「賃貸アパート経営」の話にしてみたら、新国立競技場のアホさ加減がとってもわかりやすくなったよ!

こんにちは。

新国立競技場の件、数字がでかすぎて、JSC(日本スポーツ振興センター)のサイトで公開されている「国立競技場将来構想有識者会議」の資料を読んでもあまり頭に入ってきません。

そこで話を「賃貸アパート経営」に置き換えて、桁の「億」を「万」にして考えてみました。

すると、とたんにわかりやすくなりましたので、ここに記事にしておきます。

すべての大家さん、入居者さん、国民の皆さま、必読ですよ!!(適当)

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※写真はイメージです。本文とは関係ありません (以下同じ)

要約:Executive Summary

国立アパート「霞ヶ丘荘」建て替えプロジェクト・収支見込み(1/10,000バージョン)

  • 建て替え費用:当初の予算1300万円→2500万円余
    ※いまだ全容を把握できておらず、今後さらに増える見込み
  • 年間収益(家賃収入-諸経費):3800円
  • 大規模修繕のための積み立て:20万円×50年 は別
  • 当然、大家の生活費も別

発見事項

最低2500万円を投資して新築した結果、運用期間に残る利益は19万円ほど。50年間(!)で。

その利益も、修繕費の1000万円で簡単に吹き飛ぶ。

アホすぎる。

結論

ふ・の・い・さ・ん

ろ・く・で・な・し

ろくでもない負の遺産でした。


以下、賃貸アパートのオーナー&大家の「国民太郎さん」を主人公にしたストーリーにもしておきます。

実録・国民太郎さんの「アホすぎる賃貸アパート経営」物語

これは、本当にあった、悲しい悲しい「1万分の1」のお話です。

1.アパート「霞ヶ丘荘」

とある街の片隅。20坪ばかりの土地に建つ、1軒の古いアパートがありました。

名前は「霞ヶ丘荘」。

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「その頃にはもう見てのとおりのおんぼろで。でもね、空き部屋も案外少なくて、入居者にはおおむね好評だったんだよね。なぜだか“聖地”と呼んでくれる人もいてさ。ありがてえことだよ」

そう語るのは、霞ヶ丘荘のオーナー兼大家、国民太郎さんです。

2.建て替えを決意

「正直ね、まだ迷ってたんだよ。老朽化が目立つけど愛されているアパートだからさ、修繕して使い続けようかなと」

そんな太郎さんが思い切って建て替えることにしたのは、2020年に再び東京でオリンピックが開かれることが決まったからです。

ANNnewsCH|YouTube(2013/09/08付)より

「思えば、お・も・て・な・し の勢いだったのかもしれねえな」

そう述懐する太郎さんなのでした。

3.私たちにおまかせください?

「日本アパート振興センター?」

太郎さんが、面倒見のよさそうな老紳士から渡された名刺には、そう書いてありました。

「森0.1ミリと申します」「顧問をしておりましてね。嘱託ですけど。どうぞよろしく」

なんでも、前はどこかの議員さんだったそうです。

「国民さん!、2019年にはね、日本でラグビーのワールドカップが開かれるんですよ!」

「はあ、ラグビーですか……」

森(×10-4)さんの熱い語りは止まりません。

「国民さんもですね、ここはオールジャパンの一員としてね、」うんぬんかんぬん。

「はあ……(知らんがな)」

森マジック

ただ太郎さんにとって、話もうまく、男気も感じる気っぷの良さにも人間味がある森さんと直接に接した印象は、決して悪いものではありませんでした。

参考:『聞き出す力』(吉田豪, 2014)其の十九

しかしさかのぼって検証してみるならば、人材の起用・配置・評価において、人間的魅力とその実務能力とが混同されてしまっていることが、この先の事態の混迷を深めた大きな要因となっていたのでした。

今となっては後講釈のそしりを免れないことではあります。

50年一括借り上げシステム

国民太郎さんと「日本アパート振興センター」の話でした。

なんでも「新霞ヶ丘荘(仮)」新築後の管理は、すべてセンターが請け負ってくれるといいます。「50年一括借り上げシステム」というそうです。今なら特典として、解体費用を持ってくれるとかくれないとか。

「おいらはとっくにくたばっちまってるだろうけどさ、新しいアパートを子や孫に残せるのも、悪い話じゃあねえかなとも思ってね」

ということで太郎さんは、建て替えを「日本アパート振興センター」にお願いすることになりました。

それがこんなことになろうとは。

4.気になるご予算

(建て替えなら、全部で1300万円ぐらいでできるかな?)

