「感動ポルノ」の日英ネット初出を追った

こんにちは。

調査プロセスの大半をはしょって、結論だけ書いておきます。

「感動ポルノ」入門編としても読めるようにしたつもりです。

はじめに:「感動ポルノ」とは

「感動ポルノ」とは、

  • 人に感動を与えることが狙いのコンテンツ

というのが、私の理解です。

さらに狭い意味では、そのネタに障害者が使われているものです。

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※Stella Young(1982-2014) from Twitter @stellajyoung

調査結果

「感動ポルノ」初出を追った調査結果です。

    <推定初出時期>

  • 日本語の「感動ポルノ」は、2014年4月26日~7月24日のどこか
  • 英語の「Inspiration Porn」は、2012年2月14日(暫定)

です。

ということで、日本語では「満1歳」前後、英語でも3歳ほどの、新しい言葉だとわかりました(※公開日時点)。

なお英語の側では、「Inspiration Porn」の用語自体は使われていないものの、既に2010年12月付で同様のコンセプトが読み取れる記事が見られました。

はじめての「感動ポルノ(Inspiration Porn)」

日本語、英語の順に記していきます。

日本語:感動ポルノ

こちらの動画につけられた日本語字幕が初出です。

Inspiration Porn and the Objectification of Disability: Stella Young(on Apr. 26, 2014)

YouTubetedxsydney.com

[日本語字幕版]
ステラ・ヤング:私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく|ted.com

初出の時期

TedxSydney 2014の開催日が、2014年の4月26日です。

そして「日本語TED新着」ブログに

が告知されたのが、7月24日付です。

以上から、この期間のどこか(たぶん、比較的早い時期)に、日本語の「感動ポルノ」が誕生したことになります。

字幕制作に携わった方々が参考にしたかどうかはわかりませんが、ジーニアス英和辞典の「inspiration」の項には、「感動」の訳語が載っていました。

拡散のきっかけ

この「感動ポルノ」が広まったきっかけが、上のプレゼンテーションが講演録の形式でテキストになっているこちらのページです。

障害者は「感動ポルノ」として健常者に消費される–難病を患うコメディアンが語った、”本当の障害”とは|logmi.jp

私もこの記事に関するツイートから知りました。

2015年になって広まる

公開日付がはっきりしませんが、導入部分に

昨年12月に亡くなったコメディアン兼ジャーナリストのStella Young(ステラ・ヤング)氏は、

とありますので、今年(2015年)に入ってからのものであることはわかります。

日本語の「感動ポルノ」に関しては、このプレゼンテーション動画以前の用例が見当たりません。

英語:Inspiration Porn

次に英語の側です。

2014年のシドニーでのプレゼンテーションに至る「Inspiration Porn」の源流を日付指定の検索でたどってみると、最も日付の古かったのは、こちらのブログ記事でした。

  • Inspiration Porn|building radical accessible communities everywhere(2012/02/14付)

記事内の画像のキャプションに使われています。

Know what i’m tired of? Images of disabled people doing random things, turned into “inspiration porn”.

(中略)

I AM NOT YOUR INSPIRATION!

【拙訳】

おいらが何にうんざりしてるかわかる? 「インスピレーション・ポルノ」と化した、障害者があれこれやってる写真だよ。

おいら、あんたらの感動ネタじゃねえっつーの!

なぜか口調がビートたけしさん風になってしまいました。チャン、チャン!


ただ、この画像の出所までは追いきれていません。画像単位で検索してみても、日付がいちばん古いのが同じくこの記事のものです。

ということでこちらを、暫定ながら「Inspiration Porn」の初出とします。

2010年の「萌芽」

さらにさかのぼると、こんなブログ記事にたどり着けました。

タイトルが先ほどの“キメ台詞”と同じです。

障害者の側からの、こんなメッセージがありました。

Don’t be inspired by us because we happen to be different. If you must be inspired, be inspired by our vision, our ideas. Don’t be inspired by our existence. It’s just my life, and I’m living it for me, not to warm your heart.

【拙訳】

私たちで感動しないで。たまたま違っているだけなのだから。感動なさるんなら、私たちのビジョンやアイデアに感動して。私たちの存在に感動しないで。それは単なる生活の一コマ。暮らしているのも自分のため。皆さんをほっこりさせようとしてやってるんじゃありませんから。

「porn」の単語こそ使われていませんが、反「感動ポルノ」のコンセプトは、既にこの時点でしっかり仕上がっていると言えそうです。

【2016/08/29追記】

時節柄当記事へのアクセスが増え、こんなツイートを目にしました。

なるほど。より直訳に寄せた文言を使ったバージョンも作ってみました。

【拙訳 2016版】

私たちに励まされないで。たまたま違っているだけなのだから。もしあなたが励まされなければならないのなら、私たちのビジョン、私たちのアイデアに励まされて。私たちの存在に励まされないで。それはただ私の人生。私が生きるのは私のためで、皆さんをほっこりさせようとしてるんじゃありませんから。

どうでしょうか。(追記ここまで)

TEDへの道も見えた気が

詳述は省きますが、それぞれのテキストを突き合わせてみると、先ほどのプレゼンテーションにも、上の2つの記事のエッセンスが取り入れられていることがわかります。

「感動ポルノ」後初となる、例の番組が楽しみな件

さて、新しく「感動ポルノ」という言葉を覚えると、どうしても思い浮かんでしまうのが、あのテレビ番組です。

そうです。「24時間テレビ 愛は地球を救う」(日本テレビ系列)です。

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今年(2015年)が数えて38回目と、すっかり8月の風物詩となっています。

実際の話、「感動ポルノ」を検索すると、

ご一緒に「24時間テレビ」はいかがですか?

とGoogleが勧めてくるほどです。

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Google的にはすっかり準備OKです。

でもって「24時間テレビ」といえば、何が狙いなんだか、海原を泳がせたり山を登らせたりと、障害者に毎年いろんなことをさせていることでもおなじみです。

なにせ、見たことのない私のところにまで噂が届いてくるぐらいですからね。

けれども、当記事で述べてきた経緯のとおり、「感動ポルノ」という語ができてまだ1年少々なわけですから、今年2015年の24時間テレビが、事実上、はじめてリアルタイムで「感動ポルノ」と呼ばれる放送となるわけです。

そんなこんなで、今年はどんな感動ポルノ企画が用意されているのだろうと、わくわくが止まらなくなってしまいました。これはもう、前もって企画内容を知りたいじゃあありませんか。

なのに、しばしネットを探し回ったにもかかわらず、検索結果は芳しくありませんでした。見つかるのは、例年、健常者の有名人が務めるマラソンランナーの件ばかり(2015年はDAIGOさん)。

がっかりです。ひょっとして、マラソンランナー以上の極秘案件なんでしょうか。

誰か知りませんか?

次回予告的に:24時間テレビ肯定論

誤解のないように付け加えておきますと、私は「24時間テレビ 愛は地球を救う」を肯定します。10段階で言えば、9.0ぐらいの肯定派です。

当記事で述べた感動ポルノの構図も、そもそも愛は地球を救わないことも、あれやこれやも全部ふまえたうえで、くり広げられるあれやこれやを1周回って楽しむ番組だと思っています。

ひとまず以上です。そのあたりはまた、別の記事で。

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