【出典情報#9】愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である(アルベルト・カミュ)

9月15日「あすなろラボ」での林修さんの恋愛論授業で使われた名言・格言の出典調査報告です。

一覧はポータルページにまとめています。他の名言はそちらからどうぞ。

名言(整理番号 9)

愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である

フランスの小説家 アルベルト・カミュ
Albert Camus(1913-1960)

出典

エッセイ集『夏』(L’ÉTÉ)の「チパサへ帰る」(Retour à Tipasa)(1953年)です。

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※画像は、maps.google.co.jp より

日の辻に浜辺に立って、12月のチパサの海を眺めている場面でこの言葉が出てきます。

新潮世界文学 48』から引用します(滝田文彦訳)。 ※太字は引用者

海はこの時刻には力も尽きたようにわずかに身をもたげるばかりであり、そしてわたしは存在が涸れはてることなしには長いあいだまぎらしておくことのできない二つの渇(かわ)き、つまり愛することと賞讃することの渇きを癒やしたのである。なぜならば、愛されないということは単に不運でしかない。愛さないということこそ不幸である。われわれは今日みなこの不幸のために死んでいる。というのは、血、憎悪が心そのものを憔悴(しょうすい)させるからである。正義にたいする長い権利の要求が、じつはそれを産み出した愛をも汲みつくしてしまう。われわれが現に生きている喧噪のなかでは、愛は不可能であり、正義だけではじゅうぶんではない。

「カリギュラより」は間違いです。

カミュの戯曲「カリギュラ」を出所とする情報もネットにありましたが、間違いです。

当初その情報をもとに「カリギュラ」を読んでみましたが、ありませんでした。見落としてるのかと思ってもう1回読みましたが、見当たりませんでした。

嘘はよくないよ。

原文

Car il y a seulement de la malchance à n’être pas aimé : il y a du malheur à ne point aimer.

引用は、『Noces suivi de L’été.』(1959)を底本としたテキストからです。

死後半世紀経って著作権も切れているはずなので探してみると、UQAC(ケベック大学シクチミ校)のサイトで公開されていました。

英訳

参考に、英訳です。Google ブックス>『The Myth of Sisyphus: And Other Essays』の「RETURN TO TIPASA」から取りました。

…, I watched the sea barely swelling at that hour with an exhausted motion, and I satisfied the two thirsts one cannot long neglect without drying up―I mean loving and admiring. For there is merely bad luck in not being loved; there is misfortune in not loving. All of us, today, are dying of this misfortune. For violence and hatred dry up the heart itself; the long fight for justice exhausts the love that nevertheless gave birth to it. In the clamor in which we live, love is impossible and justice does not suffice. (p.201)

英訳されたこの言葉がWikiquote ではunsourced(出典不明)扱いになっていましたが、ここまで述べたとおり、出典は明確に存在しました。

付記:チパサについて

チパサとは、地中海に面したアルジェリアの町の名前です。カミュは「チパサへ帰る」で、首都アルジェからの道のりを「69キロ」としています。

以下、Wikipedia「ティパサ」より

町の名前はアラビア語で「荒廃した都市」の意味である。その名前の由来となった古代ローマの遺跡群が町には残り、ユネスコの世界遺産にも登録されている。

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後記

いい調査ができ、満足です。

いろいろ公開してくれていた関係各所に、お礼申し上げます。ありがとさん。

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