太郎さんの予算の腹づもりは「1300万円」あたりでした。けっこうな出費ですが、そこまでなら投資も回収もなんとかなるかなという皮算用です。

10年以上前ではありますが、同じくアパート大家をやっている横浜の親戚が、800万円足らずで建てたとも聞いていました。

それも、こんなことになろうとは。

5.謎の「デザイナーズアパート」登場

ある日のことです。

太郎さんが見せられたアパート「新霞ヶ丘荘(仮)」の完成予想図は、太郎さんの想像をはるかに超えるシロモノでした。

もともと太郎さんが「新築するアパート」の完成図として想像していたのは、郊外の街でよく見るD-room(ダイワハウス)とかシャーメゾン(積水ハウス)とかヘーベルハウス(旭化成)とか、そういう方面だったからです。

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ヘーベルメゾン母力(asahi-kasei.co.jp)より

ところがこのありさまです。

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資料1 新国立競技場の計画の経緯(2015/07/07付)より

コンペで選ばれたとか、イラクだかイギリスだかの有名なデザイナーが描いたとか、なんだかハイカラなことばかり言っていましたが、とにかく、太郎さんには意味が全然わかりません。

謎1:ムダに豪華な「屋根」

「なんですか、これ?」

「屋根です。開閉式の」

「発電でもして電気代の足しとかになるの?」

「いいえ」

「それ、アパートにいるかなあ?」

謎2:敷地をはみ出る

「ん? もしかしてこれ、今のアパートより大きくなってない?」

実は太郎さん、アパートの隣の敷地に駐車場も持っていて、近所の人に貸していたのです。

「はい」

太郎さんの知らないうちに、新しい霞ヶ丘荘の敷地は、全部で35坪ぐらいに広がっていました。

「駐車場どうすんのさ?」

「つぶしてもらいます」

「聞いてないよそんな話」

謎3.公有地にまで

「そっちは不承不承でも譲るとしてもね、こっち側。完全に道路に出てない? うちの前公道だよ」

「ははは。ばれましたか」

6.謎の「コンパクト化」

それで後日、センターの担当者が持ってきたのがこちらです。

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※同前

「規模を縮小」「コンパクト化しました!」とセンターの人は胸を張っていましたが、謎の「屋根」と「はみ出し」のデザイナーズ物件っぷりは相変わらずなのでした。

全然「規格もの」「ありもの」で構わないのに、何を言っているんだろうか、この人は。

こんな人たちに任せておいて、大丈夫なんだろうか?

太郎さんにそんな疑念が生まれたのでした。

不信の萌芽

「ちゅうか、うち『霞ヶ丘荘』だよ。建て替えだからいまどきの最新仕様にはなんだろうけどさ、誰もデザイナーズ物件にしてなんて頼んだ覚えはねえっつーの」

太郎さんの不信は高まります。

「でもね国民さん、ここはやはり、新しい時代の幕開けとしてですね、世界に発信しないと」

意味がぜんぜんわかりません。

7.止まらない費用の高額化

それよりなにより、気になるのはカネの話です。

「でさ、これ建てたらいくらになんの?」

「現段階での見積もりですと、2520万円です」

「は?」

「2520万円です。目標としては」

「は? いやいやいや、無理無理無理。だいたい、そんなお金どっからも出せませんってば」

太郎さんに雨あられと文句を言われても、森0.1ミリさんは全然動じませんでした。どこか不敵にも見える笑みすら浮かべながら、彼はこう言うのでした。

「全然大丈夫。足りない分は町内会長さんでも誰でも頼って借りるといい。そうだ、これを持ってお願いに行きなさい」

(なんでハチミツ?)

面食らってしまった太郎さんは、「目標」という、先回りの責任逃れの文句にツッコむのを忘れてしまっていました。

賭博の金をあてにされる

そのときです。いつもの胴間声だった森さんが、急に声を潜めました。

「知ってますよ」 そして、太郎さんにこう耳打ちしたのです。

「国民さん、トトカルチョで儲けてるんでしょ?」

大きな声では言えない話です。

実は太郎さん、甲子園の春夏大会のたびに、地元の仲間で高校野球カルチョを開いていました。長年取りまとめ役を務めているのです。

独特のシステム(詳しくは書けません)がひそかに評判を呼んで、けっこうなお小遣いになっていました。そのお金で、太郎さんは地元の少年野球チームのコーチを雇っていたほどです。

まじりっけなしの賭博なので完全にアウトなんですが、太郎さんはさして心配していませんでした。これも内緒の話ですが、地元の町内会長も議員も警察署長も、みんな参加していましたから。なので雇われコーチの資金源も公然の秘密です。

「うーん。だとしても、アパートに関係なかろうもん」

8.儲かる見込みなし

「それはまた考えておくとして」「ところで、完成してから年間どれぐらい回収できるの?」

アパート経営には最重要な観点です。

「3800円です」

「え?」「単位間違ってないか?」

「いいえ。3800円です」

センターの担当者の説明です。

「年間で家賃その他の収入が40万円強でございます。一方で、管理・メンテナンスなど、一括借り上げシステムに係る諸費用も合計40万円ちょっとかかります。よって、差し引きで3800円となります」

資料3 新国立競技場 整備完成時(開閉式遮音装置等設置後)収支見込み(PDF)(2015/07/07付)データより換算

「なんだそれ」

「でも、黒字にはなりますよ」

バカにしてんのか?

