こんにちは。用件は件名のとおりです。
標記の話題を見かけたら、デマだと指摘するのにこちらを活用していただければ幸いです。
結論
《おべんとうばこのうた》の正しい歌詞は、
「おにぎり おにぎり ちょいと つめて」です。
ときどき、
×「おにぎりを 握り ちょいと つめて」だとかいう話が出てきますが、デマです。
作詞者ご本人(香山美子さん)が、その旨を公式に表明されています。
はじめに:この記事を書いた動機
僕のツイッターのタイムラインでは、次のような流れがくり返し見られますので、書いておくことにしました。
- 「知らなかった」「衝撃!」などとして《おべんとうばこのうた》の偽の歌詞が登場
- 反応の中に「それ、デマ」との指摘
- 指摘を受けた元の発信者が、自分の「情弱」ぶりを反省したりしなかったり
具体的なデータを挙げておくと、ことし9月以降3回ありました。けっこうな頻度です。正直、3回目に遭遇したときは「またかよ」と思ってしまいました。
しかし、発生源のアカウントがみな違いましたので、4回目の発生も遠くないかもしれません。
情報まとめ:デマだというのは、検索すればすぐわかる
「おべんとうばこのうた デマ」で検索すると、本件に関して有益な情報を記したページがいくつも出てきます。
そこへ自分が新たに付け加えることは何もないですが、検索結果からいくつか取り上げ、この機会に整理しておきます。
作詞者は香山美子さん
まず、《おべんとうばこのうた》を作詞されたのは、香山美子(こうやま・よしこ)さんという方です。
この事実は、JASRAC の作品データベース検索サービス「J-WID」でも確認できます。
※J-WIDでの検索結果より
作詞者・香山美子さんの声明(2012)
「香山美子のホームページ」に「おべんとうばこのうた」の歌詞についてと題する声明があります。引用します。(太字は引用者)
最近ツイッターなどで、間違った歌詞の「読み方」(「歌い方」)が流布されているようです。複数の方から、ご質問いただきましたので、正しい歌詞の「読み」を書き出しておきます。
「おにぎり おにぎり ちょいと つめて」 ←これが正しく、
「おにぎりを 握り ちょいと つめて」 ←これは間違いです。
※香山美子のホームページ>「おべんとうばこのうた」の歌詞について
著作権者である香山さんご本人がこう述べられているのですから、これがすべてだと言っていいでしょう。
なお当該のページに日付は入っていませんが、トップページの「更新履歴」によれば、2012年5月17日付での声明です。
(すじのとおった)付記いろいろ
「デマ」とするには以上で十分と思います。お弁当にたとえれば、ここまでが主食の「おにぎりおにぎり」です。
あとはおかずいろいろです。お好みでどうぞ。
付記1.「ご本人」と判断しています
もっとも、先ほど引用した声明が、さらには「香山美子のホームページ」全体が偽造ないしは虚偽の情報である可能性もゼロではありません。しかし僕は、他のサイト等の情報と合わせて考えれば、上に引用した声明は、香山さんご自身による真正な情報と判断して差し支えないという見解です。
付記2.意外に新しい歌だった
同サイトの「プロフィール」ページによれば、《おべんとうばこのうた》は1978年の作だそうです。
意外と新しいのですね。歌詞に出てくる食材がおしなべて年寄りくさいので、もっと前にできた歌だと思っていました。
付記3.ほかにもこんな「作詞:香山美子」が
香山美子さんのプロフィールページにある著作リストを見ると、「これもですか」というものがいくつか見られます。《げんこつやまのたぬきさん》(1973)だとか。ふーん。
興味のある方は、リストを見ると意外な作品が見つかるかもしれません。
偽情報の出所
「おにぎりを握り…」という偽の歌詞、このデマの起源を探ります。
【嘘ネタ】これっくらいの おべんとばこに…。|freefielder.jp(2011年12月20日付)では、2011年10月22日に2ちゃんねるに立ったスレッドが初出ではないかとしています。一部孫引きとなりますが、引用します。
Google さんに訊いてみると、初出はおそらくこれ。2011年10月22日に2ちゃんねるで立った『すごい事に気づいたったったwwwwwwwwwwwwwwwwwww』というスレではないかな。
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/22(土) 16:56:44.05 ID:Ec8Zh1970
おにぎりおにぎりちょいと詰めて♪
おにぎりを握りちょいと詰めて♪
↑ こっちが正しいんじゃねぇの?
