こんにちは。私たちは湘南美容外科クリニックのドクターです(ウソ)。
好きな言葉はコーテルリャンガーです。
※画像は、読売広告大賞 第26回受賞作品(2009年度)・優秀賞より
「好きな言葉」について考えて、次のことがわかりました。
結論:「好きな言葉」の3条件
「好きな言葉」とは、次の3つの条件のいずれかを満たすものです。
- ある程度長い言葉
- 短いなら、普通でない言葉
- 短くて普通なら、単体で口にする言葉
そうでない「好きな言葉」は、間違いです。答えとして適切ではありません。
そう主張すること、ならびに、それがなぜかを説明するのが、この記事の目的です。
理由
なぜなら上の3つの条件を満たしていないと、ひと言で言えば「意味がわからないから」です。
以下、想定される疑問質問に答える形で、順に詳しく述べていきます
1:なぜ「ある程度長い言葉」か?
「好きな言葉」の、何を好きかが明確になるからです。
「好きな言葉」がある程度長いと、好きなのはその言葉が「意味するところ」だとわかります。
「ある程度」というが、長さの具体的な基準は?
難しいところです。
検討してきた自身の感触を述べますと、四字熟語のあたりにボーダーラインがありそうです。引きつづき精査します。
2:なぜ「短いなら、普通でない言葉」か?
言葉が「普通でない」ことにより、短くても次のどのケースかわかりやすくなるからです。
- 「意味するところ」が好き
- 音としての「ことば」が好き
- その「名実」両方が好き
例による説明
たとえば「コーテルリャンガー」なら
- 音がなんか面白い
という《音としての「ことば」が好き》パターンと、
- もっぱら、その「ことば」そのものが好きだが
- 「意味するところ」の「王将の餃子二人前」も好き
という《「名実」両方》パターンの2つが考えられます。
残るパターン、すなわち《「王将の餃子二人前」が好き》なだけの人は、決して「好きな言葉」として「コーテルリャンガー」を挙げることはないでしょう。
背景:「意味」と「ことば」の相対比
「好きな言葉」が短ければ短いほど、それは音としての「ことば」が好きだから挙げていると解釈される傾向が強くなります。
言葉が短くなるのに従い、その「意味するところ」である「実」「体」と比べたときの「名」(=「ことば」そのもの)のウエイトが、相対的に高くなってくるからです。
「好きな言葉」が「短くて普通」というチョイスへの違和感
ですので、その「意味するところ」が好きだからと、短くて普通の言葉を「好きな言葉」とされることには違和感があります。
どのぐらいのサイズの言葉からそう感じ出すか、あるいはまったく感じないか、このあたりの感覚は個人差がありそうですが、少なくとも自分は「四字熟語」レベルより短いものにはそう感じます。
「普通でない」の基準は?
たとえばこういうものです。
- 使う人の多くない言葉
- (法的な意味でなく)ある種「著作権」の存続する、誰かのクレジット付きの言葉
これもまた、一律に線を引くのは難しいところです。
同じく四字熟語あたりがボーダーラインになると見ています。
境界例:「普通」と「普通でない」
たとえば、「水道」も「哲学」も誰もが当たり前に使っている普通の言葉ですが、両者をつなげた「水道哲学」は普通でない言葉です。
それほど多用される言葉ではなく、かつ「by 松下幸之助」な「クレジット付き」の言葉だからです。
同様に、たとえば「無知の知」「秘すれば花」も普通でない言葉です。
よって、
- 好きな言葉は水道哲学です。
- 好きな言葉は無知の知です。
- 好きな言葉は秘すれば花です。
という場合、その「意味するところ」が好きだとわかります。
短くても普通でない言葉なので、抵抗もないです。
3:なぜ「短くて普通なら、単体で口にする言葉」か?
その言葉の「意味するところ」だけでなく、音としての「ことば」も好きであるとはっきりするからです。
短くて普通の、声に出して言いたい日本語
たとえば、「ありがとう」「なんとかなる」のようなものです。
短くて普通ですが、耳にして、または文字で目にして、あるいは自ら言い聞かせることによって、癒される、あるいは鼓舞される、そこが(も)好きとわかります。
こむずかしく言えば「身体性を伴う」言葉、となります。
4:なぜ「短く、普通で、単体では口にしない言葉」ではダメなのか?