修繕費用は別途

しかも、大規模修繕のための積み立て費用は別途なのでした。

「50年の借り上げ期間の総額が見積もりで1000万円ほどですので、年間で割って20万円ほど別にご用意いただくことになります」

「それじゃ、収支決算真っ赤っかじゃねーかよ」

アホの極みです。

9.不誠実な説明

「ちゅうかそもそもさ、なんでこんなに金がかかるわけよ?」

「実はこういうことでして」

  • 消費税引き上げ
  • 建設資材や労務費の高騰
  • 新霞ヶ丘荘の特殊性

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資料1 新国立競技場の計画の経緯(2015/07/07付)より

これらも要因には違いないでしょうが、しかしここには、いちばん大事なことがぼかされていました。親切な仲間が、太郎さんに教えてくれたのです。

あの謎の「屋根」だけで、900万円以上もかかるのでした。

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ともに、資料2-3 新国立競技場設計概要(案)(基本設計時からの主な変更点等)(PDF)(2015/07/07付)より

それを日本アパート振興センターは、「特殊性」といううやむやな言葉のなかへ丸めこんでいるのでした。

「特殊にしてくれって頼んだ覚えはねえぞ」

「なんだか、特殊特殊と欲情したバカのひとつ覚えみたいにくり返してるけどさ、そんなこと言いだしたら世の中のアパート全部が特殊になんないか? 一軒一軒建つ場所の地勢だって違うんだから」

「だからむやみに意匠を凝らしたデザイナーズ物件はいらないとあれほど」

日本アパート振興センターの手口がわかってくると同時に、やるせなくなる太郎さんなのでした。

10.ずさんな計画

その後も小出しに小出しに、太郎さんのところには聞いていない話が届きます。

「実は、出入口の舗装に、あと70万円ほどかかります。勘定に入れ忘れていました」

ふだんは温厚な太郎さんも、いいかげん堪忍袋の緒が切れかかってきています。

11.オーナーの要求が通じない不条理

太郎さんはつい、こう口走りました。

中止も不可

「もういい。建て替えやめる。中止!即刻中止! 今のアパート修繕する!」

「国民さん、無茶言わないでくださいよ。もう取り壊しちゃいましたってば」

かつて霞ヶ丘荘があった場所には、更地が広がっていました。

「あ」

変更も不可

「じゃ変更。計画変更でいこう! コンペだったんだろ? 次の設計図もってこいよ」

「それも難しいです。ここまで来て変更していてはオリンピックに間に合いませんので」

(ウソつけ)

加えて謎の見切り発車

「それに33万円分、植木の整備を先に始めちゃってますし」

「なんだそれ。最後でいいだろ」

太郎さんは、もはやセンターも森0.1ミリさんも、まったく信用しなくなりました。

「だいたい、なんでまるで信用ならないあいつらがよ、まだやる気でいるんだよ。オーナーと大家はオレっちじゃねえのかよ。あったま来るよな」

離婚問題の用語で言えば、甲乙両者の関係は完全に破綻しており、婚姻を継続しがたい重大な事情があると認められます。

そんなアホすぎる、悲惨なお話でしたとさ。

(いまココ)

今後の展望

最後に、「新霞ヶ丘荘(仮)」の今後を占っておきましょう。

先行する事例(旧日本軍の「インパール作戦」)を研究した結果、十中八九、こういう流れになることが目に見えています。

引きつづき、1万分の1スケールでの「賃貸アパート経営」事案として記述してみます。

    【予告編】これからの「新霞ヶ丘荘」事案のあらすじ(2015~2020 and more)

  • 「デザイナーズ物件」を構造計算した結果、建設費用は3000万円を突破
  • 加えて、工法、調達、運搬ルートでも計画段階で問題点が多発
  • よって、なじみの工務店や職人さんたちは誰も受けたがらず、完全な「ババ抜き」事案に
  • その分、人件費を上積みして発注
  • 実行段階でも想定外の問題が発生し、工費増大
  • しかし「日本アパート振興センター」らはデザイナーズ物件としての完成に固執し続ける。(7/16 New!→)理由は「国際公約だから」
  • 中止変更を求めるオーナーサイドからの声は依然としてのらりくらりと無視
  • その結果、期日とんとんで完成はするも、人件費、資材調達、運搬を中心にコストが増大し続けた結果、最終的な総建設費用は5000万円以上となる
  • 運用フェーズに入ってからも、収支見込みが大甘だったことも判明。修繕積立金を除いても赤字転落
  • なんなら修繕費用も当初見積もり額の2倍近くに膨れあがる
  • その額を誰が負担するかでまたもめまくり、「先送り」という名で宙に浮く
  • 提訴をも辞さない構えで国民太郎さんが臨むも、追及されたセンター関係者らは「建設の意義はあった」などと言い逃れて誰も責任を取らない
  • その頃には森さんも墓の中

というところでしょう。根拠もだいたい揃っています。

総括

  1. 当初の予想どおり、1万分の1「森喜朗古墳」という墓標(レガシー)案件の完成
  2. しかしなぜか地元の小学生だけには「クソコラの館」と呼ばれて大人気に

おわりに

というわけで、一部先取りしての失敗ケーススタディ「不動産がらみの甘い話には気をつけなはれや!」の一席でした。

だからあのとき、やめておけばよかったのに。

おわり

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