こんにちは。ご機嫌いかがでしょうか。
この記事では、檀れいさんが「新ジャンル/第3のビール」のCMで演じている「金麦女」の狂気を大まじめに解説します。
※金麦『あいあいな食卓』篇 15秒 檀れい サントリー CMから
昨今は、「すごい」を「ぞっとするほど恐ろしい(広辞苑)」の意味で使う例はあまり多くありませんが、当記事で使う「凄い」はそれです。
この金麦女が凄い!
2015年6月現在までの全58作品の中から、よりすぐりの3本です。どれも凄いです。
YouTubeの公式動画リンクを埋め込み、それぞれにTwitterでの反応と当方による解説を加えます。
初級編:いよいよで凄い
まず近いところで、現段階で最新の58作め「あいあいな食卓」篇(2015/05/16 OA開始)です。
漬物とってーあいあーいって金麦のCM、あれが演出なのはわかってるんだがなんかサイコな一人二役みたいな気がして恐い。
— ジュンクリンデ (@j_lindelinde) 2015, 6月 25
金麦のCM、夫のセリフも言うようになってきていよいよサイコ感とか世にも奇妙な物語感が濃くなってきた
— 墓 (@gorenshi) 2015, 6月 22
金麦のCM一番新しいやつでとうとう一人二役やりはじめたからな
— NTK (@zwei02) 2015, 6月 26
金麦のCMは夫が故人と考えると狂気を理解できるってのを前に見かけたけど、今度の天ぷら食べてる新しいver.はとうとう夫の台詞も檀れいさんが独りで喋っとる
— Karco*❅.゚ (@constantine_pp) 2015, 5月 21
皆さんよくご存じです。指摘のあるとおり、このような事態は金麦CM史上はじめてのことです。
いよいよきたかと怖いです。
ただし、“擬態”の可能性も
ただ身もふたもないことを言ってしまうと、販促キャンペーン用の景品がお皿になり、名前が「あいあい皿」に決まった時点で、この展開は半ば確定的だったとも言えます。
「あいあい」は相合傘のあいあい、もしくは夫婦愛にちなんでといったところでしょうか。
弊社の調べでは、お皿が金麦のプレゼントの品になったのは、2011年の「夏涼みおそろい皿」以来、CMで告知したのは2010年の「ふたりで、ふぅふぅ皿」以来のことです。当時のプレスリリースによると、6000名にプレゼントでした。
違和感を与えずに「あいあい」をセリフの中に組み入れるのは、「ふぅふぅ」よりも難易度が高いです。狂気の表現を放送できる範囲に収めるには、一人二役のスタイルも致し方ないようにも思います。
ということで、金麦女が初めて相手のセリフもしゃべり出した「あいあいショック」は、まだまだウォーミングアップです。
中級編:「隠し絵」が見えるといちばん凄い
もっと凄いのは、2012年の「串焼き屋さん」篇(2012/04/28 OA開始)です。第37作めになります。
やっぱり新作が一番やばい 檀れい CM サントリー 金麦 串焼き屋さん篇: http://t.co/5SIqztFk @youtubeさんから
— 猫と音楽のある生活 (@Katzemusik) 2012, 5月 24
この年の金麦女は粒ぞろいで凄いのですが、「隠し絵」的に仕込まれた映像表現が読み取れると、この「串焼き屋さん」篇が、頭ひとつ抜けて凄いように思います。
「主観カメラ」と「脳内カメラ」の“二元中継”が凄い!
この「串焼き屋さん」篇が他のシリーズと大きく異なるのは、構成が「二元中継」になっているところです。
金麦のCMシリーズは基本的に「金麦男の主観カメラ」映像で撮られていますが、ここでは、あいだに「金麦女の脳内カメラ」映像が挿入された形になっています。
つまりこういうことです。
冒頭は「金麦男主観カメラ」です。
1秒後「金麦女の脳内カメラ」に切り替わります。
金麦女の脳内スクリーンには、こういう映像が写されているわけです。すっかり「串焼き屋さん」です。
そして最後にまた「金麦男主観カメラ」に戻ります。
言わばこちらが<実際の映像>であるわけです。
ですからもし、この「串焼き屋さん」篇を「金麦男の主観カメラ」だけで映すと、終始金麦女が砂場で遊んでいるだけの映像となります。
わずか15秒間の映像に巧妙かつ緻密に仕込まれた、非常に濃厚なサイコスリラーです。
過去の作品を順に検討していく過程でここに気づいたとき、思わず声を上げてしまいました。
こ~わ~!
考えすぎと思うでしょうか。しかし仮に、「串焼き屋さん」の画も同じく「金麦男主観カメラ」映像であるならば、この前後を金麦女の砂遊びのシーンではさむ必然性は何もありません。
冷房いらずの寒気がします。
この一瞬の笑みに狂気をのぞかせる檀さんの演技力もまた、凄いです。
上級編:見直すとつくづく凄い
以前に別の記事でも触れましたが、再検討した結果の管見では、金麦女の病状がはっきり表れたのは、第12作「丘の上から愛をこめて」篇(2009/03/09 OA開始)です。
金麦『丘の上から愛をこめて』篇 15秒 檀れい サントリー CM
「ほら、金麦さんところの奥さん、いつも丘の上で何か叫んでるじゃない」
— たび山 (@tabix_gogo) 2012, 11月 8
まともだから凄い
凄いのは、金麦女が送っている手旗信号が、でたらめではないところです。
確認のため、手旗信号 五十音表(polar-star.com, 2013/06/29付より)と照合してみましょう。
ハ
ル
タ
セ゛
金麦が新しくなった
セ(゛)
という具合です。
参考:手旗信号 〜金麦CM「丘の上から愛を込めて」篇〜|Boy Scout 5th Ikeda Group, Osaka(2009/03/30付)
つまり金麦女は、
- 丘の上から
- 椅子の上に乗って
- 「ハルタ゛セ゛」というメッセージを
- 手旗信号で
- 正確に送っている
という話になります。
はるだぜショック
この事実が教えてくれることは次の2つです。
- 狂っている人が決して何から何まででたらめではないこと
- それゆえトータルでは狂ってしまっていること
この一篇に潜む凄さを総合して、私は「はるだぜショック」と呼んでいます。
関連資料
「はるだぜショック」に遭った男の心中を量るには、大島弓子さんの最高傑作との呼び声も高い「ダリアの帯」(1985)が好適でしょう。
妻・黄菜(「奇異な」のシャレでしょうね)の様子が徐々に不穏になり、奇行が目立ってきたあたりの描写が参考になるかと思います。
なお私の中では、「ダリアの帯」と『智恵子抄』と「金麦」が、新・3大「精神を病んだ妻の物語」です。
まとめ
以上、金麦女の凄さをよりすぐって大まじめに解説してきました。
彼女がなんでこんなことになってしまったか、これからどう対処するのが最善か、思うところはいろいろありますが、いまは沈黙を守ります。
最後に、金麦女たちに次の一節をメッセージに代えて送ります。
精神障害は「関係の病い」であるとよく言われる。自分との関係、家族との関係、そして職場における人間関係につまずくことである。
一方、回復へのヒントも「関係」のなかにある。関係のなかで傷つき病んだこころは基本的には、関係のなかでしか回復しない。
『べてるの家の「非」援助論』(浦河べてるの家, 2002)p.212 より
ほかに私ができるのは、ただただ金麦女を見守ることだけです。
引きつづき「金麦女を見守る会」の活動を続けます。
おわり
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