「素材感」が強すぎるからです。
たとえるなら「好きな食べ物は小麦粉です」のようなちぐはぐさです。
「素材感」への補足
補足します。
言葉が短くなればなるほど、言葉としての「素材感」が高まります。
短い言葉というのは、そのものも言葉であると同時に、それらを組み合わせた別の言葉を紡ぎ出すための「素材」でもあるからです。
先ほどの「水道」「哲学」の例が、そうですね。この2つは、「水道哲学」という別の言葉の素材でもあります。
そうした「素材」である短い普通の言葉を、その「意味するところ」が好きだからと「好きな言葉」にすることを、僕は奇妙に感じます。
まるで「好きな食べ物は小麦粉です」と言っているような、ちぐはぐさがあるのです。
ダメな例:思いやり
ひとつダメな例を挙げると、「思いやり」です。
その「意味するところ」が好きなのだろう、ということはわかります。けれども、これを「好きな言葉」として選び出せる感覚が、僕には理解できないのです。
それは「思いやり」という言葉が示している「その先」が好きなのであって、「思いやり」という言葉そのものが好きなわけではないでしょう?
こう、問い返したくなるのです。
「言葉そのものが好き」という可能性は、無視できるレベルで低いはずです。
そして、「思いやり」と声に出すことは、思いやりではありません。思いやりとは、何か別の言葉なり、あるいは何らかの行為によって示されるものです。
「好きな言葉は思いやりです」と言えるような人は、「思いやり」という「ことば」そのもの、ひいては言葉への思いやりが欠けています。そう感じます。
5:「思いやり」のような、短く普通で単体で口にしないような言葉が好きではダメなのか?
いいえ。
けれどもそれは、「好きな言葉」の範疇に入るものではありません。
そういうものは、「座右の銘」とか「モットー」とか「信条」のように呼ぶ方がふさわしいです。
そう呼べば、その「意味するところ」が好きだということが、違和感なく受け入れられます。
6:「好きな食べ物は小麦粉です」も別におかしくない
であればこれ以上申し上げることはありません。ありがとうございました。気をつけてお帰りください。
補足と解説
補いたいところなどを、もう少し詳しく述べます。内容的にはここまでのくり返しです。
「好きな言葉」は量子的存在
「好きな言葉」には、少なくとも2つの意味があります。
- その言葉の「意味するところ」が好き
- 文字や音としての「ことば」そのものが好き
前者が「名実ともに」や「名は体を表す」の用例で言うところの「実」「体」であり、後者が「名」です。
意味が複数あり、事前にその状態が確定していないという意味で、「好きな言葉」とは量子的存在です。答える時点ではまだ「名」と「実」「体」のどちらの好きを言えばいいか、決まっていません。
あるいは答え方次第で事後的に決まってしまう、とも言えます。答える側に、その決定を委ねられている。悪く言えば丸投げされてしまっています。
付記:「ことば」と「意味」のいろいろな呼び方
本稿では、「名実ともに」「名は体を表す」の用例を使って、
- 音として、あるいは文字としての「ことば」そのものを、
「名」 - 言葉の「意味するところ」を、
「実」「体」
と書いてきました。
両者については、これまでにいろいろな人がいろいろな言い方をしています。僕の知っているものを2つ紹介しておきます。
1.ソシュール(1857-1913)の場合
近代言語学の開祖、フェルディナン・ド・ソシュールはこう呼びました。
- シニフィアン(signifiant)
- シニフィエ(signifié)
元はフランス語です。
2.ブルース・リー(1940-1973)の場合
映画「燃えよドラゴン」(1973)でのブルース・リーは、弟子をたしなめて、こう言いました。
(テキストは、Wikiquote: Enter the Dragon 適宜改行を加えました)
Don’t think, feel!
It is like a finger pointing a way to the moon.
Don’t concentrate on the finger or you will miss all that heavenly glory.
