こんにちは。地獄はこの世にありました。
はじめに:出典マニアがもの申す
あきれています。またやっているのですね。賽の河原かと思いました。
「電車で泣く子供」をめぐる騒ぎのことです。
もう何回目でしょうか。なんですかこの、延々と抜け出せない無限ループ。この世の無間地獄なのでしょうかこれは。
と、そんな俗世間の低レベルぶりをただ嗤うだけでなく、よりよい社会となることを願って、不肖地獄のヤシロが整理しておくことにしました。
なお「電車」が飛行機・バス・船 etc. であっても本質は変わりませんから、以後は一般化して「公共の乗り物で泣く子供」とします。
「一生使える」を目指して
志だけは高く、この世に公共の乗り物がある限り色あせないコンテンツとなることを目指して、個別具体的なケースに関する記述は、極力排除して進めます。
書くこと
この記事で書くのは、次の3つです。
- 「乗り物で泣く子」騒ぎをめぐる経過を示した汎用フロー
- 問題点とそれを生む背景
- 上記に対して「こういう方向で解決しませんか」という解決プランの提示
書かないこと
個別具体的な解決案は述べません。
解決方針として、プランの中で方向性のみ示します。
1.「乗り物で泣く子」騒ぎの無限ループに共通する流れ
「乗り物で泣く子」騒ぎが時系列でたどる経過を一般化し、フローとして整理しました。ステップは全部で7つです。
「乗り物で泣く子供」騒ぎの無限ループ
- どこかの公共の乗り物の中で子供が泣く
- 乗り合わせた別の誰かが不快になる
- 現場の利害関係者(乗務員を含む)の間で、ひと悶着あったりなかったりする
- その顛末を、当事者(現場に居合わせた者を含む)がどこかで公表する
- それを別の誰かが論評する
- その論評に対しても、また公表された顛末に対しても、いろんな人が入り乱れていろんなことを言い出す
- みんな飽きてくる
- (1. に戻る)
見事なまでの賽の河原ぶりです。子供がからむゆえでしょうか。
この世の地獄です。
解決プラン(総論)
この延々と続く無限ループ、無間地獄の連鎖を、どこかで断ち切らなければなりません。
大きく言えば、それが解決の方針となります。
2.問題点とそれを生む背景
それは現場で起きている
事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ
~~青島刑事(織田裕二) in「踊る大捜査線 THE MOVIE」(1998)
「乗り物で泣く子供」問題も、現場で起きています。言うまでもないことです。
上のフローに当てはめて言うと、前半のステップ1.~3.が「現場」で、後半の4.~7.が「会議室」です。
この「現場」と「会議室」とのつなぎ目が、延々と続く無間地獄の連鎖を断ち切りやすい、いちばんのブレイクポイントであるように思います。
まずは「なるべく現場で解決してしまう」を目指しましょうよ、ということです。
この記事では、公共の乗り物の「現場向け」として、現場における問題とその背景を整理していくことにします。
パート1:現場編
現場編のポイント
1)“事件”は現場で起きています。現場で起きた問題はその現場で解決し、消し去っておくことがベストです。
2)過去の議論により、現場レベルでどう解決すればいいかの答え自体は既に出ています。「状況次第」です。
3)にもかかわらず、押しなべて現場レベルでの問題解決能力が低すぎるため、多様な「状況次第」にほとんど対応できていないことが問題です。そのため、舞台が現場から「会議室」に移り、無益な議論がくり返されるなどの二次的な問題も発生しています。
4)立場によらず「現場レベルでの問題解決能力が低い」。これこそが、優先して対処しなければならない最大の問題点です。「乗り物で泣く子」の問題が現場レベルで解決できさえすれば、事件が「会議室」に飛び火することもありません。
問題解決のプラン
目標とするのは、すべての利害関係者が次のことができるようになることです。
- 「乗り物で泣く子」により生じた問題は、発生した現場で適切な解決策の選択と利害関係調整による解決を図る。
- そうすることで完全に「火消し」を行い、現場以外へ問題を持ち越さない。
現場での問題解決能力とは、そのための能力です。
現場で完全に「火消し」が行えたなら、たとえ後で問題を「会議室」へ持ち込むにしても、それは「飛び火」ではなくて、より建設的な方向への議論を志向した形となるはずです。
考察:なぜ現場での問題解決能力が低いのか?
しかしなぜみんな、揃いもそろって現場での問題解決能力が低いのでしょうか?
