自治体広報誌の「元気をもらう」多すぎ問題を憂う―元気の研究(4)

元気ですかー!

元気の研究の一環として、ざっくり調査を行っています。シリーズ4回目にして、新たな問題が発覚しました。

それは、地方自治体の広報誌(広報紙)での「元気をもらう」の使用頻度が、ハンパなく高いことです。

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※写真と本文は関係ありません

もうめちゃめちゃにたくさんあまた多用されすぎまくりなのであります。と、こちらも重言に二重表現を重ねまくる勢いで強調してみました。

前回のあらすじ

シリーズ3回目のこちらの記事で、日本語コーパス「NINJAL-LWP for BCCWJ」での検索結果と用例を紹介しました。

「元気をもらう」の用例を検討すると、この表現を使っているのは、一般人を除くと次の3タイプの方々でした。

  1. 芸能人・芸能関係者
  2. アレな感じの方々
  3. 地方自治体

となると地方自治体も、かなりアレな感じと言えるのではないだろうか。といった予想をしたところまででした。

要約:Executive Summary

地方自治体の広報誌での「元気をもらう」使用頻度の高さは異常です。

【リスト】自治体広報誌の「元気をもらう」たち(全11例)

コーパス検索にヒットした用例から、「出してもらう」「分けてもらう」のような「動詞+もらう」のパターンを除外したものをすべて引用します。全部でのべ11例あります。

いずれも2008年の用例です(コーパスに収載されているテキストが2008年のみのようです)。

北から順に紹介します。 ※強調は引用者

広報さっぽろ+ていね区民のページ(北海道)

メンバーの皆さんは「この活動を通して、私たちも子どもたちから元気をもらっています。

私たちも、子どもたちと一緒に遊ぶことで、いつも元気をもらっています

ねりま区報(東京)

利用者の笑顔から元気をもらいます

利用者の笑顔を見ると元気をもらい、やりがいを感じます。

広報いせ(三重)

楽しく食べて元気をもらおう

市報松江(島根)

またこの教室に先駆けて、地元の森山地区公民館主催で森山堤防道路の清掃活動が行われ、公民館、自治会、青少年健全育成協議会、花さきの会など約120人が参加し、雨降りの寒い日でしたが、一緒に参加した小・中学生のきびきびとした、明るい表情に元気をもらったようでした。

広報なかがわ(福岡)

鬼に抱かれて元気をもらいました!!

広報ながさき(長崎)

メンバーになって8カ月の■■さんは、観客として元気をもらった一人。

「今年の長崎ランタンフェスティバルに出演していたみんなの演技を見て元気をもらいました

「観客のかたから『元気をもらったよ』とか『ありがとう』とか言葉をかけてもらうと、とてもうれしいし、逆に元気をもらうんですよ」と■■さんはうれしそうに語ります。

データが語る《「元気をもらう」多すぎ》

自治体の広報誌での「元気をもらう」使用頻度の高さは異常です。

そこをデータで示します。

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こちらの数値は、100万語あたりの頻度(PMW)を表しています。「元気をもらう」が100万語あたり何回出てくるか。それを表す数字です。

このなかで「広報」の値が2.92と突出しています。その出現頻度は、書籍(0.31)のなんと9倍強。その次に値の大きい一般人のブログ(1.91)と比べても、5割増しです。

驚きです。

比較対照データ:ご当地

単体ではどれぐらい高すぎかがわかりにくいので、比較対照に適した、別の用語でのデータを探してみることにしました。

探す対象は、イメージ的にはもっと広報誌で使われてもいいが、データでは「元気をもらう」よりも全然使われていない用語です。

「ご当地」がよさそうです。

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100万語あたりの使用頻度は、1.95です。

この値と比べて「元気をもらう」の使用頻度(2.92)は、5割増しです。

ただし「元気をもらう」の検索では、「出してもらう」みたいな「動詞+もらう」パターンもヒットしていますから、そこを差し引いて調整しても、「8件」対「のべ11件」で、37.5%増しの計算です。

まとめ:深刻な「元気マシマシもらい」

地方自治体の広報誌では、「元気をもらう」を多用しています。

その頻度は、「ご当地」と比べて37.5%増しです。つまり計算上は、「ご当地」が4回出てくる間に「元気をもらう」が5.5回出てくることになります。

「なんだそれ」です。非公認キャラクターも跳び上がります。

そしてまた、一般人のブログでの「元気をもらう」の使用頻度と比べても、だいたい5割増しです。

ブログとしてコーパスに収載されている中には「○○にいっぱい元気をもらった~」みたいな、ウンコちゃんテキストも多分に含まれているはずです。なのに自治体の広報誌では、さらにその5割マシマシでいっています。

自治体の広報誌・広報紙は、元気をもらいまくり、元気をメガ盛りもらう世界なのであります。

こんなことになっているとは、ついぞ知りませんでした。元気はもらうものなのか?を疑問視している当ブログにとって、憂慮すべき事態です。

次回予告に代えて:「元気をもらう」はいつから?

さて、ことほどさように現代の自治体広報誌の世界を蝕んでいる「元気をもらう」ですが、青空文庫で検索してみると、「元気をもらう」の用例は一切見当たりません。0件です。

青空文庫に収められているのは、筆者の死後50年経って著作権の切れた作品が中心ですから、ざっくりと「明治期から50年以上前までの書き言葉」と言えます。2014年現在であれば、昭和30年代半ばまでといったところです。

このことから、日本語話者が「元気をもらう」ようになったのは、日本語の歴史から見ればごく最近のことらしいというのがうかがえます。では、それはいつ頃の話なのでしょうか?

次回以降、そこを解明していくつもりでいます。現時点での成算は未知数であります。

元気があれば何でもできる。と思いたい。

バカヤローッ!!

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