確かに、Google で2011年10月以前の日付を指定して検索すると、このスレッドに関する情報のほかに「ニセ歌詞」は見当たりません。
よって僕も、これを初出とする説は、妥当な推定だと判断しています。
研究材料として非常に興味深い
これら一連の事象を「情報の発生と伝播」という切り口でとらえると、いくつか非常に興味深い点が見られます。以下に、思いつくまま列挙します。
1.情報が(より過激に)変質したこと
初出と考えられる書き込みの文言を再掲します。
おにぎりを握りちょいと詰めて♪
↑ こっちが正しいんじゃねぇの?
こうあるように、この書き込みは「正しくはこっちでは?」という「仮説」を、ごく穏当に提示しているにすぎません。
それがなぜ、「本当はこうだった!」にまで変質してしまうのか。そこで何が起こっているのでしょうか。
2.検証プロセスが飛ばされてしまっていること
9月以降3度、僕はこの「偽情報」に遭遇したわけですが、その3回ともすべて、偽情報であるにもかかわらず、「衝撃の事実!」的な断定調で発信されていました。
サンプル数3ではありますが、どれ1つとして「こんな話を聞いたんだけど、本当?」のような、疑問形での発信ではありませんでした。その点が興味深いです。
なぜ、検証プロセスが飛ばされてしまうのでしょうか。
…と問題設定してしまうのは、やや粗雑だと言えそうです。恐らく事態としては、「主として、検証されない情報の中に、デマがまぎれ込む」と記述する方が正確だと考えられるからです。ですので、問題の記述ももう少し厳正を期してみましょう。
情報の中にはなぜ、検証プロセスが飛ばされて発信されてしまうものがあるのでしょう。されるケースとされないケースで、両者の違いはどこにあるのでしょうか。
となるでしょうか。
3.感染力の強さ
2.とも関連しますが、デマであること以前に、この情報の特筆すべき点は、その「感染力」の強さです。
この情報のどこに、誰かに言いたくなる魅力があるのでしょうか。
4.「属人的な問題」と割り切れないこと
僕としては、このデマがくり返し発信される原因を、ただ「デマに踊らされやすい、リテラシーの低い人が反応しているだけ」と、発信者の属人的な性質に帰するには割り切れないものがあります。
というのも、ご本人の名誉のために具体的なお名前は伏せておきますが、僕が3度遭遇した「偽情報発信者」のうちのおひとりは、著書を何冊も出されているうえ、議論にあたっては常に建設的な方向性を志向されているようにうかがえて、個人的にその方の言説には一定の信頼を置いている方だったためです。
この点に「そんな人がなぜ」と釈然としないものがあるのです。単純にまったくの専門分野外だったから、なのでしょうか。
5.Tipping Point の存在
先ほど引用したページには、「おにぎりバブル」の到来。(2013年5月24日付)という続報があります。
その記述によると、2013年5月18日~24日にかけて、前掲の「【嘘ネタ】これっくらいの おべんとばこに…。」へのアクセスが急増したといいます。筆者の方は、5月18日あたりに何かの契機があったのだろうと推察されています。
その正体を突き止めることは難しそうですが、情報に、広く流布される時点/地点が存在することは間違いなさそうです。
参考文献
おわりに:実に面白そうなテーマ
このような点を追究し、解き明かすことができれば、広く情報発信に関して大きな知見が得られる気がしています。
掘り下げてみたいです。たぶんしないけど。
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