簡潔に言えば、それは手持ちのオプション(選択肢)が少なく貧弱だからです。
たとえば次のようなオプションです。
- 意思表示手法のオプション
- 解決策のオプション
- 関係者間の利害調整手段のオプション
順に説明します。
1.意思を示すパターンが貧しい
例として、現場における事の発端であり、その意味で最大の当事者である「泣く子供」について考えてみると、わかりやすいでしょう。
「乗り物で泣く子供」がなぜ泣くかというと、苦痛なり不満なり不快なことなりがあるからだろうと考えられます。ところが、使える意思表示手法のオプションが貧弱であるため、それらを「泣く」という方法でしか示せません。特に、言葉もまだ話せない赤ちゃんであれば、なおさらです。
さらに、貧しいのは子供だけではありません。
「泣く子供」対して不快になる人もまた、不相応に怒ってしまったりなど、不快の意を示す手法が貧弱である人が少なくありません。人間の完成度としては、「泣く子供」とどっこいどっこいです。
さらにまた、そういった「負の感情」「マイナスの意思」は示すものではない、という間違った常識もあります。それは違います。大半の人が、上手な負の感情の示し方ができていないだけです。なので「見せない方がまし」→「示すものではない」となってしまうのです。
2.解決策が貧しい
要は「手持ちのカードが少ない」という話です。
解決策そのものの手持ちも貧弱ですし、その場その場の状況で、どういう解決策が取れるかを見定める能力も貧しいです。
なので「じゃあどうすればいいか」という段になっても、「乗るな」「怒るな」という両側の極論のみが出るばかりで、両極ともに、そこから歩み寄っていく方向へ向かっていきません。
無間地獄を生む一要因でもあります。
3.利害調整手段のオプションが貧しい
これはもう、絶望的なまでに貧しいです。もちろん自分も含めてです。
そもそもが、現場で問題解決に向けて動き出そうとする人すら、ほとんどいません。
ですから交通機関の乗務員を除くと、「乗り物で泣く子供」の現場で関係者間の利害調整を行うという経験が、市井の人々にまったく蓄積されていません。
以上から、たとえ貧しくても調整に動きやすくするという方向を目指すのがよさそうだと考えています。
付記:キチント病のみなさんが嫌い
話はそれますが、この種の話になるとたいてい
- だから
親が/鉄道会社が/航空会社が/国が etc.
きちんと云々…
と言い出す人が出てきます。僕はこういう人たちを、その常套句から「キチント病」のみなさんと呼んでいます。
嫌いです。
キチントにつづいて具体的かつ建設的な提案をしているのであればいいのですが、ほとんどの場合、そうしたものは見受けられません。だから嫌いです。
なんで他人任せなんだよ。きちんとしてなくていいから、現場でお前が何かやれよと言いたくなります。
解決方針
前述の3つの方面で、オプションの貧しさを克服することが方針となります。すなわち、
- 意思表示手法のオプションを増やす
- 解決策のオプションを増やす
- 現場での利害関係調整の経験を積む
といった具合です。それにより、多種多様な個別の状況それぞれで適切に行動できること、それが目標です。
補足します。
1.意思表示手法のオプションを増やす
いくら最大の当事者であっても、「泣く子供」に対して意思表示手法のオプションを増やせと要求するのも理不尽な話です(要求できたとしても全体のプライオリティはずっと低いはず)。
ですからこれは、もっぱら《「泣く子供」に不快になる人》向けのタスクとなります。
2.解決策のオプションを増やす
これは、当事者以外の第三者も含め、知恵を出し合い共有するのが最善です。別途詳述しますが、「会議室」の存在意義もひとつはそこにあります。
3.現場での利害関係調整の経験を積む
そうやって、ある程度の「意思表示手法」と「解決策」を備えたなら(または備えずとも)、調整の経験に乏しくとも、現場にいる人間が解決に向けて利害関係調整に動き出す腰の軽さが必要です。
現状だと、大半の人が測定できるレベルの経験を持ち合わせていませんから、その意味ではみな横一線です。
当事者として、あるいは居合わせた第三者として「公共の乗り物で泣く子供」の現場に遭遇したら、たとえばこのように声をかけることから始めたらどうでしょうか。
- どうしたんですか?
- 私はこのように感じています
- こうしたらどうですか? etc.
そういう僕も、いつもできているわけではないですが、書いている手前、心がけます。できたかできなかったかのチェックも簡単です。
動く人が一人でも多く現れ出てくることを望みます。
参考文献
有益な分析と考察および提言がなされている「先行研究」を紹介します。2人の著作から計3冊です。
紹介文を兼ねた見出しは適当に付けました。「だいたいこんなことが書いてある」という趣旨です。
「現場レベルでの問題解決能力が低い」背景に分析を加えた1冊
中島義道『〈対話〉のない社会』(1997)
「マイナスの意思」を上手に示し、現場レベルでの問題解決を図るための2冊
中島義道『怒る技術』(2003, 2006)
パオロ・マッツァリーノ『怒る!日本文化論』(2012)
まとめ:「現場向け」行動指針4か条
ここまでの議論を、4か条の指針にまとめてみました。
- 現場で起こった問題はなるべくその現場で解決し、「会議室」など他の場所へ持ち越さないこと。
- 自分の不快の念を、上手に他人に示せるようになること。
- 解決策となるオプション(選択肢)については「会議室」メンバーも含めて知恵を出し合うこと。
- 「泣く子」を含め、公共の乗り物で問題が生じた現場に居合わせたら積極的に利害関係調整を行い、経験を積むこと。
現場からは以上です。
次は「会議室向け」です。
後半へつづく
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