こんにちは。
「正社員」用例収集プロジェクトの一環として、この記事では昭和15年(1940年)発行の冊子での「正社員」の用例を紹介します。
要約:Executive Summary
1940年(昭和15年)当時、パイロツト萬年筆(株)では
- 臨時・見習を「傭員」
- 見習い2か月で社員として採用
- 勤続3年未満を「普通社員」
- 勤続3年以上を「正社員」
- 技手・技師・書記・主事などの6階級を「職員」
- これらの傭員・社員・正社員・職員を総称して「従業員」
としていました。
正社員とは「従業員のうち、正式採用後の勤続3年以上で役なしの者」にあたります。
今日の言葉で言うなら「平社員」が最も近いと思います。
※写真と本文は関係ありません
「正社員」用例収集プロジェクト(2)
正社員 対 なに?
「正社員」というのは、「正」でない何かと対比・区別してのもの言いです。直感的には「正でない社員」だと考えられます。では、正社員とどんな「正でない社員」が対比・区別されているのでしょうか。
近代デジタルライブラリーで正社員の用例を探してみました。
「正社員」結果は6件 実質1件
検索して出てきたのは、6件でした。意外に少ない。
しかも今日的な意味に通じる「正社員」の用例は実質1件しかありません。
ほかは日本赤十字社、および俳諧誠道社という俳句の結社での「正社員」と、「改正社員給与」でのヒットです。
実質の1件である『賃金制より観たる月給制度』(渡部旭, 1940)を見ていきます。
『賃金制より観たる月給制度』を読む
同書の冒頭には、こう書かれています。
本篇は、本會理事パイロツト萬年筆株式会社常務取締役渡部旭氏が、昭和十五年三月三日及び七日の両日に(略)行われた講演の筆記である。
講演録です。
パイロツト萬年筆(株)での正社員とは
同書の7の二、「正社員と普通社員の区別」では、就業規則を引いて
即ち、二ヶ月の見習を経過すると普通社員となり、勤続三年以上は正社員となるのである。(p.37)
と説明しています。 ※下線は引用者
ほぼ「平社員」の意味
面白いのは、当時のパイロット万年筆ではその正社員が出世すると、同社の身分上「職員」となることです。
正社員どころか、社員でもなくなってしまうのですね。
36ページにあった表を転載します。
正社員のゾーンが案外と狭いことがわかります。
つまり正社員とは「従業員のうち、勤続3年以上で役なしの工員・事務員」ということです。表中に占める面積の狭さも、現実がほどほどに反映されたものに思えます。
今日の言葉では「平社員」が最も近いと思います。
付記:月給制という産業報国
「正社員」の話からは外れます。
しかし書名にもあるとおり、同書のポイントは「月給制」でした。
「『労務者』(要は工員、ブルーカラーです)にも月給制を採用し、それでうまくいっているよ」というのがこの本の趣旨です。
月給制推しの刊行元
この講演録の発行元が「東京地方産業報國聯合會」であることにも注目すべきでしょう。
巻頭からです。
本會は、右講演が産業報國運動の指導に資するところ多かるべきを信じ、同氏の校閲を經て、これを『産業報國運動資料ノ四』として、廣く關係者に配布した次第である。
「月給制とは、戦争遂行のための総動員体制に貢献するもの」との主張、信念が読み取れます。
この冊子が結構な評判となり、発行総部数が2万部となったそうです。
殊に、今回は本篇發行以來各方面より寄せられたる批判並に質問に對して著者の「質問に答えて」の附録を補足することが出來た
としています。
増刷版の巻末に掲載された質問と回答の一例を紹介します。
問の三、月給制度にすれば總ての労務管理が改善出来るとの論旨は飛躍に過ぎると思ふが如何。
回答から抜粋すると、ただ月給制にすればいいのではなく、
寧ろその逆に、月給制度にすれば一層熱心に各種の工作を行ふべきであり、又行へば面白いほど効果が揚るのであります。月給制だけを取入れたとて、その精神を捨てたのでは話になりません。
という趣旨でした。
目次から
同書の目次です。
特に、あれやこれやと心配事が並んでいる「4」あたり、社員なら月給制なのが半ば当然である今日の常識からすると、ずいぶんエキゾチックに見えます。
小まとめ
従業員の賃金を月給制にすることは、戦争遂行にも貢献するととらえられていました。
まとめ
わずか4分の3世紀ほど前の「正社員」の姿は、現在とずいぶん違っていました。
一例のみですが、それはほぼ「平社員」のことでした。
おわりに:逆社員宣言
最後に個人的な見解を述べると、正社員はもはやピークアウトしています。
今の正社員はオワコンです。既に死に始めています。今なお理想であるがごとく求められている「正社員」が息を吹き返すことはなく、すぐにではないにせよこのまま徐々に死んでいくのだろうなと思っています。
正社員の外側からのイメージをひとつ紹介します。
私が考えていた「正社員」とは、よくわからない書類を作って会議をし、ヘラヘラ、ペコペコしながらゴルフをしたりお酒を飲む仕事をする人のことです。いわゆる一流大学は、そういう仕事をする一流企業に就職するための勉強、練習をする学校だと思っていました。
『解+』(加藤智大, 2013)p.97
とらえ方が一面的にすぎますが、一面の真実を衝いてもいます。
私がもしまた社員になるなら、正社員ではなく逆社員を目指します。
こちらからは以上です。
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