11月15日の「SWITCHインタビュー 達人達」(NHK・Eテレ)をテキストにしています。(2)のつづきです。
Vol.59 ふなっしー力 アガワ力
後半
ナレーション)後半は舞台をスイッチ
東京都千代田区
/* 文藝春秋本館 */
ナレーション)阿川が打ち合わせをしているという出版社にやって来たふなっしー。
ふなっしー「めっちゃ人いるなしな」
ナレーション)噂を聞きつけ、ご覧のような人だかりが
ふな「元気なっしー? ヒャッハー!」
ナレーション)今度はふなっしーが阿川にインタビューしなくてはならない。果たして無事にたどり着けるのか
(警備員さんに)
ふな「ふなっしーと申しますなっしー。怪しい者ではございませんなっしー」
ナレーション)何とか受付をクリアしたふなっしーが向かったのは
ナレーション)阿川が対談の連載を持つ週刊誌の編集部。この日は校了日の翌日ということで編集部は閑散としている。と、ふなっしーのいたずら心に火がついた?
ナレーション)社員に手を振ったと見せかけて、マーキング
コピー機に梨皮の顔面コピー
ふな「ちょっとふなっしーぽいの映ってるなしな。うれしいなっしー」
ふな「ごめんくださいなっしー。阿川佐和子さんいらっしゃいますかなっしー?」
扉の中から「はいはいなっしー」
ふな「あ、あーっいたーっ! 佐和子ちゃーん、ここなしなー。やっと会えたなっしー。うれしいなっしー」
阿川「ははは。来たのかー」
阿川「なんか外でキャーキャー言ってるのはあれは、ふなっしーの歓迎のなっしー」
ふな「あれは、新潮さんの社員ってことなっしー」
阿川「新潮社じゃなくてここ文藝春秋」
ふな「文藝春秋、あ、ごめんなさいハハハハ」
阿川「あんまり出版社なんて入ることないですか」
ふな「たまにね、スポーツ新聞社に入ることあったなっし」
阿川「ああ-、なるほど」
ふな「なんか、キャンペーンみたいなやらされたことがあるなっしー」
阿川「ほんと、なんでもやってるのね」
阿川「スケジュール管理とかどうしてんですかふなっしーさん。マネージャーいるの?」
ふな「マネージャー的なものはいないなしな」
阿川「自分でやってるんですか」
ふな「全部あの、セルフプロデュース、セルフ管理なしよ」
阿川「だって、電話受けたりするんですか」
ふな「あっそうなしよ。電話も受けたり、スケジュールしたりとか、請求書書いたりとか」
阿川「請求書書いたりするの」
ふな「ギャラの交渉したりとか」
阿川「ギャラの交渉もするの?」
ふな「もう面倒くさいったらありゃしないなしな」
阿川「ねぇ本当ね。あんまり安売りしちゃだめよ」
ふな「あそうなな。まあでも、まあまあまあ、大丈夫なしよ」
阿川「大丈夫?本当? じゃちょっとさあ、お偉いさんのところに」
ふな「なんでそんなにギラギラしてるなっし どうしたなっしー」
阿川「会いに行こうよ」
ふな「あれそんな、そんな企画だったっしこの展開」
ナレーション)ふなっしーの活動可能時間は30分。なのに、阿川の思いつきで社内を連れ回されるはめに。
阿川「社長室、社長室はどこに?」
ナレーション)突然のふなっしー来襲に社員も大あわて
ふな「普通に、普通にずかずか行っちゃってるけど誰も止めないなっしー。だってあの人、社員じゃないなしよ」
ふな「はじめまして。すいませんいきなり」
阿川「社長です」
社長(松井清人さん)「本物のふなっしーだね」
ナレーション)乱入した先は、社長室
阿川「ふなっしーふなっし-、社長の椅子に座ろう」
ふな「じゃあ失礼しますなっしー」
阿川「座れるの? あ座った」
ふな「あー、いやあ~」
阿川「ふなっしー、一日社長になる」
ふな「うれしいなしなー(パソコンのキーを叩く)」
社長「変なものを出さないでください」
恐怖のカンヅメ部屋
ナレーション)社内には、締切が迫った作家を缶詰めにするための部屋まであった。
ふな「わっここなに」
阿川「ここが」
ふな「ホテルみたい」
阿川「そうなの」
執筆室
ナレーション)阿川もここに閉じ込められたことがあるという。
阿川「冷蔵庫のちっちゃいの1個あって、ここに自分の必要なお水とかお茶とか、なんか菓子パンとかお菓子とか入れといて、ここにパソコンを広げて、こうやって、ここで書くと」
ふな「へぇ~」
阿川「お座りになりますかベッドに」
ふな「そうなっしな」
ダイブ
ふな「あ、けっこうしっかりした、いいベッドなっしな。いいマットレス使ってるなっしー」
ナレーション)ふなっしー、実は腰痛に悩んでいるそうです
インタビューの達人にふなっしーが挑む!
