こんにちは。
以前の記事
- れりごー(Let It Go)が初めての人に教えてあげたいちょっとしたこと(2014/05/26)
にコンスタントにアクセスがありますので、日本語の《ありのままで》には訳されていない、れりごー歌詞中の単語「storm」について補っておきます。
要約:Executive Summary
- 「storm(嵐)」は、歌い手エルサの内心を象徴する単語です。英語詞では、風(wind)と明確に区別されています。
- 上の点をふまえると、「少しも寒くないわ」が軽い毒舌に解釈できます。
- そして、れりごーの歌の世界観を100%肯定はしづらくなります。
私見では、《ありのままで》の日本語になっていない語句のうち歌詞解釈の鍵となる最も重要な単語が、stormです。
なお日本語の場合、同じメロディーに載せられる歌詞の情報量が英語に比べて少なくなってしまうのは、発音の特性の違いもあって致し方のないところです。
高橋知伽江さんによる《ありのままで》の日本語歌詞は、細部まで配慮の行き届いた細やかな仕事である旨、強調しておきます。
参考:本年度アカデミー賞W受賞映画『アナと雪の女王』の歌詞翻訳者、高橋 知伽江さんが語る見どころ|alc.co.jp(2014/03/24付)
1:れりごーの「storm」確認
登場部分
対応する日本語詞で、stormの登場する箇所を確認しておきます。2か所あります。
風が心に ささやくの
は、英語詞では
The wind is howling like this swirling storm inside
です。下線部は「この内面で渦を巻く嵐」というほどの意味です。
もう1か所、
風よ吹け
も、英語では
Let the storm rage on
とstormです。
いずれも英語では、風(wind)ではなく嵐(storm)です。
stormの意味
ここでのstormは、
- 歌い手(エルサ)の内面
- 自然現象としての嵐
の2つの意味を持っています。
後者の意味であっても、内面が投影されていると読むのが妥当でしょう。
2:stormをふまえた「少しも寒くないわ」の解釈
おさらいです。stormは、歌い手(エルサ)の荒れる内面を象徴する単語でした。
日本語詞で「風よ吹け」と歌われている部分の「風」も、英語詞では
Let the storm rage on
とstormが使われており、歌い手の内面が投影されたニュアンスも伴っています。
よって、ここにつづく
少しも寒くないわ
は、内心のstormを解き放った後のセリフであるがため、「軽い毒舌」の意味あいが入っているとも解釈できるのです。
けっこうな「ぶっちゃけ発言」
「少しも寒くないわ」に対応する英語詞
The cold never bothered me anyway
に別の訳を付けてみるなら、
- 冷たさは決して私を悩ませなかったわけで
- いやマジ寒くねーし
ぐらいの意味にもなります。
要は、ここで歌い手のエルサは「この寒さも全然問題ない」「本当のことをいうと、何でも凍らせてしまう自分の能力に、全然困ってなどいなかった」。そういうことをぶっちゃけているわけです。
ニュアンス的には「寒いですが、それが何か?」
この「少しも寒くないわ」は、常夏の島で言っているのではありません。動画にもあるとおり、厳寒の地に立って
- 冷たいですが、何か問題でも?
と啖呵を切っている。そういうスタイルのセリフです。
そしてここでの「cold=冷たさ」は当然、「心」のそれにも通じる話です。
参考動画
『アナと雪の女王 MovieNEX』レット・イット・ゴー ~ありのままで~/エルサ(松たか子)<日本語歌詞付 Ver.>(2014/02/13付)
『アナと雪の女王 MovieNEX』Let It Go/エルサ(イディナ・メンゼル)<英語歌詞付 Ver.>(2014/02/13付)
3:stormからわかる、れりごーの不完全性
映画「アナと雪の女王(Frozen)」を観ると、この《ありのままで》が案外早く出てきました。正確なタイミングは覚えていませんが、全体のうち最初の3分の1あたりだったでしょうか。
映画のエルサは、れりごーの歌によりそれまで抑えられていた内心を解き放っています。しかし、雪と氷の城を築きそこに閉じこもるというのは、決してよいやり方とは言えません。対人的な愛情面から評価するならば、十全なものではないでしょう。
映画本編では残りの時間を費やして、そのあたりの解決と統合が図られていました。
stormを味わえば、れりごーの世界観を100%肯定はしづらくなります。そこに残る若干の危うさ・不完全さもまた読み取れるからです。
♪少しも寒くないわ~
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