日本語にしてみます。こんな感じでしょうか。
考えるな、感じろ。
[2つの関係は]遠くの月をさす指のようなものだ。
指に気を取られるな。天上から得られる栄光を何一つ得られないぞ。
つまりこうなります。
- 月をさす指
- 月
3.まとめ
全部まとめると
- 音や文字としての「ことば」そのもの は、
名 / シニフィアン / 月をさす指 - それが「意味するところ」 は、
実体 / シニフィエ / 月
となります。
どんな呼び方にせよ、これら2つを指していることに変わりはありません。
反面教師たち
最後になりましたが、「好きな言葉」を間違っている「反面教師」たちです。
湘南美容外科クリニックのドクター
テレビのCMで湘南美容外科クリニックのドクターが入れ替わり立ち替わり「好きな言葉」を言っています。
たとえば、
- 好きな言葉は可能性です。
- 好きな言葉は自信です。
- 好きな言葉は若さです。
- 好きな言葉は情熱です。
出所:湘南美容外科クリニック 男性医師 ver.3|YouTube(2013/10/02)
とかです。
全部、間違っています。
理由
理由は次の3つです。
- 短すぎる
- 普通すぎる
- それなのに単体で口にする言葉でない
「好きな言葉」に必要な3条件にことごとく反しています。きれいな反面教師です。
関連記事紹介:リストにしてみた
君らどんだけ間違ってるのかとの思いを抑えがたく、間違っていないドクターはおらんのかと、できる範囲で全て確認しました。
別途一覧用のリストにまとめています。興味がありましたらご覧くださいませ。
湘南美容外科クリニックドクターの「好きな言葉」一覧(2014年1月現在)(2014/01/09)
まとめてみると、全員ではなかったですが、残念ながらほとんどの方が間違っていました。
一般人も、間違いだらけ
リストをまとめる過程で、CMに連動する形で、湘南美容外科クリニックが「好きな言葉」に関するネットアンケートを2012年末に行っていたのを見つけました。
言葉のみピックアップしますと、次のとおりでした。
「好きな言葉」ベスト10(湘南美容外科クリニック 調べ)
- ありがとう
- 努力
- 愛
- 思いやり
- 前向き
- 一期一会
- 笑い・笑顔
- 健康
- 平和
- なんとかなる
- 「好きな言葉」に関するネットアンケート
- 集計期間:2012年12月22日~24日
- 調査対象:15歳~77歳の男女
- 調査人数:全国1,400名
ベスト10のうち“正解”は2つ
ベスト10の言葉を、3つの条件に照らしてチェックしてみましょう。「好きな言葉」の3条件をくり返します。
- ある程度長い言葉
- 短いなら、普通でない言葉
- 短くて普通なら、単体で口にする言葉
ベスト10のうちこれを満たすのは、「ありがとう」「なんとかなる」の2つです。どちらも短く、変哲のない普通の言葉ですが、単体で口にすることがあるからです。
あとは間違いです。
これはひどい
CMで間違った例を見せられていたからなのでしょうか、ほとんど間違っています。
集団に偏りがある可能性は否定しきれないものの、これだけの数の回答者が間違っているという事実は無視できません。
憂慮すべき事態です。
ボーダーラインは四字熟語(仮)
ただし、残りのうちで1つ保留すべきものがあります。「一期一会」です。
現時点での判断は「間違い」です。しかし正直なところ、まだ基準自体を完全に定めきれていません。
どうやら「ある程度長い」「普通」とも、四字熟語あたりがボーダーラインになるようです。そんな感触があります。
言葉と食べ物のアナロジー
ネットアンケートの結果もこれだけ間違っているということは、当然に、僕がいくら「それは間違い」と言ったところで、「その言葉が好きだから好きと言う。そこに正しいも間違いもないだろう」と思われる方が少なくないことが予想されます。
正直に申し上げて、僕の言う《間違った「好きな言葉」》、このあたりの感覚に個人差があることは否めません。
どう説明するのがいいだろうかとあれこれ考えていくうちに、類似するものを使って「このあたりの感覚」が伝わるかをテストするのがいいと思い至りました。使うのは「食べ物」です。
「言葉」と「食べ物」って、並べてみると似ているところが多いです。
「好きな食べ物」テスト
「このあたりの感覚」が伝わる人かをテストさせていただきます。
第1問
好きな食べ物についての例文です。まずはこちら
- 好きな食べ物はトンカツです。
特に問題ないと思います。では、こちらはどうでしょうか。
- 好きな食べ物は豚肉です。
変ですか? 変ではありませんか?
第2問
こちらの例ではどうでしょうか。後者は、変ですか? 変ではありませんか?
- 好きな食べ物は粉もんです。
- 好きな食べ物は小麦粉です。
変ではないなら、それまで
いずれも「何も変ではない。どこがおかしい?」という方は、ありがとうございました。お帰りいただいてよろしいかと思います。
まとめ
「好きな言葉」の選択が間違っている人には、「燃えよドラゴン」のセリフをひっくり返して、こう言いたいです。
感じるな、考えろ。(Don’t feel, think.)
「月」にばかり気が向いて、「向けている指」の重みをまったく感知できていません。その意味では、「感じる」もできていないわけですが。
ご静聴ありがとうございました。
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