ナレーション)累計180万部のベストセラー『聞く力』。1000人以上にインタビューしてきた阿川が語る相手の話を引き出すコツは
- 絶妙なタイミングの相づち
- オウム返し質問
- 質問はたくさん用意するのではなく、柱となるテーマを3つだけ準備すること
果たして、ふなっしーの聞く力やいかに?
ふなっしーに聞く力はあるのか?
ふなっしー「ちゃんちゃーん!」
阿川「あいあい」
ふな「いやーこっからはちょっとね、阿川さんにちょっとお伺いしたいことがあるなっしな。いいなっしー?」
阿川「もちろんなっしー。なんですか?」
ふな「阿川さんって、ちっちゃい頃あだ名とかあったなし?」
ナレーション)おっと、ふなっしーいきなり変化球から入りました
阿川「あだ名ねぇ」
ふな「佐和ちゃん?」
阿川「まあ佐和ちゃんかな。けっこう太ってたんで、中学時代はミルクタンクとか言われてたこともあったりした」
ふな「ミルクタンク?!意外なしな」
阿川「(梨皮に触れて)こんなだったの」
ふな「今すっごいスリムなしよ」
阿川「スリムじゃないですよ、ちょっとお見せできないものがいっぱいある。くびれって何だっけみたいな感じです」
ふな「ふなっしーもね、けっこうね、くびれない」
阿川「くびれはないね」
ふな「そういうこと言うなっしー!」
阿川「わかった。すいません」
ふな「そのままじゃあ、学生生活を送って、最初に何か仕事に就いたのは何なっしー?」
阿川「仕事に就かないでお嫁に行きたかったから、延々とお見合いをしてたんですけども、もう30何回やっても決まらなくて、私はもうダメなんじゃないかと、思ってもう30歳近くなったときにたまたまテレビの、テレビ局から番組のアシスタントをやりませんかっていう話があったんで、まあテレビ局にもいい男がいるかもしれないという下心を持って、でテレビ局に行ったらいい男はいなかったけども仕事は何となく続いたっていう、そういうことですかね」
ふな「え? なんかそこの、お見合い30何回失敗くり返してから、アシスタントに選ばれるまでの飛び方がすさまじいなっしな。その間は、何もなかったなっし?」
阿川「いやだから就職活動もしなかったし、私が大学を卒業する頃ってほんとに今とまた別の意味で不景気だったんですよ。だから4年制の大学を卒業した男子学生でも、なかなか希望の会社に入れないっていうような状況のときに、なんにも、つまり能力もないし、そんな腰掛けみたいな就職をするぐらいならば、自分のちょっと興味のある、手仕事が好きだった、手編みのセーターを編むのとか、それから織物をするのとか、そういうの好きだから、大好きな旦那様と一緒にかわいい子供たちを育てながら織物をして、ちょっとだけの収入は私にも確保できるのよっていうそういう主婦になりたいと」
ふな「ああ~」
阿川「でも主婦願望が強かったんですよ」
ナレーション)お見合いをくり返しつつ、適当にアルバイトをして過ごす日々。あるとき、腕時計の広告写真に父である作家・阿川弘之と起用される。撮影中、終始不機嫌だった父の隣でなんとも微妙な表情の阿川。この写真がテレビ局のプロデューサーの目に留まった。
VTR
当時28歳
レポート「コレイユと呼ばれるボルドー行きの列車の中です」
映像提供:TBS「朝のホットライン」
ナレーション)阿川佐和子、当時28歳。テレビレポーターとしてデビューを果たす
ふなっしー「へぇ~」
阿川「全然仕事をする気なかった。父がものを、小説とかエッセイとか書く物書きだったから、だからその父が1日中うちにいる訳」
ふな「ああなるほどなしな」
阿川「で機嫌が悪いの。1日中機嫌が悪い」
ふな「うわー」
阿川「そうすっと物書き関係の職業の人とだけは結婚したくないと。だって家族が大変なんだもん」
ふな「あー、目の当たりにしてるから」
阿川「そうそう、もう嫌って思ったし。で私自身も国語の成績がよかったことがないんで、父親の血は受け継いでないから、だからもう私は本を読むのも好きじゃないし、作文でほめられたこともないから、そっち方面の仕事に就くということの興味もなければ能力もないと」
ふな「へぇー」
阿川「ところがアルバイトと思って仕事を始めたそのテレビのアシスタントの仕事が意外に長く続いちゃって、そのうちに、なんだテレビの仕事してんだったらついでにインタビューもしなさいよとか、ちょっとエッセイ書きなさいよとか声を掛けてくださる方がいて、で、人にこうなんか、やろうよ、やればできるさって言われると、えーできないです、できないですって言いながら、引き受けちゃうっていうタイプ」
