こんにちは。名前を研究しています。
キラキラネームについて検討を始めています。
有名人の「キラキラネーム」5選
キラキラしてるなと思う有名人の名前を思い浮かべてみると、5つ挙げられました。順不同です。
- 武井咲さんの「咲」
- 六平直政さんの「六平」
- 村主章枝さんの「村主」
- 太郎・さだお・のり子さんの姓「東海林」
- ASKAさんの昔の表記「飛鳥」
読めない人のために読みがなも記しておきます。
順に、「えみ」「むさか」「すぐり」「しょうじ」「あすか」です。
飛鳥 II posted by (C)西表カイネコ |photozou.jp
読み方の由来
それぞれ、なんでそう読むのかを調べてみました。
咲(えみ)
結論から言えば、古い日本語に由来します。むしろ由緒正しい読み方とも言えます。
『字統』をひもとくと、「咲」の字の右側は「笑の略体の字」とありました。
咲は笑の俗字とみてよい
は、著者の白川静先生の見解です。
「咲」の音読みは「ショウ」だそうです。はじめて知りました。
[類聚名義抄(るいじゅうみょうぎしょう)]には「可咲(笑ふべし)」、「微咲(微笑)」の語がみえるが、花咲くという例はなく、[色葉字類抄(いろはじるいしょう)]にもなお「さく」の訓はない。
類聚名義抄、色葉字類抄は、どちらも平安期の辞書です。
「咲」の字を使って、花が開くことを「咲く」というのは、平安期より後に生まれた新しい用法ということになります。口もとのほころびる様子を、花の開くさまに適用させた、そういう順序関係です。
したがって、「咲」を「さき」ではなく原義の「笑む」に通じる「えみ」と読む読み方のほうが、むしろ由緒に則った正統だと言えます。
六平(むさか)
「平」の字を「さか」と読むのも、古い日本語に関係しているようです。
Yahoo!知恵袋の回答ですが、こんな説がありました。
平(ひら)→枚方(ひらかた)のひら・滋賀県の比良などのひら。
この枚方とか比良のひらは、傾斜した土地を意味します。つまり坂です。
これは「ひら」は「坂」のことだという、かなり昔の日本語の知識がそうとう生きて使われていないと、生じない現象ですね。
出所:六平 【質問】 なぜこれがムサカと読むのでしょうか。(2010/09/19付)
広辞苑「ひら【平】」の項にも、4番目に
山中にある相当広い緩斜面。
という語釈が載っていました。
以上から展開すると、「むさか」という呼び方がまずあって、それを表記する際、「さか」に坂の意味もある「平」の字を充てたと見るのが論理的に妥当だろうと考えられます。
諸情報とも整合する
この考え方は、Wikipedia「六平直政」にある
珍しい「六平」姓は、父親が秋田県由利本荘市で代々続く真宗大谷派寺院の出で「平家の落人が六つの赤旗を立てた」というこの土地の言い伝えから「むつあか」が縮まって「むさか」になったという。
という情報とも整合が取れます。
方言学の一般論として、京都から離れた土地ほど、古い言葉が残りやすい傾向もあります。
実は武蔵美の彫刻科卒
蛇足ながら、Wikipediaの六平直政さんに関する記述でいちばん驚いたのは
武蔵野美術大学彫刻科卒業、同大学大学院修士課程中退。
という学歴です。
村主(すぐり)
古代朝鮮語に由来するようです。
広辞苑「すぐり【村主】」より。
(古代朝鮮語で村長の意という)
コトバンク > すくり【村主】 世界大百科事典 第2班の解説より。
〈すぐり〉ともいう。村主を〈すくり〉と読むのは,古代朝鮮語の郷,村を意味するsu‐kur(足流)という語に由来する。5世紀以降,主として朝鮮百済から渡来した技術者集団である漢人(あやひと)を,各国内の村に配置したさいに,各集団を統率した渡来人の長を村主と呼称したものらしい。
細かいところをつっこんでおきますが、「村主を〈すくり〉と読む」というのは、言い方として反対でしょう。古代朝鮮語で村を意味した「すくり」という言葉を「村主」と書き表したというのが、より正確な事態の記述だと思います。
東海林(しょうじ)
国立国会図書館サイトにあるレファレンス協同データベースによると、「東海林(とうかいりん)」さんが務めていた役職「しょうじ」を、字の表記を変えずにそのまま読ませたことに由来するようです。
荘園の管理をする「庄司(しょうじ)」をつとめた「東海林(トウカイリン)」氏が漢字を変えずにそのまま「ショウジ」を名字としたとの説を紹介する。
「東海林」はなぜ「ショウジ」と読むのか。(2010/10/28登録)より
現代で言えば、ちょうど肥後と書いて「リーダー」と読ませるようなものでしょうか。
けっこうな荒技です。
飛鳥(あすか)
アスカと呼ばれた地名に冠された枕詞「飛ぶ鳥の」を、そのまま地名の表記にしたのが始まりのようです。
日本史の時代区分のひとつである飛鳥時代の「飛鳥」の由来について知りたい。|レファレンス協同データベース(2013/12/28登録)では、『古代史用語事典』(1991)の記述を引いて
字源は「明日香」の枕詞
としています。
以下は、明日香と飛鳥の由来|明日香村KIDS からです。ルビは省略しました。
古事記、日本書紀では、主として飛鳥が用いられ、万葉集では、明日香と出てくる場合が多く、飛鳥は、アスカという場合とトブトリとして明日香の枕詞になっている場合とがある。
現代に当てはめれば、たとえば「キング」と書いて「カズ」と読ませるようなものでしょうか。
これもけっこうな荒技です。
まとめ
有名人に見る「キラキラネーム」5つそれぞれの由来を調べてみると、大別して2つの系統がありました。
- 古式ゆかしい系
- 荒技系
と名づけておきます。
ひとつは、古式に則った読ませ方(咲)や表記法(六平・村主)です。
現代の私にとって「古式」の側が未知の存在だったのは、後世のどこかで生まれた新しい方の読み方を先に知っていたからです。また「村主」の場合は、語源に関する知識が得られる環境が既になくなっています。
一方、元の呼称と、関連した別の何かの表記とを結びつけた「荒技系」(東海林・飛鳥)もありました。
こちらはその時代その場所に生きていた「内輪」の人間以外には理解不能です。2つを結びつけられても「知らんがな」という話です。
結論
どうやら日本語世界において、漢字はキラキラ書いて、キラキラ読む存在のようです。
したがって、「読めない」を根拠にしてキラキラネームを批判することは、当を得ていない的外れなものということになります。
つづく予定
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