理由(答弁書) […]
ドビ氏の弁護士のベレンブーム氏はEU知財では権威ですし、ベルギーの著作権法の
立法担当者のひとりで、金もうけに走る必然性もない方です。
なお、JOC発表のエンブレムの取り下げ決定後も、当初は取り下げるという報道も
ありましたが、結局、著作権侵害を認めない限り訴訟を取り下げない、
っていってますね。
ついでに、佐野氏のエンブレムについては彼の仕事に著作権侵害が多数認められるって
ことになってて(サントリー8点とエンブレムの展開例)本人も認めていますね。
これは問題ですし、Copyright表記を外して無断使用するのは悪質な著作権侵害
ですね。
その後、ドビ氏が金目当てっていうご主張はお変わりないでしょうか?
ちなみに法律家の世界では立法担当者だからと言ってもちろん絶対ではありませんが、
立法者担当者の解説は極めて有力な法的根拠とされるのは常識です。
コメントありがとうございます。
私の見解は本文中に書いてあるとおりです。くり返します。
著作権の侵害を主張するなら、侵害があった証拠を示せば済みます。
立証責任が原告側にある事件で、被告に対して認めろとしか主張しないことが、不条理です。
「ドビ氏が金目当て」とは述べていません。
「ドビさんの代理人の真の目的は、金銭的解決」と述べています。
ぜんぜん違います。