ふな「ちょろちょろあれなしな、人に乗せられると」
阿川「そうそう、すぐ乗るタイプ」
ふな「ああ、いいなしなー」
ナレーション)軽い気持ちで始めたテレビの仕事だったが、看板ニュース番組のアシスタントに抜擢される。この時36歳。花婿探しはいつの間にか遠のいていった。
写真提供:TBS
「筑紫哲也ニュース23」
阿川「その頃、筑紫さんの隣に座りたいっていう女性キャスターになりたいっていう人たちがたくさんいたの。だけど私は2年して、なんかこれこの仕事あたし違うなと思って、辞めようと思って辞めますって言ったら、そしたらテレビ局の人たちとかその上司の人たちが、なんで辞めたいんだと」
ふな「うん」
阿川「今なりたいと思ってる人がいっぱいいるのに、自ら辞めるとは何だって言われたから、いや、やりたい人がいるならやりたい人にやっていただいた方がいいんじゃないでしょうか、番組に失礼でしょ私も」
ふな「ああ」
阿川「そうしたら、言っとくけど君は、最初にテレビ局に雇われたのも親の七光りだし、今や筑紫哲也さんの七光りでいろんな仕事が来てるんだよと。でもし自分からそれを仕事を辞めたら、君は何も残らないかもしれないし、少なくとも仕事は、半減するぞって、言われたんですね」
阿川「ああなるほどな世の中の仕事ってそういうふうに回ってんだって、いうふうに思ったんだけど、もしも、つまり、仕事が一切なくなったと思ったら『また一緒に仕事しようよ』って言ってくれる人が一人いたら、その人は私の親の七光りでもないし、筑紫さんの七光りでもない人で、私を必要と思ってくれる人がいたっていう証拠になるじゃない」
ふな「ああ、そうなしな」
阿川「まあもし、仕事がなくなっちゃったら、またバイト生活するかって、それはそれでいいじゃないかと」
気づけばインタビュアー歴21年!
ナレーション)そんな阿川に舞い込んだのが、現在まで21年続く、雑誌の対談の仕事だった。当時編集長として阿川を起用した花田紀凱は
花田「品の良さ、キャラクターですよね。明るい。でまあ何て言うのかな、一応そのテレビではやってたんだから、そのぅ全然ね、何て言うか聞くことできないとかいう人じゃないじゃない」
花田「毎週ってけっこう大変なんですよ。締切すぐ来ちゃうから。いくらこう順序よくやってても。しかもそのジャンルが、そのぅ何て言うか制限ないじゃない。芸能界ありスポーツあり政治ありマスコミあり何でもありですから相手が」
花田「編集部の隅っこの方にちっちゃい部屋が2つあるんですよ。打ち合わせする部屋が2つあったんですよ今はどうかわかんないけどね。そこに、まあこもって資料を読んだり」
花田「天性もあるけど、努力も、人には感じさせないかもしれないけど相当してると思うよ」
ナレーション)いつしか、阿川の対談は雑誌の看板ページとなっていた。インタビューは阿川のライフワークとなった。
勝新太郎、森光子、ジャイアント馬場との2ショット写真
ふなっしー「チャレンジに対して、けっこうじゃああの、できちゃう方なしな」
阿川「いや、できちゃうんじゃないんだけども、つい調子に乗って引き受けるじゃない、おだてられて。で引き受けてみたもののできないできないできないって思うけども、なんでお前はできてないのかって編集長とか、雇い主なんかに怒鳴られたり怒られたりするのは嫌いな小心者なんですよ。だからえーって泣きながら、やらざるを得ないよとりあえずって思って、やってたっていうだけで、できてたって範疇じゃないと思いますけどね」
ふな「いやぁ~。ふなっしーから見ると、TVタックルの、あの猛獣どもを、切った張ったしてるのを見ると、ものすごいこう、肝が据わってる女性だなあっていう、たぶん、これたぶんテレビ見てる皆さんみんなそう思ってると思うなっしよ」
阿川「怒鳴る男の人っていうのは割に頻繁に見てたんです。父は怒鳴るでしょ、最初のテレビの番組のボスもものすごく怒鳴る人だった。うわっ、うわっと、怒鳴る球をこう、なんていうか、避けて、避けて生きていくっていうことについては、怖いけど何とかしのぐ力はあったのかもしれない」
ナレーション)『聞く力』の続編『叱られる力』は、叱られ続けの60年史と題されている。《叱られるのは煩わしいことだし言い返したい理屈もある。でも怖くて「煩わしい」存在がいるからこそ、どうにか信頼されたり自制心が働くのではないか》と。叱られることから人間関係は始まると説いたこの本は、20万部を超えるベストセラーとなっている。
つづく
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