こんにちは。
要旨:Executive Summary
B’zの《ultra soul》(2001)には、和歌の伝統が息づいています。
- 歌詞の最後「そして輝く ウルトラソウル」の音が七・七であること
- その部分が、最後に付け足されたものであるらしいこと
の2点から、それが言えます。
※画像は、菱川師宣『小倉百人一首』(1680)|国立国会図書館デジタル化資料より
ultra soul とは
《ultra soul》とは、2001年に発売されたB’z のシングル曲です。同年に福岡で開催された世界水泳のテーマソングでした。
作詞はヴォーカルの稲葉浩志さん、作曲はギターの松本孝弘さんです。
ウルトラソウル完成エピソード
B’zが出演した2013年6月14日放送の「ミュージックステーション」で、松本孝弘さんがこんなことを言っていました。
最後の「ウルトラソウル」っていう部分は元々なくて、レコーディングしてる時に彼が「タイトル《ultra soul》ってどう?」って
「これはいけるな」と思って、急きょサビの最後にみんなで歌うようなウルトラソウルって部分を付けたんです
最後の「ウルトラソウル」の部分は後から付け足されたんですね。
へー。
完全に連歌
詞の末尾にフレーズを足して重ねていく。
それって、完全に連歌の発想と手法ではありませんか。
和歌の上句と下句に相当する五・七・五の長句と七・七の短句との唱和を基本とする詩歌の形態。(略)古くはこの短歌合作の形すなわち短連歌がもっぱら行われたが、(後略)
―広辞苑「連歌」より
そして{輝く|戦う|羽ばたく} ウルトラソウル
は、音にすると「七・七」です。
非の打ち所のない下句=連歌の短句です。
歌詞が違って見えてきた
そう知ってから《ultra soul》の歌詞全体を検討し直してみると、俄然見え方が違ってきます。
ややもすれば、七五調や七音五音になってしまうので、意識的に無理やりそのリズムを外しているようにすら感じられてきます。
英語詞はあまりハマってない
《ultra soul》には歌詞が英語のバージョンもあります。
「短句」=下の句の七・七に対応する部分の詞は
It’s shiny and bright–urutora soul!
です。(B’z Wikiより)
iTunes Store のプレビューで聞いてみましたが、英語詞の方は正直なところあまりメロディーにはまっていません。どこか字足らずで乗っかりきれていない感があります。
比較用にプレイリストにしてみました。
日本語詞の方がずっといいです。
伝統に乗っかってみた
この伝統に乗っかっていくつか作ってみました。
「70年代の歌番組の曲紹介」風に
まずは、70年代の歌番組の曲紹介風です。
「どうでもいい情報を教えてくれる」80年代よりもさらに前の歌番組の曲紹介は、七五調を基調にして行うスタイルが主流でした。
《ultra soul》の歌詞から七五調になっている部分をピックアップすると、こんな感じです。語り手のイメージは、玉置宏です。
一週間のごぶさたでした
♪~(イントロ)
結末ばかりに 気を取られ
分かっているのに 決意(おもい)は揺らぐ
その手でドアを 開けましょう 開けて みせましょう
歌っていただきます
Do it, Do it, B’z「ultra soul」
♪どれだけがんばりゃいい 誰かのためなの?~
短連歌 その1
次は連歌の手法に則り、古今の有名句を上句にして下の句にウルトラソウルを付けてみましょう。
降る雪や 明治は遠く なりにけり(中村草田男)
そして輝く ウルトラソウル
面白き こともなき世を 面白く(高杉晋作)
そして戦う ウルトラソウル
草の戸も 住み替はる代ぞ ひなの家(松尾芭蕉)
そして羽ばたく ウルトラソウル
こうしてみると、「ウルトラソウル」のユーティリティーの高さはハンパないのであります。
ウルトラソウル
短連歌 その2
ウルトラソウルは連歌の短句(下句)である。
検索してみたら、既に同じことに気づいている人がいました。
- もしも百人一首の下の句が全てウルトラソウルだったら+その他|togetter.com(2011/07/04)
ここに乗っかって小倉百人一首から上句のみをピックアップし、下の句にウルトラソウルを付けてみます。
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の(柿本人麻呂)
そして輝く ウルトラソウル
心にも あらでうき世に ながらへば(三条院)
そして戦う ウルトラソウル
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば(後徳大寺左大臣)
そして羽ばたく ウルトラソウル
ピックアップする歌の選定には小倉百人一首(catincat.jp)を参考にしました。ありがとうございます。
ウルトラソウル
まとめ
《ultra soul》は、B’z の2人が日本語を母語とし、日本語の伝統に生きる人であったからこそ完成した曲であるように感じられます。
意識せずとも、いつの間にか定式化されてしまっている。伝統とは、そういうものです。
ありがとうウルトラソウル
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